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Side-2:最悪の敵
現状確認
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それから少し後。
空に浮かび、その背より天に向かって、巨大な透明の光の翼を広げ始めたヴェンデッタ・シンは、未だに空中にて停止したままであった。
特に動きがあるわけでもなく、人界軍司令部の見立てによれば、中にパイロットがいないのではないか、とまで言われたほどだった。
その頃……第0機動小隊、寮舎———サイドツー格納庫。未だに、リコとセンは出撃してはいなかった。
*◇*◇*◇*◇
「……ま~だなんですかぁ?! もう待ちくたびれましたよ、私!!」
『まだ何も言われていないだろう、整備班からなんの連絡もないということは、まだ換装作業中ということだ。
いくら接続穴があるとはいえ、そもそも現場換装装備なんて、人界軍装備としては初めての試みだ。そんなにすぐにできるものじゃない』
「……まだかぁ……」
『行きたい気持ちは十分に分かる、が、もうしばらくの辛抱だ。
幸い、あちらのヴェンデッタに動きはない。……まあ、なにもないかと言われるとありはするんだが、今の所ヤツは空中で停止したままだ。
とりあえず今ばかりは、気長に待とうじゃないか』
「……でも、一体どうしたんでしょうね、ケイは」
『彼女なんだから、君が一番知っているものかと思っていたよ。……まさか、最近話せていないのか?
確かにケイは拘束された、とは聞いていたが、一度くらい会いに行ったりはしていないのか? ブランのやつは会いに行ったと聞いていたのだが……』
「そりゃー……行きましたよ? 話そうとしましたよ? でも……ブランと話してるとこ、聞いちゃったんですよ……」
……そう、ブランがケイのところに直接赴いて、直接何があったのか聞いていたのは知っていた。
本来は私がやるべき話なのに、ブランにやらせて申し訳ないとも思っているし、自分の手で何があったのか聞き出すことができなかったのも、自責に至るまでの経路だった。
ただ、それでも。もう私は、どうして『そうなったのか』という経緯を聞くことはできないと思っていた。
なぜならば。
「ケイがですね、ブランに言ってたんですよ。もう、『私のことを好きなんかじゃない』って、話しているのを。
ブランはそれを、私には言ってくれなかった……ブランなりの気遣いだし、それは嬉しいんだけど……………私ってばそれ、聞いちゃったからなぁ……」
返答はない。無言のまま、数刻の時間がすぎる。
気まずいといえば気まずかったのだろう。だけどもう私は、なにも言う気は起きなかった。
何より……おそらく、多分だけど、『フラれた』という事実に、私自身が納得できていなかったと思うから。
『そう、か……』
ようやく口を開いたセン隊長の声は、労いともとれるような穏やかさに満ちていた。
『……今から、行く……ヴェンデッタのもとに行くとは思うんだが……話せるのか。
そんなことがあってなお、君は———ケイと対峙する気に、なれるのか?』
「いやあ~……もう、いいんです。諦める結末になってしまうかもしれないなあって。もし本当にそうならば、多分聞くべきじゃないんだろうな、って。
もし本当にケイのことを思うんだったら……私に彼を救うことができないのならば、そこを聞いて、わざわざ辛いことを思い出させるようなことはしたくないなあって思うんです。
……だから、敵として出会ったのなら。もし、私が彼を、救えないなんてことになったのなら、必ず。
必ず、殺すつもりで戦います。……大丈夫です、できますよ、私と———ヴェンデッタならば」
『……本当に、いいのか?』
「もちろん、ケイは救ってあげたいです。何がケイをそうさせてしまったのかはわからないけれど、チャンスがあるのならば、できる限りがんばります。
ただ、ダメだと判断したときは———お願いします」
『辛い…………判断だろうに』
「いやあ、わたしってばこんな時に判断を下すのは一瞬なんで、その辺は元クーデター部隊、伊達じゃない! ってとこですよね!
…………ああ、笑えないや」
空に浮かび、その背より天に向かって、巨大な透明の光の翼を広げ始めたヴェンデッタ・シンは、未だに空中にて停止したままであった。
特に動きがあるわけでもなく、人界軍司令部の見立てによれば、中にパイロットがいないのではないか、とまで言われたほどだった。
その頃……第0機動小隊、寮舎———サイドツー格納庫。未だに、リコとセンは出撃してはいなかった。
*◇*◇*◇*◇
「……ま~だなんですかぁ?! もう待ちくたびれましたよ、私!!」
『まだ何も言われていないだろう、整備班からなんの連絡もないということは、まだ換装作業中ということだ。
いくら接続穴があるとはいえ、そもそも現場換装装備なんて、人界軍装備としては初めての試みだ。そんなにすぐにできるものじゃない』
「……まだかぁ……」
『行きたい気持ちは十分に分かる、が、もうしばらくの辛抱だ。
幸い、あちらのヴェンデッタに動きはない。……まあ、なにもないかと言われるとありはするんだが、今の所ヤツは空中で停止したままだ。
とりあえず今ばかりは、気長に待とうじゃないか』
「……でも、一体どうしたんでしょうね、ケイは」
『彼女なんだから、君が一番知っているものかと思っていたよ。……まさか、最近話せていないのか?
確かにケイは拘束された、とは聞いていたが、一度くらい会いに行ったりはしていないのか? ブランのやつは会いに行ったと聞いていたのだが……』
「そりゃー……行きましたよ? 話そうとしましたよ? でも……ブランと話してるとこ、聞いちゃったんですよ……」
……そう、ブランがケイのところに直接赴いて、直接何があったのか聞いていたのは知っていた。
本来は私がやるべき話なのに、ブランにやらせて申し訳ないとも思っているし、自分の手で何があったのか聞き出すことができなかったのも、自責に至るまでの経路だった。
ただ、それでも。もう私は、どうして『そうなったのか』という経緯を聞くことはできないと思っていた。
なぜならば。
「ケイがですね、ブランに言ってたんですよ。もう、『私のことを好きなんかじゃない』って、話しているのを。
ブランはそれを、私には言ってくれなかった……ブランなりの気遣いだし、それは嬉しいんだけど……………私ってばそれ、聞いちゃったからなぁ……」
返答はない。無言のまま、数刻の時間がすぎる。
気まずいといえば気まずかったのだろう。だけどもう私は、なにも言う気は起きなかった。
何より……おそらく、多分だけど、『フラれた』という事実に、私自身が納得できていなかったと思うから。
『そう、か……』
ようやく口を開いたセン隊長の声は、労いともとれるような穏やかさに満ちていた。
『……今から、行く……ヴェンデッタのもとに行くとは思うんだが……話せるのか。
そんなことがあってなお、君は———ケイと対峙する気に、なれるのか?』
「いやあ~……もう、いいんです。諦める結末になってしまうかもしれないなあって。もし本当にそうならば、多分聞くべきじゃないんだろうな、って。
もし本当にケイのことを思うんだったら……私に彼を救うことができないのならば、そこを聞いて、わざわざ辛いことを思い出させるようなことはしたくないなあって思うんです。
……だから、敵として出会ったのなら。もし、私が彼を、救えないなんてことになったのなら、必ず。
必ず、殺すつもりで戦います。……大丈夫です、できますよ、私と———ヴェンデッタならば」
『……本当に、いいのか?』
「もちろん、ケイは救ってあげたいです。何がケイをそうさせてしまったのかはわからないけれど、チャンスがあるのならば、できる限りがんばります。
ただ、ダメだと判断したときは———お願いします」
『辛い…………判断だろうに』
「いやあ、わたしってばこんな時に判断を下すのは一瞬なんで、その辺は元クーデター部隊、伊達じゃない! ってとこですよね!
…………ああ、笑えないや」
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