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オペレーション・ヴェンデッタ・ゼロ

オペレーション・ヴェンデッタ・ゼロ

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『………………ケイ。

 君の答えは、今の演説とは違うものだろう?』



 ———復讐作戦、か。
 今まで、奪われてきたものを奪い返す為の、復讐のための作戦。


 きっと、その先は。
 オリュンポスと人類、互いが互いに殺し合う地獄だろう。



 でも、そんなものを、僕とトゥルースは望まない。

 僕達は分かり合った。共に分かり合い、そして一瞬のみ共存の道を模索した。


 ……殺さなくたって、排除しなくたって、共に生きていけるはずだ。……そう言えば、トランスフィールドのウルプスさんも同じことを言っていたっけ。



『そして納得できるところで『いいよ』と許せばいい。そんな簡単なことで、人間は分かり合えるはずなんだ』


 きっとコレは、人間じゃなくても同じだ。
 全ての命は、分かり合うことができる。共存だって、もちろんできる。
 もちろん、理解はできても共感はできないかもしれない。どうしても衝突してしまうかもしれない。

 それでも僕は、賭けてみたいんだ。


 その後の課題はそれから考えればいい、ただ今は———まず分かり合うこと、それしか僕たちにはないと、僕は思う。

 何より、今まで出会って来た人々———そして、今まで経験してきた僕の人生からは、そのような答えしか出はしなかった。



 それに僕は———誰も傷つかない結末を、求めたい。
 最初に口にしたわがままは、そんなチンケな夢物語で……それでも、ヴェンデッタは僕に来てくれた。



 様々な人々の、言葉が思い出される。
 それは時に怨嗟として。
 それは時に歓喜として。
 それは時に怒りとして。

『だから……生きてくれ。君は君だけの、幸せを見つけるべきだ』

『———だから、行ってきてやってください』

『———それでも、自分の想いを伝えて、理解して貰えば———分かり合えるはずですから』

『行ってらっしゃいませ、ケイさん!』
『……行って、らっしゃい』
『ああ、行ってこい!』


 今の僕の背中を押す、数々の人々の思い出。
 旅と、軍人としての生活と。
 その終局の始まりに、今僕は立っている。



 この———悲劇と、この戦争に区切りを付けるのは……僕たちだ。




「そうです。分かり合うことだって、一緒に共存することだって、できるというのなら、僕はその結末を求めます。

 今まで僕は———他人とわかり合って、そうやって生きてきましたから」



『そうか……

 ……だったら僕達は、あの作戦に参加するべきではない———そうは思わないか?』


「———それって……」

『多分、君の考えていることと同じだ。……僕達は僕達で、独自の作戦に出る。もちろん、作戦の全容は君に任せるけど……それでいいのかを、君に聞きたい』



「はい———むしろ、お願いします。
 僕だって———分かり合える道を目指したいです!」

『なら、君は戻るべきだろう。だから僕は君の手錠を外したんだ』




◇◇◇◇◇◇◇◇

 そうして。今はセン隊長に連れられながら、ひたすら長い廊下を歩きながら話している。

「……と言うことで、僕たち第0機動小隊は、オリュンポスとの調停を取り付ける為に裏で動く。……ことになる。

 その為に、君は何をするのか———具体的には、どのように動いてオリュンポス側の人間と『分かり合う』のかを考え、そしてみんなの前で発表してほしい」


「作戦の概要を、僕の方から説明しろと」

「その通り。……不安?」

 新しく支給された、赤と白の混ざった服を、歩きながらに羽織りながら、僕は隊長の顔を一心に見つめ続ける。


「…………そうか。賛同してくれるといい……けどね」


 そうこうしている間に僕たちは、すでに第0機動小隊のドアの前にまで来ていた。
 そのまま抜けたドアの先には———先程の放送を鎮座して聞いていたであろう、第0機動小隊の残りのメンバーが。

 ブラン、ヤンス、くいな、コックさん……その他諸々。


 ……もちろん、その中には———リコだって。


「は、ケイ!」

「……リコ、今だけは少し待ってほしい。

 大事な話が、あるんだ」



「…………とのこと、だが。僕たちは僕たち、第0機動小隊で、また別の作戦を実行することになった。……つまりこの作戦は、僕たちの独断だ。

 終了後にいかなる処分が下されようと、各々の責任は各々で取ることとする。

 異論がある者は、速やかに抜けてもらっても構わない」

 唐突に始まったセン隊長の説明。
 …………が、セン隊長のその言葉に手を挙げる者は誰一人としていなかった。

「…………そうか。ならば、作戦説明を———ケイ・チェインズに行ってもらう。この作戦の立案者は、ケイだから……頼んだよ」


 ———そうだ。みんなを説得するのは———僕だ。僕じゃなきゃ、ダメなんだ。

「はい、ケイ・チェインズです。……僕から命じることはただ一つ、敵を見つけても殺さないでほしい、と言うことだけです。

 先日の………………っ、内部内通者による、人界軍襲撃の際に、僕たちはあっち側……オリュンポスにも、人間がいることを知りました。

 オリュンポスにも人間がいること……それを決定づけることとなったのは、ブランやリコたちを襲った、あの黒い機体の主———僕の、でした。

 ……僕の本当の名前と同じ名前をしていて、僕より全てを見透かしたような口調で、僕と同じ一人称で、ただ……死にたくないから、生きていただけの……か弱い少女でした。

 最初はもちろん衝突しました。どうあっても分かり合えない、妹はそう考えていましたが、僕の説得は次第に効き、あの子は僕と話し合ってくれました。


 …………理解、できたんです。僕たちは、分かり合えたんです。


 だからこそ、オリュンポスの人間だったら、誰とでもとは言いません……けど、分かり合える道があると思います。

 共存を望む道もあると思います。……ゆくゆくは、機神とも。

 だからと言って、最初から機神と話をつけられるほど、人間は強くはありません。

 ……ですが、これから行く戦いは———あっちにとっても、最終決戦のはず。きっと、あっちの人類の中でもトップクラスのパイロットを、連れてくるんだと思います。

 だったら僕は、その人と分かり合います。腹を割って話し合って、そして共存の道を模索します。

 そしてゆくゆくは、オリュンポス全体との共存だって…………成し遂げます。



 だからこそ、これはその最初の一歩なんです。オリュンポスと人界軍、その調停を結ぶための———みんなが分かり合うための、一歩なんです。

 何より…………僕たちは、理不尽に彼らに奪われてきました。司令も言っていた通り、家族、友人、戦友……色んなものを、この戦争で失いました。

 でも、司令の言う通りに復讐するのであれば……それは僕たちも、やることは彼らと変わりません。

 理不尽に奪い、奪われるままでは……本当の解決には至らない。

 復讐に飲まれるのは簡単だけど…………そんなんじゃダメだって、気付いたんです。……皮肉なことに、自分がそうなってようやく……本当に気付けたんですけど。

 もちろん、そんな綺麗事を実現できるなんて、無理な話だと言うことは分かっています。……でも、信じてみたいんです。

 僕自身と、そしてヴェンデッタを。

 僕の妹のように、みんなが分かり合えると…………例え拒絶されようと、何度もすれ違おうと、『それでも』と口にするまでです。

 だからこそ、みんなには———相手が人間だと分かれば、殺してほしくはない……そう命じるだけです。

 後は、僕たちが何とかします…………できます、僕とヴェンデッタ・シンならば。

 ヴェンデッタは、正真正銘、本物の天使です。なので、そこのコックさんと同じく、人の心を読んだりする能力だってあるはずです。

 本気でやれば、分かり合うことだって……できるはずなんです。


 やっぱり……にも死んでほしくはない……けど、……ここにいるみんなには、生きて帰ってきてほしいです。

 こうは言ってるものの、やむを得ないとなれば……自分優先でお願いします。

 ……て、感じで……いいですよね」



 長話が終わった後。目を瞑って、まるで寝ているかのように微動だにしなかったブランが、突然発言しだす。

「———作戦名……とか、あるのか?」

 もはや、言わなくとも分かる。


「作戦名………………そうか、作戦名……あります。

 この作戦は、要は同じヴェンデッタ・シンでありながらも、オペレーション:ヴェンデッタの裏の顔。

 彼ら人界軍が目指す復讐とは真逆を行く、相互理解のための道筋です。

 だからこそ、僕はこの作戦に名前を付けます。いいえ、僕が、この作戦の名前を付けるんです。僕じゃないと、きっとダメだから……言います。






 オペレーション………………




 オペレーション・ヴェンデッタ・ゼロ。

 …………それが、この作戦の……名前です」
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