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四十一、カリスマモデルの事情
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「・・・事務所の方針で・・・年齢はサバを読んでいます」
ミッチャンママの興奮が落ち着いたところで、キョンチが話し始めた。例によって、小百合ママの計らいで、店の奥にあるテーブル席に移動した。一番奥のソファにキョンチが座り、テーブルを挟んで壁になるように、僕とミッチャンが隣同士で座る。照明も少し落としてもらった。マーブルのお客さんを信用していない訳ではないが、何せ酔っ払いだ。十八歳と公表しているキョンチが、スナックに訪れたと知れたら、大問題に繋がりかねない。先ほど申告した二十二歳が実年齢のようだ。これで、キョンチがSNS上でミッチャンママにぶち当たり、マーブルに辿り着いた理由が判明した。
ミッチャンママは、キョンチの大ファンだ。
六十歳のおじさんが、表向きは十代の女性モデルのファンというのは、なかなかのレアケースだろう。しかしながら、ミッチャンママの存在自体が、レアケースなので特段驚いたりはしない。実の娘に『キョンチのメイク教えて!』と懇願し、サマンサタバサのカバンを賄賂として渡す程だ。ミッチャンママのSNSをフォローしているから分かるが、キョンチの話題をよく上げている。
元々は、あまりキョンチには興味がなかったのだが、ミッチャンママが騒がしいので、嫌でも気になってしまう。テレビやネットの広告には、頻繁に出演しているし、バラエティー番組にも引っ張りだこだ。女性誌は読まないので知らなかったが、彼女が表紙を飾ると売り上げが倍増するようだ。同じ職場の女性事務員さんが言っていた。確か、浅岡君に下着を盗まれてしまった長谷川さんも好きだったような気がする。最近では、女優業にも進出し、彼女を見ない日はないと言っても過言ではない。
僕は、有名人と対峙していると言うよりも、ただ単純に綺麗な女性が目前にいて、やや緊張している。しかし、ミッチャンの緊張には、遠く及ばない。憧れの存在が目の前にいるのだ。まるで、少女のように瞳を輝かせている。星矢さんは例外だが、リョウさんや衣麻さんだって、凄く綺麗な女性だ。しかし、芸能界で磨き上げられたキョンチの美しさは、洗礼されたものがあるような気がする。俗にいうオーラというものなのだろう。プライベートで、しかも極限にまで身を潜めていても、漏れ出す気配は流石の一言だ。とは言え、最初はまるで気が付かなかったので、僕の感覚など当てにならない。オーラうんぬんかんぬんなんか、後付けだ。やはり肩書は強い。
「ミッチャンさんのSNSやブログを読ませてもらって、とても楽しそうで、どうしてもここに来たかったんです。特にブログには、感動しちゃって。ミッチャンさんの苦悩とか努力とか、凄く励まされています。ありがとうございます」
キョンチが頭を下げると、ミッチャンママは目を丸くして、口をパクパクさせていた。
「あんな粗末な駄文を・・・お目汚しをお許し下さい」
ミッチャンママは、テーブルに手をついて、まるで土下座をするように、テーブルに額をつけた。いやいや、それはいくらなんでも、ヘリ下り過ぎだ。案の定、キョンチが恐縮してしまい、あたふたとしている。挙句の果てには、目線で僕に助けを求める始末だ。
「はいはい、ミッチャンママその辺にして。キョンチが戸惑っているからさ。嬉しいのは良く分かったから、とにかく落ち着いて」
僕は、ミッチャンママの腕を掴んで、起き上がらせた。ミッチャンママは僕を見つめて、何か言葉を発しているが、まったく理解できない。こんなにも、人として機能していないミッチャンママを見るのは、初めての事だ。
「キョンチは、お忍びできてくれているんだから、目立つ事は控えた方が良いんじゃない?」
「そ、そうね。翔太の言う通りだわ。ご迷惑をおかけする訳には・・・翔太! あんた何を馴れ馴れしく呼んでいるのよ。大田さんに向かって」
「いやいや、ミッチャンママもいつもは、キョンチキョンチ呼んでんじゃん? もう、とにかく、酒でも飲んで落ち着いてよ」
「そうよね。翔太のおごりでお酒を頂くわ。お代わりでよろしいかしら? 少々お待ち下さい」
おい、どうして、僕のおごりなんだ? まあ、別に良いけど。ミッチャンママは、席を立ち酒を取りに行った。少し離れて、冷静さを取り戻して欲しいものだ。
「あの、竹内さんとミッチャンさんは、仲良しなんですね? このお店の常連さんですか?」
「仲良しかどうかは分からないけど、常連だし、親子だしね」
「えっ!?!?」
キョンチは、驚きのあまり、口を押えて立ち上がった。毎度の事ながら、このリアクションは見ていて楽しい。癖になりそうだ。
「あ、いや、すいません。とても素敵です」
目を細めて微笑むキョンチに、照れくさくて後頭部を掻いた。素敵って言われた。
酒を持って戻ってきたミッチャンが、僕達の前にグラスを置いた。ミッチャンママは、グラスに氷を入れて、芋焼酎を注ぎ、少し水を入れる。かき混ぜないのが、ミッチャン流だ。混ぜない方が、味が変わって美味しいそうだ。人のお金でボトル入れやがって。三人でグラスを合わせる。緊張は隠せていないが、冷静さを取り戻したミッチャンが、ミーハー丸出しで質問をしている。お客さんよりも自分が楽しんでいるようで、まだ冷静さが欠けているようだ。前言撤回だ。しかし、キョンチも楽しそうなので、別に構わないのだろう。
「あ、そう言えば、大前田というのは?」
「本名です」
「へえ、じゃあ大前田香子っていうんだね?」
「・・・そうです」
ん? この間はなんだ? 気のせいか?
「どうして、翔太が本名を知っているのよ!?」
「さっき、聞いたんだよ! 面倒臭いから、いちいち突っかかってこないでよ」
僕とミッチャンの小競り合いに、真正面から見ているキョンチは、楽しそうで何よりだ。
「このお店は、女装スナックですよね? 翔太さんは、しないんですか?」
「僕はしないよ。他にもしていない人は、結構いるよ。強制じゃないからね。女性のお客さんも結構いるしね。ママさんやお客さんに会いたくて来る感じかな? マーブルのファンっていうか、そんな緩い感じだよ」
マーブルで女装をした事はないけれど、別件でした事はある。ヒメカ事変の時だ。まあ、その事は、わざわざ言う必要はないだろう。
お客さんもちらほら増え始め、浅岡君やモモちゃんもキョンチに舞い上がっていた。少しずつ店に溶け込んでいったキョンチは、実に楽しそうで、見ている方も気持ち良かった。
その後も、キョンチは時間を見つけては、マーブルに立ち寄るようになり、他のお客さんとも仲良くなっていった。そんな日が続いたある日、パタリとキョンチを見かけなくなった。マーブル内でも、仕事が忙しいんじゃない? と、話していた矢先の事だ。突然飛び込んできたネットニュースに愕然とした。
人気モデルのキョンチが失踪!
ミッチャンママの興奮が落ち着いたところで、キョンチが話し始めた。例によって、小百合ママの計らいで、店の奥にあるテーブル席に移動した。一番奥のソファにキョンチが座り、テーブルを挟んで壁になるように、僕とミッチャンが隣同士で座る。照明も少し落としてもらった。マーブルのお客さんを信用していない訳ではないが、何せ酔っ払いだ。十八歳と公表しているキョンチが、スナックに訪れたと知れたら、大問題に繋がりかねない。先ほど申告した二十二歳が実年齢のようだ。これで、キョンチがSNS上でミッチャンママにぶち当たり、マーブルに辿り着いた理由が判明した。
ミッチャンママは、キョンチの大ファンだ。
六十歳のおじさんが、表向きは十代の女性モデルのファンというのは、なかなかのレアケースだろう。しかしながら、ミッチャンママの存在自体が、レアケースなので特段驚いたりはしない。実の娘に『キョンチのメイク教えて!』と懇願し、サマンサタバサのカバンを賄賂として渡す程だ。ミッチャンママのSNSをフォローしているから分かるが、キョンチの話題をよく上げている。
元々は、あまりキョンチには興味がなかったのだが、ミッチャンママが騒がしいので、嫌でも気になってしまう。テレビやネットの広告には、頻繁に出演しているし、バラエティー番組にも引っ張りだこだ。女性誌は読まないので知らなかったが、彼女が表紙を飾ると売り上げが倍増するようだ。同じ職場の女性事務員さんが言っていた。確か、浅岡君に下着を盗まれてしまった長谷川さんも好きだったような気がする。最近では、女優業にも進出し、彼女を見ない日はないと言っても過言ではない。
僕は、有名人と対峙していると言うよりも、ただ単純に綺麗な女性が目前にいて、やや緊張している。しかし、ミッチャンの緊張には、遠く及ばない。憧れの存在が目の前にいるのだ。まるで、少女のように瞳を輝かせている。星矢さんは例外だが、リョウさんや衣麻さんだって、凄く綺麗な女性だ。しかし、芸能界で磨き上げられたキョンチの美しさは、洗礼されたものがあるような気がする。俗にいうオーラというものなのだろう。プライベートで、しかも極限にまで身を潜めていても、漏れ出す気配は流石の一言だ。とは言え、最初はまるで気が付かなかったので、僕の感覚など当てにならない。オーラうんぬんかんぬんなんか、後付けだ。やはり肩書は強い。
「ミッチャンさんのSNSやブログを読ませてもらって、とても楽しそうで、どうしてもここに来たかったんです。特にブログには、感動しちゃって。ミッチャンさんの苦悩とか努力とか、凄く励まされています。ありがとうございます」
キョンチが頭を下げると、ミッチャンママは目を丸くして、口をパクパクさせていた。
「あんな粗末な駄文を・・・お目汚しをお許し下さい」
ミッチャンママは、テーブルに手をついて、まるで土下座をするように、テーブルに額をつけた。いやいや、それはいくらなんでも、ヘリ下り過ぎだ。案の定、キョンチが恐縮してしまい、あたふたとしている。挙句の果てには、目線で僕に助けを求める始末だ。
「はいはい、ミッチャンママその辺にして。キョンチが戸惑っているからさ。嬉しいのは良く分かったから、とにかく落ち着いて」
僕は、ミッチャンママの腕を掴んで、起き上がらせた。ミッチャンママは僕を見つめて、何か言葉を発しているが、まったく理解できない。こんなにも、人として機能していないミッチャンママを見るのは、初めての事だ。
「キョンチは、お忍びできてくれているんだから、目立つ事は控えた方が良いんじゃない?」
「そ、そうね。翔太の言う通りだわ。ご迷惑をおかけする訳には・・・翔太! あんた何を馴れ馴れしく呼んでいるのよ。大田さんに向かって」
「いやいや、ミッチャンママもいつもは、キョンチキョンチ呼んでんじゃん? もう、とにかく、酒でも飲んで落ち着いてよ」
「そうよね。翔太のおごりでお酒を頂くわ。お代わりでよろしいかしら? 少々お待ち下さい」
おい、どうして、僕のおごりなんだ? まあ、別に良いけど。ミッチャンママは、席を立ち酒を取りに行った。少し離れて、冷静さを取り戻して欲しいものだ。
「あの、竹内さんとミッチャンさんは、仲良しなんですね? このお店の常連さんですか?」
「仲良しかどうかは分からないけど、常連だし、親子だしね」
「えっ!?!?」
キョンチは、驚きのあまり、口を押えて立ち上がった。毎度の事ながら、このリアクションは見ていて楽しい。癖になりそうだ。
「あ、いや、すいません。とても素敵です」
目を細めて微笑むキョンチに、照れくさくて後頭部を掻いた。素敵って言われた。
酒を持って戻ってきたミッチャンが、僕達の前にグラスを置いた。ミッチャンママは、グラスに氷を入れて、芋焼酎を注ぎ、少し水を入れる。かき混ぜないのが、ミッチャン流だ。混ぜない方が、味が変わって美味しいそうだ。人のお金でボトル入れやがって。三人でグラスを合わせる。緊張は隠せていないが、冷静さを取り戻したミッチャンが、ミーハー丸出しで質問をしている。お客さんよりも自分が楽しんでいるようで、まだ冷静さが欠けているようだ。前言撤回だ。しかし、キョンチも楽しそうなので、別に構わないのだろう。
「あ、そう言えば、大前田というのは?」
「本名です」
「へえ、じゃあ大前田香子っていうんだね?」
「・・・そうです」
ん? この間はなんだ? 気のせいか?
「どうして、翔太が本名を知っているのよ!?」
「さっき、聞いたんだよ! 面倒臭いから、いちいち突っかかってこないでよ」
僕とミッチャンの小競り合いに、真正面から見ているキョンチは、楽しそうで何よりだ。
「このお店は、女装スナックですよね? 翔太さんは、しないんですか?」
「僕はしないよ。他にもしていない人は、結構いるよ。強制じゃないからね。女性のお客さんも結構いるしね。ママさんやお客さんに会いたくて来る感じかな? マーブルのファンっていうか、そんな緩い感じだよ」
マーブルで女装をした事はないけれど、別件でした事はある。ヒメカ事変の時だ。まあ、その事は、わざわざ言う必要はないだろう。
お客さんもちらほら増え始め、浅岡君やモモちゃんもキョンチに舞い上がっていた。少しずつ店に溶け込んでいったキョンチは、実に楽しそうで、見ている方も気持ち良かった。
その後も、キョンチは時間を見つけては、マーブルに立ち寄るようになり、他のお客さんとも仲良くなっていった。そんな日が続いたある日、パタリとキョンチを見かけなくなった。マーブル内でも、仕事が忙しいんじゃない? と、話していた矢先の事だ。突然飛び込んできたネットニュースに愕然とした。
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