望郷のフェアリーテイル

ユーカン

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1.

2-8.

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 城門内に設置された詰所に詰めているのは平時とは異なり教皇親衛隊の男が三人。奥に設置されたソファでダベっている。
「聞いたか? クリフ・スタッドが脱獄したって話」
「ああ。もし外に出るとしたらここの門が一番近いからな。すぐに応援が来るってよ」
「脱獄するような奴がわざわざ丁寧に城門通るものかね」
「さあな。だが、あんまり上のやつが来るとサボりにくくなるな」
「違いない」
 元々深夜には内郭内ならともかく、外郭との出入りはほとんどない。それも戒厳令下の今となってはここ三日で人っ子一人通りはしないのだ。一応通る人間全員に声を掛けろという事にはなっているが、夜番にその仕事は回ってこない。暇を持て余して雑談に更けるだけ。
 しばらくして日付が変わるころ、不意に窓口のガラス窓がコンコンとリズミカルに叩かれる。話に出た応援が来たのだろうか。
「俺が出る」
 一人が立ち、窓口に寄って見るが、そこには誰もいない。これはおかしい。さっきは確かにノックの音が聞こえたはずだ。そう考え、小窓の鍵を開けて首を覗かす。何か変わった事は……。
「ってえい!」
 肘打ち一閃。男の頭が窓口前の突き出した台に思いきり叩きつけられ、一瞬で意識がもっていかれる。後ろの男達が異変に気付く前に、肘打ちを打った腕が小窓から入り込み、窓口全体の窓を締める閂に伸びた。
「おじゃましまーす」
「!? お前、ハルスベリ……!?」
 窓から侵入した少女は、瞬く間に残る二人を昏倒させ、ふうと一息。その後ろから感心したような表情の男女が一組。
「流石だね、シグちゃん。油断してたとは言えプロ相手にこんなあっさり」
「しかし、こっそり通らずに強行突破しようとは。いや、考えにないわけではなかったが……」
 呆れ半分、感心半分と言った所。二人は少女に続いて窓をくぐった。



 三人は休憩がてら詰所の中を物色する。何かしら使えそうなもの、あちらの弱みになりそうなものがあれば嬉しいのだが。クリフは取り合えず伸びた兵士が着けているベルトとそれに差されている短剣を頂く。
 その兵士の傍らにメモ書きが落ちている。それにはクリフが脱獄した事と、それに伴い応援が送られてくる旨が記されていた。
「げ。これじゃあんまりゆっくりしていられないな」
「確かに。シグちゃん、行ける?」
「もが……。ごくん。うん、大丈夫」
 何をしているのかと思えば、シグは卓に置かれた小麦菓子に手を伸ばしている。のんきな奴め。しかし……。
「僕も一口」
 なかなか美味しい。牢で出される料理は何と言うか、上等ではなかった。量も少なかったからお腹も空く。
「緊張感のない奴らめ……」
 だが、悠長にもしていられない。軽く腹ごしらえを済ませればすぐに協力者の待つ外郭東門へ向けて歩き始める。問題はそのルート。外郭城門へのメインストリートは内郭城壁を沿うように進んだ後、東門へ一直線に伸びている。つまり、直線距離で結んだ最短距離ではない。最短距離で行けば、道ではない分捜索の手も緩いかもしれない。しかし、今は深夜。舗装された道でも足元を取られそうになるのに、畑や林、溜池などが多数ある場所を通り抜ければ怪我もしかねない。
「でも、ここは最短距離で行きましょう。城門に先回りされるのも困るし、できれば見つかっていない状態でたどり着きたい。」
 メリカの提案に、二人はうなずいて肯定の意を示す。そして、三人は再び隊列を組んで歩きだした。

 半ばほどまで進んだだろうか。辺りは民家もない田園地帯。遮るものはないが、足元が悪く進みにくい。辺りの気配に気を配るが、人はおろか野生生物さえいる気がしない。完全なる静寂だ。このまま何事もなくたどり着ければよいのだが……。
 そんな甘い考えはすぐに吹き飛ばされた。内郭の方角から半鐘の音が響く。緊急事態を知らせる合図だ。城門詰所の事態に気付かれたに違いない。
「もう気付かれたか。流石に最後まで行けないとは思ってたけど……」
「東西の外郭門のどちらに行くかは知られていないはずだから、見つかるのはまだ避けられるかもしれない。だけど、門の警備が強まるのは心配だね」
 今できることはなるべく早く進むことだけだ。外郭門の上には明かりがついている。その下を目指して一直線に進む。

「そういえばさあ」
 間のメリカが唐突に話し始めた。
「前にもこうやって夜の外郭を三人で歩いたことなかったっけ」
 話始めが唐突なら、話題も唐突だ。
「なんかそんな気もする。確か、冬の……」
「冬の大根祭りの時だな。シグが家に来てすぐの時だ」
 外郭の農地で行われる収穫祭のようなもの。その年に取れた大根を鍋で煮て客に振舞う祭り。他の食べ物や工芸品の出店も出る、王都でも規模の大きい祭りの一つ。
「そうそう。いつも通り二人のお父さんお母さんと一緒に行ったんだけど、私は高等学校の寮暮らしだったからシグちゃんとは初対面で、あの頃はそういうの苦手だったからビミョーな感じだった」
「今もほとんど他人と合わない生活してるじゃないか」
「うるせ。で、夜も更け始めて帰ろうかって時に私とシグちゃんだけはぐれちゃって、皆を探して歩いているうちに道から外れてここみたいな外れに来ちゃったんだよね。祭囃子がだんだん遠くなってあちこちに反響するからどっちから聞こえてくるか分からなくて、明かりも影になって見えなくなって……。しかも、一緒にいるのが初対面のシグちゃんで。心細いったらありゃしなかった」
「でも、メリカさん、結構大丈夫そうに励ましてくれてた記憶があるけど……」
「そりゃそうよ。流石にあなたが今にも泣きそうな顔でぎゅっとしがみついてきて、こっちまで怖がってる素振り見せてるわけにはいかないから。でも、初対面の、しかも年下の子と何を話したらいいかなんてわからないし。それで思いついたのが、知ってるおとぎ話を話してあげることだった」
「うん。そのお話のおかげであんまり怖くなくなったのを憶えてる。確か、タイトルは……」
「「流れ星の花!」」
 二人が目と一緒に声の調子も合わせた。
 クリフはその夜にそんなことがあったなど露ほども知らなかった。確かにそれ以降二人の距離が随分縮まったようには思えたが、それは祭りを楽しんだことによるものだと思っていた。
「そう。で、そのお話がちょうど終わった頃、クリフ君が見つけてくれたんだよね。結構離れた場所だったのにすぐに見つけてくれたからびっくりした」
「あれはたまたまですよ。父さんと母さんも探してたんだし。ああ、そうだ。僕も思い出したぞ。見つけた二人が大して深刻そうな顔してなかったからちょっとはぐれた程度にしか思っていなかったんだ。結構怖い思いしてたんですね」
「そりゃそうよ。あれ以上彷徨ってたら私が泣いてた。だから見つけてもらった時は本当にうれしかったよ。でも、シグちゃんと仲良くなれたのは怪我の功名だったかな」
「うん。私もあれから絵本とか読むようになって、メリカさんにお勉強教えてもらって……」
「三人でよく遊んだよね。二人が兵士学校行くようになっても、週末は私が二人の家に泊まりに行ったり。最近は図書館で集まったりね」
 そこで一旦話を切ると、メリカは星の瞬く空を見上げてポツリと呟くように言葉を繋ぐ。
「そんな日常がずっと続くと思ってた」
 風が凪いだ。うるさいほどに響いていた葉擦れも聞こえなくなる。まるで時間が止まったように。
「え。あ、いや。変なこと言っちゃった。忘れて、ごめんごめん。さあ、もうすぐ待ち合わせ場所だよ」
 慌ててメリカは先に進む。既にその表情は窺えないが、恐らく貼り付けたような笑顔を無理して作っているのだろう。クリフにも思う所はあるが、今はまだそれを口に出すことはできない。ここで歩みを止めるわけにはいかないのだ。
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