【短編未満集】かけらばこ

Kyrie

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と踊れ

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所詮、男子校でやろうとするのが無理だろ。
俺はうんざりして一番後ろの席から頬杖をついて、前を見ている。
行われているのは文化祭の出し物の話し合い。
定番の出店をするのかと思いきや、話は違う方向に行っている。

「女子に人気があるのは、プリンセスです」

なに、真面目な顔して発言してるの?
そんなことを言い出しているのは、演劇部の野島。
で、なんでそれに「うをーっ!」って反応してるワケ?

「特に人気なのは、どの女子も一度は夢見るシンデレラです」

「おおおおおーっ!」

え、みんな、大丈夫?
そんなに反応すること?
まぁ、このクラスはお祭り好き集団が見事に集まってるけどさ。
このクラス分け、センセイがふざけてるとしか思えなかった。
そして、そこに自分がいるのもワケがわからなかった。
俺、お祭りは好きじゃない。
うるさくて面倒。
この話し合いも早く終わらないかな、と思ってる。

「そして女子が好きなのはBLです」

「おおおおおーっ!」

「というわけで、BLシンデレラをするのはどうでしょう?
まず、僕の脚本と配役の案を聞いてください」

野島がノリノリで自分のノートを開き、ホワイトボードに書いていく。

「まず、王子。武田」

「おおおおおーっ!」

武田、ねぇ。
まぁ、いいんじゃないの。
王子キャラが合いそうな顔してるし。

「次、シンデレラ。伊東」

「おおおおおーっ!」

ふん、シンデレラっていうなら美人の松本だろうな。
女顔だし、ドレス着ても似合いそうだし。

あれ?

俺は松本に目をやったが、松本は涼しい顔をしている。
さすが、キレイだと自覚しているヤツはシンデレラ役が回ってきても冷静だな。

「伊東!伊東!」

俺は隣の藤堂に突っつかれて、名前を呼ばれているのに気がついた。
藤堂のほうを見ると、ホワイトボードを指さされた。
そこには、野島の字で「王子 武田重臣」、「シンデレラ 伊東正道」と書かれている。

「はああああああっ?!」

思わず立ち上がった俺にクラス中から拍手が贈られる。

「なんで俺がシンデレラなんだよ!
松本のほうが似合ってるじゃん」

思わず叫んだ俺に、名前を呼んでしまった松本が席を立ち、つかつかと俺のほうに近づいてくる。
なんだ、この圧迫感。
松本は顔が小さいからそうは思わなかったんだが、でかい。
俺、完璧に見下ろされてる。

「なれるものなら僕もやってみたかったけどね。
僕、重臣より背が高いからヒールはいたら身長のバランスが取れなくなるだろ」

え、これでヒールはくの?
そりゃ、ますます迫力が出そうだけど……
だけど、

「お、俺は女装する気はない!」

そう叫んだ。
が、

「女装なんてしませんよ。
BLだからね。
スーツか何か着たらいいし」

野島がそんなこと言い出した。

「それでもしたくないし!」

と叫んでいたら、松本とは反対側に誰かがいた。
気配に驚きそっちを見ると王子スマイル。

「武田…?」

「ほら、伊東ならヒールはいてもいい身長差になりそうだ。
どうだ、野島?」

「うん、思っていた通り完璧」

野島は満足そうにうなずく。

「ちょっと待て。
俺はやるとは言ってな……っ?!」

俺は思いっきり断るつもりだった。
なのに、武田が、王子スマイルのまんまで俺をぎゅっと抱きしめ、嬉しそうに言ったんだ。

「頑張ろうな、伊東!
出し物の大賞を取って賞金でクラスの思い出作ろう!」

歓声が上がり、拍手が鳴る。

「え、いやだし!
俺、やらないしっ!」

俺がいくら言っても武田はぎゅうぎゅうと力を込めて抱きしめるだけだし、クラスの歓声と拍手は大きくなるだけだった。



20170816


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