兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち

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13.頼りになる親友がいるので

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 知らせが届いたのは、パトリシアが荷物を運び込んでくれた時だった。
 ラクシフォリア家の騎士が焦ったように走ってきた。
 
「イアン様の所在がわからなくなりました」

 隣で報告を聞いていた執事長が顔をこわばらせる。

「どういうこと?」
「昼担当の護衛騎士が急遽変更となり、到着が遅れたようです。代わりの騎士が到着したとき家には誰もいなかったようです」
「誘拐や物盗りに巻き込まれた可能性は」
「荒らされた形跡はなく、可能性は低いかと」
「……兄さまには?」
「早馬を出しております」

 狙われるのは、兄か、私か。
 情報が少なすぎて何もわからないが、用心するに越したことはない。

「屋敷にいる全員このことを知らせて。そして、屋敷の出入りは最低限に、どうしても出るときは少人数ではいかないようにと伝えて。準備が遅れることはかまいません」
「承知しました」
 執事やメイドが足早に部屋を出ていく。部屋には私とサラ、パトリシア、そして護衛騎士数人と執事長が残る。
 
 窓の外を見ると、朝の青空を覆い隠すように雲が広がってきている。

「……雨が降るかしら」

 ********

 兄とレイが帰ってこない。
 昼過ぎには帰って来る予定だった二人が、日が傾いてもまだ戻らないのだ。

 外は雨が降り出した。
 遠くのほうで雷も鳴り始めている。

「帰ってこないわね」
「遅くなるかもと連絡があったけれど」

 パトリシアに言われて頷く。
 たしかに知らせの早馬が帰ってきた時に、予定より遅くなるかもしれないと伝言を預かってきたのだ。

 パトリシアとサラは、兄たちが帰ってくるまでいると言って帰らずにいてくれている。
 手伝ってくれたおかげで今日やらなければいけない準備は少し時間はかかったか全て終わった。

「それにしても遅いわね。朝はデイヴィッド様もすぐ帰って来たい様子だったし、早馬を奪って帰ってくるんじゃないかって思ってたわ」

 サラの言葉にパトリシアは大きく頷く。私も概ね同意だ。しかし、兄の名誉のために言えば、たしかに何度か早馬強奪未遂をしている。しかし、もう何年も前の話だ。今はそんな事考えもしないはずである。

「捜索とかで王城もバタついてるんじゃない? そっちに行ったのかもしれないわね。警備確認も予定よりかなり少ない人数できたんでしょ?」
「えぇ、予定の半分になってたわ。全員顔見知りだったから、配慮してくれたのかもしれないけれど」

 パトリシアに答えて、窓の外を覗いていたサラの方を少し見た。何やら考えているような、深刻な顔をしている。
 サラは私の視線に気がつくと、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「きっと大丈夫よ。心配はするけど信じて待ちましょ」

 サラの笑顔とは裏腹に雨は強くなり、窓に雨粒が叩きつけられる音がする。
 
 ノックの音が響いた。私が答えると顔を強張らせた執事長が入ってくる。

「不審な男が複数来ております」
「なんと言っているの?」 
「王城からの騎士を名乗る男が5名、警備で確認したいことができたと。今、門外におります」
「……不審と判断したというのは」
 緊急時に客人を入れるかどうかの第一判断は執事長に任せていた。少なくとも昼に来た騎士ではなかったのだろう。それに加え、不審な男と判断した根拠があるはずだ。そう思って尋ねると、執事長の顔に緊張の色が濃くなる。
「王城の騎士の証を確認できませんでした。帯剣をしております」

 王城の騎士は皆、身分証明のための証の携帯を義務付けられている。それを持っていないということは、王城の騎士を騙る誰かだ。
 そして、王城の騎士のフリをするのは重罪になる。何か良からぬことをしようとしてここに来たことには違いない。

「裏門周辺にも十数人潜んでおります」
「皆を応接間に避難を。動けるものは武装して。雨も強くなってる。暗くなれば厄介ね」

 王城の騎士を騙っている奴らは囮なのか、意図がわからないが、このまま放って置けば、穏便に済ますのは困難になるだろう。
 
「不審な男たちはなるべく時間を稼いで。限界だと感じたら、剣を外せば中にいれると伝えて。一人で対応せずに十分な距離をとって話すのよ」
「承知しました」

 執事長がでていくのを見送って、二人にも避難してもらおうと、サラとパトリシアの方を向く。

 「……なにを、しているの」

 パトリシアが、防具と弓を身に着けて立っている。
 サラは屋敷周辺の地図と屋敷の見取り図を確認している。
 
「中に入れるならここの部屋にしましょう。逃走経路を簡単に潰せるし、部屋の奥に人を隠せるわ」 

「あら? もしかして隠れてって言うつもりだった?」

 パトリシアが商家は荒事に慣れてるのよ? と笑う。
 サラも、侯爵家は不審者なんて日常茶飯事よと続いた。
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