上 下
16 / 23
本編

10. 怒りの卒業パーティー

しおりを挟む



 満天の星に精霊たちの祝福の声。

 今日という門出の日を、私たち卒業生は心待ちにしておりました。

 この先、皆それぞれの道を歩むことになりますが、学園で過ごした日々を忘れず、学んだことを糧とし、どの分野でも活躍できるように尽力いたしましょう。



「素敵だったよレイチェル。相変わらず君の言葉は凛としていて、聴き心地がとてもいいな。」

「あら、ベック様。お褒めに預かり光栄ですわ。私も、今度こそはベック様のお言葉を拝聴いたしますわね。」

「ああ、楽しみにしていて。」



 はて、どうされたのでしょう?何かを企んでいるような表情をされておりましたが…?



「卒業生の皆、これまでよく頑張った。斯く言う私もその卒業生であるのだが、この国の皇太子として一つ、言いたいことがある。

 レイチェル・ルーボレラ公爵令嬢!

 改めて、皆の前で誓おう…!」

「…え?」

「この命尽きるまで、君を守り、君と笑い、君と過ごすことを!

 君を愛しているよ、レイチェル。」


 ーーわぁぁぁぁぁ!!!!


「愛の告白ね!!素敵!!」

「ルーボレラ様が照れていらっしゃるわ!なんて可愛らしいの…!」

「殿下って、婚約者煩悩だって聞いてたけど、ありゃ相当だな。尊敬するよ。」

「うちの息子もあのように育てば良いのですが…」


 会場にいる人たちの感想はまちまちですが、ほとんどの方が祝福モードで私を見ています。

 これは、私も何か返さねば…


「わ、わたk…((バァーン!!」

「ちょっと待ちなさいよ!!シューベック様のお嫁さんは私よ!?あんたはすっこんでなさいよ!!」

「キャッ…!!」

「レイチェル!!!!!」


 急に来たかと思えば何ですの…?

 それに地下牢に閉じ込められていたはずのあなたがどうしてここにいるのよ、サラ・トロワ!!


「…サラ・トロワ。私の怒りを最大限まで引き出したご感想はいかがですか?」

「は?あんたなんかどうでもいいの。すっこんでてって言ったでしょ?」

「はっ、これだから学のない庶子は嫌ですわ!この国では目上の者を敬う心が必要となります。それと同時に、上のものは下のものに慈悲を与え、悩める時はともに悩むべきだと言う考え方も大切ですわ!

 いくら貴女が隣国出身だとはいえ、貴女には配慮も、慈悲も、遠慮も、学もございませんでした!!

 再三注意したはずですのにどれも直すことなく、むしろ悪化させるばかり。

 貴女のお陰でこの国にはあまりはやることのなかった性病が!高位貴族の子息たちに!流行ってしまっています!!

 どの方も貴女との関係を認めましたわ!!

 いい加減その売女ばいたのような言動を振り返り、改めなさい!!

 貴女の顔など二度と拝みたくないわ!!」

「まったく、私の婚約者を随分と感情的にしてくれたようだ。
 それは僕の役目なのに。君、とりあえず今のは不敬罪として処すからね。
 更に懲役が増えて、最悪命がないかもね。ああ、君売女だし、そう言うところに行ってもいいんじゃないかな?」


 そこまで言うと、ベック様は私の腰に腕を回し、会場の出口付近にあるもう一つの扉に向かった。

 そこは私とベック様の控え室であり、避難場所。

 今日のことは忘れないわ。きっと、このパーティーに参加した誰もがそうであるように…


しおりを挟む

処理中です...