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異文化理解不足
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帰り道にもやもやがどんどん膨らんでしまった。
そしてそのままおみせに突撃。たいやきさんを捕獲する。
「うわっ、どーしたの?」
全身で驚いたと表現するたいやきさんにハッとなり、定位置の座布団に下ろす。
「どうしてあんな噂を流したんですか」
問い詰めるような口調になってしまった。
「うわさって?」
ぱちぱちと瞬きをしながら訊ねる目の前の毛皮に初めて腹が立った。
無自覚、なのかもしれない。
相手は言語を理解出来ているとはいえ、猫なのだ。腹を立てるだけ無駄だ。
「私が探偵さんに嫁入りするって噂です。発信源はたいやきさんだと大将さんが言っていました」
「え? さきちゃん、たんていさんのおよめさんになるんじゃないの?」
たいやきさんは首を傾げる。
へ?
噂じゃなくて、この猫は本気で勘違いしていたのか?
なんで?
どうして?
「どうして私が探偵さんと結婚すると思ったんですか?」
「だって、さきちゃん、たんていさんからおさかなもらってたでしょ? それにおいしーのたんていさんにあげたって」
そりゃあ私の為に用意してくれたと聞いたら受け取るし、お世話になっているのだからお礼くらいしなければ失礼だと思っている。
「おいしーものくれるのはこういのあかしでしょ?」
「まあ、嫌っていたら贈り物をしたりはしませんが……飛躍しすぎでは?」
政治家だって会食をする。
少しでも友好的な関係を築き、自分の要求を通しやすくするために。あの大志でさえ人間と会食をするのだ。人付き合いの基礎だろう。
相手が猫だとしたって友好的な関係を築くには食品が一番だとは思う。
「あれ? もしかして、にんげんさんのせかいだとちがうの?」
たいやきさんが目を丸くしている。
なんだかものすごく誤解があったようだ。
詳しく話を聞くと、どうやら食べ物を送るのは求愛行動の一つらしい。特にメスからオスへ食べ物を渡すのは稀なケースらしく、私の行動は探偵猫に大きな誤解を与えてしまったようだった。
さらに、自分で獲ったものを送るのはかなり熱心な求愛行動らしい。
探偵猫からの贈り物は猫社会では求婚に等しいのだとか。
それを受け取って(しかも美味しく頂いてしまった)のだからたいやきさんが勘違いするのも仕方がない。
これは完全なる異文化への理解不足だ。
そして、非常に問題なのは探偵猫は私にそういった意味で好意を抱いてくれているということだ。
いい猫だとは思う。
あの性格はとても好感を抱く。
けれども猫なのだ。毛皮に覆われていて、うっかり踏んでしまいそうな大きさの猫。
かわいいとは思う。いや、彼の場合、猫界でも相当な美形に分類されるであろう整った容姿をしている。
けれども猫だ。
つまり、私は大志とは違う。
私の恋愛対象は人間だ。猫は含まれない。
いくら探偵猫がいい猫とは言え猫なのだ。
溜息が出る。
どうしよう。
一体どうやって探偵猫に説明しよう。
ここの猫たちに人間の感覚を説明したって理解されない気がする。
そもそも人間と猫でどうやって結婚すると言うのだろう。そんなの一部の特殊なケースしか存在しない。けれどもこの世界の動物たちの考え方を思うと、普通の夫婦を求められている気がする。
猫と?
やっぱりありえない。
そしてあの石像が浮かぶ。
これは……。
お肉コースかもしれない。
猫を傷つけた罪でたいやきさんがお腹いっぱい食べるお肉の原材料にされそうだ。
「さきちゃーん、とりあえずおべんとうたべよう? おなかいっぱいにならないとちゃんとかんがえられないよ?」
たいやきさんの声で現実に引き戻される。
お弁当。
そうだ。大将猫の新商品。
まだ中身を確認していない。
竹で作られたお弁当箱が二つ並ぶちゃぶ台には既にほんのり出汁の香るほうじ茶が用意されていた。
「冷めちゃいましたね」
「だいじょうぶ。たいしょうのはさめてもおいしいよ。きっと」
お弁当箱を開けると、焼き魚と焼き肉が入っている。野菜はプチトマトが一個だけ。
バランスはよくないけれど、猫ならこのくらいがいいのだろうか?
残念ながら白米はない。お肉とお魚をたっぷり食べられる。
「いただきまーす」
嬉しそうなたいやきさんに合わせて、私も手を合わせ箸を取る。
人間には不健康な食生活に思えるけれど、今のところ体は壊していない。 お魚はなんだろう。
一口食べてみると、どうやらアジのようだ。
大将猫はどこから仕入れているのだろう。あれだけの行列分用意するとなると大変そうだなと考える。
「おいしいね」
「あ、はい」
比較的薄味、というよりは素材の味を楽しめるようになっている。
ご飯が欲しい。
少しだけ、元の世界に戻った方がいいかなと思ってしまった。
白米恋しさに帰りたいだなんて情けない。
でも……猫とは文化が違いすぎる。
やっぱり、馴染めないのだろうか。
そう考え、過去に喫茶店を開いたという人間を思い出す。
なかじょうさん、だっけ?
あの人はどうやって戻ったのだろう。
調べ事を……と思い、気が重くなる。
探偵猫だ。
調べ事は彼と一緒だ。なんとなく気まずく感じてしまう。
私は今度、どんな顔をして彼に会えばいいのだろう。
とりあえず、土下座から?
そんな風に考えていると、たいやきさんがじっと私のお弁当を見ている。
「さきちゃん、それいらないの?」
食べ足りないと言うことだろうか。
「あ、あんまり食欲ないんで……よかったら……」
多分鶏肉だと信じたいお肉をたいやきさんに譲る。
別に、カエルの肉でも驚かないなと思いつつ、脳内で土下座の仕方を検索した。
そしてそのままおみせに突撃。たいやきさんを捕獲する。
「うわっ、どーしたの?」
全身で驚いたと表現するたいやきさんにハッとなり、定位置の座布団に下ろす。
「どうしてあんな噂を流したんですか」
問い詰めるような口調になってしまった。
「うわさって?」
ぱちぱちと瞬きをしながら訊ねる目の前の毛皮に初めて腹が立った。
無自覚、なのかもしれない。
相手は言語を理解出来ているとはいえ、猫なのだ。腹を立てるだけ無駄だ。
「私が探偵さんに嫁入りするって噂です。発信源はたいやきさんだと大将さんが言っていました」
「え? さきちゃん、たんていさんのおよめさんになるんじゃないの?」
たいやきさんは首を傾げる。
へ?
噂じゃなくて、この猫は本気で勘違いしていたのか?
なんで?
どうして?
「どうして私が探偵さんと結婚すると思ったんですか?」
「だって、さきちゃん、たんていさんからおさかなもらってたでしょ? それにおいしーのたんていさんにあげたって」
そりゃあ私の為に用意してくれたと聞いたら受け取るし、お世話になっているのだからお礼くらいしなければ失礼だと思っている。
「おいしーものくれるのはこういのあかしでしょ?」
「まあ、嫌っていたら贈り物をしたりはしませんが……飛躍しすぎでは?」
政治家だって会食をする。
少しでも友好的な関係を築き、自分の要求を通しやすくするために。あの大志でさえ人間と会食をするのだ。人付き合いの基礎だろう。
相手が猫だとしたって友好的な関係を築くには食品が一番だとは思う。
「あれ? もしかして、にんげんさんのせかいだとちがうの?」
たいやきさんが目を丸くしている。
なんだかものすごく誤解があったようだ。
詳しく話を聞くと、どうやら食べ物を送るのは求愛行動の一つらしい。特にメスからオスへ食べ物を渡すのは稀なケースらしく、私の行動は探偵猫に大きな誤解を与えてしまったようだった。
さらに、自分で獲ったものを送るのはかなり熱心な求愛行動らしい。
探偵猫からの贈り物は猫社会では求婚に等しいのだとか。
それを受け取って(しかも美味しく頂いてしまった)のだからたいやきさんが勘違いするのも仕方がない。
これは完全なる異文化への理解不足だ。
そして、非常に問題なのは探偵猫は私にそういった意味で好意を抱いてくれているということだ。
いい猫だとは思う。
あの性格はとても好感を抱く。
けれども猫なのだ。毛皮に覆われていて、うっかり踏んでしまいそうな大きさの猫。
かわいいとは思う。いや、彼の場合、猫界でも相当な美形に分類されるであろう整った容姿をしている。
けれども猫だ。
つまり、私は大志とは違う。
私の恋愛対象は人間だ。猫は含まれない。
いくら探偵猫がいい猫とは言え猫なのだ。
溜息が出る。
どうしよう。
一体どうやって探偵猫に説明しよう。
ここの猫たちに人間の感覚を説明したって理解されない気がする。
そもそも人間と猫でどうやって結婚すると言うのだろう。そんなの一部の特殊なケースしか存在しない。けれどもこの世界の動物たちの考え方を思うと、普通の夫婦を求められている気がする。
猫と?
やっぱりありえない。
そしてあの石像が浮かぶ。
これは……。
お肉コースかもしれない。
猫を傷つけた罪でたいやきさんがお腹いっぱい食べるお肉の原材料にされそうだ。
「さきちゃーん、とりあえずおべんとうたべよう? おなかいっぱいにならないとちゃんとかんがえられないよ?」
たいやきさんの声で現実に引き戻される。
お弁当。
そうだ。大将猫の新商品。
まだ中身を確認していない。
竹で作られたお弁当箱が二つ並ぶちゃぶ台には既にほんのり出汁の香るほうじ茶が用意されていた。
「冷めちゃいましたね」
「だいじょうぶ。たいしょうのはさめてもおいしいよ。きっと」
お弁当箱を開けると、焼き魚と焼き肉が入っている。野菜はプチトマトが一個だけ。
バランスはよくないけれど、猫ならこのくらいがいいのだろうか?
残念ながら白米はない。お肉とお魚をたっぷり食べられる。
「いただきまーす」
嬉しそうなたいやきさんに合わせて、私も手を合わせ箸を取る。
人間には不健康な食生活に思えるけれど、今のところ体は壊していない。 お魚はなんだろう。
一口食べてみると、どうやらアジのようだ。
大将猫はどこから仕入れているのだろう。あれだけの行列分用意するとなると大変そうだなと考える。
「おいしいね」
「あ、はい」
比較的薄味、というよりは素材の味を楽しめるようになっている。
ご飯が欲しい。
少しだけ、元の世界に戻った方がいいかなと思ってしまった。
白米恋しさに帰りたいだなんて情けない。
でも……猫とは文化が違いすぎる。
やっぱり、馴染めないのだろうか。
そう考え、過去に喫茶店を開いたという人間を思い出す。
なかじょうさん、だっけ?
あの人はどうやって戻ったのだろう。
調べ事を……と思い、気が重くなる。
探偵猫だ。
調べ事は彼と一緒だ。なんとなく気まずく感じてしまう。
私は今度、どんな顔をして彼に会えばいいのだろう。
とりあえず、土下座から?
そんな風に考えていると、たいやきさんがじっと私のお弁当を見ている。
「さきちゃん、それいらないの?」
食べ足りないと言うことだろうか。
「あ、あんまり食欲ないんで……よかったら……」
多分鶏肉だと信じたいお肉をたいやきさんに譲る。
別に、カエルの肉でも驚かないなと思いつつ、脳内で土下座の仕方を検索した。
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