3 / 4
第三話
しおりを挟む
ただただ、呼吸をしている。そんな毎日を繰り返していた。何日も眠れない日々が続き、気絶する。その繰り返し。
意識を取り戻すと、部屋で一人床に倒れていた。窓の外は真っ暗で、電柱のライトが微かに見えている。
窓を開けた記憶はない。フラフラと窓に歩み寄り、閉めようとしてサッシに触れた。
瞬間的に、電気が走ったような衝撃を受けた。弾かれるように、部屋を飛び出す。玄関扉を開けると、スッと黒い影が横に流れた。あれは、黒のランドセルだ。道路に飛び出し、体が固まった。
ランドセルを背負った小学生が、列をなして歩いていた。そして、最後尾の後ろ姿には見覚えがあった。見間違える訳がない。毎日毎日見ていた後ろ姿だ。
「兄ちゃん!」
急いで駆け寄り、顔を覗き込んだ。顔は紛れもなく兄ちゃんだ。だけど、お面のように、生気が抜け落ちていた。虚な目で、前を歩くランドセルを眺めている。どれだけ声をかけても、抱きついても反応がない。ただ歩いている。
僕は腕で顔をゴシゴシ拭いて、兄ちゃんの後ろに並んだ。通い慣れた通学路だ。学校に向かっている。七人と僕が一列になっている。列を離れ、先頭に向かった。前を歩く六人は、誰一人知らない人だ。一人の例外もなく、みんなお面をつけているみたいであった。
学校に到着すると、方向転換をして、来た道を戻っていく。僕は、兄ちゃんの背中に話しかける。二人で見た映画、二人で食べたお菓子、二人の思い出を話し続ける。兄ちゃんからの返事はないけど、一人で話し続けた。
家に到着すると、七人の体が薄くなって消えた。
「兄ちゃん! 待って!」
兄ちゃんの肩に手を伸ばすと、空を切った。静まり返っている住宅街に、僕の声が響いている。
また、離れ離れになってしまう。
無我夢中で走り回った。兄ちゃんの姿を探す。でも、どれだけ走っても見つからない。息を切らして、電柱にもたれていると、視界の端に人影が入った。咄嗟に振り向くと、さっきの集団がいた。一番後ろは、兄ちゃんだ。笑う膝を叱りつけ、必死に追いかけた。今度は、知らない道だ。僕は、兄ちゃんに着いて行く。学校に到着し来た道を戻り、知らない家の前で七人は、姿を消した。
それからは、見つける事ができなかった。
次の日も窓を開けて、道路を見つめていた。眠気に襲われ、あくびをした。涙目をこすると、いつの間にか玄関先に、七人が並んでいる。僕はまた、兄ちゃんの後ろに並んだ。
そんな夜を重ねたある日、兄ちゃんが後ろから二番目に変わっていた。一番後ろは、知らない顔だ。僕は列を割り込んで、兄ちゃんの背後に着く。
日が経つにつれ、兄ちゃんの位置は、前へ前へと変わっていく。毎日、兄ちゃんに会える喜びと、順番が変わる不安で、胸の中がぐちゃぐちゃだ。兄ちゃんの前にいた人達が、次々に抜けていっている。そして、とうとう兄ちゃんが先頭になった。やっぱり、兄ちゃんは一番前で、みんなを引っ張るのが似合っている。だが、明日には、居なくなってしまうかもしれない。
僕は、兄ちゃんの前に出て、先頭を歩いた。通い慣れた通学路だ。道は分かる。たまに振り返って、兄ちゃんを見る。兄ちゃんの顔がよく見える特等席。
今日が最後かもしれない。
毎日、その想いに押し潰されそうになりながら、家から学校を往復していた。
お別れの夜は、突然やってきた。
「・・・ユウキ」
家に到着した瞬間、初めて兄ちゃんの声が聞こえた。弾かれるように振り返ると、薄くなっていく兄ちゃんが、微かに笑っていた・・・気がした。
意識を取り戻すと、部屋で一人床に倒れていた。窓の外は真っ暗で、電柱のライトが微かに見えている。
窓を開けた記憶はない。フラフラと窓に歩み寄り、閉めようとしてサッシに触れた。
瞬間的に、電気が走ったような衝撃を受けた。弾かれるように、部屋を飛び出す。玄関扉を開けると、スッと黒い影が横に流れた。あれは、黒のランドセルだ。道路に飛び出し、体が固まった。
ランドセルを背負った小学生が、列をなして歩いていた。そして、最後尾の後ろ姿には見覚えがあった。見間違える訳がない。毎日毎日見ていた後ろ姿だ。
「兄ちゃん!」
急いで駆け寄り、顔を覗き込んだ。顔は紛れもなく兄ちゃんだ。だけど、お面のように、生気が抜け落ちていた。虚な目で、前を歩くランドセルを眺めている。どれだけ声をかけても、抱きついても反応がない。ただ歩いている。
僕は腕で顔をゴシゴシ拭いて、兄ちゃんの後ろに並んだ。通い慣れた通学路だ。学校に向かっている。七人と僕が一列になっている。列を離れ、先頭に向かった。前を歩く六人は、誰一人知らない人だ。一人の例外もなく、みんなお面をつけているみたいであった。
学校に到着すると、方向転換をして、来た道を戻っていく。僕は、兄ちゃんの背中に話しかける。二人で見た映画、二人で食べたお菓子、二人の思い出を話し続ける。兄ちゃんからの返事はないけど、一人で話し続けた。
家に到着すると、七人の体が薄くなって消えた。
「兄ちゃん! 待って!」
兄ちゃんの肩に手を伸ばすと、空を切った。静まり返っている住宅街に、僕の声が響いている。
また、離れ離れになってしまう。
無我夢中で走り回った。兄ちゃんの姿を探す。でも、どれだけ走っても見つからない。息を切らして、電柱にもたれていると、視界の端に人影が入った。咄嗟に振り向くと、さっきの集団がいた。一番後ろは、兄ちゃんだ。笑う膝を叱りつけ、必死に追いかけた。今度は、知らない道だ。僕は、兄ちゃんに着いて行く。学校に到着し来た道を戻り、知らない家の前で七人は、姿を消した。
それからは、見つける事ができなかった。
次の日も窓を開けて、道路を見つめていた。眠気に襲われ、あくびをした。涙目をこすると、いつの間にか玄関先に、七人が並んでいる。僕はまた、兄ちゃんの後ろに並んだ。
そんな夜を重ねたある日、兄ちゃんが後ろから二番目に変わっていた。一番後ろは、知らない顔だ。僕は列を割り込んで、兄ちゃんの背後に着く。
日が経つにつれ、兄ちゃんの位置は、前へ前へと変わっていく。毎日、兄ちゃんに会える喜びと、順番が変わる不安で、胸の中がぐちゃぐちゃだ。兄ちゃんの前にいた人達が、次々に抜けていっている。そして、とうとう兄ちゃんが先頭になった。やっぱり、兄ちゃんは一番前で、みんなを引っ張るのが似合っている。だが、明日には、居なくなってしまうかもしれない。
僕は、兄ちゃんの前に出て、先頭を歩いた。通い慣れた通学路だ。道は分かる。たまに振り返って、兄ちゃんを見る。兄ちゃんの顔がよく見える特等席。
今日が最後かもしれない。
毎日、その想いに押し潰されそうになりながら、家から学校を往復していた。
お別れの夜は、突然やってきた。
「・・・ユウキ」
家に到着した瞬間、初めて兄ちゃんの声が聞こえた。弾かれるように振り返ると、薄くなっていく兄ちゃんが、微かに笑っていた・・・気がした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
唯一魂の侵蝕
白猫斎
ホラー
大学三年、夏。退屈を埋めるための些細な悪ふざけ。
閉鎖された「幽霊マンション」へ足を踏み入れた五人を待っていたのは、光さえも物質として削り取る漆黒の闇だった。
闇を抜け、日常へ帰還したはずの瀬良結希を待っていたのは、決定的な違和感。
事故で失った十五歳の妹、結奈。遺影の中で静止していたはずの彼女が、そこでは「生きた質量」として、温かな吐息を漏らしていた。
喜びに沸く周囲。だが結希だけは気づく。この世界に魂は一つしかない。
私たちがここへ来たのなら、元からいた「私」はどこへ消えたのか。
五感に突き刺さるようなリアリズムで描かれる、実存を賭けた「上書き」の記録。
※生成AI(Gemini)をプロット検討、文章校正などの補助に使用しています。
事故物件
毒島醜女
ホラー
あらすじ:サラリーマンの幹夫は忘れ物を取りにいったん家に戻るが、そこで妻、久恵と鉢合わせになりそうになる。仲の悪い妻と会いたくなかった幹夫はとっさに物置部屋に隠れるが…
※闇芝居さんの妹の部屋をリスペクトした作品となっております。
※表紙はゴリラの素材屋さんから。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる