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番外編

偶然の再会

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めっきり冷え込んできた週末の夜。
 私、笹森未散は帰宅する人でごった返す駅の新幹線乗り場の改札で出張帰りの柊さんを待っております。

「土産買ってくるから、いい子で待ってな」

といわれ、「子供じゃないんですけど……」とむくれるも、内心お土産が楽しみでウキウキです。

 なんせ柊さん舌が肥えてるし、センスいいから買ってきてくれるものにハズレが無いんだよね。なんだろな~、お菓子かな~、それともご飯のお供かな~

 いやいや、これでは柊さんよりお土産を待っているみたいじゃないの。それではいけないわ。ここはひとつ、
「柊さん、寂しかった!!」
とでも言って抱きついてみたり?実際寂しかったのは事実だし……でも朝方までアニメのDVD見ちゃったり夕飯は近所の肉屋のタイムセールで50円だったコロッケ2個で済ませちゃったりして、わりと一人を満喫してましたなんて言ったら柊さん悲しむかな……

「……もしかして横家さん?」

 ぐるぐる考えている最中にいきなり名を呼ばれ、ビクッとして声のした方を見ると、スーツを着た私より目線が10センチくらい高い同世代の男性がこちらを見ていた。

 ……ん?この人、どこかで会ったこと……
 あっ!!
「吉野君!?」
「あ、覚えててくれた。よかったー!誰ですかとか言われたら立ち直れないところだったよ」

と、彼は爽やかな笑顔を向ける。

 彼は中学の時の同級生の吉野詠二よしのえいじ君。
 スポーツマンでわりとクラスでは目立つタイプの人で、仲が良かったわけではないけど何度か同じ班になったこともあった。そんな吉野君とまさかこんなところで遭遇するとは。
「久しぶりだね。横家さんもこっちに出てきてたんだ」
「うん、大学からこっちなの。なかなか地元に帰れないんだけど……中学の時の皆と連絡取ってる?」
「たまにね。同級会も何回かあったよ。連絡行かなかった?」

 ど、同級会か……。何度か母経由で連絡が来たけど、面倒くさかったり帰省するお金がなかったり、服買うお金がなかったりして一度も参加していない……

「う、うん、なかなか予定が合わなくて。皆変わりなかった?」
「うーん、変わりないと言えばそうなんだけど、結婚した奴もいるし離婚した奴もいるよ」
「えーー、そうなんだ……て言って私ももう結婚してるんだけど……」
「えっ!!」

 なんだかすごく予想外だったらしく、吉野君は目を見開き私を凝視した。
「横家さん結婚したの!?いつ!?」
「今年だからまだ日が浅いんだけど……」
「うわーー、あの横家さんも既に人妻かあーー……」
「……『あの』って何、『あの』って」

 なんだろう、私中学の時何かやらかしたっけ?わりと目立ってないつもりでいたんだけど……

「いやいや、横家さんて目立ってないようで意外なところで目立っちゃう存在って言うのかなあ……。俺が覚えてるのは技術の授業でノコギリの使い方が上手いって先生に褒められてたところとか、皆がちょっと恐れてた奴に普通に接してたりとか」
「ああ……ノコギリはよく使ってたんだよね。本棚自分で作ってたから。恐れてた……ってあの子かな……見た目派手だったけど別に意識してなかったというか……」
「ほら、そういうとこ。見た目とかは普通で目立たないんだけど、さらっとすごいことしちゃう、みたいな。そういえば教室に入ってきたでかい蜂を、皆が逃げ惑う中横家さんが近付いて行って下敷きで叩き落とした時はびっくりしたわ……」

 本人でも忘れていた事を……なぜ覚えているの吉野君……

「よ、よく覚えてるね……吉野君。吉野君は結婚とか……」
「あはっ、ないない。俺今営業であちこち飛び回っててさ。家に帰るのなんて月の半分にも満たないんだよ。こんなんじゃとてもじゃないけど考えられない。……と、横家さん待ち合わせ?」
「うん。旦那さんが出張から帰ってくるから、ここで待ち合わせてるの」

 ふと電光掲示板を見れば、柊さんが乗っていたであろう新幹線は既に到着済みだった。

「もうすぐかな」
「しかし……横家さん綺麗になったねー。これも旦那さんのお陰とか?」

 吉野君がニヤニヤしながら、ゾロゾロとホームから流れてくる人波に視線を送る。

「綺麗かどうかはさておき、……まぁ、そうなのかなぁ……」

 ちょっと照れるけど、素直に答えた。

「うわっ。ノロケ」
「吉野くんが言ったんでしょーが」
「旦那さんってどんな人?」
「うーん……三つ年上で背が高くて、……全体的にちょっと異次元な感じの人」
「は?」

 吉野君が眉間にシワを寄せた。と、その時改札を通過する柊さんが私の視界に入った。

「来た来た。柊さん!!」

 私が手を挙げると、柊さんが私に気付いたようで表情が緩んだ。が、一瞬隣にいる吉野君に視線をやると「?」と困惑した様子で私を見る。

「ただいま。……未散、こちらの方は……」
「偶然遭遇した中学の時の同級生の吉野君です。吉野君、こちらうちの……おっ、夫の柊さんです」

 夫。と紹介することに慣れていなくて、若干噛んだ。すると柊さんは納得したようで、

「そうでしたか。はじめまして、笹森柊といいます」

とにっこり微笑み吉野君に挨拶をした。そんな柊さんを見て、吉野君は一瞬ぽかんとしていたが、ハッと我に返り改めて柊さんをまじまじと眺めた。

「こちらこそはじめまして。吉野詠二といいます。……いや、横家さんの言った通り……だね」
「……ね」
「横家さんすげぇな。やるなぁ」

 私達の会話が何だか解らず、柊さんが首を傾げた。
 すると吉野君が電光掲示板の時計を見て「やべ、行かなきゃ」と持っていた荷物を肩に掛けなおした。

「じゃあ、俺はこれで。横家さん会えてよかった。また機会があれば同級会で会おう」
「うん、声かけてくれてありがとう。仕事頑張ってね」

 爽やかに手を振りながら、吉野君は改札を通り抜け人混みの中に消えていった。その姿を見届けながら、柊さんがポツリと呟いた。

「……同級生かぁ、しかも地元じゃないのに。こんな偶然もあるもんだな」
「そうなんですよ、びっくりしちゃって。あ、柊さんお帰りなさい。出張どうでした?」
「ああ、仕事はそれなりに。で、これが土産」

と私の目の前に紙袋を差し出した。

「わーい!ありがとうございます。なんだろう、食べ物ですか?」
「家に帰ったら開けてみな。……さっきの同級生は未散の初恋の男?」

 歩き出した柊さんがいきなり変なことを言い出した。

「は、はぁっ!?違いますよっ。なんでそうなるんですか」
「未散楽しそうだったから。それになかなか爽やかでいい感じの男だったし」
「確かに爽やかでいい人ですけど、好きとかではないですよ。ちょっと……中学時代を思い出して少しだけテンションが上がったんです」
「ふぅん」
「あ、もしかして柊さん妬きました?」

 もしかしてやきもち妬いてるのかなと、柊さんの顔を覗き見てみる。

「はぁ? 妬くかよ」
「なーんだ。妬いたのかと思ったのに……」

と、少しだけ口を尖らせてみた。

「なーに言ってんだ。俺よりもお前の方が妬かないだろ。どうせ今回の出張だってこれ幸いと夜中までアニメ見たりしてたんだろ」
「……柊さん、部屋にカメラつけてます?」

 柊さんは私の行動が読めるようになったらしい。


 家に到着してからお土産を開けてみたら、色とりどりの可愛いマカロンが入っていた。

「うわ~~~!! 可愛い~~!!」
「女の子は好きだろ、マカロン。売り場でも『どれにしようー!』て前にいた女子が悩んでて、買うのに時間かかったよ。でもお陰でどれが人気あるのかわかったけど」

 柊さんは笑いながらスーツを脱ぎ始めた。

 ……あ、そうだった。忘れてた

 おもむろに立ち上がり、Yシャツを脱いでTシャツだけになった柊さんの背中に抱きついた。するとさすがに驚いたのか、柊さんが振り返った。

「ん?どうした?」
「おっ……お帰りなさい。寂しかった……です」

 当初考えていた台詞と若干異なるが、なんとか言えた。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。でも、たまには私から……

「なんだ未散。珍しいなー」
「わっ!」

 直ぐ様柊さんに抱き締め返された。

「お前あんまりベタベタしたがらないからなぁ。もしかして一人を満喫して申し訳ないとか思っちゃった?」
「うっ」

 柊さん……あなたは何故いつも私の心を読む……

「かわいいよ、未散」

 柊さんが私の首筋に唇を当てて囁いた。

「……もう、柊さんてば……」
「今晩は朝まで離さないから」
「う……お、お手柔らかに……」

 因みにもう一つのお土産は、私が好きなアニメキャラクターのご当地ストラップでした。これも結構嬉しかったりして。
 やっぱり柊さんのお土産は外れがないなぁ。
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