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禍根未だ途切れず

執着

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◆◇◆◇◆◇◆◇

「フィールド設定……平野、武装設定標準、敵設定…………神話的生命体、現存全確認種、真珠海作戦模倣状態、搭乗機体……サイドツーmark.2……これでいい、か」

 真っ白の空間に全てが組み上がってゆく。偽物の空、偽物の敵、偽物の機体。

「ブラン、AACIC OSもなしでいいよね?」
『あ…………ああ、ホントにやるのか?……たった2人で、この数の敵を倒すなんて……』

「………………やるよ。それくらいできないと、準備は完璧とは言えない。

 ……コンバット・オープン!」

 叫んだ瞬間、眼前に一瞬にして、敵の大群が形成される。
 神話的生命体…………それらをデータ上で再現したものだ。あの赤いヤツ、白いヤツ、Ξ標的……3種完璧に再現されている。

 ……そしてそれらは、形成されるやいなや、すぐに動き始める。

「ブラン、コールサインは、僕がコーラス1で君がコーラス2だ、分かったな?!」
『わかっ……分かったなって、お前一体どうして……っ!』

 武装は長刀2本に、サイドツー用ライフル2丁のみ。弾薬はまあまああるが、この数を倒し切るのには全部使ってもまだ足りない。

「2機連携を忘れるな、即死に繋がるぞ!」
『お前……やっぱり何かおかしいぞ、そんなヤツじゃなかったろうぉあぁっ!』

 敵は物量。ただ1体だけなら余裕で倒せるこいつらも、ここまで数が多いと話が違ってくる。……だから、僕たちはここまで苦戦してきたんだ。

「コーラス2、右からも来てる! 左は僕がやる、交代しながらやる!」
『ああ……サポート、ありがとう』

 いくらAACIC新型OSではないとはいえ、元々のサイドツーの操縦桿がある程度人体に関連した形体をとっているからこそ、意外と何の違和感もなく攻撃が取れる。

 ライフルはほとんど使わない、長刀のみで斬って斬って斬りまくる。

「———っああっ、やられた!」

 ……が、気を取られた一瞬にして左腕が持っていかれる。そのままブースターを用いて距離を取ろうとしたが、飛び上がった瞬間———、

「…………っあ」

 あっけなく、僕の機体は神力光線に貫かれ、撃墜されてしまった。

『クソ、あっちはもう死んだのか……よっ!』

 ブランは1人戦っているが、時間の問題だ。
 それよりも…………だ。

「…………呆気ない、あまりにも……こんなんじゃ、ヴェンデッタに乗ったって……!」

 無力。いくらシュミレーターの中とはいえ、現実ならばこれで終わり、ここまで頑張ってきた全てがチャラになる。

 ……あまりの無力、ヴェンデッタ抜きにした自分の実力のなさを痛感する。

『うああああっ、ぐっ……クソぉっ……』

 あっちも負けた。あの物量相手にたった2機は、あまりにも無謀すぎる。
 ……でも。


「ブラン、もう1回だ、もう1回行って———っ!」

 ガコン、と、高い金属音が背後で響く。シュミレーターのドアが開いた音だ。

「…………なあ、ケイ」

 振り向いたそこには、ブランが虚しい表情をして立っていた。

「お前———どうした?……本当にどうしちまったんだ、俺が見てきたお前の中で、今が一番おかしいぞ……?」

「おかしいもクソもないでしょ、僕たちは———これほどまでに無謀な作戦に放り込まれる……だから、これぐらい、2人で突破できるようになっとかなきゃいけないんだ、それにリコだって———!」

「…………でも、お前はそんなヤツじゃなかった……確かに戦闘中、お前の口調が変わるのは何度も見てきたがなぁ……でも、あそこまで変わるなんて……そりゃなんかおかしいだろ!」
「おかしくなんかないっ! 僕たちには時間がない、今すぐにでもシミュレーターに戻って……!」

『は~いはいそこでおしまいっ!』

 言い合いの中、突如入り込んだ女の声———ブランのすぐ後ろにて、腰に手を置き、突っ張ったまま立っていたのはリコだった。

「……リコ」
 
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