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Side-1:希望と贖いの旅々(後)

殺し殺して殺し哀

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『お……おい、遂に来やがったぞ……!』
『サイドツー……でも、トゥルースの野郎じゃねえし……じゃあアイツらは誰なんだよっ!』

 何やら外が騒がしい。僕の名前も聞こえてきたし、サイドツーなんて単語も聞こえてきた。

「……トゥルースさん?……どうなされたのですか? 確かに外は騒がしそうですけれども……」

「ごめんなさい、報酬を受け取っている時間はないみたいです」

「えっ、はっ……?」

「ちょっと外に出てきます。…………また、後で」

 何か怪しいことが起こっているのではないかと、外に向けて足を進める。ギルドの入口の押し戸を勢いよく開き、閉めもしないまま外の様子を伺う。

 木造の住宅、売店……それらが集う大通り。
 その正面に立つ、巨大な人影は———、

「サイド、ツー……また、人界軍か……っ!」

 今度は10機で、この町にズケズケと入り込んでくる。何が狙いだ、やはり税金と称した不当な集金か……?!


『この町の依頼を受けている、サイドツー使いを探しに来た!
 出しなぁ、いるんだろう?! 後は金だ、俺たちに金をよこしやがれ! 税金徴収の時間だぜっ!』

 サイドツーは牽制と言わんばかりに地面に向けて銃を放つ。が、その銃弾に当たって倒れる人影だって見えたし、ライフルから落ちた薬莢に当たって押しつぶされる人影だって見えた。

 ……また、またなのか。なんで殺す必要がある、なんでサイドツーを持ち出す必要があるんだ……!

◆◇◆◇◆◇◆◇

『搭乗ライセンス承———』
「ボードランサー起動シーケンス省略、サイドツー、発進っ!」

 もはや一刻を争う事態だった。
 ヤツらにとっては、もはや人を殺すことを何とも思っちゃいない。
 その気になればヤツらはここら一帯をサイドツーで侵略することだって可能だ。

 いくら魔術が使えるとは言え、サイドツーにそれが効くかと言われると———そんなわけはない。

 サイドツーの力は人が思うより強大だ、下手な魔法使いなら、対峙した瞬間に銃弾に貫かれて死ぬ。……そのくらいには、サイドツーというのは強い兵器なんだ。

 そんなものを悪用する人間を、これ以上野放しにはできない……っ!

「そこから離れろ、それ以上被害を広げるなあっ!」

 スラスターを吹いて飛び上がった上空。そこから眺める町の眺め。

 ……しかし、住宅、売店、至る所にサイドツーの銃痕と思しき黒ずみが浮いていた。


「やり……やがったな、このやろぉぉぉぉぉおっ!」

 サイドツー用ライフル。それらを2丁構え、スラスターを吹かし移動しながら撃ち続ける。

『出てきやがったな、その機体はやはり……!』
「それ以上喋ってみろ、お前らが痛い目を見ることになるぞっ!」

 1機、3機、6機…………敵サイドツーが順々に飛び上がる。
 瞬間、僕の視界を舞うは無数の銃弾の雨。

「おぉぉぉぉぉぉおっ…………!」

 怯みはしない。僕は第0機動小隊の一員だったんだ。
 僕はみんなの中から選ばれて、そして今まで生き残ってきたんだ。
 こんなところで死ぬほど、僕は弱いヤツなんかじゃないっ!

「前!……今だ、行くしかない!」

 前から来る銃弾の風。しかし怯んでしまえばお終いだ、だからこそむしろ前に突き出て、敵の狙いを錯乱させる!

『小賢しい!』
『さっさと死ね、人殺し!』
『ほらほらぁ、避けてみろよぉっ!』
『そんなに前に出てきちゃって、ホントに大丈夫なのぉ?』

 うるさい。僕に何も言うな。

「んっ!」

 まずは1機。そのライフルの銃身を撃って、銃そのものを使い物にならなくする。

「お前も、お前も、同じだあっ!」

 2機、3機、4機。
 1機1機、冷静に狙いを定めて、冷静に無力化していく。

「ん……っぐ、うわあっ!」

 サイドツー、腰部に直撃。
 幸い駆動系、及び腰部の上にある魔力機関にダメージはなかったが、明らかに動きが鈍くなった……!

「くっそ、弾切れもか……っ!」

 直後に銃がその音を止ます。弾切れだ、別の弾倉に入れ替える余裕———そんなものは、今この状況下には無いに等しい!

「ならば、長刀でえっ!」

 残り敵機、6機。
 全てを長刀で捌く———やってみせる。
 どうせリコほどの敵はいない、今の僕ならば絶対にできる……!

 スラスター全速力。勢いよく、静止も効かないまま、2機の直線上のサイドツーの腰部を斬り落とす。

『ぅ嘘だろぉっ?!』
『なんで……こんなヤツにぃっ!』

 動きを止めちゃダメだ、捕捉されて蜂の巣にされる。
 どれだけ軌道が読まれようと、偏差を計算して銃を放てるサイドツー使いなんて存在しない……!

 ならばと機体の向きを緩やかに変え、旋回して飛行、そのまま敵機に一直線。

『く……来るな、来るな来るなぁっ! がぁっ!』

 そのまま左腕に持った長刀を敵機の肩の付け根に狙い投擲し、長刀はライフルを持った左腕の二の腕部分に命中。

 体制の崩れたその機体を踏み台にし、長刀を抜きながら思いっきり蹴り倒して方向転換を図る。

 空中に弧を描くサイドツー。未だ銃弾が飛び交う中、2機1組で銃弾を撃ち続ける敵機の方向に向けて飛行できるように、その方向と反対にスラスターを噴射する。

「当てられるものなら……!」

 真正面から放たれる銃弾。その内4つが機体に擦れ、機体に穴を穿つ。
 ディスプレイに出る損害報告、しかし進むことはやめない。

『まっまずい……!』
『ちゃんとスラスター狙って撃ったの、ねえ! きゃあっ!』

 左の1機に向かって蹴りを入れ、踏み台にしながら右の1機の左腕———ライフルを持つ方の腕を斜めに斬り落とす。

『そんな機動ができてたまるか……っ!』

 並んだ2機の影に、最後の1機が来るように跳んだため、敵は撃ってはこれないはずだ。
 このまま、この2機を盾にすれば———!



「え———」

 鳴り響いた銃声。しかし、それは間近に非ず。

『なっ……!』
『カイエン、貴様ぁ……っ!』

 

 僕は。
 その時、『カイエン』と呼ばれた最後の1機が何をしでかしたか。

 そんなことなんて、容易に分かってしまったからこそ、その場から逃げるようにスラスターを吹かした。


「お……お、お…………まえ……!」


 最後の1機はどこに向けて銃を放ったか。
 それはここだ。間違いなくここだ。僕のいる、この地点。

 ———なんて、そんな僕の浅い考えを貫くように、ヤツは撃ってみせた。

 そして、終わった。目の前で、2人2機の人生は終わった。

 僕を殺すために。おそらく、機体の爆発に僕を巻き込むつもりだったんだ。



 そんなことのために。



 人を、殺してみせたのか。


『はーーーっ、使えねえな、どいつもこいつも……

 何で死んでくれねえんだ、テメェが一番邪魔なのによ……っ!』


「…………おま、お前……味方、を……撃ったのか?」

 住宅を盾にしながら。大声で話せるサイドツースピーカーで、その敵機に呼びかける。

『撃ったさ、お前を殺すために』



 やりや、がった。
 やりやがったな、この野郎……っ!

「おまえええええええっっっっ!!!!」

 スラスターを吹かそうと、どれだけ走ろうと構わない。僕はアイツが許せない。その場から動くには、それだけの理由で十分だった。

「弱い……っ、くせにぃっ!」

 敵機に接近して、その手脚を斬り落とすまで、数秒もかからなかった。

「何で、何で何で何でだよ、どうして殺す必要があった、何で殺されなきゃいけなかった、意味はあるのか、意味もないのに殺したのか、貴様はあっ!」

 手脚をもがれ、もはや何もできなくなった敵機にまたがり、問答を始める。

「そんなに僕が殺したかったか?! 他人を殺してまで、そんなに、そんなに僕が殺したかったのかって聞いてるんだよ!」

『……』

「弱いくせに……戦場に出ないで、王都で守ってることしかしたことないくせに、だからそんな卑怯な真似を———!」


 何度も、何度も。殺すつもりで、殺す勢いで、そのサイドツーの腰部駆動系に向かって長刀を刺し続ける。

 羽をもがれた蝶を、さらにいたぶるように。

『死んだんだろ、だったらソイツらには意味なんてなかったんだよ、きっとなぁ!

 なあ、そうだろ、そうなんだろ、ケイ・チェイ———』

「黙れえええええええええええええっっっっっっっっっっっっ!!!!!!」

 ついに。

 ついに、ついに。
 ユニットコンテナに、長刀を突き刺した。


「黙れっ、黙れっ、黙れっ! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ、黙れえっ!!!!」

 何度も。噛み締めるように言い続け、長刀を刺し続け。





「はあ、はあ……っ、っはぁ、は……っ……!」




 動かなくなった機体から、そっと長刀を抜いた時。



 その長刀には、血と肉塊と、ぐちゃぐちゃになった指と、その指にはめ込まれていたであろう歪んだ指輪と。

 そして、家族で仲睦まじそうにしているはずだった写真が、血濡れのままこびり付いていた。

 よく分かったさ。何せそれしか、目を引くものはなくて。
 それしか、僕の心を抉る武器はなかったのだから。



「は…………っ、は…………っ、ああ……っ…………!



 …………うぅ……うぅうう、うっ……はぅ…………うぁぁあ、あっ、あっ…………ああ、


 ぁあ」
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