上 下
163 / 237
第一次真珠海作戦(後)

Side-〃:来襲ノ黒閃

しおりを挟む
『———っ、ベーゼンドルファー、移動を開始! ここに一直線……って……?!』

 隊長機の通信より響くコックさんの声。レーダーには一切映ってはいないが、モニターで確認すれば、その機影にはすぐに気付いた。

「えっ、うそうそうそ、もしかしてここに来ちゃうのぉ?!」

 何で?! 私なんか狙われるような事したかなあ?!

『コーラス2、狙われているのは君だ!……注意を引きつけろ、その間に僕が———Cキャノンで貫くっ!』

「了解っ! 何とか耐えてみせますっ!」

 一直線に———ライフルで狙われる、なんて心配などまるで知らないかのように、その赤黒い機影は迫り来る。

「やってやろうじゃんかあっ!」

 対するヴェンデッタの残りの武装は長刀たったの3本。いやあ、私がそうしろって指示したんだけど、今考えるとちょっと武装少なすぎる気もしなくもないかなぁ……っ!



 ゴッ!

 ……鈍い音が、鉄の軋む音と共に奏でられる。
 長刀を使おうと、コイツ相手には無力だと言うことはすでに分かっている……ならば、軽く攻撃をいなし続けるのみだ……!

『ヴェンデッタ……ヴェンデッタ、ヴェンデッタ、ヴェンデッタァァァァァァアッ!!!!』

「急、にっ、何……なの……っ!」

 何度も何度も激突する。幾度となく弾け合い、幾度となく突進し退け合う。

 だが、これだけ何度もぶつかれば仕込みは十分だ。


『ヴェンデッタ、ヴェンデッ…………ッッ!』

 敵の動きが徐々に鈍り始める……そりゃあそうよね、だって私の長刀には、あらかじめ魔力を伝導させておいたんだから!

 何度も何度も、釣られるように激突したのが運の尽き。私の氷魔術が、敵機の素体そのものを蝕む……!

「……隊長、今ですっ!」
『了解、よくやった!』

 空中にて停止し、その動きを鈍らせるベーゼンドルファー。
 ———が、その停止した躯体を、Cキャノンの概念弾が貫いた。




 ……かのように思えたが。

『直前で防がれた……! いいやでも、腕1本持って行っただけでも……!』

 撃ち出された概念弾を、ヤツは左腕の巨腕を生贄に受け止める。……が、ベーゼンドルファーの左腕は既にその肉が見えるまでに抉り取られている、これで少しは勝機が…………え。

『おい、まさか……そんなの嘘……だろ……?』
『セン様、アレは———間違いありません、確実に———再生しています!』





 蒸気を立てつつも、空中に浮遊し停止していたベーゼンドルファー。
 ヤツが次に取った行動は、己の損傷した左腕を氷で満たすことだった。

 次の瞬間、割れた氷の中より出たのは、元のように2本の腕が絡まり合った、1本の巨腕。


 ……なんてこった。
 再生されちゃった。


「打つ手……なし……じゃん、あんなの!……再生とか、ヴェンデッタでもしなかったってのに……どこまでもズルい……っ!」

『ヴェンデッタ…………殺す、殺す、殺して……やるぅ……!
 全部、全部、ゼンブ……俺の邪魔をするヤツは、ゼンブ殺してやる、そう決めたんだ……!

 ベーゼンドルファーは復讐の道具だ、これこそ俺の、俺だけの、俺のための復讐なんだ……!』

 …………やっぱり。
 それを話してるのは、ブランなんだね。

 復讐、殺す、自分のための復讐、そればっかり———、



 鏡でも見てるような気分だ。
しおりを挟む

処理中です...