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屍山血河〜王都防衛戦〜

終われない理由(ワケ)

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『コーラス7、4時方向より光線、来るぞ!』
「———え」

 死んだ。
 今度こそ多分死んだ。

 既によけ続けてる3つの光線、そして僕を挟むようにして4時方向より迫るもう1つの神力光線。

 死んだ、多分、死ぬかも。


「っ、終われない、終わらない! ここまで来たのに———希望が見えたのに、終わってたまるかぁぁぁぁあっ!!」

 スラスターを前面に吹かし、勢いを全て殺して後退する。

「例え推進剤がなくとも———!」

 後退した瞬間、左脚部と右腕部のみが光線の照射をモロに食らう。

「使い物に———ならないとしても———っ!!!!」

 残った武器は長刀のみ。欠損した右腕部とは対称的に、満身創痍ながらも今なお健在である左腕部にて長刀を構える。

「僕は無力だ……無力だ、無力だ、無力だ! でも……そんな僕にも、こんな姿でも、誰かの命を救えるのなら———!」

 クイックブーストを背面にかけ、全速力でヤツ———Ξ標的の下へと突撃する。

「この大地から……この大陸から……僕たちの住処から、この世界から———出てけぇぇぇぇぇぇえっ!!!!」

 一度その巨体を切り付け、切り付けた瞬間後退し、またクイックブーストで勢いよく前進し、切り付ける作業の繰り返し。
 しかし画面には、Ξ標的の徐々に後退する姿が映っていた。

「僕の……僕の仲間を、仲間だったモノを返せぇぇぇぇえっ!

 例え短時間だとしても、話してすらいなかったとしても、それらは僕の仲間だった、戦友だった、だから———だからだから、僕の仲間を———っ、返せぇぇぇぇぇぇぇえっ!!!!」

 Ξ標的の正面の装甲がズタズタに砕け始める、確実に効いてる……!


『推進剤、残量低下。推進剤残量低下、自動出力低下モード移行』

 響いたのは無機質な女の機械音声。
 推進剤の出力低下———まずい、今僕はヤツの標的にされている、今推進剤が切れたら———!




「ちくしょう……こんなところで、こんなところで……ぇっ!」

 なんとか空中で機体を捻り、姿勢制御で光線を掻い潜る———が、次来たら終わりだ、もうここで———終わる。



「———、ぐっ、ふう……!」

 推進力を無くしたサイドツーは、そのまま地上まで真っ逆さま。
 地表と激突した際の衝撃が、サイドツーの脚を通してユニットコンテナ内にも充満する。

「まだ……だ、まだ……立って、みせる……!」

 左腕部の長刀を杖代わりにし、満身創痍ながらも、片脚で立ち上がってみせる。

『コーラス7、離れられるか?! アンチバレルの発射準備は整った、Ξ標的2機は確実に発射軌道線に並んだ、じきに発射されるから、君は退避し…………え』

 隊長もようやく理解したのか。
 今の僕が、どれほどの窮地に立たされているのか、と言うことに。




『———そこにいたら……巻き込まれるぞ』
「……でも、そっち……には、もどれません……し」

『推進剤はどうした……!』
「残量……低下、自動出力低下モード……とか言ってました、もう…………使えは、しません」

『ユニットコンテナ脱出装置は?!……とにかく、何がなんでもそこから生き延びて———』

「脱出装置も…………ダメです、落下時の衝撃で……ユニットコンテナ自体がひしゃげてます」



 既にユニットコンテナ内の画面やら何やらには、そのありとあらゆるところにノイズがかかっていた。

 今こうして聞いている隊長の声もノイズに塗れており、まさに雑音と大差のない音だった。




『———そこで待ってろ、今僕が———』

 消した。

 自分で回線を切ってみせた。

 死ぬ間際まで聞く最後の声が、そんな雑音だなんてごめんだからだ。


「———ああ……こうして思うと……しにたくは、ない……なあ」
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