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第55話 エレナさんの理解力。

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 開き直りは僕の最も得意とするスキルで、スルーとかと一緒に使う。ということで、前半はもう無かったことで良いから、会議というかお話合いの後半に入ろうと思う。

「まあ、先ほどまでの話は一旦保留してですね、ユリアさんとかエベ・・・?」

「エベリーナちゃんです。」

 話を変えたのが気に食わないのか、頬を膨らましながらエレナがご息女のお名前を教えてくれた。ほんと頭いいな。そんなに沢山名前覚えられないよ・・・ね?ご子息さん達も名前もそうだし。名前、ゴツそうだったよな、兄の方がイゴなんとかで弟がボ・・・?。

「そう、その娘さんとか、ゴツイご子息さんたちとは、どういう話してたんですか?」

「ご子息は、イゴルさんとボリスさんです。私の身の上話を聞いて頂いていました。特にお婆さんのこと。アタールさんにご迷惑がかからないように、わたしが棄民だとか、魔法で助けてくれたこととかは話していませんよ。だいたいは商家の孫としてのお話です。いろいろな物語を読み聞かせてくれたこととか、言葉遣いや挨拶の事とか、算術のこととか。お父さんは狩人で、お母さんもお父さんの手伝いをしながらも、商家の娘としての知識で、私を教育してくれたとか。それで、家族や集落の住人が病気を患って、街で治療師やお薬を求めて回ったけど、戻ったら全滅して、生き残ったわたしをアタールさんが拾って助けてくれたとか。あとは、算術の問題を暗算で解いて見せたり、ご挨拶を披露したりしていましたよ。」

 兄の方がイゴルで、弟がボリスね。・・・ものすごく道筋が通っている。嘘はついてないのに、僕の魔法とか棄民については、全く言及していない。暗算もできるんだね。そして長文なのに流暢・・・。今度から謁見にはボイスレコーダー持って行こう。

「そ、そうなんだ。ありがとう。」

 エレナは、民主主義の国で子供のころから日本とか先進国で教育受けていたら、エリートコースまっしぐらだったのではないだろうか。日本の理系の書物とか読ませたら、異世界にとってのオーバーテクノロジーとか速攻で身に着けそう。エレナへの<リーディング>は控えよう・・・。

「僕の方はね・・・。」

「あ、お聞きしていましたよ。その・・・大金貨2000枚とかびっくりでした。街道の転移のことも、気づかれないかとハラハラでした。アタールさんは第一宮廷魔法使いとかより、何百倍もすごいと思います。それに・・・」

「あ、もういいですよ。内容だけわかっていたら大丈夫だから。」

 とにかく全部聞いて覚えているようだ。何度も言うけどエレナ、有能すぎ。

「なら、国王様と領主様。おそらくは僕たちの味方だとは思うんだけど、なにか腹の底にあるというか、これから、どう付き合って行けばいいと思う?」

「先ほどのアタールさんが最初に書いていたもの、もう一度書いて頂けますか?一番上の横一列でいいです。」

 僕は、ホワイトボードに、『のんびり自由に暮らしたい』の『のん』まで書いたところでダメ出しを食らい、次の行の、『アタール』『ファガ王国』『ジニム辺境伯領』『魔物』を書いた。『アタール』も消せって言われた・・・エレナ僕に厳しくない?尽くすって厳しくすること?

「その全部のキーマン・・・でしたよね、それが、国王様と領主様とサシャさんだと思います。項目のそれぞれの問題点をもしも上げて行ったとして、王国は国王様だし、辺境伯領は、アート様、そして魔物は個別の魔物は別にして、大きな問題があるとすれば、サシャさんだと思います。」

 そ、その通りだね。

「そして、謁見室と談話室での話を聞いている限り、アタールさんを利用するというより、信頼関係を築こうとされていると感じました。サシャさんの手紙を見せられないというのは何か秘密があるのだと思いますけど、悪意とか、騙そうとかする感じはしませんでしたよ。むしろ私たちを気遣って、身分を気にせずにいつでも気軽に話せるようになりたいって、そう感じさせました。ですから、アタールさんは変に気を回さずに、皆さんがおっしゃったように、自由に振る舞われればいいと思います。そのためのメダルでしょうし。」

 そ、そうなのか?僕が神経質すぎるんだろうか・・・。あ、まだ続きそう。

「サシャさんの手紙の内容というのが、実は一番重要なのだと思います。確かに、スラム地区の問題解決というのが、今回の謁見につながったとは思いますが、おそらくその事がなくても、近いうちに謁見はあったと思います。だって、依頼の書類は単なる紙束で会うための口実だったでしょう?そしてその理由は、サシャさんの手紙。その手紙のキーワードは、大きな魔力と宮廷魔法使い。」

 ええ?そうなの?あ、そうか。そして見せられない内容は、そこに関連すると・・・。エレナ、いやエレナ様にハイヒールかけた時に覚醒した?ないな。ハイヒールは副作用無いのわかってるから、自分にかけまくってテストしてるし。

「うん、言いたいことも、だいたいの謁見の意味もわかってきました。ありがとう。エレナさん。」

「いいえ、礼には及びませんよ。私はアタールさんの目標のために一緒に居させていただいているのですから。」

 キリッと音が聞こえると勘違いするくらいに、凛々しく胸を張っているけど、その・・・胸はあまり・・・ない訳ではないけど・・・まあ、長期間栄養不足だったし、まだ痩せ細っているにはちがいないし、うん、時が解決するだろう。

 要するに、僕はいつものように行動し、少々の事には開き直り、いちいち細かいことは気にせずに生きて行けばいいって事ね。日本ではおひとり様に慣れているので、こういうご意見をお聞きすることがめったにないので、とても参考になる。グイグイ来られるのは慣れないけれど、人付き合いってこんなものなのだろう。異世界に来てから、この世界だけではなく、日本での人付き合いも考え直そうかと思うくらい、僕は人として成長してういるもしれないな。今度税理士さんにお会いしたら、友達ができたって報告しよう。

「アタールさん、聞いてますか?」

「うん。聞いてますよ。僕はエレナさんと出会って、とても幸せなんだと思います。」

 あ、尻尾がピンと持ち上がってる。あれは嬉しいときの表現かな?猫人族だからって、猫と同じとは限らないか。

「あとは、サルハの街での住まいなんですけどエレナさんには、あたら・・・」

「もちろん一緒に住みますよ。」

 ぶった切られた上に、いや、一緒に住みますよといっても、まだどんな家かもわからないし、狭い家ならばさすがに一緒に住めないのでは?まあ、眠るときはここに帰ってきてもいいけど。それに僕の場合、普段は家に帰って寝てるからな・・・。いいのか?いやいや、うら若き女性が男と一緒に住んでいるのが、周りに知れ渡ったら、困るのは僕よりもエレナだよね・・・。でもなんか言ったら、言いくるめられそうな気がする。こういうときは、後回しだな。

「じゃぁ、サルハの街に行ってから決めましょう。冒険者登録もあるし、家もでき上がっているとは限らないですからね。その場合は、宿に泊まってもらいます。あ、ダフネさん一家にも紹介しないといけませんね。これからお世話になると思います。もちろん、スラム地区の連中にも会ってもらいますね。」

「はい!」

 ニコニコしてる。あと、服とかも何着か用意しないとな。今朝の服はちょっと冒険者には合わない。あ、エレナの服とかけっこう可愛いから、着てない服、コンデジで撮って、【エルフ村】にアップしよう。僕の服もいいな。いかにも中世の中流階級って感じだもんな。

「あの、アタールさん、ひとつ願いがあるんです。」

「あ、はい、いいですよ、何でも言ってください。」

 何だろう?考え事しているとブッ込んで来るから、ちゃんと聞いておかないと。 

「わたしに魔法を教えてください。教えてもらっても使えないかもしれませんけど。」
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