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シャロン2 不器用な人 2
しおりを挟む体がとても怠い。
けれども少し騒がしい。
起き上がりたいけれど、瞼が重くて開けることさえ億劫だ。もう少しこのままでいようかと悩んでしまう。
「熱が下がらない。早くなんとかしろ」
殿下の声が響いた。彼はとても焦っている様子だ。けれどももう少し声を抑えて欲しい。大きな声が頭に響く。
「無茶を言わないでください。休息以外に方法はありません。そもそも殿下が無茶をしなければこんなに高熱を出すこともなかったのですよ」
あの殿下に噛みつくように言い返せるのは一体誰だろう。聞き覚えのないとても気の強そうな女性の声だ。
「シャロンが苦しんでいるだろう。さっさと熱を下げろ」
どうやらシャロンは熱を出してしまったらしい。それも殿下が慌てる程度には高い熱のようだ。
瞼が重い。
彼を落ち着かせるなにかを言わなくてはいけないのに、口を開くことさえも億劫だ。
シャロンは瞼を持ち上げることさえ諦めて、耳に入る音へ意識を傾けた。
「シャロン、大丈夫だ。すぐになんとかさせるからな」
とても心配するような声。
ああ、普段は見せてくれない、彼の不器用な優しさだ。
強く手を握られている。その温もりを嬉しく感じてしまう。
けれども。
どうして、彼の方が不安そうなのだろう。
「殿下、あまり大声を出してはシャロン様が休めません。今必要なのは休息です。ご理解頂けたら今すぐ黙って部屋を出て下さい」
「ここは俺の部屋だぞ」
殿下の抗議が聞こえる。彼は今日も苛立っている。
「そもそもシャロン様に無理をさせたのは殿下でしょう。保護の名目で婚約解消されたくなければさっさと黙って部屋から出て下さい」
その女性は厳しい声で言い返し、殿下の詰まるような声が聞こえる。どうやら彼女の方が立場が上らしい。
「……わかった。出て行く。だが、熱は下げてやれ。それと……なにかあったらすぐに呼べ。隣の部屋に居る」
不満そうな声と気配が遠のいていく。
あの殿下が折れるなんてと驚くと同時に、また抗えない強い眠気に襲われる。
「シャロン様、今は熱を出し切ってしまった方がよいでしょう。そのまま、ゆっくりおやすみ下さい」
女性の声が和らぎ、優しく頭を撫でられる。
誰なのだろう。
けれども、とても優しい手つきでどこか懐かしい感覚に思える。
「……はい……お母様……」
この優しい手はきっとお母様の……。
そう感じた頃には、再び深い眠りへ落ちていった。
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