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ふじゆう

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二十一、傷ついたプライド

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 星矢さんの真意を尋ねる事ができなかった。それほどまでに、悲痛な面持ちをしている。星矢さんの胸の深部にある扉に手をかけているようで、腰が引けてしまった。僕には、ただ項垂れた星矢さんを見つめる事しかできなかった。怒りに任せて、扉に手をかけたのに、いざとなったら臆してしまった。
「刺させてしまったのは、俺の責任だ」
 頭が真っ白で固まっていた。星矢さんの言葉の意味が理解できず、ただ茫然としている。
「俺が、あいつのアフターフォローを怠った結果だ。俺がもっとしっかり説明して説得していたら、こんな事にはならなかったんだ。俺の詰めの甘さだ。情けない。偉そうに女の事を語っていたくせに、このざまだ」
 ベッドに座っている星矢さんが、膝の上で手を組んでいる。組んだ手を見つめ、いつもは力が漲っている瞳は息をひそめていた。星矢さんが悪いとは、到底思えない。もしかしたら、刺されても仕方ないと思えるほどの、仕打ちをしてしまったのだろうか? 僕は、遠慮がちに尋ねた。
「いや、手は出してねえよ。付き合っていないし、体の関係もない。ホストと客の関係で、それ以上でも以下でもない。ただな・・・向こうとしては、納得できなかったんだろうな。俺に、そこそこ金使っていたからな。気に入っていたホストが突然辞めて、女になっていたから、裏切られた気持ちになったんだろうよ」
「それって、完全に逆恨みじゃないですか! 星矢さんは、全然悪くないですよ!」
 フーと大きく息を吐いた星矢さんが、思わず立ち上がってしまった僕を見上げた。
「飛ぶ鳥跡を濁さずって言うからな。一人一人の客の性格を見極めて、対処するべきだったんだ。見誤ったんだよ。不甲斐ない限りだ」
 こんなにも落ち込んでいる星矢さんは、まるで冗談のようだ。いつもは、強気で生命力の塊のような人だ。女性が活力の源である星矢さんだ。だからこそ、女性を傷つけてしまった事に落胆している。
 自分が刺されて、痛い想いをしたにも関わらず、犯行を起こさせてしまい、彼女の心の傷を慮っているように見えた。スーパーポジティブの星矢さんが、なかなか浮上してこない。星矢さんでも、落ちこむ事があるみたいだ。それはそうだろう。星矢さんだって人間なんだし、太陽だって沈むのだから。
 スタイル抜群の超絶美人で、女好きの遊び人だ。だからこそ、女性を満足させる事に、プライドを持っているのだろう。その真逆の事をしてしまった・・・させてしまった苦悩と罪悪感と戦っているみたいだ。
 こんな姿の星矢さんは、見ていられない。僕は、手を伸ばして、星矢さんの手を握った。
「星矢さん! 僕に出来る事はないですか? 僕に何が出来るか分からないですけど、僕に出来る事があれば、遠慮なく指示を下さい!」
 咄嗟に、星矢さんの手を握ってしまい、必然的に顔が接近してしまった。鼻が触れそうな距離で見つめ合って、心臓が飛び跳ねた。すると、星矢さんは、ゆっくりと目を閉じて、唇を突き出した。そして、チュッチュッチュッと音を鳴らした。
「星矢さん! ふざけないで下さい!」
「なんだよ! いっちょ前にカッコつけやがったから、サービスしてやろうとしたんじゃねえかよ!」
「結構ですよ!」
 顔に熱を帯びてきて、逃げようとしたら、星矢さんにガッチリと手を掴まれてしまった。
「逃がさねえよ」
 不敵な笑みを浮かべる星矢さんに、背中に汗が流れた。
「何でもやるんだよな?」
「そんな事は、一言も言っていません!」
 あまりにも力強い為、離れる事ができない。握力も強く、掴まれている手に痛みが走る。すると、星矢さんのスマートフォンが着信し、解放された。天の助けだと、手を合わせていたのも束の間、会話の内容に嫌な予感が過る。
「ああ、なるほどな。丁度良かった。翔太を向かわせるよ。頼んでおいて悪いんだけど、急いでもらえると助かる。ああ、宜しく頼むよ」
 スマートフォンをベッドに置いた星矢さんが、僕を見つめた。薄っすらと口角がつり上がっているのが、気がかりでならない。
「翔太、喜べ! お前に出来る事が、見つかったぞ! ラインにマップを送るから、大至急その場所に向かってくれ!」
「え? え? どこで、何をするんですか?」
「行けば分かるよ。はい! 行った行った!」
 追い払われるように星矢さんが、手を振っている。慌てて個室の扉から出ようとした。
「翔太! 宜しく頼むな」
 星矢さんの声に振り返ると、彼は優しい笑みを浮かべ、敬礼の格好をしていた。僕は、色々と納得していない事があったけれど、大きく頷いて部屋を出た。
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