きょうもにぼしをおおもうけ!

ROSE

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おいしゃさん

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 たいやきさんが連れてきたおいしゃさんは、犬だった。
 チワワだ。赤毛のふわふわだ。
「おやおや……ずいぶんたくさんのんだねぇ……」
 毛の長いお爺さんのようなチワワが自分よりも少し大きな探偵猫を見て、ぷるぷるしながら触れようとする。
 大丈夫かこの医者。
 チワワなんてブルブルの代表格みたいな犬だろう。
「たいやきさん、このお医者さん、本当に大丈夫なんですか?」
 こっそり訊ねる。
「このあたりでいちばんのおいしゃさんだよ。しふぉんさんしかおいしゃさんいないけど」
 それは藪でも一番になれるじゃないか。
 不安になる。
「だいじょうぶ、らむねののみすぎだよ」
 それは見ればわかる。
 六本も飲むなんて大変だ。
「吐き出させるとかしなくていいんですか?」
 胃洗浄とか。よくわからないけど。
「だいじょうぶだいじょうぶ。げっぷをさせればおわるから」
 本当に大丈夫か不安な医者犬が探偵猫に接近している。
「……さきちゃん、おつかいたのんでいいかな?」
 見守ろうとしていると、たいやきさんに声をかけられる。
「おつかい、ですか?」
「うん。おいしゃさんにおみやげもっていってもらうのに、たいしょうのおべんとうかってきてほしいな。ぼくたちのぶんも……えっと、ぜんぶでよっつ」
「え、あ、はい……」
 四つってことは探偵猫も頭数に入れられているのか。
 あんなにお腹がポンポンの探偵猫にも食べさせて大丈夫なのだろうか。
 いや、お弁当だから持ち帰ればいいのだろうけど……。
 容赦なく探偵猫のお腹を押そうとするチワワ。
 早く行けと圧力をかけてくるたいやきさん。
 あれ? 私、邪魔だから出て行けってこと?
 なんだか最近たいやきさんが厳しい気がするなぁ……。



「大将さん、最近たいやきさん私に厳しくないですか?」
 お弁当を注文した待ち時間、大将猫に愚痴ってみる。
「そうか? てんちょうはふだんどおりだとおもうぞ? もし、ちがってみえるならさきちゃんのほうがいつもとちがうのかもしれない」
 焼き魚を網の上でひっくり返しながらそう言う大将猫はなんだかとっても経験豊富な猫に見えてしまう。
 そうか、私の方が変なのか。
 確かに、ここ最近動揺しているというか気まずく感じてしまっていた。
「大将さんもイケニャンだなぁ……」
 ほんと、猫でさえなければ……。勿体ない。
「たんていはかっこつけだからな。さきちゃんにはみせたくないぶぶんもあるんだ。わかってやってくれ」
 あつあつのお弁当を四つ渡される。
 探偵猫がかっこつけ?
 私に見せたくない部分?
 大将猫の言葉を飲み込むのに少し時間がかかる。
 かっこつけ……。
 つまり、大志と一緒だと考えると……。
「ああ、それで追い出されたのか」
 納得した。
 大志のようなかっこつけだと、人前でげっぷなんてプライドが許さないだろう。
 つまり、たいやきさんが私を慌てて追い出したのはあのチワワ医者がなにも考えずに探偵猫にげっぷをさせようとしたからだ。
 
 たいやきさん。意外とそういう気遣いする猫だったんですね。

 ちょっと寂しく思っていた自分が馬鹿らしくなる。
 空気が読めないのは知っていたけれど、猫にまで気を使わせていたなんて。
 そう言うことなら少しだけ時間を潰して、遠回りして戻ろう。
 大将猫のお弁当は冷めても美味しいから。
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