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Side-2:第一次真珠海作戦(前)

サイドツー・カスタムシリーズ

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『もう1つ伝えなければならないこと、それは———この作戦内において、一部の人界軍サイドツーパイロットは、新たな機能を搭載したサイドツー……すなわち、サイドツー・カスタムシリーズに搭乗することになっている!』

 サイドツー……カスタムシリーズ?? ヴェンデッタ、ベーゼンドルファーなどのエンジェルビースト型サイドツーとは違う種類……?

 ……そう言えばさっき、しれっと『サイドツー・カスタムノインツェーン群』だか何だか言ってたし、多分ソレらに連なる機体のことだろうか。

 しかし『ノインツェーン』か……量産を前提とした試作量産機だろうか?

 ……もしくはヴェンデッタと同じくエンジェルビースト型の1つ……ヴェンデッタを試作機と捉えた、ベーゼンドルファーの量産機……だったりして。


『このサイドツーカスタムシリーズが提供されたのは、貴様ら第0機動小隊と一部の精鋭パイロットのみである。

 ……全10種ほどあるが、機体の特徴ごとにそれぞれ番号が振られている。……そう、10以上の、何らかの特徴を持った試作機体が、一斉に実戦投入されると言うワケだ。

 ヒノカグツチどころか、サイドツーの運用試験ということでもあるらしいな、この作戦は。

 この第0機動小隊に支給された機体ならば、今からでも教えよう。……と言うか、貴様らも移動時間は暇だろうから、私の話を聞かせてやるとも』

 ……ああ、こうやって気を紛らせてくれようとしてくれてる……のか……?

『最初にコーラス1、センの乗るカスタムアイン。スラスターなどを使わずに浮遊できるシステム……フロートマジニック機関もどき……とやらが試験的に組み込まれている機体だそうだ。

 次に私の乗るカスタムツヴァイ。改修前のヴェンデッタ1号機を忠実に再現した機体だ、操作性は劣るものの素晴らしい出来に仕上がっているとも……!』


 何でカスタムツヴァイの説明の時だけあんなに楽しそうなんだろう。

 自分の乗る機体だから、つい気持ちが昂ってしまう———って、レイさんってそんなサイドツーにこだわり持つ人だったっけ?


『次はカスタムドライ———この番号が割り振られているのは、コーラス2、リコの乗るヴェンデッタ———1号機改め、『ヴェンデッタ・ネオ』だ。……まあ、説明はいいだろう』

 省かないでほしかったなあ……。私の機体なのに。
 ヴェンデッタ2号機は封印中だけど、その2号機とコンセプトを共有した、改修型ヴェンデッタ。

 ……なんだかんだあって、機動性重視になってたり、前のΞ標的が使ってた神力光線———ソレを魔力で再現した武装も付いてる……とか、色々言えることあるじゃん!

『次にカスタムフィア……コイツは今封印中だ、つまりはヴェンデッタ2号機改修型のことだ。

 カスタムフュンフ……は第0機動小隊以外が乗るから飛ばすとして、カスタムゼクス!
 コイツはコーラス12、秀徳の機体だ。4本のサブアームによる6基同時射撃……なんて事が可能になってる機体だ。

 次はカスタムジーベン。コレはコーラス10、ニンナの機体だ。
 この機体は、巨大なサブアームを前面に押し出すことにより、防護性の増した高硬度魔力障壁を展開できる機体だ。

 ……この作戦に一番似合う機体とも言えよう。なお、この機体とフュンフは既に量産され、別の番号を振られて他部隊にも支給されている。人界軍も手際の早いことだ。


 次は特殊な機体で、カスタムアハト。
 コイツは———コーラス3、ヤンスの機体だが……ベーゼンドルファーと同じく、鹵獲した神話的生命体、Λラムダ標的の肉を素体に建造された、エンジェルビーストサイドツーだ。

 AACIC新型OSは搭載されていないから、機体によるパイロット侵食の可能性は極めて低いものとなっている。ベーゼンドルファーのように、起動だけで負荷がかからないだけマシだとも。


 次も特殊で、カスタムノイン。
 コーラス4、くいな専用機体だ。

 くいなは獣人でもあり、イレギュラーとして戦えるポテンシャルも秘めていることから、この機体は獣のように戦うための工夫がいくつも凝らされている。

 まず、素体なしのAACIC新型OS搭載であること。そして、機体の随所の可動関節が特殊なものになっている。まさに獣の如く戦うことのできる機体設計がなされているとも言えよう。


 第0機動小隊の者が乗るサイドツー・カスタムシリーズの説明は以上だ。暇つぶしにはなっただろう。……まあ、まだ大穴の島には着いてはいないがな』

 終わった……長かったなあ、ライさんの座学ぐらい長かった。

 ……でも、意外と興味深い話だったから意外と聞き入った。ライさんの話すサイドツーの話は、どれも知ってるものばっかだったから、気付いたらよだれ垂らして寝てたけど。

 気を紛らわす……ためでもあったんだろうけど、元から私には必要なかったな、そんなの。





 ……かくして、私たちを乗せたヒノカグツチ・零式は、『世界の中心』たる大穴の島へと移動を開始した。

 ……そして。

「ひ~ま~だ~……」

 暇になった。
 話もない、任務もない、外出許可も降りてない。

 せめてこの艦の中を見せてもらうだけでも……とは思ったが、どうやらそれは無理な要件らしい。

 もちろんニンナに繋いだって、話すことなんて何もない。秀徳は相変わらず機嫌を悪くしたままだし、なんかもう……ね……

「寝る……寝るか、寝よう、そうだ寝よう! 寝ていいよね、ヴェンデッタ?」

 聞いて何が返ってこようとやることは決まっていた。だって暇だし、もう寝る以外することないでしょ。

 ただ———この背中の針、付けてなきゃダメですか?


◆◇◆◇◆◇◆◇



「カ~~~ヒュルヒュルヒュル」

 喉の奥で、そんな音が鳴っている気がする。
 薄めた水のように朧げな意識の中で私は、その声の皆支配されていた。


「カ~~~ヒュルヒュルヒュル」

 どうせ自分にしか聞こえていないし、わざわざ起きてこの声を止めるだとかどうだとか、とにかくそんなことすらもめんどくさかった。寝てる時ってそんなもんだろう。

「カ~~~ヒュルヒ———」
『うるさいぞ、コーラス2! ヴェンデッタの中でいびきなんて……全部オープンチャンネルで丸聞こえだ!』

「うひぃ———すっ、すみません、教官っ!」

 あーなるほど。つまり私は寝ていて……いつから寝たかなんて分からないけどとりあえず寝てて、いつの間にか目的地に着いていた、と。

 オープンチャンネルが勝手に開いているのもそのせいか。



『……では、もうじきで本艦は、大穴の島へと上陸する。

 上陸直後、サイドツー機動部隊は速やかに格納庫より発進、各自の持ち場にて待機だ。当分は戦闘は起こらないだろうから安心しろ………………発艦だ!』




『サイドツー・カスタムアイン、出ます!』

 開く格納庫の扉。ランプの点滅に合わせて、前にいるセン隊長の機体から順に発進していく。

「サイドツー・カスタム……なんだっけ、ヴェンデッタ・ネオ、出ます!」

 ヒノカグツチ———その機体の滑走路を走り、ジャンプ台から、サイドツーは空高く飛び立つ。

「おぉ~」

 足場が切れた直後、真下に見えた光景は絶景だった。

 大穴の島。1000年前の大戦争『終末戦争』終結の地にして、最も生命体の血が流されたとも言われている、最悪の島。

 もはやその島に自然と呼べるものは何一つなかった。全く生えていない草木、禿げた岩肌、地下深くまで伸びる、地面の———星の『裂け目』。

 そして———2つの巨大なクレーターに、そのクレーターの左下の方にポカンと空いている、暗黒の穴。

 ……アレが、大穴。世界の中心、終末戦争をも左右した代物が眠っている……と呼ばれている場所だ。

 まあ、今回そんな場所には興味はない。

『サイドツー・カスタムアイン、着陸!』
「ヴェンデッタ・ネオ、着陸!」

 横並びに着陸するサイドツー部隊。その中にいるとは言っても、横目に見るだけで壮大だった。
 
「武装は———長刀4本、腕部に装備されたのは大盾に長刀———豊富だなあ、流石にこんな大規模戦闘なんだから、このくらい振る舞ってくれないとおかしいか」

 いくら人智を超えた機体、ヴェンデッタとも言えど、結局のところはサイドツーだ。戦い方はフツーのサイドツーと一緒だし、ホントに何も変わらない。

「しっかし……ヴェンデッタ、初めての実戦かぁ……前回還元作戦の時は何もできなかったから、今回は頑張ろうね、ヴェンデッタ!」

 ……返事はない。言っても意味はないのは分かってるけれども、もしこのヴェンデッタに意思があるというのなら、この声が伝わっていると嬉しいな……とか思ってみたり。

 ———ああ、愛着があるんだな、私。
 元からサイドツーは好きだったけれど———でも、この機体はなんか特別って言うか……いや、機体の成り立ち的に特別ではあるんだけど、やっぱり特別なんだ。
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