合意で媚薬

Kyrie

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俺は熱めの湯でざっと汗を流すだけにした。
念入りに身体を洗ってしまうと、なんだかそういうのを俺が期待しているみたいで嫌だった。

脱衣所には前野のにしてはやたらとふわふわなバスタオルとアイツの黒のスウェットの上下、そして未開封の下着が置いてあった。
俺は遠慮なくそれらを使い、深呼吸してバスルームから出た。

「上がったぞ」

「俺、入ってきます」

前野は顔を合わせずにバスルームに行った。

俺はさっき座っていたところに座る。
恐る恐るベッドのほうを見てみると、掛け布団の下からバスタオルがちらりと見えた。
どうやら敷布団の上にバスタオルが敷いてあるらしい。
ヤル気満々じゃないか…
まぁ、なにもせずにアイツのベッドがイカ臭くなるのも嫌だろうしなぁ。

俺はまた溜息をついた。

はぁ、ほんとにソノ気になるのかねぇ。
今のところ、変化なし。
ムスコ様は以前とミイラのようだ。
前野を抱きたいとも思わないし、抱かれたいかと考えるとゾッとする。

でもなあ、アイツがいなくなるのは嫌だし、悲しい顔させるのも嫌だし。
男だから「プラトニックな関係だね」とハートを飛ばしてにっこりして終われない、というのもわかる。
俺がなぁ、ソノ気にならないんだよなぁ。
こんなので「恋人」って言ってもいいのかなぁ。
ほんとならもっと甘い時間を過ごすんじゃないのか、恋人って?

と、もやもや考えていたら前野が風呂から上がってきた。
アイツも緊張した顔をしている。






「ソノ気になりましたか?」という前野の問いに「全然」と答えると、前野はあからさまにがっかりした様子を見せた。
媚薬を飲んでまだ20分。
まだ効かねーんじゃないの?

しょんぼりした前野がかわいそうになって、俺はいくつか提案した。
明かりは消す。
女にするみたいに胸や尻を揉まない。
俺がいいというまで後ろは絶対にさわらない。
などの条件を出し、ベッドの中で抱き合ってみた。
キスはOKにした。
それくらいなら、これまでにしたことがあるから。

「先輩…」

前野はギンギンにソノ気になっている。
押しつけられているアイツのムスコ様がすこぶる元気で荒らぶっていらっしゃるのがよくわかる。
すまんな、俺のはミイラ様で。

「先輩が嫌なことはしないから、上だけ脱ぐってダメですか?」

「ほんとに嫌なことしないだろうな。
いやらしいおさわりはなしだぞ」

「しません。
ぎゅっとするとき、もっと先輩が感じたいだけ」

俺が出した条件も前野にはなかなか厳しいものばかりだったから、そこは譲歩してやることにして、脱がそうとする前野を押しやって自分で上を脱いだ。
前野がぎゅっと抱きしめてきた。
初めて前野の身体にふれたかも。
なんだ、コイツ。
あっつ。
コドモ体温か?

「キスしていい?」

「あ?ああ」

前野はぎこちなくキスをした。
なんだ、緊張してるのか?
俺に媚薬を飲ませようとしたくらいなのに、何をいまさら。

前野は軽いキスを続ける。
バードキスほど軽くはないけれど、ディープキスはなし。
俺が言ったことを気にしているのか、腕の表面をなでるくらいのおさわりしかしていない。
これくらいなら耐えられる。
拒否感はない。
気持ちよくもない。
ほんと、びっくりするくらい欲情しない。
ほんとにいいのか、前野?

「先輩、気持ちいい…?」

前野が切羽詰まった声で聞いた。

「いいや、全然」

「え…」

相当落ち込んだ声。

「ごめん、って。
そんな声出すなよ。
でもここで嘘つくのも、俺いやだし」

「キスするのいやですか?」

「あ…、いやじゃないけど、何も感じないっていうか…
あの、こんなのでいいのか?
つき合いの解消も含めて、考え直すっていうのも」

「いやです!
それは絶対いやだ!」

前野が俺を羽交い絞めするように抱きついてきた。

「せっかく、先輩と両想いで恋人になったんだ。
絶対いやだ!」

あまりの勢いに驚き、ぎゅうぎゅう締め付けられる腕が痛かった。

「わ、わかったからっ!
そんなばか力で締めるなっ。
痛いっ……ぁんっ」

…………あん…?

前野も何かに気づいたらしい。
腕の力は緩めたものの、俺をがっしりホールドしたままちゅっと唇を吸った。

「んぁっん」

なんだ、この気持ち悪い声。

「せ、先輩…?」

「お、おう…」

もう一度唇を吸われる。

「んゃぁ」

この声。
俺が出してるよな?

自覚した途端、全身がカッと熱くなった。

「先輩」

耳にかかる前野の息だけで、背筋がぞくぞくする。
なんだこれ。

俺の変化に気づいたのか、前野が唇を合わせると一気に舌を入れてきて、俺の舌に絡めた。
うめき声を上げながら、俺は前野に自分から抱きついている。
そうでもしないと、どうにかなりそう。
カラダがヘン。

ゼンセンセェよぉ、こんな危ない薬、よくも俺に盛りやがったなっ!
ほんとに、なんだ。

唇を離した前野が今度は俺の首筋に吸いつく。
そのたびに俺は声をあげ、身体をよじる。
身体の中央からなにかがぞわぞわと這い上がってくる。
前野が身体のラインを探るように手を滑らせても、いちいちぞわぞわしてきて、下半身に熱が籠る。

「先輩、勃ってきた。
気持ちい…?」

「なんかよくわかんねぇけど…
なにも感じない、っていうのはなくなった」

「どんな感じ?」

「切ない」

「寂しくないようにいっぱいさわっていい?」

「おまえのせいだろ。
責任取ってなんとかしろ。
これ、なんだかしんどい」

「りょーかい」

前野は嬉しそうに答えた。
この声は自分のアイディアに自信があるときや、やっていることが面白くてたまらないときの声。

それから前野は俺の全身を愛撫していった。
それにいちいち反応する俺。
気持ちいいのかどうかは正直わからないが、切ない感じがこみ上げてきてさわってもらっていないと寂しい。
だから手が止まるたびに「もっと…」と、普段ならあり得ないことを口走る。
前野は決して乱暴にしない。
少々のことをしても壊れそうもない俺なのに、アイツは丁寧に愛撫を繰り返す。
そうされると少しずつ満たされてくる感じがする。

「そんなにゆっくりさわっていて、おまえツラくないの?」

「杉田先輩は大事なんですから、乱暴なことはできません。
それも初めてなのに。
優しくしますよ」

「バカ。
そんなのは女のコに言ってやれ」

「先輩、わかってるんですか?
俺は今、目の前の恋人を初めて抱いているんです。
優しくして当然でしょう?」

う?
それって俺のこと…?

カラダがキューっとなって、ますます切なくなってくる。

「前野ぉ」

「な、なんですか?」

「もっとさわれ」

「はい?」

「ここも」

俺は前野の手を取るとすっかり元気になっている股間に当ててやった。

「うっ」

自分でやったのに、前野の手が布越しでもふれただけでカラダが疼く。

「早く」

前野がスウェットにズボンの中に手を入れると「わっ!」と声を上げた。

「中、ぐしゃぐしゃ!
先輩、こんなに出してたの?!」

「そ、そんなふうに言うな。
俺だって驚いてんだ」

「つらかったね、先輩」

前野は俺のこめかみにちゅっとキスをして俺がカラダをよじっている間に、下着ごとズボンを脱がし、自分も同じように脱いだ。
二人とも全裸になり、改めて抱きしめる。

「ああっ」

ただ、全身がふれあっただけなのに、快感が腰から頭へ抜ける。
素肌を合わせるのってこんなに気持ちいいもんなの?!

「先輩、先輩、好きです…」

前野はうなされたように同じことを繰り返して言い、俺の手を取ると俺の顔のそばで恋人つなぎでベッドに押し付け、空いている右手はさっきより激しく熱く全身を愛撫する。
こうなると最初の条件は吹っ飛んでいて、前野は俺の胸筋を揉み、乳首を吸ったり甘噛みしたりし、俺の大事なムスコ様にもふれてきた。
俺の太腿にこすりつけられる前野のムスコ様もベトベトしている。
人のこと、言えないじゃないか。

なんて、冷静なことを思ってはいられなかった。
とにかくさわられると声がでるし、カラダが反応してぴくぴくしたりよじったりする。
そして切ない疼きは本格的に俺の腰回りに集まってきた。

「前野ぉ」

「先輩、気持ちいい?」

「おまえ、そればっか!」

「だって大事なことなんですから!
どうですか?」

「もっと気持ちいいことしないと、そんなこと言えるか」

前野は自分と俺のムスコ様を俺に握らせ、自分もそれに手を添えてゆるゆるとしごき出した。

「ぅっ」

前野もうめき声をあげる。

「おまえも気持ちいい?」

「ああ、気持ちいいよっ!
どうしようもないくらいに!
それに良《りょう》がこんなにかわいいとは知らなかった!」

「な、なに逆ギレしてんの?
……あうっ!
急に激しくすんなって!」

確かに俺は杉田良だが、急に名前呼びか?

「先輩、ちょっと黙ってて!
優しくしたいんだから!」

ぜんっぜん優しくないだろっ、これっ!
前野は「手が止まらない」とわけのわからないことを言って、ムスコ様たちをしごく手のスピードを緩めない。

「あっあっあっ。
そんなにしたら出るっ
や、やめって」

「止められるわけないだろ、ばかあっ!」

それを合図にしたように、俺はこみ上げてくる衝動が抑えきれずにイってしまった。
前野も似たようなタイミングでイったらしく、俺たちは手も腹もザーメンでぐちゃぐちゃになった。
前野が自分の身体を支えきれずに、俺に覆いかぶさってきた。
腹の間でにちゃりと音がした。
でもそんなことを気にする余裕はなかった。
とにかく荒い呼吸をしながら酸素を貪ろうにも二人ともうまくいかない。

しばらくはゼィゼィという息遣いだけが聞こえた。






それが治まると、前野は怒ったふうに俺から身を離し、ベッドの下へ手を伸ばすとごそごそとなにかを取り出した。
見慣れたドラッグストアのビニール袋からローションとゴムの箱が出てくる。

いよいよか…

緊張が走る。

でも不思議と怖くなかった。
嫌悪感もなかった。
むしろ、早くふれてほしかった。




さっきまでの優しさはなく、少し乱暴に封を切ると前野は容器から直接とぷとぷとローションを俺の股間に垂らした。
それをムスコ様やタマ、そして後ろの孔へ延ばしていく。
俺はまた声をあげる。

「前野ぉ」

呼びかけるが応えはない。
前野は黙々と俺の下半身をローションでべとべとにしていった。
何も言わない。
寂しい。

またあの切なさが戻ってきた。
ふれられているのに、もっとふれてほしいようなわけのわからない切なさ。

「前野ぉ」

もう一度呼んでみる。

「いきますよ」

え。

「っう」

なんの前触れもなく、前野は右手の中指を俺のアナルに入れた。

「なんだよ、先輩。
もうここくちゃくちゃじゃん」

想像以上に抵抗感なく前野の指を飲み込んでいく。

「知らねーよっ。
あの媚薬のせいだろ。
俺のせいじゃない」

「媚薬ならさー、もっと欲しがってよ。
もっと俺に欲情してよ」

あっという間に前野の中指はずっぷりと俺の中に入り込んだ。

「どんな感じ?」

「ヘンな感じ」

「ヘン?」

「ああ、とにかく切ない」

指が小刻みに出入りする。

「切ない、って?」

俺もよくわからねーよ。
だけど…

「……もっと」

「もっと?」

「奥」

「あー、もう!」

「なんだなんだ?」

前野は怒った声を出した。
俺、なんかしたか?

「優しくしたい、って言ってるのにっ」

急に指が二本に増やされ、激しく動かされた。

「え、ちょっ、おまえ、俺、初心者だろうがっ」

「初心者がこんなにすぐに指が入りませんよ。
先輩、えっちだな。
えっちすぎて、俺、我慢できませんよ」

あ?

「ああああっ」

「みーつけた、ここ前立腺。
先輩、気持ちいい?」

「やっやっやっ。
そこ、やめろって。
飛ぶっ」

前立腺だかなんだか知らないが、前野の指が内側のソコをえぐるようにさわるたびに、ムスコ様はダラダラと液体を出し、声をあげ、カラダが跳ねる。

「あうっ?!」

前立腺だけでも相当なのに、前野はムスコ様にもさわり始めた。

「あ、両方、だめっ…だって!
ぐぁぁっ?!」

前野はいきなりアナルから指を抜いた。
指を抜かれるときにこんなに感じてしまうとは、知らなかった。
アイツは軽々と俺をうつ伏せにし、腰を高く上げさせた。
俺は抵抗する気もなく、その通りにした。

「っ」

新しくローションがアナルにぶっかけられ、ぐぐぐっと一気に三本の指が入れられた。

「ぅわぁっ」

「もう優しくなんてできない。
早く入れたい」

「なんだよ、自分勝手だなっ」

「すみません。
でも、先輩の乱れ方、想像以上で早く入れないと、俺、持ちません。
今だって相当我慢してるんだから」

なんか、後ろからすごい音がしている。
前野の荒い息が聞こえる。
パッケージを切る音が聞こえる。
じゅぽっと指が抜かれる音が聞こえる。

「先輩、いくよ」

前野の声が後ろからして、自分の中を貫かれる音が聞こえた。







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