希望の為に、兄は今日も吠える!

ふじゆう

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希望、誕生。そのさん

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 妹のノゾミの方が、弟のノゾムよりも少しだけ、能力が高いようだ。僕と同じで、四本の手足で歩くのも早かったし、捕まって立ち上がるのも早かった。この場合の早いは、スピードではなく時期の事だ。ちなみに、体こそ僕よりも二人は大きいけど、動くのも立ち上がるのも僕の方が早い。それは、僕の方がお兄ちゃんだから、当然と言えば当然だ。
 だけど、不思議で仕方がなかった。全身の毛の量も少ないし、二本足で動き回る時間も長くなっていった。そして、発する言葉も違う。時間が経過するにつれて、僕ではなく、ママやカズユキに似ていく二人。子供なのだから、当然なのだろうけど、それでも釈然としない。そんな事を考えていると、ふと少し前にカズユキが言っていた戯言を思い出した。むしろ、勘違いか夢なのだと思っていた。僕専用の大きめなクッションがある。肌ざわりと生地の中から聞こえるゴソゴソという音が心地よくて、気に入っていた。そのクッションの上で、仰向けでウトウトしている時の事だ。僕の姿を見て、カズユキがこう言ったのだ。
「ホップってさ、絶対自分の事を人間だと思ってるよね」
 あの時は、特に気にも留めず、心の中であざ笑っていたのだが、どうやら笑い話で済みそうもない。先日の出来事が、ある意味決定的であった。
 家の周りが柵で囲まれており、僕はたまに外に出してもらって、遊んでいる。その時は決まって、ママや二人の弟妹も庭にいる。地面に敷物を敷いて、遊んでいるのだ。僕がウロウロしていると、野良猫のクロが柵を飛び越えて、敷地内に入ってきたのだ。クロという名前も、僕が勝手に呼んでいるだけだ。体毛が真っ黒だからだ。
「おい、クロ。僕んちに勝手に入ってくるんじゃないよ。この柵が目に入らないのか?」
「ふん、野良の俺様には、そんなの関係ないね。飼われているお前には、分からないだろうけどさ」
「飼われている? 何を言っているんだ? ここは、僕の家だ」
「おめでたい奴だな。ペットの犬が、人間気どりか? 笑わせてくれる。そもそも、その柵だって、お前が逃げ出さない為の檻なんじゃないのか?」
 え? こいつは、なにを言っているんだ? クロが言っている意味が分からず、こんな奴の相手をしても仕方がないと思い、追っ払おうとした時だ。僕よりも一足先に、お隣さんのシュートが大声を上げた。声の方へ顔を向けると、シュートも庭にいて、柵の向こう側で歯を剥き出しにしていた。クロが身軽に柵を飛び越え、逃げていった。僕は、シュートへと歩み寄った。
「やあ、ホップ。今日は天気が良くて気持ちいいね。まったく、あの野良猫には、困ったものだね」
「まったくだよ。さっきも、僕の事をペットの犬とか言うんだよ。訳が分からない」
「ん? それは、その通りだけど、それがどうかしたのかい?」
 僕は、シュートの口と僕の耳が信じられなくて、ポカンと口を開いたまま彼を眺めた。シュートは、右隣の松本さんの家に住んでいる。僕よりも一回りも二回りも三回りも大きい。彼は、色々と物知りのようで、様々な事を教えてくれた。彼の事は慕っているだが、それでも僕は半信半疑であった。
「僕と君が犬だって? そんなはずはないよ。そもそも、僕と君は似ていないじゃないか?」
「人間程の違いはないと思うけどね。僕と君が似ていないのは、種類が違うからだよ。僕は、シベリアンハスキーという種類で、君はシーズーという種類だ。人間だって、種類によって、これくらいの違いはあるのさ」
 僕は愕然とした。驚きのあまり腰を抜かしそうになったほどだ。すると、先ほどまでブンブンと振っていた尻尾をダラリと下げたシュートが目を伏せてた。
「そうかい、知らなかったんだね。前々から、不思議に思っていたんだ。君の言動の端々からね。でも、事実は事実として、受け止めるべきだよ。それに、事実を知ったからと言って、何も変わらないだろう? 事実を知って、家族の事が嫌いになるのかい? 確かに僕達とご主人様との種族の違いはあるけど、それでも僕はご主人様が大好きだ。とても大切にしてくれて、愛してくれている。ホップ、君もそうだろう?」
 もちろんさ。僕はシュートを見つめて、しっかりと頷いた。すると、急に体がフワリと浮かび上がった。ママが抱き上げてくれたのだ。
「さあ、そろそろお家に戻ろうね。バイバイ、シュート」
 ママは、僕の右手を持って、左右に振った。これは、少し恥ずかしかったけど、シュートは尻尾を左右に振って応えてくれた。
「君も十分幸せそうに見えるよ。それで、いいじゃないか」
 小さく呟いたシュートに、僕も尻尾を振って応えた。
 そうか、僕は人間じゃなかったのか。
冷静になって考えてみると、ああ、なるほど。僕と、ママやノゾムやノゾミ、ついでにカズユキは全然似ていない。事実を突きつけられて愕然とはしたけれど、薄々感じていた違和感を解消する事ができて、いっそ清々しい気持ちだ。シュートが言うように、だからと言ってなんなのだ。僕は、皆が好きで、皆も僕を好きでいてくれているはずだ。ママと一緒に、ノゾムとノゾミの成長を見守っている。これまでも、そしてこれからも、僕は二人の兄として、やるべき事をやるだけだ。
 家のリビングに戻ると、ノゾムが積み木で遊んでいて、ノゾミは座り込んでそれを見ている。僕は床に転がっているボールを咥えて、ノゾミに差し出した。ノゾミがボールを受け取り、ボールを投げる。テンテンとボールが小さく弾み、転がっていく。僕は、ボールを追いかけて、ノゾミの元へと戻る。この一連の動作を繰り返していると、ノゾミは楽しそうにキャッキャッとはしゃいでいる。僕も張り切って、ボールを追いかける。すると、その様子を見ていたノゾムが、ノゾミからボールを奪い取って、ボールを投げた。僕は複雑な気持ちになったけど、渋々ボールを追いかけて、ノゾミにボールを渡そうとする。また、ノゾムが奪い取ろうとしたから、今度は顔を背けて、それを阻止した。分かっていた事なのだけど、ノゾムが泣き出してしまった。
 ヤレヤレ、この泣き虫の弟は、しっかりと成長してくれるのだろうか。
 僕が不安な顔でノゾムを見上げていると、ノゾミが僕の口からボールを取って、ノゾムに差し出した。泣き声がピタリとやんだ。ボールを受け取ったノゾムは、手足をバタバタさせ、ボールを投げた。ボールを追いかける前に、ノゾミの顔を覗いた。ノゾミは、嬉しいのか悲しいのか判別ができない、無表情で転がるボールを目で追っている。体を伸ばしてノゾミの頬を舐めると、彼女は表情を崩して笑った。尻尾を振っていると、ノゾムが僕の尻尾を掴もうとしている。しかし、高速で動く僕の尻尾は、捕らえる事ができないようだ。
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