化け狐放浪記

ひぐらしゆうき

文字の大きさ
2 / 18

第2話 暗闇に浮かぶ眼

しおりを挟む
 森を抜け出して、一夜を明かした私はまた歩き始めた。天気は相変わらず快晴で、富士山は昨日より大きく見える。特に意識していなかったが、どうやら、富士山の方向に進んでいたらしい。
 私は、そのまま突き進むこととした。


 道中、大きな入れ物を背負った人間が棒を持って歩いているのを見かけた。恐らくあれが登山者というやつなのだろう。
 私から見ると、不思議な格好である。あちらから見れば私の格好の方が不思議なのだろうが……(ちなみに私は大きめの茜色の甚平に草履を履き、背中に小さな風呂敷を結わえているという格好)。 私はそんな登山者を傍目に歩いて行く。
 今日という日は特別暑く、汗が滴り落ちる。風呂敷の中に入れてある手作りの水筒も既に空である。ゼェゼェと息を荒げながらも歩き続けていると湖が見えてきた。
 本栖湖と呼ばれるその湖に行って見ると多くの人間が富士山をカメラという機械で撮っていた。私は母からカメラというもののことを聞いていたのだが、聞いていたものよりも小さく、軽そうで、何より強烈な光は発していなかった。科学とやらの進歩なのだろう。私のような妖怪にはどうでもいいことである。
 こっそりと水筒に湖の水を汲み、日陰で座り込んで休むことにした。
 こうして眺めて見ると、人間も変わったように感じる。
 私が生まれたのは50年以上前だが、その頃よりも派手になったように思う。私が生まれた頃は、多くの人間がほったて小屋で飢えと戦いながら細々と暮らしていたようだが、現在の若者は奇抜な服を着て訳の分からない言葉を口にしている。中には板に向かって喋るものもいた。街並みも高い塔のようなものが無数にあり、民家も変な形をしている。もはや、私にはついていけない世界だ。
 私は立ち上がり伸びをする。そろそろ旅を再開することとしよう。私は再び歩き出した。
 歩いていると、既に静岡から山梨という県に入っていたらしい事に気がついた。私もかなり歩いたのだなと実感する。
 歩き続けていると、また湖に行き着いた。どうやらこの辺りには湖が幾多もあるようだ。
 随分と暗くなってきたため、今日はこの場所で一夜を明かそうと考えた。
 私は風呂敷をほどきその場に置いた。 

「さて、枝を拾うついでに食べ物でも探してこようか」

 私は近くに見えた林の中に入って行った。高い草木が生えていて、進みずらそうだ。私は化け術を解いて、本来の狐の姿に戻る。食材を狩るにはこちらの方がやりやすいということもあるが、何より、こちらの方がこういう場所では動きやすい。
   林に入って何分がたった頃、辺りは真っ暗となっていた。未だ獲物を取れていないがあまりこの林に長居していたくはない。せめて、薪にする枝ぐらいは拾って行くことにした。私は化け術をかけ、少女の姿となった。流石に狐のままでは枝を抱えて戻ることは出来ないため、移動しにくいが致し方ない。この姿で林から出ることとしよう。
 しばらく枝を拾いながら来た道を戻っていると、何やら得体の知れない気配を感じ取った。
 最初は林に潜む野生動物かと思ったが、どうにもそういう類のものではなさそうだ。私と同類、つまりは妖怪の類のような気がしてならない。
 私はその場で立ち止まり、神経を尖らせた。
 どうやら自分の背後、数間先にあるブナの木の上にいるようだ。
 さて、どうしようか。相手が分からない以上下手に相手を刺激しない方がいい。このまま林から抜け出した方がいいだろう。私は早足で歩き出す。
 背後の気配は私が動き出したと同時にこちらに向かって素早く向かってくる。
 私は素早く身を翻し、気配の方を向いた。そこにいたのは眼。とても大きな二つの眼であった。
 なぜ私の行くところには必ずこういう奴らがいるのだ。
 大きな二つの眼は私をにらめつけながらどんどん近づいてくる。どうやら私を敵とみなしているようだ。強い殺気を感じる。
 突っ立っていてもやられるだけなので、応戦することにした。私はこれでも妖怪なので応戦する術をいくらか持っている。
 今回のような奴ならば、直接攻撃する必要もなさそうだ。大きなその眼に強烈な光を浴びせてしまえばそれでいい。
 私は両の手のひらを二つの眼の前に伸ばして小さな炎を作り出すと、瞬時に軽く爆発させた。すると、黄色い閃光が発生した。
 二つの眼は閃光を浴びるとウウゥと唸って地面に倒れ込み、苦しんでいるようだ。

「まったく。急に襲ってなるとはね。少々驚いてしまったよ。一体あんた何者なんだい?」

「うぐぐ……。はぁはぁ、申し訳ない。我は大フクロウ」

 大フクロウ。長生きしすぎて妖怪化したフクロウといったところか。 

「なんで私を襲って来たの?」

「申し訳ない。林を伐採する計画に加担する人間かと……」

「林を伐採?どういう事?」

 大フクロウは起き上がり、事の経緯をはなしはじめた。

「ごく最近の話なのだ。この林に突如人間が出入りするようになった。何か企んでいると思った我は、人間の話を盗み聞いて見たのだ。すると人間どもはこの林を伐採し、この地に新しい施設と駐車場を作るといっておった!我はそれが許せぬ。我はこの森を守るために、人を見つけ次第、脅して、この地に近寄れぬようにしようと……」

 大フクロウの大きな眼から涙が流れているのが見て取れた。生まれてからずっとこの林で過ごしてきたのだろう。

「事情はわかったよ。それはいくらなんでもかわいそうだね。なら、ちょっと脅かして追っ払ってやろう」

「なに?お主、本当か?」 

「本当だよ。嘘を言っても仕方ないだろう」 

 大フクロウはかたじけないといいながら何度も頭を下げていた。

「それで、その人間達はどこにいるんだい?」

「案内しよう。ついてきてくれ」

 大フクロウについて行くと、そこには四角い小屋が建っており、中から光が漏れている。どうやら人は中にいるようだ。

「それで、どうするつもりなのだ?」

「まあ見てて」

 私は手を合わせて文言を唱える。すると小屋の周りから青白い火の玉が無数に現れる。

「あれは狐火か。お主、ただの狐ではないのでは?」

「まあ、そうではあるね」

 私は狐火を出し終え、次に、小屋の電気を術を使い消す事にした。小屋の窓から中を見ると電気を消すには壁のボタンを押せばいいらしい。ならば、かなり簡単だ。私は小屋の中にある鉛筆を動かして人間にバレないようボタンを押す。
 電気を消すと同時に小屋の中から叫び声が聞こえてくる。どうやら、狐火を見て驚いてくれたらしい。
 面白くなってきた私は狐火をあつめ、人型にする。そして、少しづつ動かし最後に扉を叩かせた。さながら狐の嫁入りのようだ。
 笑いをこらえてその様子を見ていると、人間共が窓から我先にと這い出て、そそくさと車に乗って何処かに行ってしまった。

「おお。人間共を追い払った」

「ふう。中々面白かったわ。これだけ脅かしたら、もうこの場所には近づかないでしょう」

「ありがとう。何かお礼をさせてくれぬか?えっと」

「蓮だ」

「蓮殿」

 お礼か、それならば……。

「何か食料をくれないかい?食べ物がなくて困っていたのだ」

「ふはは!わかった。とびきり美味いものを用意しよう」

 どうやら、今日は久々に美味い食事にありつくことができそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...