1 / 4
第一話
しおりを挟む
放課後、図書室で時間を潰すのが、日課になっている。周囲のテーブルには、ちらほら他の生徒がいた。
一人じゃないという安心感は、騒つく心を落ち着かせてくれる。
西日の照り返しに目を細めていると、勢いよく扉が開いた。
「おーい! そろそろ下校の時間だぞー! 帰る準備をしなさーい!」
いつも元気いっぱいの勝川先生が、顔を出した。あまり接点のない先生だけど、何かと僕の事を気にかけてくれる。みんなが一斉に動き出した。本を片付ける人、貸し出しの手続きをする人など様々だ。僕は貸し出し手続きを終えている本をランドセルに入れる。
「はーい! 急いで急いでー! 暗くなる前に帰るんだぞー!」
勝川先生は、手を叩き、皆を急がせている。
「通学ミサキに連れて行かれるぞー!」
大声を上げる先生に、瞬間的に頭に血が上った。両手で勢いよくテーブルを叩きつける。先生を含む周囲が、一気に静まり返った。
「先生! いいかげんな事を言わないで下さい!」
勢いに拍車をかけたのは、倒れた椅子の音だ。立ち上がった時に、押してしまった。
「春日井、いたのか? すまない。君がいるのに、気づかなかったんだ」
瞬間的に顔が曇った先生は、分かりやすく狼狽えている。息を呑んで様子を伺っていた他の生徒達は、逃げるように図書室を出て行った。わざとらしく溜息を零して、先生を見上げた。
「僕がいなかったら、良かったんですか? いなかったら、クダラナイ噂を撒き散らして、楽しかったですか?」
嫌味の一つや二つ、言わずにはいられなかった。毎日毎日、自問自答している問題を吐き出さずには、いられなかった。
僕がいなくなった方が良かったの?
家に帰っても、誰もいない。暗い家に入り、「ただいま」と言っても、「おかえり」とは返ってこない。共働きの両親は、現実から目を背けるように、何かを忘れようとするように、仕事ばかりをしている。
どっちの事を忘れたいのだろう。
みぞおちの奥の方へ、冷たい石が積まれていく錯覚がした。勝川先生は、泣き出しそうな困った顔をしていた。
完全に、僕の八つ当たりだ。
通学ミサキにしたって、先生には悪気も落ち度もない。昔から言われている怪談の類いだ。子供を暗くなる前に帰らせる為のものだ。学校の怪談、都市伝説などなど、本来なら別にめくじらを立てるほどの事ではない。
こんな事でムキになる小学生は、いないはずだ。大人からしたら、可愛くない子供だと思われているだろう。
だけど、どうしても見過ごせなかった。黙っていられなかった。
二年前に実際に体験した出来事。
兄ちゃんと過ごした日々。
兄ちゃんと一緒に歩いた通学路。
いつの間にか、僕は兄ちゃんと同じ、六年生になっている。
僕は、深呼吸をして、先生に謝った。そして、急いで図書室を出ようとした時、先生に呼び止められた。
振り返った僕は、先生を睨みつける。すぐに気持ちの整理なんか、つけられない。
通学ミサキに、連れていかれるぞ。
できる事なら、僕も一緒に連れて行って欲しかった。
兄ちゃんと、同じところへ。
一人じゃないという安心感は、騒つく心を落ち着かせてくれる。
西日の照り返しに目を細めていると、勢いよく扉が開いた。
「おーい! そろそろ下校の時間だぞー! 帰る準備をしなさーい!」
いつも元気いっぱいの勝川先生が、顔を出した。あまり接点のない先生だけど、何かと僕の事を気にかけてくれる。みんなが一斉に動き出した。本を片付ける人、貸し出しの手続きをする人など様々だ。僕は貸し出し手続きを終えている本をランドセルに入れる。
「はーい! 急いで急いでー! 暗くなる前に帰るんだぞー!」
勝川先生は、手を叩き、皆を急がせている。
「通学ミサキに連れて行かれるぞー!」
大声を上げる先生に、瞬間的に頭に血が上った。両手で勢いよくテーブルを叩きつける。先生を含む周囲が、一気に静まり返った。
「先生! いいかげんな事を言わないで下さい!」
勢いに拍車をかけたのは、倒れた椅子の音だ。立ち上がった時に、押してしまった。
「春日井、いたのか? すまない。君がいるのに、気づかなかったんだ」
瞬間的に顔が曇った先生は、分かりやすく狼狽えている。息を呑んで様子を伺っていた他の生徒達は、逃げるように図書室を出て行った。わざとらしく溜息を零して、先生を見上げた。
「僕がいなかったら、良かったんですか? いなかったら、クダラナイ噂を撒き散らして、楽しかったですか?」
嫌味の一つや二つ、言わずにはいられなかった。毎日毎日、自問自答している問題を吐き出さずには、いられなかった。
僕がいなくなった方が良かったの?
家に帰っても、誰もいない。暗い家に入り、「ただいま」と言っても、「おかえり」とは返ってこない。共働きの両親は、現実から目を背けるように、何かを忘れようとするように、仕事ばかりをしている。
どっちの事を忘れたいのだろう。
みぞおちの奥の方へ、冷たい石が積まれていく錯覚がした。勝川先生は、泣き出しそうな困った顔をしていた。
完全に、僕の八つ当たりだ。
通学ミサキにしたって、先生には悪気も落ち度もない。昔から言われている怪談の類いだ。子供を暗くなる前に帰らせる為のものだ。学校の怪談、都市伝説などなど、本来なら別にめくじらを立てるほどの事ではない。
こんな事でムキになる小学生は、いないはずだ。大人からしたら、可愛くない子供だと思われているだろう。
だけど、どうしても見過ごせなかった。黙っていられなかった。
二年前に実際に体験した出来事。
兄ちゃんと過ごした日々。
兄ちゃんと一緒に歩いた通学路。
いつの間にか、僕は兄ちゃんと同じ、六年生になっている。
僕は、深呼吸をして、先生に謝った。そして、急いで図書室を出ようとした時、先生に呼び止められた。
振り返った僕は、先生を睨みつける。すぐに気持ちの整理なんか、つけられない。
通学ミサキに、連れていかれるぞ。
できる事なら、僕も一緒に連れて行って欲しかった。
兄ちゃんと、同じところへ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
唯一魂の侵蝕
白猫斎
ホラー
大学三年、夏。退屈を埋めるための些細な悪ふざけ。
閉鎖された「幽霊マンション」へ足を踏み入れた五人を待っていたのは、光さえも物質として削り取る漆黒の闇だった。
闇を抜け、日常へ帰還したはずの瀬良結希を待っていたのは、決定的な違和感。
事故で失った十五歳の妹、結奈。遺影の中で静止していたはずの彼女が、そこでは「生きた質量」として、温かな吐息を漏らしていた。
喜びに沸く周囲。だが結希だけは気づく。この世界に魂は一つしかない。
私たちがここへ来たのなら、元からいた「私」はどこへ消えたのか。
五感に突き刺さるようなリアリズムで描かれる、実存を賭けた「上書き」の記録。
※生成AI(Gemini)をプロット検討、文章校正などの補助に使用しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
事故物件
毒島醜女
ホラー
あらすじ:サラリーマンの幹夫は忘れ物を取りにいったん家に戻るが、そこで妻、久恵と鉢合わせになりそうになる。仲の悪い妻と会いたくなかった幹夫はとっさに物置部屋に隠れるが…
※闇芝居さんの妹の部屋をリスペクトした作品となっております。
※表紙はゴリラの素材屋さんから。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる