上 下
24 / 237
屍山血河〜王都防衛戦〜

葛藤———断切

しおりを挟む
『コールサインは『コーラス』の後に自機ナンバーだ!……コールナンバーをまだ把握していない者は、レーダーに表示されてる自機マーカーから自機のナンバーを確認しておけ!』


 覚えている。7番だ、僕は。
 呼ばれる時は『コーラス7』で呼ばれるのだろうか。初めてだから本当にその認識で合っているのか不安になる。

『味方機のコールサインも同様だ。コーラスの後に味方機のナンバーを付けて呼べ!』

 そう言いつつも、既に教官は着地しており、もうすぐにでも敵を迎撃するための準備を済ませていた。

『コーラス1、2は私と同じく前衛だ、できる限り前で食い止めるぞ。コーラス3~10は右翼、残りの者は左翼で討伐を行え。……全機散開、鶴翼かくよく陣展開っ!』

 その教官の合図に合わせ、サイドツーの群れは1機、また1機と分離していく。……僕はコーラス7、つまり右翼防衛だ……!


「やってやる……やってやるぞ……っ!」
 
 初めて銃なんて構えた。反動制御とかはっきり言って何も分かりはしないが、今はただ眼前にて押し寄せるばかりの敵———神話的生命体を殺すのみだ。

「おあああああっ!!!!」

 操縦桿のボタンを人差し指で押し、トリガーを引いた瞬間、目の前の敵が血しぶきを上げて完全に静止する。

 そのまま撃ち続けると、勝手に突っ込んでくる敵は全て銃の餌食にされ、その鋼鉄を貫かれて即死する。

 ヤツらの身体機能がどうなっているかは知らない。だけど、正面からでも撃ち続けていれば殺せることだけは確かなんだ。

『……こちらコーラス6、右翼……っ、誰か……来てくれ、数が多すぎる……!』


 無線にて突如聞こえた、掠れ気味の声。

 もう突破されそうなのか……!
 コーラス6は……あった、僕の左斜め前方だ。
 行くしかないと思い、すぐさまスラスターを吹かす———と。

『コーラス7! 勝手に持ち場を離れるな!』

 銃声に紛れて聞こえる教官の声。
 ……でも、それはおかしいと反論せざるを得なかった。


 
「助けを必要としています、誰かが行くべきです!」

『……馬鹿か、自らの使命も果たせんようなヤツなぞ、切り捨てて当然! 貴様は自分のことだけに集中しろ!』

「この僕に見捨てられると思ってるんですか?!」

『見捨てなきゃならないんだ、勝手に行くんじゃない!』



「———そう言われて、仲間の窮地きゅうちを切り捨てられるわけがないだろう……!」

 もはや命令違反と言われても構わない。
 それでも、すぐ近くに———手の届く範囲に、困っている人がいるのだから、手を伸ばさないわけがない。



『コーラス7……あの大馬鹿者が……っ、右翼各機カバーに回れ、そっちの馬鹿が独断専行し始めたぞ!』



 見下ろした6番機は———まずい、もう既に囲まれている……!
「コイツでどうだぁぁぁぁあっ!」

 リロードはしてないけど、それでもひたすら撃ちまくる。もちろんすぐに弾は切れるが……

「ならば———長刀で!」

 銃を背面のガンマウントに置き、同じく背面から長刀を取り出す。長刀が『装備武装』の一覧に入った瞬間、タイムラグを無くすために右腕の操縦桿がドッと重くなる。

 ……関係ない、腕がはち切れてもここでやるしかないんだ!

『コーラス7、お前なのか!』

 そんな声にも耳は傾けない。
 長刀を振り下ろしながら、クイックブーストを利用して、攻撃した瞬間に後退するのを繰り返す。

 推進剤の減りは速くなるが、一番効果的な戦い方はコレだろう!

「死ねえぇぇぇえっ!!!!」

 接近し、斬り落として、一瞬のうちに前にブーストして後退する。
 僅か数瞬の攻防、しかしここまで順調だ。

「コーラス6! 体勢は———」

『ああ、アンタのおかげで持ち直した、本当にありがとう!』

「もうそっちは任せてもいい?」

『自分の持ち場に戻ってやってくれ、本当に感謝している!』

 
 自分の方に戻ろう、…………終了後に命令違反でこっぴどく叱られるな、こりゃ。
しおりを挟む

処理中です...