今に取り憑かれた人々

宮浦透

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今に取り憑かれた人々

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 線の無いイヤホンを両耳に差し込み、七年前の曲を貪り尽くす。
 まるで七年前を生きた時のような、懐かしい気持ちが私を食べた。
 時代は常に最新を求めている。ネットは一人一人が目立つことができる故、時間の進みが多少現実世界より早い。そのネットは今、限りなく我々の生活と近すぎる存在になった。
 マフラーを付け、最新式のイヤホンを付け、ビルにぶら下がる電子ボードを眺める人々。目に入る冬の風物詩なんて、葉を落とした木と、マフラーくらいだった。
 今週の流行りはこの曲らしい。電子ボードが街をその曲で色付けた。しかし何故か、次の週にはもう違う曲が街を染めるのだ。
 「お前、まだ一ヶ月前の曲なんか聞いてんの?そんなの過去の話じゃん」
 人々の間をすり抜け目的地へと足を急ぐ中、そんな声が耳に飛び込む。昔を懐かしむ人は少なくなった。未来、未来へと、次から次へと、流行りは移り変わる。一時夢中になった物を吟味する人は限りなく減りつつあった。
 「そんなの過去だよ。過去」
 未来、薄っぺらい流行りに取り憑かれた人々は過去を見る事はなかった。一ヶ月前でこの言われようなら、きっと私は古人だ。
 七年前の追憶に耽る私は、恐らく今を受け入れられていない。小説、漫画、音楽、その時々の時代を作るものがあったが、どれもが抜け殻のようにしか見えなかった。結果、私は未だに七年前に取り憑かれている。
 こうしている間にも、オゾン層は破壊されていくし、地球は壊れていくし、流行りは過ぎ去っていく。
 流行りが進む速度が加速するほど、物事は早く飽和していく。しかしそれに焦りを感じる人は少ないようだった。
 街の中心部から少し離れた場所でも、冬を感じられる場所は無くなりつつある。目的地の公園のベンチに腰を下ろし、辺りを見渡す。真冬のなか、公園で遊ぶ子供を見れる事はもうなかった。私の目的は果たされなかった。
 これを時代と言えば仕方がないが、その時代がどこへ辿り着くのかが少し不安になる。
 きっと来週、もしかしたら明日にでも新たな流行が生まれているかもしれない。
 それでも私は、早すぎる流行に飲み込まれることはないと、立ち上がり家に足を進めた。
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