上 下
8 / 237
第0機動小隊、結成!

ホンモノの『アホ』

しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆◆◆


 

「ではこれより、第0機動小隊部隊結成式を行う!」
 
 そうして、部隊結成式が始まってしまった。
 僕たちは特に何もなく、ただ立って話を聞いていればいいだけ……なのだ。

 そう、突如僕たちの前に現れた、例の黒い甲冑に身を包んだ女騎士の話を。

「まずは自己紹介といこう……私の名前はライ。ライ・チャールストン。

 最上位の近衛騎士このえきし———近衛騎士団長でありながら、第1王都近衛騎士機動小隊所属のサイドツー乗りでもある。

 本計画にあたっては、貴様ら第0機動小隊の教官も務めることとなる。よろしく頼む」

 ……まさか教官だったとは。
 そんな教官が、つい昨日『お前らは私たちの奴隷だ』などと口にしたという事実には目を瞑ろうと思う。

「次、部隊長と副隊長の紹介だ。2人、出てこい!」

 そうして次に僕たちの前に出てきたのは、あの少女———リコと、もう1人の知らない少年だった。

「……トドロキセンです、部隊長を務めさせていただきます。……気軽に、セン隊長とお呼びください」
 
 すごい。

 その少年———セン隊長の話し方と言い、立ち振る舞いと言い、どこか僕と同年代とは思い難い何かがあった。

 こんな場においても妙に落ち着いている、きっとこのような場にも慣れているのだろうが……どこか既視感がある。



「……というわけで、貴様らの小隊の隊長を務める、センだ。……コイツはこの小隊の中で唯一、魔王軍前線で生身で戦ったことのある『勇者』出身だ。よって、戦闘経験の差などから即隊長に抜擢させてもらった。

 ……おまけに魔王軍幹部の討伐経験まで持ち合わせている。素晴らしい働きを期待しているぞ」



 勇者。
 たった今、教官が口にした言葉だが、言葉通りの意味の使い方ではない。

 30年前より始まり、今よりたった4ヶ月前に終結した魔王軍戦争。
 その戦争に、生身で兵士として赴いた魔術師や刀剣使いの事を『勇者』と呼んでいた……はずだ。

 ……ますますすごいなあ、あの年で生身で戦っていたんだ、信じられない。



「はいはーい! 次は私、リコ・プランク副隊長ですっ! 副隊長、副隊長になりました! よろしくお願いします!」

 ……っと、リコの方はそんな緊張感など微塵も感じさせない自己紹介だ、とても副隊長とは思えない。


「このアホ……失礼、とても威勢のいい子が貴様らの副隊長、リコだ。……見ての通りアホ……とても元気だが、部隊の統率力は高いだろうとのことで選抜させてもらった。………………本当にそうかは疑問が残るところだが」

 もうだめだ、教官ですら『アホ』と言わしめるやべーやつだった。僕はあんな奴とつるんで行く羽目に……!


「ふっふーっ、このリコ、じつは統率力に関しては自信があるのだーっ!……統率力だけは、だけど」

「……頼むからそれ以上発言はするな、貴様のアホ度と私の選抜ミスが浮き彫りになる」

 ついに教官に発言を止められたよ……!

「———それでは気を取り直して、次は人界王陛下のありがたきお言葉だ、言伝としてなので読むのは私だが、各自しかと噛み締めて聞くが良い」

 ……というか、僕はそんな長い話聞けるタイプじゃないんだけど、

「———えー、秋の到来が待ち遠しくあり、未だに蒸し暑さが残るこの頃ですが~~」







 出だしは手紙みたいだ~などと思いつつボーッとしながら聞いていると———いつの間にか終わっていた。
 寝ていたのだろうか、本当に一瞬で話が終わったかのような感覚だった。

「ケイ君、ケイくん? ケ~イく~んっ!」
「……はぅ!」

 情けない声と共に戻る意識。
 寝ていたわけではなかったが、どうやら完全に放心状態だったらしい。

「はーよかった、立ち往生しちゃったかと思った」

 既に周りには第0機動小隊のメンバーも、教官も誰一人としておらず、僕の目に映ったのはリコの元気な笑顔のみであった。

「……ごめん、完全に話聞いてなかった……」

「とりあえず、もうすぐシュミレーション訓練始まるから急いで!……もう、戦場でそんなことされちゃ困っちゃうよ~!」

 ———今の言葉でハッとした。
 そうだ、こんなに……多少気楽ではあるけど、僕が向かうのは戦場なんだ。

 戦うのが誰なのかも分からない、『機神』を破壊する、ということ以外、何をするのかも分かっちゃいない。

 それでも僕の向かうところは戦場で、一瞬の隙も油断も許されはしないのだ。

 ———それで、この子はその事についてちゃんと分かっているんだ。

 ……この子がリーダーに選ばれた理由が、少しばかり分かった気がする。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

侯爵家執事 セバスチャンの日常

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:19

羊の皮を被っただけで

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:220

不機嫌なサンタさん

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

たもっちゃんは帰りたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...