Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

Side-レイ: 業に刺す

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「———さて、来ないのですか?……私としては、いつと合流してもよろしいのですが」

 総帥、おそらくイデアが口にしていたヤツのことか。

 魔王軍幹部、ダークナイト———もとい、現在の名は刹那。一体なぜヤツがこんなところにいるのか、それと元魔王軍幹部のヘキも関係があるのか、ゴルゴダ機関は魔界にもスパイを送り込んでいたのか。

 むしろ今は関係ないことだ、ここでコイツを確実に葬れば済む話なのだから。 

「……ヤンス、魔力機関による領域中和を行ってちょうだい」

『隙を晒すことになるでヤンスよ?』

「それでもいいわ。私の読みが正しかったら、それで勝てるはず」

『リスクが高すぎないでヤンスか?』

「んもう、うるさいわね、男は黙って当たって砕けろでしょ———?!」

 本当にすぐそこ、1mくらいの至近距離にて響いた鈍い激突音。

 すかさずその音の方向を見た瞬間、私の身体は宙を舞った。というか蹴飛ばされた。

「んなあ……っ?!」



 その2秒後に続く爆発音と突風、まさかコレは———爆剣?
『おわあぁぁぁあっ?!』

 宙を舞った身体、動転した気概。

 ブレた視界を必死に補正し、ようやくマトモに視認したものを認識できるようになってきた頃。

 見えたのは黒い土煙、そして

 欠けた人体を横目にしてもなお、私の身体は天井近くを舞っており、真下にはあの男、ヘキがまさかの仁王立ち。

「どこまでも余裕ね……!」

 すぐさま姿勢を変えて攻撃に転じたいけど、何もしなければどうやっても壁への激突は必須。

 すかさず壁を蹴った反動を利用した攻撃を行う、だなんて思考も脳裏をよぎったが、そんなものではヤツに傷1つ付けられないことはとうの昔に分かりきったことだ。

 ならば1度体勢を整えるまでだ、ヤンス機が中破した以上、確認が取れるまではどこが損傷しているかも分からない、何ができるのかも分からずじまいだ。

「……当たったのは左腕、ですか……この私も、流石にコレの扱いには慣れてきた頃だとは思っていましたのに」

 それにヘキはさっき、『合流』などと口にしていた。……そんなことはさせない。サナちゃんや、くいなちゃんの障害になると言うのなら、この私が死ぬまで食らいついてどこまでも邪魔してやる。

「そろそろ大人しく抵抗をやめてもいいと思うのですが……」

 抵抗をやめる?
 ここで戦う事をやめる?
 そんな言葉に耳を貸す必要など……ない。
 考えるのは、思考を巡らすのは勝利にのみ。

「シュヴァルツェスアイゼン、憑依概念機構解放フルセット!」

 頭で考えなくとも、無意識に、吸い寄せられるように魔力が黒き剣へと向かう。

 黒騎士の剣、あのダークナイトをもってしても『強者』と言わせてみせた本物の強者の剣。
 白と戦って敗れはしたものの、その身体、その魂は未だ朽ち行かず。

「せめて時間さえ稼げれば……!」

 一歩、重く鈍い足を踏み出す。
 縦長の弧を描くように剣を振り下ろす、が、やはりどうやっても、その剣は男の脳天にて完全に静止してしまう。

「おや、いたんですねえ、全く気付きませんでしたよ」

「魔力探知についてはゴミみたいにヘッタクソなのに、煽りのセンスだけは成長したみたいね!」

「それはそれは光栄です、人を憤らせることには慣れておりますので」
「皮肉ってんのよぉっ!」
 
 薄ら笑いなんか浮かべて、本っ当に気持ち悪い……っ!

「……しかし、これではいつまで経っても戦闘が終わりませんね、ならば……」

 何をする気か分からない、妨害などできるかどうかも分からないが、とにかく必死に、がむしゃらに黒剣を振り続ける。

 一振り毎、あまりにも硬すぎるヘキの皮膚にて受け流される度に、剣と腕に重い感触と衝撃が伝わり響き続ける。

 狼狽える様子はない。この男は、私たちを無視しようと思えば先に進めるのだろう、こんなところで油を売らなくとも、目的を達成できるだけの実力がある。

 それでも、単なる興味本位でも私に構うのだとしたら……ならば、せめてサナたちの為にも、ここで時間稼ぎだけでもしてみせ———。


「魔力解放、刺突残照スパーク・アゲイン
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