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矢田健司② 山吹と僕と天音さんと……
第7話息抜き
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僕たちはひとまず落ち着くため昼食がてら近くの喫茶店『caffe柳』に入店した。
この『caffe柳』という喫茶店は佐間荘から歩いて10分程の場所にあるレトロな雰囲気のお店で、一番人気のビックハムサンドセットは1日30食限定ですぐに売り切れるという。
僕は一度だけ訪れたことがあるが、残念ながらその時にビックハムサンドにありつくことができなかった。
今回は是非ともビックハムサンドにありつきたいものだ。
席に着くと各々がメニューを見て注文する品を選び始める。
「いらっしゃいませ」
盆にお冷を乗せて30代くらいの女性がやってきた。女性はお冷を配ると一礼して帰っていこうとしたので僕はすかさず食い止めた。
「あーすみません。注文をしてもよろしいでしょうか?」
「注文ですか。少々お待ちください」
女性は早足で調理場のある方へと引き上げて行った。どうやら伝票を持っていなかったらしい。
「矢田氏よ、随分と決めるのが早いのだな。もしや、一度訪れたことがあるのかね?」
僕の隣に座っているひねくれ者がつっかかってきた。
「一度だけな」
「矢田さんってやっぱり喫茶店の事よく知ってますよね」
「そうでもないよ」
少々会話していたところで伝票を持った先ほどの店員がやってきた。
「お待たせいたしました。ご注意をお伺いします」
「では僕はビックハムサンドセット」
「私もそれでお願いします」
「では私もそれにするとしようではないか」
何故被せてくる!
まだ天音さんまでなら僕も許そう。何故このひねくれ者も被らせてくるのか!
「お客様、申し訳ございません。本日のビックハムサンドはあと2食しかないのです」
あと2食か、天音さんに違うのを注文しろというのは男としてしてはいけない事だろう。
ここは被せてきた山吹が注文を変えるべきであろう。
「そうかそうか。では矢田氏よ、注文を変更したまえ」
「おいおい山吹、そこはお前が変えるべきところなのではないか?僕はこのビックハムサンドセットを一番最初に注文したのだ。変えるべきはあとから被せてきたそっちの方だ」
「選んだ際の速さで考えれば私の方が早かった。間違いなくな」
「何故そう言い切れる?」
「当然、私が何度この店に来ていると?」
この男、この店に何度も訪れていたのか……。となればこの店のビックハムサンドセットの競争率もよく知っているわけか。
くそ、どこまでも面倒でうざったらしい男だ!
「僕は譲る気はないぞ」
「無論私も無い」
「ならば公平にじゃんけんで決めよう」
「よかろう」
店員さんを待たせている手前、これ以上長い問答は無用だ。これで負けても異論無し!
「最初はグー、じゃんけんポン!」
僕が出したのはパー、山吹が出したのはグー。
「よし、僕の勝ちだな。さ、山吹選びなおすんだな」
「仕方あるまい。では、ローストビーフサンドセットで」
なに?そんなメニューは書いてなかったぞ?
「隠れメニューのローストビーフサンドセットですね。では少々お待ち下さい」
店員はそういうと調理場へと戻っていった。
「お、おい!なんだ隠れメニューって!」
「うん?私もこの店には随分と来ているのでな。人気すぎて隠れメニューとなったというローストビーフサンドセットの存在を教えてもらったのだよ」
山吹にしてはあっさり色々と認めるから怪しいと思ったが、そういう事か!
「つまり、山吹さんは勝っても負けても問題なかったんですね」
「そういうことだよ。まあ、残念だったな矢田氏よ。君が負けたらこれを教えてやろうと思っていたのに、ああ残念だ」
……凄まじく腹立たしいが店内でエキサイトするわけにはいくまい。
僕は歯を食いしばって怒りを抑え注文が届くのを待った。
この『caffe柳』という喫茶店は佐間荘から歩いて10分程の場所にあるレトロな雰囲気のお店で、一番人気のビックハムサンドセットは1日30食限定ですぐに売り切れるという。
僕は一度だけ訪れたことがあるが、残念ながらその時にビックハムサンドにありつくことができなかった。
今回は是非ともビックハムサンドにありつきたいものだ。
席に着くと各々がメニューを見て注文する品を選び始める。
「いらっしゃいませ」
盆にお冷を乗せて30代くらいの女性がやってきた。女性はお冷を配ると一礼して帰っていこうとしたので僕はすかさず食い止めた。
「あーすみません。注文をしてもよろしいでしょうか?」
「注文ですか。少々お待ちください」
女性は早足で調理場のある方へと引き上げて行った。どうやら伝票を持っていなかったらしい。
「矢田氏よ、随分と決めるのが早いのだな。もしや、一度訪れたことがあるのかね?」
僕の隣に座っているひねくれ者がつっかかってきた。
「一度だけな」
「矢田さんってやっぱり喫茶店の事よく知ってますよね」
「そうでもないよ」
少々会話していたところで伝票を持った先ほどの店員がやってきた。
「お待たせいたしました。ご注意をお伺いします」
「では僕はビックハムサンドセット」
「私もそれでお願いします」
「では私もそれにするとしようではないか」
何故被せてくる!
まだ天音さんまでなら僕も許そう。何故このひねくれ者も被らせてくるのか!
「お客様、申し訳ございません。本日のビックハムサンドはあと2食しかないのです」
あと2食か、天音さんに違うのを注文しろというのは男としてしてはいけない事だろう。
ここは被せてきた山吹が注文を変えるべきであろう。
「そうかそうか。では矢田氏よ、注文を変更したまえ」
「おいおい山吹、そこはお前が変えるべきところなのではないか?僕はこのビックハムサンドセットを一番最初に注文したのだ。変えるべきはあとから被せてきたそっちの方だ」
「選んだ際の速さで考えれば私の方が早かった。間違いなくな」
「何故そう言い切れる?」
「当然、私が何度この店に来ていると?」
この男、この店に何度も訪れていたのか……。となればこの店のビックハムサンドセットの競争率もよく知っているわけか。
くそ、どこまでも面倒でうざったらしい男だ!
「僕は譲る気はないぞ」
「無論私も無い」
「ならば公平にじゃんけんで決めよう」
「よかろう」
店員さんを待たせている手前、これ以上長い問答は無用だ。これで負けても異論無し!
「最初はグー、じゃんけんポン!」
僕が出したのはパー、山吹が出したのはグー。
「よし、僕の勝ちだな。さ、山吹選びなおすんだな」
「仕方あるまい。では、ローストビーフサンドセットで」
なに?そんなメニューは書いてなかったぞ?
「隠れメニューのローストビーフサンドセットですね。では少々お待ち下さい」
店員はそういうと調理場へと戻っていった。
「お、おい!なんだ隠れメニューって!」
「うん?私もこの店には随分と来ているのでな。人気すぎて隠れメニューとなったというローストビーフサンドセットの存在を教えてもらったのだよ」
山吹にしてはあっさり色々と認めるから怪しいと思ったが、そういう事か!
「つまり、山吹さんは勝っても負けても問題なかったんですね」
「そういうことだよ。まあ、残念だったな矢田氏よ。君が負けたらこれを教えてやろうと思っていたのに、ああ残念だ」
……凄まじく腹立たしいが店内でエキサイトするわけにはいくまい。
僕は歯を食いしばって怒りを抑え注文が届くのを待った。
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