誰かが望んだ楽園の迷い人

AI異世界小説家

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王様

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1-3
王城に入ると、俺はなぜか「来るのが分かっていた」かのようなスムーズな歓迎を受けた。
門番に名を名乗っただけで、すぐに執事が現れ、謁見の間へと通されたのだ。
案内された謁見の間。
そこで俺が感じた違和感は、確信に近い不気味さへと変わっていった。
玉座に座る恰幅の良い王様。その周りには、厚化粧をした派手なドレスの女性たちが数人侍っている。
だが、彼女たちの目はどこか虚ろで、人形のように生気がない。王が手を動かすたびに、ビクりと肩を震わせている。
そして部屋の隅には、泥と埃にまみれた使用人の少女たちが、直立不動で壁の一部のように控えていた。
「ようこそ、異界の勇者よ! そろそろ来ることは分かっておったぞ」
王様は豪快に笑い、両手を広げた。
どういうことだ? 女神のことを知っているのか?
「お初にお目にかかります、龍ケ崎真司といいます。……疑問なんですが、『来ることが分かっていた』とはどういうことでしょうか、王様?」
俺は内心の警戒心を隠しつつ、率直に尋ねた。
「うむ。この世界にはな、定期的に異世界から勇者が迷い込んでくるのだ。先々代の王の在位時期にも来ていたし、星の巡り合わせ的にも、そろそろそんな時期だとは思っておったのじゃ」
王様はニヤリと笑って言った。
まるで、定期便の到着時刻を確認する駅員のような口ぶりだ。
異世界転生の話を読み込んでいた俺は、警戒レベルを引き上げた。
予言? それとも召喚? どちらにせよ、こちらの事情を知りすぎている。
「支度金と住居を用意しよう。それと……夜の生活に困らぬよう、選りすぐりの娼館の女を数名手配しておいたぞ。存分に楽しむがよい」
王の言葉に、俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「楽しむ」という言葉の響きが、あまりにも粘着質で、歪んでいたからだ。
「……いえ、王様。まずはこの世界を知りたいので、いきなり夜の相手を欲しがるほど、欲に素直に生きたいとは思いません」
俺は丁重に断った。
この王様たちの甘言に、安易に乗るのは危険だ。直感がそう告げている。
「ほう、言うじゃないか。夜の相手をする女がいらないだと!?」
王様は目を丸くし、ズイっと王座から身を乗り出した。
その反応は、単なる驚きを超えて、何か「ありえないもの」を見たかのような狼狽を含んでいた。周りの貴族たちもざわつき始める。
「それはここにいる女では不満だということか? どんな子が欲しいのだ? お前の個人的な性癖を聞こう。もしかして、女の子が好きではないとかか?」
「女の子は大好きです。いや、そうではなくてですね……」
思わず即答してしまったが、王の食い下がり方は異常だった。
なぜそこまでして、俺に女をあてがいたがる?
「来たばかりの世界で、他にもやりたいことがあるのです」
「我慢をするでない。こちらの女などどうだ? わしが直接『夜の躾』をした女じゃ。まだ22歳だから、あと何年はつかえるぞ」
王様は近くにいた一人の若い女の腕を乱暴に掴み、引き寄せた。
女は従順な笑顔を浮かべていたが、その目は笑っていなかった。頬の筋肉だけが引きつったような、作られた笑顔。
俺はおぞけが走り、うまくその女の顔を見ることができなかった。
「これは我慢ではありません。いますぐにそういう事をしたいと思わないのです」
「女を拒む男など聞いたことがない……。まあよい、変わった奴だ。だが、身の回りの世話をする使用人は必要だろう?」
「それなら……自分で選ばせていただきたい」
王が用意した「躾済み」の女たちは危険だ。スパイか、あるいは精神が壊されている可能性がある。
俺の視線は、部屋の隅に向けられた。
そこには、きらびやかな貴族たちとは対照的に、戦国時代の囚人のような麻の服を着た少女がいた。
顔は泥と煤で汚れ、年齢も分からない。髪は元は金髪だったのだろうが、汚れで茶色く濁り、ボサボサだ。
だが、その青い瞳だけが、怯えながらも、どこか強い光を宿しているように見えた。
「あの女性を、連れて行きたいです」
俺が指差すと、王様は呆れたように鼻を鳴らした。
「なんだ、あんな薄汚い女か。あれはなんだかんだ言い訳をしてわしの夜の躾を逃げている女じゃ。そろそろわからせてやらねばいけない女でな、もう二十歳になるのに躾がまだできておらん。ふん、まあいい、一年だけ貸してやろう」
「躾は私がやります。……王様とは違う意味ですが」
俺は小さな声で付け加え、女性の元へと歩み寄った。

王様はニタリと唇を歪めた。その目はどこまでも冷たく、人を見る目ではなかった。
「良いだろう。男の転生者は歓迎するのが我が国のしきたりでな。夜の躾がうまくいかないようなら、いつでもその女を連れて城に来るが良い。わしがすぐにお前の好みの女にしてやるからな、ハハハハハッ!」
転生者は歓迎するしきたり。
なぜ「男」限定なのか。なぜそこまで「躾」にこだわるのか。
王の笑い声が、広い謁見の間に不気味に響き渡った。
女はキッと一瞬王様を睨みつけると、すぐに俯いて表情を隠した。俺はその一瞬の、焼け付くような憎悪の視線を見逃さなかった。
俺が手を差し伸べると、彼女の視線には先ほどの強い憎悪はなく、少し不安そうな目で俺を見上げた。そこにあったのは、諦めと諦念。
「よろしくな」
俺が言うと、彼女は恐る恐る俺の手を取った。その手は、驚くほど冷たく、硬く荒れていた。
「名前は?」
「……エ、エリア、です……」
それが、俺とエリアの出会いだった。
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