21 / 46
二十一、傷ついたプライド
しおりを挟む
星矢さんの真意を尋ねる事ができなかった。それほどまでに、悲痛な面持ちをしている。星矢さんの胸の深部にある扉に手をかけているようで、腰が引けてしまった。僕には、ただ項垂れた星矢さんを見つめる事しかできなかった。怒りに任せて、扉に手をかけたのに、いざとなったら臆してしまった。
「刺させてしまったのは、俺の責任だ」
頭が真っ白で固まっていた。星矢さんの言葉の意味が理解できず、ただ茫然としている。
「俺が、あいつのアフターフォローを怠った結果だ。俺がもっとしっかり説明して説得していたら、こんな事にはならなかったんだ。俺の詰めの甘さだ。情けない。偉そうに女の事を語っていたくせに、このざまだ」
ベッドに座っている星矢さんが、膝の上で手を組んでいる。組んだ手を見つめ、いつもは力が漲っている瞳は息をひそめていた。星矢さんが悪いとは、到底思えない。もしかしたら、刺されても仕方ないと思えるほどの、仕打ちをしてしまったのだろうか? 僕は、遠慮がちに尋ねた。
「いや、手は出してねえよ。付き合っていないし、体の関係もない。ホストと客の関係で、それ以上でも以下でもない。ただな・・・向こうとしては、納得できなかったんだろうな。俺に、そこそこ金使っていたからな。気に入っていたホストが突然辞めて、女になっていたから、裏切られた気持ちになったんだろうよ」
「それって、完全に逆恨みじゃないですか! 星矢さんは、全然悪くないですよ!」
フーと大きく息を吐いた星矢さんが、思わず立ち上がってしまった僕を見上げた。
「飛ぶ鳥跡を濁さずって言うからな。一人一人の客の性格を見極めて、対処するべきだったんだ。見誤ったんだよ。不甲斐ない限りだ」
こんなにも落ち込んでいる星矢さんは、まるで冗談のようだ。いつもは、強気で生命力の塊のような人だ。女性が活力の源である星矢さんだ。だからこそ、女性を傷つけてしまった事に落胆している。
自分が刺されて、痛い想いをしたにも関わらず、犯行を起こさせてしまい、彼女の心の傷を慮っているように見えた。スーパーポジティブの星矢さんが、なかなか浮上してこない。星矢さんでも、落ちこむ事があるみたいだ。それはそうだろう。星矢さんだって人間なんだし、太陽だって沈むのだから。
スタイル抜群の超絶美人で、女好きの遊び人だ。だからこそ、女性を満足させる事に、プライドを持っているのだろう。その真逆の事をしてしまった・・・させてしまった苦悩と罪悪感と戦っているみたいだ。
こんな姿の星矢さんは、見ていられない。僕は、手を伸ばして、星矢さんの手を握った。
「星矢さん! 僕に出来る事はないですか? 僕に何が出来るか分からないですけど、僕に出来る事があれば、遠慮なく指示を下さい!」
咄嗟に、星矢さんの手を握ってしまい、必然的に顔が接近してしまった。鼻が触れそうな距離で見つめ合って、心臓が飛び跳ねた。すると、星矢さんは、ゆっくりと目を閉じて、唇を突き出した。そして、チュッチュッチュッと音を鳴らした。
「星矢さん! ふざけないで下さい!」
「なんだよ! いっちょ前にカッコつけやがったから、サービスしてやろうとしたんじゃねえかよ!」
「結構ですよ!」
顔に熱を帯びてきて、逃げようとしたら、星矢さんにガッチリと手を掴まれてしまった。
「逃がさねえよ」
不敵な笑みを浮かべる星矢さんに、背中に汗が流れた。
「何でもやるんだよな?」
「そんな事は、一言も言っていません!」
あまりにも力強い為、離れる事ができない。握力も強く、掴まれている手に痛みが走る。すると、星矢さんのスマートフォンが着信し、解放された。天の助けだと、手を合わせていたのも束の間、会話の内容に嫌な予感が過る。
「ああ、なるほどな。丁度良かった。翔太を向かわせるよ。頼んでおいて悪いんだけど、急いでもらえると助かる。ああ、宜しく頼むよ」
スマートフォンをベッドに置いた星矢さんが、僕を見つめた。薄っすらと口角がつり上がっているのが、気がかりでならない。
「翔太、喜べ! お前に出来る事が、見つかったぞ! ラインにマップを送るから、大至急その場所に向かってくれ!」
「え? え? どこで、何をするんですか?」
「行けば分かるよ。はい! 行った行った!」
追い払われるように星矢さんが、手を振っている。慌てて個室の扉から出ようとした。
「翔太! 宜しく頼むな」
星矢さんの声に振り返ると、彼は優しい笑みを浮かべ、敬礼の格好をしていた。僕は、色々と納得していない事があったけれど、大きく頷いて部屋を出た。
「刺させてしまったのは、俺の責任だ」
頭が真っ白で固まっていた。星矢さんの言葉の意味が理解できず、ただ茫然としている。
「俺が、あいつのアフターフォローを怠った結果だ。俺がもっとしっかり説明して説得していたら、こんな事にはならなかったんだ。俺の詰めの甘さだ。情けない。偉そうに女の事を語っていたくせに、このざまだ」
ベッドに座っている星矢さんが、膝の上で手を組んでいる。組んだ手を見つめ、いつもは力が漲っている瞳は息をひそめていた。星矢さんが悪いとは、到底思えない。もしかしたら、刺されても仕方ないと思えるほどの、仕打ちをしてしまったのだろうか? 僕は、遠慮がちに尋ねた。
「いや、手は出してねえよ。付き合っていないし、体の関係もない。ホストと客の関係で、それ以上でも以下でもない。ただな・・・向こうとしては、納得できなかったんだろうな。俺に、そこそこ金使っていたからな。気に入っていたホストが突然辞めて、女になっていたから、裏切られた気持ちになったんだろうよ」
「それって、完全に逆恨みじゃないですか! 星矢さんは、全然悪くないですよ!」
フーと大きく息を吐いた星矢さんが、思わず立ち上がってしまった僕を見上げた。
「飛ぶ鳥跡を濁さずって言うからな。一人一人の客の性格を見極めて、対処するべきだったんだ。見誤ったんだよ。不甲斐ない限りだ」
こんなにも落ち込んでいる星矢さんは、まるで冗談のようだ。いつもは、強気で生命力の塊のような人だ。女性が活力の源である星矢さんだ。だからこそ、女性を傷つけてしまった事に落胆している。
自分が刺されて、痛い想いをしたにも関わらず、犯行を起こさせてしまい、彼女の心の傷を慮っているように見えた。スーパーポジティブの星矢さんが、なかなか浮上してこない。星矢さんでも、落ちこむ事があるみたいだ。それはそうだろう。星矢さんだって人間なんだし、太陽だって沈むのだから。
スタイル抜群の超絶美人で、女好きの遊び人だ。だからこそ、女性を満足させる事に、プライドを持っているのだろう。その真逆の事をしてしまった・・・させてしまった苦悩と罪悪感と戦っているみたいだ。
こんな姿の星矢さんは、見ていられない。僕は、手を伸ばして、星矢さんの手を握った。
「星矢さん! 僕に出来る事はないですか? 僕に何が出来るか分からないですけど、僕に出来る事があれば、遠慮なく指示を下さい!」
咄嗟に、星矢さんの手を握ってしまい、必然的に顔が接近してしまった。鼻が触れそうな距離で見つめ合って、心臓が飛び跳ねた。すると、星矢さんは、ゆっくりと目を閉じて、唇を突き出した。そして、チュッチュッチュッと音を鳴らした。
「星矢さん! ふざけないで下さい!」
「なんだよ! いっちょ前にカッコつけやがったから、サービスしてやろうとしたんじゃねえかよ!」
「結構ですよ!」
顔に熱を帯びてきて、逃げようとしたら、星矢さんにガッチリと手を掴まれてしまった。
「逃がさねえよ」
不敵な笑みを浮かべる星矢さんに、背中に汗が流れた。
「何でもやるんだよな?」
「そんな事は、一言も言っていません!」
あまりにも力強い為、離れる事ができない。握力も強く、掴まれている手に痛みが走る。すると、星矢さんのスマートフォンが着信し、解放された。天の助けだと、手を合わせていたのも束の間、会話の内容に嫌な予感が過る。
「ああ、なるほどな。丁度良かった。翔太を向かわせるよ。頼んでおいて悪いんだけど、急いでもらえると助かる。ああ、宜しく頼むよ」
スマートフォンをベッドに置いた星矢さんが、僕を見つめた。薄っすらと口角がつり上がっているのが、気がかりでならない。
「翔太、喜べ! お前に出来る事が、見つかったぞ! ラインにマップを送るから、大至急その場所に向かってくれ!」
「え? え? どこで、何をするんですか?」
「行けば分かるよ。はい! 行った行った!」
追い払われるように星矢さんが、手を振っている。慌てて個室の扉から出ようとした。
「翔太! 宜しく頼むな」
星矢さんの声に振り返ると、彼は優しい笑みを浮かべ、敬礼の格好をしていた。僕は、色々と納得していない事があったけれど、大きく頷いて部屋を出た。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる