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第四話
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「あれ? 誰かきたみたい」
少女が首を起こして、薄暗い路地の先を見た。俺は、つられるように、顔を少女の視線の先に向ける。確かに、地面を踏む足音が、こちらに向かってきている。路地の先に、人型の影が見えるけど、人相はまるで分からない。もう追手がやってきてしまったのか。それとも、ただの通行人か。通行人なら通行人で、この状況は、あまりにも不自然だ。拳銃を握る手に力が入る。頬を伝う汗が、顎から落ちた。どうやら、人影は一人のようだ。カマキリか、スズメバチか、それともただの通行人か。同業の二人なら、もうお終いだ。心臓が早鐘のように、体の内側から殴りつけてくる。
影の切れ間から、ヌッと顔を出したのは、見知らぬ初老の男であった。俺と少女の存在に気が付き、目を丸くして立ち止まった。まずいな、どうやって誤魔化そうか。大声で叫ばれ、人を呼ばれたらたまったものではない。最悪、警察に通報されてしまうかもしれない。
血まみれの男が、少女を膝枕している絵は、怪しさしか感じないだろう。すると、少女が、両手で顔を隠した。
「パパッ!! ヤダ! 恥ずかしい! ママは、まだこないの!? どうして血が出るの!? ねえ、パパ! 早く、ママを呼んでよ!」
少女は、叫び声を上げて、大声で泣き出した。俺は、突然の事で、あからさまに狼狽えてしまった。
「あんた娘さん、どうしたんだい? 大丈夫なのかい?」
初老の男が、歩み寄ってきた。俺が、少女と初老の男を交互に見ていると、少女が手を開き大きく口を動かした。俺だけに、少女の顔が見えるように、手の角度を調整している。口をパクパクと動かしている。
「え、ええ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。どうやら、急に生理が始まってしまったようで・・・すぐに妻が来ますので。こんな時、男親はダメですね。ハハハ」
俺は、初老の男を見上げて、苦笑いを浮かべた。初老の男は、気を使ってくれたようで、労いの言葉を残し去って行った。初老の男の小さくなっていく背中を眺め、安堵感から体の力が抜けた。少女が、『せいり、せいり』と口を動かしたのを見て、そのまま口にした。冷静になって考えると、この少女は生理がくる年齢には、まだまだ早い気がする。いや、そもそも、俺には時期なんか分からないのだが。少女の機転の早さに助けられた。それに、ウソ泣きの技術にも。
「ねっ? 上手くいったでしょ?」
「ああ、上手くいったな」
少女は、ペロッと舌を出して、俺達二人は、声を出して笑った。笑った振動で、体のあちこちに痛みが走った。けれど、それでも笑ってしまう。声を出して笑ったのは、いつ振りだろう。
俺は、この時、完全に油断していた。
俺と少女の笑い声に、気配と足音を溶け込ませて、接近していた人物がいた。そうとう熟練の者なのだろう。頭部に固い感触がするまで、その者の接近に気が付かなかった。
ハッとした時には、俺の頭部には、拳銃が突きつけられていた。
「嘘つきショートホープだな? 最後に言い残す事はないか?」
少女が首を起こして、薄暗い路地の先を見た。俺は、つられるように、顔を少女の視線の先に向ける。確かに、地面を踏む足音が、こちらに向かってきている。路地の先に、人型の影が見えるけど、人相はまるで分からない。もう追手がやってきてしまったのか。それとも、ただの通行人か。通行人なら通行人で、この状況は、あまりにも不自然だ。拳銃を握る手に力が入る。頬を伝う汗が、顎から落ちた。どうやら、人影は一人のようだ。カマキリか、スズメバチか、それともただの通行人か。同業の二人なら、もうお終いだ。心臓が早鐘のように、体の内側から殴りつけてくる。
影の切れ間から、ヌッと顔を出したのは、見知らぬ初老の男であった。俺と少女の存在に気が付き、目を丸くして立ち止まった。まずいな、どうやって誤魔化そうか。大声で叫ばれ、人を呼ばれたらたまったものではない。最悪、警察に通報されてしまうかもしれない。
血まみれの男が、少女を膝枕している絵は、怪しさしか感じないだろう。すると、少女が、両手で顔を隠した。
「パパッ!! ヤダ! 恥ずかしい! ママは、まだこないの!? どうして血が出るの!? ねえ、パパ! 早く、ママを呼んでよ!」
少女は、叫び声を上げて、大声で泣き出した。俺は、突然の事で、あからさまに狼狽えてしまった。
「あんた娘さん、どうしたんだい? 大丈夫なのかい?」
初老の男が、歩み寄ってきた。俺が、少女と初老の男を交互に見ていると、少女が手を開き大きく口を動かした。俺だけに、少女の顔が見えるように、手の角度を調整している。口をパクパクと動かしている。
「え、ええ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。どうやら、急に生理が始まってしまったようで・・・すぐに妻が来ますので。こんな時、男親はダメですね。ハハハ」
俺は、初老の男を見上げて、苦笑いを浮かべた。初老の男は、気を使ってくれたようで、労いの言葉を残し去って行った。初老の男の小さくなっていく背中を眺め、安堵感から体の力が抜けた。少女が、『せいり、せいり』と口を動かしたのを見て、そのまま口にした。冷静になって考えると、この少女は生理がくる年齢には、まだまだ早い気がする。いや、そもそも、俺には時期なんか分からないのだが。少女の機転の早さに助けられた。それに、ウソ泣きの技術にも。
「ねっ? 上手くいったでしょ?」
「ああ、上手くいったな」
少女は、ペロッと舌を出して、俺達二人は、声を出して笑った。笑った振動で、体のあちこちに痛みが走った。けれど、それでも笑ってしまう。声を出して笑ったのは、いつ振りだろう。
俺は、この時、完全に油断していた。
俺と少女の笑い声に、気配と足音を溶け込ませて、接近していた人物がいた。そうとう熟練の者なのだろう。頭部に固い感触がするまで、その者の接近に気が付かなかった。
ハッとした時には、俺の頭部には、拳銃が突きつけられていた。
「嘘つきショートホープだな? 最後に言い残す事はないか?」
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