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第一章 その魔女はコーンスープが苦手
神域の奇跡
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「ねぇ、ハル」
「なに?」
雲のせいで暗くなった空間だからこそ、声はいつもよりも際立って聞こえた。
「この屋根のお陰でさ、私たち濡れないで済んでるじゃん?」
「え? ああ、そうだね。ありがとう」
もう濡れてるじゃないかなんてことは言わない。
「でもね、この屋根も、自分が作られた目的を果たしたいはずなんだよね」
「作られた目的……って、ちょっと待てよ!?」
それってたしかアクロバット飛行じゃ……。
「トルネードっ!!」
「うぇっ……!!」
とんでもない遠心力を発生させながら、機体はきりもみ回転を開始した。
止めろと言う言葉も出せない圧力だ。俺はいっそのこと強くラトナにしがみつくことで何とか妨害をしようとするが……。
「ふぅっ……楽しかった! ね!」
「ね、じゃないわ。寿命縮んじゃうっての」
ようやく暴走が止まったのはすっかり目が回ってしまった頃。正直、回転をやめた今もまっすぐ飛んでいる気がしないくらいだ。
「ごめんごめん……。あ、そろそろ出るよ!」
雲が疎らになってきて、少しずつ光が入ってくる。
そこからさらに少し進むと、視界は一気にクリアになった。
「雲の上って、本当に晴れてるんだな」
噂には聞いていたことだが、いざ地上の空模様がそぐわないときにそれを体感すると、やはり困惑せざるを得ない。まるでこの発見をしたのは自分が初めてかのような新鮮味を帯びて、空の青さは輝いた。
「じゃあ、ちょっとだけ待っててね。……応援してて!」
雲の上へ乗せるよう空中に機体を制止させて、ラトナは透明な屋根を取り払って外へと飛び出す。
気圧差による暴風に身構えたが、彼女のおかげかそれは無駄に終わった。
彼女は比喩でも何でもなく、ただ真実として【雲に足をつけて立つ】と、その小さな掌でそっと雲を撫でた。
「………………」
なにか聞き取れない言葉を呟くと、彼女の周りに目にも見えるほどの濃厚な魔力が漂い始める。
それは魔女特有の干渉力を糧に、天気を変える唯一無二の魔法となって雲へと流れ込んだ。
遮るものがなくなった太陽の下で、温かく輝いた髪を逆立てながら、彼女は休むことなく魔力を注ぎ続けた。
遠くからでもわかるほど彼女の顔に疲労が浮かんできても尚、雲は動く気配を見せない。
俺はただ血のにじむほどに拳を握って、ラトナの雄姿を応援するしかできなかった。
「……動いた!?」
変化が見えたのは、それからさらに数分が経過した後。
ラトナが立つ部分の雲を残して、その周りにドーナツ状の亀裂が生まれる。
亀裂は限界を超えてあふれ出した鉄砲水のように、怒涛の勢いを持って広がっていく。
池に投げ込んだ石の生み出す波紋のように、眼下の景色が解放されていく景色は例えようもなく幻想的で……。
「……大、成、功っ!!」
最後に自分の足元にあった雲を蹴散らすと、ラトナは空竜機の翼へと飛び乗ってくる。
もはや汗か雨かもわからぬ水気を含んだ前髪を、大層煩わしそうに払いのけて、彼女は誇らしげにほほ笑んだ。空を晴らしたのは私だぞと宣言するかのように辺りを見回している。
俺はできる限り身を乗り出して彼女を迎えると、激しいハイタッチで応えてくれた。パチリと乾いた音が無音の空に響く。
「見てたよ、ちゃんと。お疲れ様」
「怖くない?」
聞くわりに、心配そうな様子はない。信じてくれている事を嬉しく思いながら、俺は言葉を返す。
「当然。最高にかっこよかったよ」
主の帰ってきた空竜機は、ゆっくりと高度を落としていった。
太陽の元だと存在は希薄になってしまっているが、それでもなお窺うことのできる白竜の姿は昨日より近くに見える。
それは当然のことだが、なんとなくタイムリミットを示す砂時計のように見えてきてしまって……。
「いよいよ、だな……」
口に出すことで何とか心を落ち着かせる。
空模様の懸念が消えた今、残すはラトナが笑ってくれることを祈るのみだった。
「なに?」
雲のせいで暗くなった空間だからこそ、声はいつもよりも際立って聞こえた。
「この屋根のお陰でさ、私たち濡れないで済んでるじゃん?」
「え? ああ、そうだね。ありがとう」
もう濡れてるじゃないかなんてことは言わない。
「でもね、この屋根も、自分が作られた目的を果たしたいはずなんだよね」
「作られた目的……って、ちょっと待てよ!?」
それってたしかアクロバット飛行じゃ……。
「トルネードっ!!」
「うぇっ……!!」
とんでもない遠心力を発生させながら、機体はきりもみ回転を開始した。
止めろと言う言葉も出せない圧力だ。俺はいっそのこと強くラトナにしがみつくことで何とか妨害をしようとするが……。
「ふぅっ……楽しかった! ね!」
「ね、じゃないわ。寿命縮んじゃうっての」
ようやく暴走が止まったのはすっかり目が回ってしまった頃。正直、回転をやめた今もまっすぐ飛んでいる気がしないくらいだ。
「ごめんごめん……。あ、そろそろ出るよ!」
雲が疎らになってきて、少しずつ光が入ってくる。
そこからさらに少し進むと、視界は一気にクリアになった。
「雲の上って、本当に晴れてるんだな」
噂には聞いていたことだが、いざ地上の空模様がそぐわないときにそれを体感すると、やはり困惑せざるを得ない。まるでこの発見をしたのは自分が初めてかのような新鮮味を帯びて、空の青さは輝いた。
「じゃあ、ちょっとだけ待っててね。……応援してて!」
雲の上へ乗せるよう空中に機体を制止させて、ラトナは透明な屋根を取り払って外へと飛び出す。
気圧差による暴風に身構えたが、彼女のおかげかそれは無駄に終わった。
彼女は比喩でも何でもなく、ただ真実として【雲に足をつけて立つ】と、その小さな掌でそっと雲を撫でた。
「………………」
なにか聞き取れない言葉を呟くと、彼女の周りに目にも見えるほどの濃厚な魔力が漂い始める。
それは魔女特有の干渉力を糧に、天気を変える唯一無二の魔法となって雲へと流れ込んだ。
遮るものがなくなった太陽の下で、温かく輝いた髪を逆立てながら、彼女は休むことなく魔力を注ぎ続けた。
遠くからでもわかるほど彼女の顔に疲労が浮かんできても尚、雲は動く気配を見せない。
俺はただ血のにじむほどに拳を握って、ラトナの雄姿を応援するしかできなかった。
「……動いた!?」
変化が見えたのは、それからさらに数分が経過した後。
ラトナが立つ部分の雲を残して、その周りにドーナツ状の亀裂が生まれる。
亀裂は限界を超えてあふれ出した鉄砲水のように、怒涛の勢いを持って広がっていく。
池に投げ込んだ石の生み出す波紋のように、眼下の景色が解放されていく景色は例えようもなく幻想的で……。
「……大、成、功っ!!」
最後に自分の足元にあった雲を蹴散らすと、ラトナは空竜機の翼へと飛び乗ってくる。
もはや汗か雨かもわからぬ水気を含んだ前髪を、大層煩わしそうに払いのけて、彼女は誇らしげにほほ笑んだ。空を晴らしたのは私だぞと宣言するかのように辺りを見回している。
俺はできる限り身を乗り出して彼女を迎えると、激しいハイタッチで応えてくれた。パチリと乾いた音が無音の空に響く。
「見てたよ、ちゃんと。お疲れ様」
「怖くない?」
聞くわりに、心配そうな様子はない。信じてくれている事を嬉しく思いながら、俺は言葉を返す。
「当然。最高にかっこよかったよ」
主の帰ってきた空竜機は、ゆっくりと高度を落としていった。
太陽の元だと存在は希薄になってしまっているが、それでもなお窺うことのできる白竜の姿は昨日より近くに見える。
それは当然のことだが、なんとなくタイムリミットを示す砂時計のように見えてきてしまって……。
「いよいよ、だな……」
口に出すことで何とか心を落ち着かせる。
空模様の懸念が消えた今、残すはラトナが笑ってくれることを祈るのみだった。
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