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第0機動小隊、結成!

一体全体何のよう?

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*◇*◇*◇*◇


 ———かくして、サイドポーツの大会は、ケイ達のチームの大逆転勝利で終わりを告げた。
 そのチームが歓喜に包まれる中、ケイは1人呼び出しを食らってしまったのだった。


「一体何のようなんだ……呼び出されたのは僕だけなのか……?」

 指定された場所へ赴くまでの長い廊下を、ケイは独り言をぶつぶつ呟きながら早歩きで進み続ける。

 ここは王城、その地下より王城内部へとつながる連絡通路である。
 


「しかしこんな時間にわざわざ呼び出して、本当に何のようなんだよ……」

 ここは地下なので見えはしないのだが、日は既に暮れ、王城は夜の暗闇に染まりつつあった。
 そんな中での呼び出し。ケイが異様に思うのも仕方がない。

「……あ」

 独り言を呟きながら歩いたためであろうか、ケイが気付いた時には既に目的地に到着していた。

 そのままケイは、木造の重い扉をのっそりと押し開ける。


「……あれは———誰だ?」

 だがしかしそのまま中に入る訳ではなく、ケイは少しばかり開いた扉の隙間より中を覗き見る。

 中にいたのは———魔族と人間のハーフ『亜人』の少女……魔族———ドワーフの少年……かと思ったら普通の人間……などなど、10人ほどの人だかりが何グループかに分かれて談笑を続けていた。


 もはや魔族との戦争は終わり、西大陸西部の『魔界』に住んでいた魔族らは『難民』として人界に受け入れられていたため、人間の中に魔族が紛れる、だなんて異様な光景も既に異常とは感じなくなっていた。



 ———が、その中でも(ケイにとって)一際異彩を放つ人物が1人。

「あれ……ブラン選手……かな……」

 そう、本日戦った敵チームのエース、ブランがその人だかりの中に見えたのである。

 ———しかし、まあケイはそんなことをあまり気には留めなかった。
 その人だかりの中にて(ブラン含め)誰も一緒に話せそうな人がいなかったから、である。

「し……失礼……します……」

 扉の隙間よりその声が響いた瞬間、ほんの一瞬だけ場が静まり、そしてまた談笑が継続された。

 同時にケイは、やはりこの場に自分の居場所がないと再認識し、ささっと部屋の隅の方に移動して1人うつむき始める。

 よくよく見てみると、その部屋はなかなかに広かった。

 橙色の床に敷かれた真紅のカーペットは、部屋の中央に佇む巨大な階段へと伸びており、その階段もY字型に分かれ両脇2階のバルコニーへと繋がっており……と、このような豪華な内装全てが1つの部屋に入ってしまうくらいには広い部屋だったのである。

 ———そんな部屋の隅で1人。

 誰とも話すことができず、自らの存在証明すら叶わぬ少年はただ1人、部屋の隅でその人だかりをじっと見つめていたのである。

 すると。

「静粛にっ!」

 突如雷鳴の如き威圧感を放つ女の声が、部屋全体に響き渡る。

 恐る恐るケイがその目を向けた先———2階の奥の部屋からの出口の影からその姿を表したのは、顔以外を黒の甲冑に身を包んだ、緑髪の女性であった。



「呼び出された者は全員集まったか、ではこれより点呼をとる!」

 その女性———騎士は、歩きながらそのように勇ましく発する。そしてそのまま続くように、おそらくこの場にいる者の名前であろうものが読み上げられる。


「~~……ブラン・カーリー!」
「はっ、はい!」

 ……その名前だけは聞き覚えがあったので、自然と耳に入ってきたが……点呼って、一体今から何をされるんだろう。

とどろきせん!」
「……はい」

 今のヘンな名前の構成……とどろき……せん……とか言ってたけど、おそらくあの人は日ノ國の人だろうか、確か『苗字』と『名前』の2つから名前が成ってるんじゃなかったっけ……


「……くいな!」
「はい……」

 今の名前を呼ばれた亜人の少女も、どことなくヘンな名前の作りだったな……

「ヤンス!」
「はい!……でヤンス」

 その語尾は絶対に付けないといけないのか……?! というより今の名前なのか?!




「ケイ・チェインズ!」




 …………あれ?
 僕、呼ばれた?

「ケイ・チェインズ、ケイ・チェインズ!」
「はっ、はいぃいっ!」

 人だかりの中から少しばかりの嘲笑ちょうしょうがこぼれ落ちる。

「……ケイ・チェインズ、の話はきちんと聞くように」


 ———上官?

「分かったな、チェインズ?」
「……っあ、はいっ!」

 上官……上官の……って、ヘンな表現だな、上官……上の位の人……って意味なのかな。
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