俺がお前を英雄にする~あの最弱の女冒険者が実は最強だという事に気がついているのは俺だけらしい~

ジョク・カノサ

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マナの扱い方

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「ふぅぅぅぅ」

 フリューゲルが深く息を吸い、剣を構える。正直言って全く様になっていないが今は良い。

 少しの溜めの後、その剣が目の前に置かれた木材に振り下ろされる。

「えいっ!……あっ、斬れた!斬れましたよ!」

「……ああ」

 フリューゲルが少しぎこちない笑顔でそう言いながら俺に近づいてくる。今までが顔も見えない陰鬱な女だったからか新鮮な光景だった。良いツラしてるんだから常にこういう表情でいれば良いと思うんだが。

「試し斬りの時もそうですけど、この剣凄いです。今まで私が使ってたの全然違う……。き、斬れすぎてちょっと怖いけど」

「そりゃ粗悪品とは違うだろうな。……」

「ど、どうしたんですか?あっ、なっ、何かダメな事やっちゃったんですか、私……?」

「いや、そうじゃない」

 正直言うと木材が斬れるのは想定していた。ド素人が扱おうとその程度ならやってみせるのがこの剣だ。ただ、それよりも俺が見たかったのは――。

「お前、マナに関してはどれだけ知ってる」

「ま、まな?」

「……本当に今まで良く冒険者をやってこれたな。……適当に説明するから、ほら座れ」

「は、はい」

 俺が近場にあった木の根本に腰掛けるとフリューゲルもそれに倣い俺の横へ腰を下ろす。気になるのか横目でチラチラと後ろを見ていた。

 ここはフリューゲルと初めて出会ったブルームの森の手前にある小さな空間だ。木々は薄く都市の外壁が近い為モンスターも滅多に現れない。

 だが後ろに森があるのは事実が気を惹いてるんだろう。気を抜かず警戒するのは褒めるべきポイントだ。

「マナってのは要するに人間が普段以上の力を出すのに必要なモノだ。戦闘行為から縁遠い一般人はともかく、冒険者なら全員がコイツを上手く扱ってる」

「そ、そうなんです、か?」

「……良く分からんって顔だな。試しに俺がやってみせよう」

 俺はその辺に落ちていた石ころを一つ適当に拾い、右手の中に握った。

 少しの集中の後一気に力を込めるとバキ、という音と共に手の中の石は細かく砕けた。

「わ」

「こんなもんだ。マナってのは基本目に見えない。だから少し分かりにくいが、普通こんな簡単に石は割れんだろ?これがマナによる身体能力の強化だ。中にはよく分からん使い方をするヤツも居るが……今は良い」

 横を向きフリューゲルに向き合う。本題はここからだ。

「お前は恐らく、馬鹿げた量のマナを発生させる事が出来る。あの時アーマードベアを両断した異常な剣の威力の原因がそれだ」

「はあ……」

「あの時何か感じたか?それとも今、前とは違う感覚があったりするか?」

「分かりません……あの時は本当に頭が真っ白だったし……」

 あの時フリューゲルが可視化する程の大量のマナを発生させたのは俺の目が確実に見ていた。にも関わらず、本人の感覚に何も変化が無いという事は。

「切っ掛けだな」

「キッカケ?」

「意識的にマナを扱う。それが出来て初めて自分の中にあるマナの存在を捉える事が出来る。あの馬鹿げた量なら無意識でも何かしら感覚の変化が有ると思ったんだが、まあ急がなくても時間はある」

 話は終わりの意味を込めて立ち上がり、座ったままのフリューゲルへと手を伸ばす。何故か若干戸惑いながら伸ばしてきた手を握り返し、力を込めて立ち上がらせた。

「わっ」

「まずは切っ掛けを探そう。お前がマナを意識的に扱えるようになる為のな」
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