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龍乱の牙

8話:女は怖い

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「アリーいるかー」

魔物屋の扉を開ける。

「あら、坊やもうきたのね。朝は急に呼び出してごめんなさいね。準備はできてるわ。それ」

「ブーストナイフ」

アリーが話終わる前にドリムがナイフを投げる。今まで見たことのない速さだった。

「あんたが、あんたが私のおむらいつをダメにしたのね!」ドリムが怒っている。

「エンチャント フレイム アイス ブーストナイフ!」
火と氷を纏うナイフをアリーに向けて投げる。

「ドリム!やめろ!ロープショット」
俺が縄を飛ばし攻撃を防ごうとするが追いつかない。

「ツワイスティングスペース」アリーの前の空間がねじれナイフが床に落ちる。

「なっ」

ドリムが一瞬驚くがすぐに攻撃の構えをとる。

「雷刀」

俺が抑えようとするがそれよりも早くナイフから雷を放つ。

「マジックドレイン」

アリーの手が雷を吸収する。

「今だ!縄縛り」ドリムの体を縛る

「レイ!何するのよ!こいつのせいで私のおむらいつがダメになったのよ!食べ物の恨みは怖いんだから!」

まあそうなるよな。アリーもびっくりした顔をしている。

「坊や、この子はどうしたのかしら?おむらいつをダメにしたと言ってるけどもしかして朝の時かしら?そうしたら悪いことをしたわね。ドリムさんと言ったかしら。ごめんなさいね。何かお詫びするわ。」

アリーは大人だな、それに比べてドリムはまだ文句を言っている。
最終的には頬を膨らませて拗ねた。

「解除」

ドリムを縛っていたロープが解ける。

「ドリムも謝るんだぞ。いきなりナイフを投げて、当たったらどうするんだ?」
俺が叱るとドリムがうるうるし出す

「だっておむらいつがーおむらいつがーわーん」泣き出した。

「また作ってやるから機嫌直せって」

ドリムは落ち着くが右手にナイフを握りしめている。
俺は一応マウスロープを仕掛けておく。ナイフを投げようとした瞬間縛り上げる代物だ。

「坊や、気にしなくていいわよ。後今日の洞窟の件だけどこの娘がいるなら私はついていかなくても大丈夫よ。ついていかない方がこの子のためにも坊やのためにもなるわ。念のためにスキルシートを渡しておくわ。これは強力なスキルが込められているの。これはファイアブレスね。シートを破れば一回だけこのスキルが使えるわ。危なくなったら使うのよ。坊やに死なれたら困るのよ。」

アリーが来ないという現実から目を背けアリーからスキルシートを受け取る。

「ありがとう。ドリムが迷惑をかけたな。洞窟探索が終わったらまたくるよ」
俺はナイフを投げようとして縛られたドリムを担いで店を出る。
その瞬間

「リバースナイフ」

「「!?」」

ドリムの手にさっき刺さったナイフがアリーの頬をかすめドリムの手に戻る。
これは予想できなかったのかアリーも少し焦った顔をしている。

「ドリム!まだこんな奥の手を隠してたのか!」

ニヤニヤしていたドリムを俺が叱ると拗ねてしまった。
アリーと別れ少しすすんだところでドリムがおろして縄を解除する。
ドリムが膨れてまだ拗ねている。

「ドリム、お前が悪いんだぞ。いきなりナイフを投げるから。今回のことはちゃんと反省するんだぞ」

ドリムはまだ拗ねている。

「ずっと拗ねてるなら朝言ってたりんごまるはなしだからな」

アルカターレにはりんごまるという名物菓子があるらしい。
ドリム曰く甘くてちょうど良い酸っぱさで美味しいらしい。

「え!それはずるい!私はそれを楽しみに生きてるのに!」そんなに大事なのか。

「じゃあ拗ねるな。後いきなりナイフを投げるな」

ドリムは頬を膨らませて「わかったわよー」と言っている。

この調子だと俺は苦労するんだろうな、まあ頑張るか。ドリムが笑顔で「ここよ!」と指をさす。
大きい洋風のお建物にりんごの看板で目立っている。

「ここでりんごまるを食べましょう!」ドリムがりんごまるを買って俺に渡す。
「暑いうちに食べた方がいいわよ!」
俺は受け取ったりんごまるを一口食べる。
「うまいな。酸味と甘味のバランスがちょうどいい。加熱してあるのに食感が残ってる。カスタードにもりんごが入ってるのかこれはすごいな」
俺がいい反応をしたのを見てドリムがニコニコしている。
さっきのことは忘れたのだろうか?
「これを食べたら宿に一回戻って準備をして洞窟に向かうぞ」
「りょうかーい!」
口にクリームをつけたドリムが可愛らしく返事をする。

王の眠る部屋にて
「なあグログス、龍乱の牙がついに動き出したな。だが俺たちは戦ってはいけないんだ。若いものが世界を救うんだ。あいつも言ってただろう。俺達が助けすぎると強くなれないんだ。今回は仕方ないが次からは見守るだけにするぞ。レイ達はガルダンテに向かわせる。他の召喚者とも交流しておくのも大切だからな。グログス、お前はゆっくり休めよ。」

「チャルク様、そろそろお時間です」

「ああ、わかったよ。今回は残念だった。俺も助けに行きたかったがイルドが現れてね。少し苦戦したよ。流石に歳かな。君も頑張るんだよ。家族を、国を守るために」

「ありがたきお言葉」

「じゃあレイ達には来週向かうように連絡してくれ。大会もあるからいい刺激になるはずだ。刻印を守るためにも頑張ってもらわないと。ところで君、レイにあのことは言ったのかい?」

「言ってないです。多分ですが王も言ってないと思われます」

「そうか、まだ言わなくていいだろう。いつかわかるさ。あの力の秘密、そしてこの世界になぜオロチや白虎などのこの世界にいないはずの伝説の怪物が存在するのか」
チャルクは笑みを浮かべ剣を振るう。
兵士が瞬きをした瞬間。チャルクはいなかった。
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