オカルトアワー~都市伝説怪奇譚~

ユーカン

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第七話「バケーションアワー~都市伝説甲殻譚~」

7-2.

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 そのあとは四人で海に入って遊ぶことにした。ビニールボールをひたすらに天子にぶつけたり、その仕返しに駆人が波打ち際に埋められたり……。
「キャッキャ」
「ウフフ」
 しばらく遊んでいると、天子が小さく悲鳴をあげた。
「おお痛い。なにかを踏んだようじゃ」
「姉さん、大丈夫ですか」
「これくらい大丈夫じゃ。さあ続き続き」
「そういうならいいですけど……」

 一時間も遊んだ頃だろうか、海の家の方からぽん吉を呼ぶ声が聞こえる。その声にぽん吉が一言二言答えを返す。
「駆人。そろそろおやつが売れ始めるそうだ。仕事に戻るぞ」
「分かりました」
「私たちも休憩しましょうか」
「……そうじゃな」
 休憩の算段をたてる姉妹だが、天子の方は少し覇気がない。遊び疲れたのだろうか。

 駆人が今度担当するのはかき氷機。ガシャガシャと削られる氷を器を回しながら受け止める。きれいに盛られたかき氷に、客の注文通りの味のシロップをかけて提供する。
 何人かの客に対して同じ作業を繰り返すと、行列はそこで途切れる。売れ始めた、というには少々物足りない気がするが……。
 そこで気づくが、なにやら砂浜にいる人の数が少なくなっているような気がする。帰り始める時間と言えば確かにそうなのだが、それにしてもさっきよりずいぶん減っている。よく見れば砂浜に立っているビーチパラソルの下の荷物と人の数があっていないような……。
「駆人。……、何かおかしな気配がするぞ」
 またも隣に音もなく立ったぽん吉は、今度は真剣なまなざしで海を見つめる。
 そこに空子が不安げな表情で尋ねてきた。
「あの、姉さんをみませんでしたか?」
「いえ、見てませんが……」
「いねえのか?」
「はい、さっきまで一緒にいたんですが……」
 そんなことを話している間に、砂浜からは人影が一切なくなっている。
「おい、とうとうおかしいぞ。人っ子一人いやしねえ」
「これは、なんらかの怪奇現象でしょうか」
 空子とぽん吉は警戒態勢に入る。駆人も慌てて周りを見渡す。
「あれ?あっちの磯の方から人が来ますよ」
 駆人の指さす先には、砂浜の向こうの岩場から歩いてくる人影が見える。
「磯の方で揉め事でもあったのか?みんな野次馬に行ってたとか」
「それにしては……」
 パラパラとこちらに向かってくる人々は、全員顔色が悪く、顔に生気がない。腕を力なく前に伸ばし、おぼつかない足取りで歩いている。
「おい、お前ら。なにかあった……」
 ぽん吉がフラフラと歩く海水浴客達に近づこうとした瞬間。
「うがあああ!」
 その客が叫び声をあげながら頭の上まで上げた腕をぽん吉に向かって思いきり振り下ろした。寸でのところでぽん吉はそれを避けるが、他の人たちも皆、三人に敵意を向ける。
「おい、おい。マジにどうしちまったってんだ」
「これではまるでホラー映画のゾンビです!」
 ぽん吉と空子は迫りくる海水浴客達の攻撃を避けつづける。その間にも磯の方からこちらへ向かう人は増える一方だ。
「あっ!あれを見てください!あの人の足の所!」
 二人の後ろに隠れていた駆人がこちらへ向かう人の一人を指さして叫ぶ。示された人の足には、何やらかさぶたのような、貝殻のような物が張り付いているように見える。
「なんだありゃ。貝か何かがくっついてんのか?」
「違います!あれはフジツボ……。そうだ!こんな都市伝説を聞いたことがあります。『海で怪我をするとそこからフジツボが入り込み、体の中でフジツボが成長する』と」
「それは興味深いし、あれがそうだと言われればそうかもしれんが、この状況とはどう関係あるんだ」
「つまり、あの人たちはフジツボに思考を乗っ取られて人間を襲う、いわばフジツボゾンビなんですよ!」
「なんだってー!」「なんですってー!」
 言われてよくよく観察してみれば、こちらへ向かってくる海水浴客達には、必ず体のどこかにフジツボの塊がある。
「フジツボが人を乗っ取るようなことがありえるんですか!?」
「そんなことがあるとは思えませんが……。何が起こるか分からないのが都市伝説でしょう」
「くっ。ならばどうする!?動きを止めるためにはったおすわけにもいかねえだろうし。フジツボをはがしてみるか!?」
「体内で成長しているのであれば、外に出ている部分だけはがしても効果は薄いと思います。一つ気になるのは全員が磯の方からくることです。あっちには何か手掛かりがある」
「よおし分かった。そういうことなら任せろ」
 怪奇ハンターの二人が前に立ち、フジツボゾンビ達の攻撃をかわし、いなし、時にその体を投げ飛ばし、なるべく怪我をさせないようにしながら、進んでいく。怪奇ハンターともなればこういう手合いに対しての心得もあるのだろう。
 フジツボゾンビの波をかき分けかき分け、やっとのことで磯がよく見える場所までついた。
「な、なんとか近づいてきたな。駆人、何か見えるか?」
「ん。んー。あ、あれは!?」
 ごつごつとした岩場の中でもひときわ高い所に直立している人影が一つ。よく目を凝らしてみると、その人影は……。
「あれは……天子様!?」
 岩場の上で直立不動の姿勢の天子が立っている。その顔は他のゾンビ達と同じく生気が感じられないが、腕組みをしている姿は、なにか威厳を感じる佇まいだ。
「なに!?天子の奴までゾンビになってんのか!?」
「そういえば姉さん、海で遊んでいるときに、怪我をしたようなことを言っていました。まさかその時にフジツボに寄生されたんでしょうか」
「なるほど、話が読めてきましたよ」
 駆人は合点がいったように深くうなずく。
「このゾンビパニックの始まりは天子様が乗っ取られたところから始まったんでしょう。おそらく、天子様にとりついたフジツボは、その血から妖力を吸い取り、人を操れるほどに急激に成長した。それで天子様を操り、他の人に傷をつけ乗っ取る。またその人が他の人に傷をつけ……。そうやって支配を広げるつもりです」
「まさかそんな話が……。いや、このゾンビどもを見た後だとその話も現実味を感じるな」
「では、どうしたらいいんですか?姉さんを殺すなんて嫌ですよ」
「……。とりあえず近づいてみましょう。フジツボを引きはがせるかもしれない」
「よし、あと一息だな」
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