ベストフレンド

ROSE

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16 新しい誕生日

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 呼び鈴が鳴った。
 滅多に配達員すら来ないこの城の呼び鈴が鳴った。
 ダニエルは大急ぎで玄関に向かう。

「やあ、ただいま。ダニー」
 少しやつれた、それでも以前よりも明るく見える雰囲気のアンバーが、上等な紳士の装いで立っていた。
 声は掠れている。けれども目の前に居るのは確かにアンバーなのだと感じ取り、ダニエルは安堵した。
「お帰り。元気そうで安心したよ」
 普段はベンの仕事だが、ダニエルはアンバーの上着を受け取ろうとする。
「いいよ。それはベンの仕事だから」
 少し疲れた笑みを見せ、ダニエルを制止する声はやはり掠れている。
「風邪引いたの?」
 喉を指しながら訊ねれば、アンバーは静かに首を振る。
「喉の手術があまり上手くいかなかったんだ」
 アンバーは後ろに立つベンに上着を渡しながらなんてことないように言うけれど、きっととても気にしている。もしかしたら手術をしたことを後悔しているのかもしれない。ダニエルはそんな心配に気付かれないよう、アンバーに微笑む。
「蜂蜜を飲んだらそのうちよくなるよ」
 気休めでしかない言葉が飛び出した。
 そんなダニエルに気づいてか、アンバーは困ったように笑う。
「うん、そうだね」
 アンバーの方が年下のはずなのに、まるでおかしなことを言う弟を見守るような視線に感じられた。
「ダニーがいつも通りで安心したよ」
 そういうアンバーは?
 ダニエルは訊ねることのできないまま、キッチンの方へ足を向ける。
「デラとアンバーの帰りを待ってたんだ」
「うん。ありがとう。デラも元気そうで安心したよ。やっぱりダニーに任せて正解だったね」
 掠れた声のせいなのか、声変わり期の少年に見えなくもない。
 アンバーが納得しているならそれでいい。そう思うのに、なぜか妙な寂しさを感じる。
 ジュリと別れたアンバーはどんな気持ちなのだろう。今更になってそんなことを考え、それはアンバーの望んだことなのだから口出しするべきではないと思い直す。
「ああ、おいしそうな匂いがする。もしかして、パーティーの準備?」
 アンバーはくんくんと匂いを嗅ぐ仕草を取り、訊ねる。
 少年の様なその表情に安堵した。
「バレちゃった? うん。デラと二人で頑張ったんだ。気に入ってくれたら嬉しいな」
 どうせアンバーはキッチンで食事を取りたがる。そう主張したデラと一緒にキッチンを飾り付けてある。
 観念してアンバーをキッチンに通せば、少年の様な表情が輝く。
「わーぉ……すごいね。二人ともありがとう」
 城には不釣り合いな安っぽい飾り付けになってしまったとは思うのに、アンバーは嬉しそうな様子を見せる。
「すごい! 風船まである! 僕これ大好き」
 用意したダニエルたちを想ってだけではないのだろう。子供のようにはしゃいで見せるアンバーに胸の奥が熱くなった。
「今日は僕の誕生日かな?」
「そうだね。新しいアンバーの誕生日だ」
 そう答えれば思わずと言ったようなにやけ顔を見せられる。
 こんな表情も出来たのか。
 いつもはいいところの出であることがわかるようなな表情が多いせいで、新たなアンバーのなにからなにまで新鮮に感じられてしまう。
「やっぱりダニー、君って、サイコーだよ」
 ハイタッチしようとしたアンバーに、上手く反応できずタイミングを逃してしまう。
「僕、浮かれすぎだった?」
「ううん。アンバーがあまりに喜んでいるから、感動で泣きそうになっちゃっただけ」
 声変わり期の少年みたいなアンバーが、悩みから解放されたのかはまだ判断できない。
 それでも、今は浮かれてくれているだけでいい。もう、彼の思い詰めた表情を見たくはない。
「改めて、おかえり。アンバー」
「うん。ただいま。やっぱり家族が待ってる家はいいね」
 心からの笑みを見せられた。
 ――。
 アンバーがそう表現した中に、ダニエルも含まれている。
 ただそれだけで、途方もない喜びと安心に包まれた。
 単純。
 こんなにも単純だから詐欺になど遭うのだ。そんな考えが過ってしまった。
 それでも、今はただこの喜びに浸ることにした。
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