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16 ダンジョンの風紀を正すべく
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午前0時、校長室の戸をノックする音が響いた。
資料にあった宝という宝はそこにある。前回の冒険で持ち帰った装備を手に取りながら厳選、吟味、妄想していたプラチナ髪の校長は、今やってきたゲストに微笑んだ。
グラスに注がれていくのは友好を認めた儀式やパフォーマンスなのだろうか、短剣の切先から滴っていく魔力で生み出した特別な水はそのゲストへと提供された。
「ほぉこんな夜分にダンジョンへ志願とは? よかろう。ならば次の彼との冒険はキミに、いやキミたち二人に行ってもらおうかな?」
いつものように眼帯をした校長は、生徒の個人情報の載っているマル秘の紙ぺらに目を通す。同時に宙をさまよっていた赤い学習帳を捕まえ、机上に置いた資料とを交互に見る。次の冒険へと向かうであろう彼女らに見合う妄想の装備を、さっそく探しビルドしていく。
便利な魔法の学習帳、その白紙のページに条件に見合うop効果のついた装備をソートしリストアップ。
その厳選行為が鼻歌を口ずさむほどに楽しいのか、校長はるんるんと明るく唄い一人、つぶやいている。
椅子に座らされたゲストの登別海は、水のグラスを手持ち。机上で考え作業する不黒文校長へと、さっき受け取った承諾の言葉に対しておくれて頷いた。
「そう、わかったわ。ふたり? 小角部長のこと」
「ふっふ候補者の中からパーティー間の人選バランスを毎回考えるのも楽じゃないものでな。私もよく知るキミたち風紀委員……部のっ、二人とピネスくんならば、かなりいいバランスが取れそうだと思わないか? 私はそう思うのだが?」
「バランス、そうね。彼と部長で小一時間遊んだかぎりは、特に諍いはなく……そうかもしれないわ。うん、光角部長には私から話をつけておくわ。それより校長、他の生徒は? ダンジョンって、この人員をスカウトしにきた赤表紙の資料によると、油断できない攻撃能力を有するモンスターが迷宮構造内を徘徊し蔓延っているところよ。私はその人数で遊んでも別にいいのだけど、ルール上なにか少人数じゃないといけないの?」
「あぁさすがの成績ALL4の秀才、一歩ひいた素晴らしき着眼点だ。見逃せない痛いところをついてくれるな? ふふ、だが登別その点についてはな。ちょっと長話になるが用意はいいか? いくぞ……」
⬜︎タコイカ学習帳
❶緒方はこのところ何やら念仏を唱えながら、苦行のようにおにぎりを握りつづけている。おにぎりの味や食感、握り加減、塩加減にもばらつきが見られる。しばらく新作も出ていない、いつものアレンジチャレンジ精神はどこへやらだ。
ふふふ……異能【冷蔵庫】はめちゃベンリ!
❷榎田椎名は現在魔力が減り続ける謎の茸と、魔力が増え続ける謎の茸を同時に食してしまい──ダウン。満ちたり引いたりを繰り返し、ひどくうなされていて、昨日の夜やっと容体が落ち着いてきたところだ。だがダンジョンに自生するきのこに関しての彼女の研究、探究心はその素晴らしき成果をすぐに出したのは記憶に新しいところだろ。こちらとしても、少々腹を痛めようと命懸けの趣味であるソレをやめさせる訳にもいかないだろう。ふっふ。
異能【きのこレーダー】は、まだまだ謎だらけだな。
❸サンチュは意味もなくグラウンドを走り周回している。普段は光ある元気の塊みたいな生徒だが、少し背負い込むタイプでもある、休ませたい。闇のモンスターを祓った光の異能に関しても個人的に気になるところだ。
異能【手がちょっとどころではなく光る!】 聖なる光属性の僧侶が序盤の仲間にいるとは運がいい!
❹木浪は見せてもらった異能がまだ安定とまではいかない。魔力は自然回復するが、あの引き寄せの異能は頭の方を結構使うようだからな。使いすぎて熱され、鼻血でも出されたら心配事だ。焦らずとも今後もっと修練を積みやってくれるくれる事だろう。クールダウンさせながら大事に育てていきたい。
❺サーガの異能は薬草への理解度upというよりは、茶道の所作でお茶を点てる部分が能力か? 調合能力、私はそう見ているが……詳しくは分からん。回復薬は貴重だ、検証を進めたい。
▼黙秘会話ログ128
⬜︎
「ということで現在100の万全の状態で、次の冒険へと貸し出し可能な生徒は────いない。いるとするならば、緒方の異能冷蔵庫くんぐらいだな? いずれ緒方なしでも単独運用可能か試してみたいとは思うが、それもまた異能を知り異能に慣れてからだろう、同じく焦りは禁物だ」
「……そう? 校長先生の熟考、思案していることはそこそこ分かったわ。でも肝心の、この冒険記にも出ずっぱりの浦木くんは? いいの? それこそ貸し出してくれて?」
「ん? それはな、ふっふ、秀才はこれまでのタコイカの冒険ログを読み込んでもう既にご存知かもしれないが、彼の異能【幸運】のパッシブバフがないとな。やはり、私も彼に内緒で色々と試してはみたものだが、せっかく冒険にいってもドロップアイテムの品質が著しく落ちるものだからな、はっはっは。いや最初から贅沢を体験するとこれが無駄骨に思えてしまい、彼は今やブク高にダンジョンに欠かせない存在なのだよ、いや、もはや固定枠か? 唯一の男子生徒には頑張ってもらわないとな! ふっふっふ、あーそうそう、それが彼のためでもある。アレは休ませるほど良いという性格ではない。休めば休むだけ萎んでいくだろうな。だからクリティカル攻撃が出るように、たっぷり褒美して、応援して、色々してぇ♡やらないとな? ふっふふ」
(ダンジョン、校長、武器、異能、それに男子生徒の浦木幸くん。命懸け、こわいお話だと思っていたけど。ダンジョン、ビルド、トランス、トラップ、ダイブ。……身に纏わせたルール次第では────おもしろくなりそうね)
透明なワイングラスをゆるりと傾ける。登別海は渇いていた唇を、そっと浸し潤した。
「ところで校長、ダンジョンは最大何人制で挑むルールなのかしら? あそびの現存ルールが分からないと、追加ルールをしようにも少しためらうわ?」
「ふっふ登別海、キミはぁ──……上手いこと言うな?」
ダンジョンは未知。そのいたずらなルールを解き明かすには、場数経験は足りず。
不黒高校、不黒文率いる若き探索者たちの手探りする未知の迷宮の攻略は、まだまだ始まったばかりである。
▼▼▼
▽▽▽
「──ということよ」
「どういうことだ」
⬜︎タコイカ学習帳
今回はな……特別大開放サービス♡だ。我がブク高の誇る秘密兵器の二人を連れてきたぞ。
登別海:
彼女はとてもクレバーなだけではなくチャーミングだろう?(お目目のあたりとか)
異能【スーパーポーカーフェイス】! というのは冗談で、彼女は顔にはあまり出さないみたいだが……まぁそこはキミの話すコミュ力と披露するギャグ力しだいで変容するだろう? 今は大目に見てやってくれ。
そして、肝心の能力に関しては──心配するな。どうやら彼女は私と同じ、センスあふれるセンスの持ち主だ。きっとキミのことをサポートし、ダンジョンの環境やルールにも適応してみせ、万事に役に立つことだろう。
小角灯:
キミと登別の足りないモノを全てもっているスーパーマンだ。
例えるならば二つの月に対するサンサンな太陽、ということでバランスは取れているか?
キミと登別はなかなか腹から声の出ない種族だからな、ふっふ。
月がひとつ増えたところで太陽は動じぬさ。等しく正しく彼女の目は、キミたちのことを照らし見守ってくれることだろう。そう、いつぞや言っていたキミのだいすきな角灯のようにな。
さてさて今回の引率ダンジョンクエストは……装備アイテムも充実し、キミも強くなっていることだろう。30F辺りを目指してみてはいかがかな?
ふっふ、ではピネスくぅん♡素敵な仲間と共に、その異能そのチカラを合わせ、おおいに頑張りたまえ~~
《午前10時15分 女神ガイア石像前ひろば》
⬜︎
本校舎の高い窓枠から飛んできた、赤い蝶々をいつものようにつかみ、書き添えられたあのお方からのメッセージを読み込んでいく。
「ぅーーー……うーーー……なるほどな」
ピネスは校長からのありがたいメッセージ内容をささっと把握し、一人こくりと渋い顔で頷いた。
「エッチアイまた徘徊してぇ!!!」
「もはや俺は原っぱで息をしていても、教室であくびをしていても、指摘されそうだ。あぁ、安心してくれ、今度はダンジョンを徘徊するんだからさぁ。取り締まるのはこっちじゃないぜ? ゴブ山とかコボル田とか他にいっぱいいるぞぉ? 腕ろっぽんの黒ギャル骸骨とか」
「くぬぬぬぅ、なにをわからないことをしたり顔のスケベ顔でぇえ! こうなればっっ異能【風紀】でエッチアイを正しますっ!」
人に向けて指を指す。真剣か冗談なのか、少なくとも冗談の顔ではなさそうだ。
少し遅れてやってきた、いつものきちんとした制服の上に、さらにきちんと武装したピンク髪のその子は、ひどく元気だ。
『その防具と携えた剣は、果たして風紀を違反していないのか?』と、ピネスはかるく心の中で思ったが、今の見つめる彼女の面にそんな事を言っても仕方がない、これ以上他愛のないことはあまり口にはせず。
「あぁーそうかー。異能風紀か……それってぇ、結構ありえるかもな?」
「異能、たのしみね」
「んーまぁ、それは俺もだな。──あぁーそうだ。だからアッチで異能が発現しそうな感じがなんとなくしたら教えてくれよな。一応今回も、ダンジョンの引率リーダー、やらせてもらってるからさ?」
「エッチです!!!」
「なんでだよっ!」
「心配せずともエッチなエッチアイは、わたしが引率しますっ!」
「まじか?? じゃぁ、たのんだ」
とても良い申し出に食い下がらず、さらりと彼女にそう告げる。
ピネスは自分の背を睨み追って来ていたピンク髪の女子の小さい背後へと、隙を見て素速く回った。登別もしれっとその彼のとった冗談に合わせてつづいた。
小角、浦木、登別、綺麗に一列になった。まさに古いRPGのような整然とした引率のカタチとなってしまい。
小角が首を振って振り返ろうとするも、ぴったりと後についている。既に探偵帽のピンク髪を目印先頭にした、今回の冒険に挑むパーティーらしき列は出来上がっており──
「くっくぬぬぅーーーー、ぬぬぅーーーー! いきますよっ!!!」
「えっ、おっまじか? まさかこうして出発することになるとは」
何故かしたくなった、ちょっとした学生特有の悪ノリのつもりが……。意表をつかれたピネスは、右頬を掻きながらも前を見る。よく手を振り、よく足を上げ、引率進行しだしたピンク髪さんがいる。ピネスは己の腰元の二本の剣をおもむろに確認し──その前をゆく彼女の堂々たる仕草とお言葉に甘えて、ついていくことにした。
「頼りになるわ、小角部長」
登別もまた歩きだしたピンク髪と黒髪の流れにつづいた。
「トウゼンですっ! 登別さん、エッチアイ! ついてきてくださいっ、ダンジョンの風紀はわたしが隅から隅までぇぇ正しますっ!!!」
また新しい一日を迎え、また迎えた新しい仲間と、正門を越えた先、赤く渦巻き誘う──ダンジョンが始まろうとしている。
《午前10時21分 不黒高等学校正門前》思わぬ頼れる小さなリーダーが誕生した。
⬜︎タコイカ学習帳
〈何時代?〉
トモル:こらっエッチアイ、そんなにいきなり斬りかかってはいけないの!!
エッチアイ:いや、いきなりも何もな。……あぁーそれじゃどこをどうすりゃいいんだ?
トモル:『ちょっとそこのゴブ田っっ!!! あなたのようなダンジョンの風紀を徘徊し乱すグリーンなヤカラは、今からこの剣で、わたし不黒高校風紀委員部部長小角灯が、じきじきに斬りかかり成敗するのです!』 ──と……あらかじめ宣言するの!
ピネス:まてまて、ぅーー……長いな? 何時代だよ、それ、けっこう古いだろ
トモル:現代でダンジョンですっ!
ピネス:あぁー。おっしゃるにしてももう少しスピード感もった方が……良さそうだな。現代だし、ダンジョンだし? あぁー、あれだあれ、アップデート?
トモル:くっ!? くぅぅくぬぬぅ……ぬぬぅぅー
ピネス:噛みつきそうな顔だな……(コボルトみたい)
〈投擲のコツのあとひとつ〉
登別海:浦木くん、剣やナイフを投げる際のおおまかなコツを聞きたいわ。後ろで観察させてもらったけど、剣術だけではなく投擲術も上手いわ。
ピネス:上手いってほどでもねぇが……コツかぁ。なんつぅんだろうな。あぁー、そうだ。回転か、直進じゃね?
登別海:回転数を上げるか、余計な回転をさせず真っ直ぐ飛ばすかの2種類ということ?
ピネス:うーんまぁそうだな? おおまかにはそうなんだけど、もっと違ったチカラのアレがあるっつぅか……
「「魔力」」
登別海:──ね?
ピネス:そうそれ! だから投げ方は俺もうまく言えねぇんだけど。とにかる当たる、いや当たれっ! ってイメージの分配……が、のほうが?
登別海:イメージの分配、なるほど。勢い、軌道、回転数、魔力を含んでいる投げ剣は、分配したイメージで投げたあとからも修正微調整できるのね? ありがとう浦木くん、これを元にもっと良くなりそうだわ。
ピネス:おっおぅ? そりゃぁ、よかった?
《不黒ダンジョン1~10F》
玄人のピネスを戦力の中心にして。
トモルは剣をぐっと握りもち、登別は剣ナイフの扱いを道すがら彼に聞きながら、上質なノウハウを取り入れる。
小角灯、登別海、各々ダンジョンという特異環境に身を浸かり、魔力や様々な恩恵を帯びつつある。引率リーダーの浦木幸と共に、女子生徒の二人は足音を立てながら前へと進み、徐々にダンジョンのルールに慣れていくのであった。
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⬜︎タコイカ学習帳
〈彼女らしい異能?〉
登別海:私の異能はおそらく【カード】ね。こうして魔力を消費して、ランダムなカードを引いていき2枚まで手札にストックできるようだわ。とりあえず、今は【グー】【チョキ】【パー】のじゃんけんカードと、【イエローカード】、それに何も書かれていない白いカードを魔力を支払い引いていき確認したわ。
ピネス:へぇー、なんかそれ、登別さんらしいな?
登別海:そう? ありがと。といってもまだまだ
ピネス:成長に期待、だな?(校長っぽく)
登別海:そうね、この異能はおもしろくなりそう。成長に期待ね
〈そのいき?〉
トモル:くぬぬぅー異能【風紀】はかならずぅ!
ピネス:まぁあんまり焦らずいこーぜ、俺もじぶっ
トモル:なっ慰めはいりませんエッチアイ! 見ててくださいっっ必ず発現してみせますっ、観念して待っててください! くぬぬぅー!
ピネス:おっおぅ? そのいき、だな?
《不黒ダンジョン11~16F》
11Fにて、早くも登別海の異能【カード】(仮)が発現。できたてほやほやのこの異能をより深く知るため、もっと広く成長させるためにチカラを試しながらダンジョンを潜っていく。
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そして現在、
▼不黒ダンジョン17F▼にて
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【朱なゴールドなイニシエランタン】:
魔力量 大
物理威力 中減
省灯時 魔力量回復 小 魔法威力 中減
魔力充填時 属性変化
炎+5
DP獲得量+3
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「はは、これはいい。ランタンさいこー。やっぱダンジョンにはあるんだな、冒険らしいヤツ?」
ピンク髪の部長を追い抜いたピネスは、石通路の先頭を手持つ赤と金のランタンで照らしながら、踊るように歩いていく。
道中手に入れたレアなランタンは、とても冒険の気分が高まる、ダンジョンの暗がりを煌々と盛り立ててくれるあたたかな光を灯しつづける。
「そうね。いや──待って浦木くん、今までの冒険でランタンはダンジョンでドロップしたの?」
「え、いや……おっしゃる通りないな。今回がはじめてだ?」
すっと横に並び、彼に声をかけた登別は、洒落たそのランタンの光を見つめながら、再度そのことを確認した。
タコイカ学習帳の冒険ログをインプット済みの登別は、さらにそのランタンに関連しそうな別の何かに引っかかり気づいたらしく。
「角灯は、ランタンの日本語表記のひとつよ。つまり、これは──」
「「かくとう……??」」
格闘技、角砂糖のことか、そんな訳はない。並びに割って入った部長の小角、そしてピネスも口をそろえクエスチョンマークを浮かべ、右隣の登別部員の方を見た。
「な、なんですそれぇ?」
「あなたの名前よ部長。コ・スミ・トモル、カクトウ、角灯」
登別はそれが自分の名前なのだというが、小角灯はまだ分からず、首をこてっと傾げた。
「くぬぬ? わたしはカクトウましてやランタンじゃありませんよっ登別さん! お母さんとお父さんに男の子女の子どっちでも使えるからと、生まれてくる前のあらかじめ〝灯〟と名付けられたの! コズミのトモっ」
「よし、じゃあこれで様子を見てみるか」
小角灯が自分の名前に関する由来を丁寧に正している途中──ピネスはすぐ左隣にいたうるさい彼女に、光るランタンを手渡した。
「くにゅっ!? ちょっといきなり燃えてるものを渡すのは危ないですよ、エッチアイ!?」
「ごめんごめん。でも俺の異能幸運もそうだけど、校長が言うには願われても、願いって判定されるらしいぜ」
「願われても……ねがい? ふぬぬぅ……」
「あぁー、だからこれ持って、しばらくしたら異能発現すんじゃね。コ・カクトウさん?」
「なるほどです。ま、まぁ、風紀委員部としてランタンを預かり持つことには悪い気はしませんがっって誰ですかそれぇぇコズミトモルですっエッチアイ!」
「あぁーごめって熱熱つぅぅ!?? ちょっランタン振り回すな風紀委員!? 熱熱ちち!??」
「わわっっ違いますっ勝手にあばれ!?? エッチアイ!? これどうすっっ────」
「願われる願い。──おもしろくなりそうね」
ガタガタと入れ物の枠を震え鳴らし暴れる火灯は、暗がりの先を騒がしく盛り上げて進んでゆく。
登別海はカードを所持上限の2枚、魔力を支払い追加で1枚願い──すこし無理をして宙に並べてみる。すると燃え尽きることなく3枚、カードが入れ替わることなく彼女の目の前に浮かんでいた。
交わり踊り火を散らしあばれる、ピンク髪と黒髪の背を見つめながら、その緩んだ口角をあげた────
⬜︎タコイカ学習帳
小角灯:
学ぶ正義のショートソード★★★★★
敵を倒すほどに威力 極微成長
シールド硬度 大
探偵帽★★★
歩くほどに魔力量 極微成長
5Fごとに魔法威力 小成長
突撃の淡火のホワイトグローブ★★★★★★★★
炎+4
物理威力 大
物理威力 小
お日様のチェック柄のコボルトソックス★★★★★★★★★
炎+3
スピード 小
シールド値 小
攻撃命中時 シールド値魔力量回復 小
忍ぶ枯葉色のエンジェルブーツ★★★★★★★★
魔力量40%以下のとき魔力消費量 中減
隠密+2
登別海:
霧中の巻き戻りのねじれナイフ★★★★★★★★★★
投擲威力 中
投擲威力 中
命中時 霧となり手元へと帰る
水+5
月影の水面のスリムロングソード★★★★★★★★★★★★
魔力を込めると伸びる
一撃目威力 大
チャージ 中
光+1
闇+4
水+3
探知+3
漆黒の天体スカート★★★★★★
丈の伸縮可能
おしゃれに光る
光+2
光闇耐性+4
ビームなボーンなBSゴーストマント★★★★★★★★
パージ可能
骨パーツに魔力を通すとマントになる
浮遊+2
魔法耐性 中
雷+5
そよ風の頑丈なイーグルブーツ★★★★★★★
シールド硬度 中
蹴り+7
空中威力 大
【剣と風紀と積み重ね】
トモル:やはり風紀委員といえば剣ですね!
ピネス:やはりといえばは分かんねぇけど、まぁ無難でスタンダードだしな。
トモル:エッチアイと同じは、くぬぬぅですが……エッチアイはなんでなんのために、剣を振るのです?
ピネス:なんのために? って、言われてもぶっこ……じゃなくて倒しやすいからかな?
登別海:他に使ったりはしないの浦木くん? なんでも使えそうに見えるけど? 私は校長にたのんで色々と試遊させてもらったわ。
ピネス:あぁー、それは俺も一通り校長に言われて試遊させてもらったけどさぁ。うーーん、べつに使わないわけでもしっくり来ないわけでもなく……やっぱさ、アレだ、ゲン担ぎってヤツ! あんまりコロコロ変えるとクリティカルの幸運が逃げちゃう気がしてさ?
登別海:なるほどたしかに験担ぎと幸運は密接な関係といえるわ。験は積み重ねた修練というし、せっかく担いだ積み重ねを崩すのは躊躇われるわね。
ピネス:へぇーゲンは積み重ねか……あ、愛着は積み重ね?
登別海:そうね。それも積み重ねた崩れにくいものね。
トモル:そうっ、日頃のおこないの積み重ねですよエッチアイ! 生活態度をあらためて精進っっ、みだりに校舎内を徘徊して風紀を乱してはいけないの!
ピネス:おっおぅ? まとまった……のか?
【ぅーーなるほどっ!】
ピネス:こりゃぁ、活きのいいランタンだな? あ、わかった異能ランタンだ
トモル:なんですかそのひねりのないのは! 真面目に考えてくださいエッチアイ!
ピネス:いやいや至って俺って真面目、そのガタガタなってるランタンがさ、緒方さんの異能冷蔵庫と同じタイプじゃね? 活きがいい、生きてる?
登別海:異能冷蔵庫、冷蔵庫が意志を持つように独立して動く異能のことね。その可能性もあると思う。古くから火は神の爆発する怒りや肌をあたためる慈愛のエネルギー、常勝無敗の武の炎神はそのチカラを気まぐれで才ある者に授けると聞いたことがあるわ。ダンジョンを照らす神秘に揺らぐ火の属性に、何かが宿るのはおかしくはないのかも。もう少し小角部長がそのランタンの扱いに慣れれば、その中の火がもっと成長を遂げて、神の使いかなにかが示現する可能性はあると思う?
ピネス:ぅーーーー……あぁー、なるほどな!
トモル:なっ!? なるほどです!
《不黒ダンジョン17F~30F》
ピネスと登別海は、トモルの異能の正体を分析していく。イニシエランタンに灯る火は柔和に……やがて豪豪と、敵を討ち焚べられていった彼らの行く先々の戦いの様相に、燃え盛っていった。
⬜︎
辿り着いた30Fビッグウリボーミコシの大部屋にて。
既に予想と予定どおりにはじまった、階層ボス含むモンスターたちとの小競り合い。
奇声、剣音、爆発音、落下音。ドタバタと大部屋のあちこちで、ブク高の生徒たちとモンスターたちは火花と魔力を散らし合っている。
突っ込んできたゴブリンナイトの剣を真正面から受け止め、探偵帽が揺れる。
「くぬぬぅぅ! 風紀委員部部長っっ、ぽっと出の内藤ゴブ田よりパワーは上なのですよ! ていっ!!!」
小角灯は威勢どおりの膂力で、歯を食いしばりながらゴブリンの剣を押し返し後方へと弾き飛ばした。
尻餅をついたゴブ田はめげずに起き上がった。黄色い鬼の眼で睨みつけたピンク髪を標的にまた向かっていくが──
されどそのアタックはかなわず。不意に横切った優雅な墨色の尾が、ナイトの鎧ごとをビンタする。
突如剣を構えるピンク髪、その見つめる先に現れた燃え泳ぐ魚は、ゴブ田を弾き飛ばし低質な鎧ごと燃やしながら滅した。
「おっおさかなが?? なっなんです!?? わわっ、おさかなモンスターがちかづいて!?」
ゆらゆらとこちらに泳ぎ向かって来たおさかなモンスターに、あわてて灯は剣を構え直した。
「待って、モンスターじゃないわ。部長後ろに置いているランタンを持って。それはおそらく神の使い。おもしろそうな戦いを見てきた火が成長して、ついに示現したのね。うんッ──【チョキ】の鋏」
慌てる部長へと燃える魚のことを教え伝えた登別海は、一直線に向かってきたゴブリンライダーへと3枚の手札にあった内の【チョキ】のカードを起動。
⬜︎
登別海考案【チョキ】
①チョキのポーズと行動を強化する(斬撃)
②チョキで囲うことに成功したモノを任意でチョキ属性にする(重複可能)
③それ自体に攻撃能力を有さない透明チョキの鋏で引かれた切れ目は、様々な能力のカット効果を生む
⬜︎
チョキの透明鋏はちょきちょきと、ダンジョンのステージ床に50cm程の魔力を帯びた線を一本引いた。その魔力線を今走り超えたゴブリンライダー、対象を乗るウリボーに絞り加速したスピードをカットした。
そして、突然勢いを失い前脚を踏ん張り戸惑う、そんな珍妙な姿勢で固まったウリボーの額へと、ナイフを投擲。
さらに、騎乗していたウリボーから放り出され、地にずっこけ伏していたゴブリンナイトに、帯剣していたロングソードを突き立て計算通りに刺した。
ゴブリンライダー計二体のモンスターを登別海は迷いなく効率よく滅することに成功した。
だがなおも、横から槍を構えて突撃してきた新手の敵ゴブリンナイト。油断しているように見えた登別の脇腹を、ぷすりと一気に突き刺さんと駆ける。
⬜︎
登別海考案【パー】
①パーのポーズと行動を強化する(包む広げる守る)
②パーで触れることに成功したモノを任意でパー属性にする(重複可能)
③パーで包むことに成功したモノを任意のパー属性へと転移させる
⬜︎
起動【パー】カード。
鮮やかに翻した漆黒の天体スカートは、あられもなくひらり……しかしミエナイ。突然、ゴブリンナイトの視界を覆い広がる、夜空、星の瞬くスカートのなかの世界は────天へと。
気付けば痛々しい衝撃音が、遠くに響き渡る。
「ビルドと異能、今はこれが限りなくマイルール。──たのしめたかしら?」
黒布に覆われたそのマジックの種は、天に突き刺さったまま事前に準備されていたパーのカード。
広げ翻したスカートから、天井のカードの突き刺さる地点へと槍持ちの敵を転移させ、そのまま痛々しく垂直落下させたのであった。
鮮やかに披露されたチョキ、パーのカード術。登別の異能は、ボス戦、実戦でも上手く機能している。
しかしいくら100点の遊びを披露しても、敵はモンスター、拍手感心して待ってはくれない。
眠る巨大な猪の上、神輿の上で、乗り合わせたゴブリンたちが、上からでたらめに矢を放ちつづけている。そんな厄介な敵のお祭り要塞には──
⬜︎
登別海考案【グー】
①グーのポーズと行動を強化する(握る殴打)
②グーで触れることに成功したモノを任意でグー属性にする(重複可能)
③石や土などの地や壁を、グー拳を模して隆起させる
⬜︎
──グーパンチ。ここはダンジョンでたらめな城にはデタラメを。
「出さなきゃ、負け。──言わないけど」
側面壁の上部から真横へと隆起した石拳は、神輿で矢を番えて踊るゴブリンアーチャーたちをバックアタック。勢い鋭いゲンコツが、担がれた神輿を射抜くように貫いた。
奇想天外、突飛なゲンコツ魔法を背後から浴びた緑の兵隊たちが、騒ぐ舞台を失くし、あれあれと巨大猪の上から飛び散っていく。
依然鼻息を『ぶーすか……ぶーすか……』とたてて眠る巨大猪は、猪語の寝言を唱えながらに失った兵隊の補充を開始。
しかし、なにもおこらず────
巨敵ビッグウリボーミコシは増援のゴブリン、ウリボーたちの召喚行動に失敗した。
「最初の【イエローカード】の忠告が効いたようだわ。浦木くん、しばらくは召喚魔法を使えないはず。今からチョキの魔力線であの猪を囲うから、描いたトライアングルの中で思いっきり決めてみて」
赤き爆炎を巻き起こす一太刀は、ゴブリン衆を紙クズのように払いのけた。相変わらずクリティカルをコツコツと昂る熱に積み上げた男は、既に準備が出来ている。登別の声を片耳に聞きながら、うなずいた。
「あぁ登別さん、じゃぁ、っておぉ!? なっ、なんだこいつ? おさかな?(燃えてる?)」
「こらっっおさかな!! 勝手に風紀を乱してはダメなの!! 燃えながらダンジョン内を徘徊するのは、ゆるしませんっっ!!!」
部長がランタンを片手に、逃げた燃えるおさかなを追いかけようとしている。
身の近くにいきなり現れたのはモンスターではなくおさかな。ピネスの周りをぐるりと何周か元気に泳ぎ、右肩の上で燃えながらその火は優雅に佇んだ。
「ぅーー……まぁいいか……。あぁー、そこの赤、白、黒なちょっと暑苦しいおさかなさん? これから俺がやる事に巻き込まれてもしらねぇぞ? ──え? はは────【バーンファイア】!!!」
ピネスは近くにすり寄って来た肌を温める火に離れるように忠告をしたが──離れず。縦にくるりと尾をゆらし一回転。ピネスにはその仕草が、元気に一度、頷いたように見えた。
燃えるおさかなさんの同意は得た。
眠る大きな猪のまわりの地には、既に魔力をはらんだ三角の切れ目が巨体を囲うように描かれた。登別海の策が着々と施されていく。
これ以上の下準備はいらない。赤く灯るショートソードを一度矢を番えるように、じわり、引き構えた。そして、ツギハギブレザーの背は前へと走り出した。
墨色の尾ひれは、ひらひらとその背を追い、共に突き進む。
幾重にも施された実戦ながらの実験は最終章へ──。ブク高の引率リーダーの手から突き出された、赤熱する刃が、巨大ターゲットへと今突き刺さる。
起爆した────赤く爆ぜるイチゲキ。
飛びかかった勇猛な緋色の剣により、引き起こされた耳をつんざく爆音は、30F大部屋での戦闘の終了を告げた。
炸裂した赤きイチゲキに、ものの見事に弾け飛んだ巨大猪モンスター。コスモスエネルギーを秩序とともに物質化し散りばめ、そこに褒美の宝が煌めく。討ち取られた魔物の残滓はケイオスエネルギーとなり、また大いなるダンジョンへと還った。
「えっエッチアイ怪我はないのです!?」
「え? あぁー、特に──ないな?」
慌ただしく寄ってきた小角。手持つ緋色のショートソードから白煙をながす背は、今きた彼女に振り返り無事だとかるく答えた。
「いきなり花火セットであそぶのは、いけないのですよ!」
小角は彼の顔に指をさして注意した。
「はっ花火セット……?(その発想はなかった、自分で言うのもだが花火どころじゃなさそうだが?) ……はは、って言われてもなー。手加減したらあのおっきな猪、起きて突っ込んでくるからさ。それにコイツもなんかやる気満々だったぞ?」
ピネスはクールダウンしてきた出しっぱなしの剣を、小角のにらむ視線に誘導され、鞘へときちんと仕舞った。
そして彼の背から元気に跳ね上がり現れた白黒赤の燃えたおさかな。現れてはぐるぐるぐるぐるピネスの周りを踊り、かと思えば今度はトモルの周りを同じように泳ぎつづけた。
「おっ、おさかなまでっ、くぬぬぅーーあっこらっっだから燃えながらあちこち徘徊はいけないのですっっまてええええ!!!」
小角は猫じゃらしであそばれた仔猫のように、不思議色に燃えるおさかなの尾を追いかけた。
「はは、それは無茶じゃね……そういういきもんだし」
「浦木くんさっきの一撃、どうだった?」
ピネスがおさかなと小角が鬼ごっこしているのを和やかに眺めていたところ、後ろから寄ってきた登別海が彼に声をかけた。
問われたピネスは、さっき放ったイチゲキの手応えを、顔の下輪郭をさすりながら考えた。
「あぁー、なんか言ってたトライアングルのチョキ属性だっけ? たしかに剣の切れ味と威力がいつもよりきゅっ!てシャープな感じで上がったと思うな?? これって、たくさんバフられたってことだよな校長風に言うと」
「そうね、バフというのかしら、さっき起こった事を纏めると。今回は浦木くんの剣にチョキ属性カウンターを付与して剣の切れ味UP、そして同じくチョキの魔力線を用い描いたトライアングル陣内にいたビッグウリボーミコシの防御をカット。それに小角部長が示現させたあの金魚型の──」
浦木幸のイチゲキにかかったバフ効果を詳らかに説明している最中、登別の耳は異変を感じた。
燃えるおさかなを追いかけて、大部屋の床を走り回っていた元気な鬼ごっこの音が、段々と、遠くに駆け降りてゆく音に変わっていく。
「あ、──小角部長と示現したこが下に」
「え、──ってまじか? あぁー……。ほんとみたいだな……」
ピネスが振り返るともう、小角灯らしき姿はそこに既に一欠片しか残されていなかった。
「神の使いがまだ闘争を求めているのかも」
「さっきので闘争は十分したかんじだが、ってそんな場合でもないな。まぁ、冷蔵庫もおさかなも何故か階段を降りたがるってことで、追うか!」
「うん、そうねっ」
ピネスは落ちていた見慣れた探偵帽を拾いあげた。他のドロップアイテムはのこして、登別海と共に地下階段の方へと急ぎ駆けて行く。
30Fの階層ボス、ビッグウリボーミコシを倒した感想戦をしていたところ。気ままに泳ぎ徘徊する燃えるおさかなを追いかけていた小角灯は、そのまま地下へとつづく階段を、鮮やかに燃え誘う尾っぽに釣られて降りていった。
訪れた思わぬダンジョントラブルも、過去に一度似たような事態を経験していた若者は慌てず、即決断。
ピンク髪の上にあるべき忘れ物の帽子を手にして、先に降りた仲間を追ってゆく。30Fから31Fへと、校長から言いつかったダンジョンクエストよりも先へと────
▼▼▼
▽▽▽
⬜︎タコイカ学習帳
《31F》
トモルはランタンの中へとおさかなを捕獲し戻すことに成功。
ピネスは大事な探偵帽をトモルの頭へと装備した。
ブク高の3人は無事合流を果たす。
ウリボー、ゴブリンナイト、newオタマフロッグを撃破しながら無難に道のりを進んでゆく。
なにごともなく31F→32Fへ。
オタマフロッグ:
宙を浮遊するお玉杓子に似たモンスター。ぷっくりとしたフォルムが可愛いからといって油断はできない。宙を泳ぎ捨て身の体当たりを仕掛けてくるので、タイミングよく攻撃を当てる必要がある。
《32F》
newゴーレムナイト、オタマフロッグの集団と中部屋にて交戦。
ピネスは硬いゴーレムナイトの自慢の石装甲ごと、クリティカルの剣で構わず砕いた。
登別海は【パー】のカードにあらたなルールを追加した。
登別海は同一カードを重ねることができるルールを追加した。
オタマフロッグは3匹で力を合わせて魔力を練り上げるも、燃えるおさかなの墨色の尾っぽに纏めてはたかれて燃やされた。
制圧した中部屋にてドロップアイテムの回収を終え──雑談【しゅぶん…きん?】を開始。
ゴーレムナイト:
ゴブリンやコボルトよりは大きい。前衛タイプで硬い防御力を誇るのが特徴だが、クリティカル攻撃にはめっぽう弱い。
オタマフロッグ:
★束になり合体魔法を使うことがある、注意。
【しゅぶん…きん?】
ピネス:なぁ、そのランタンのおさかなに名前とかつけてやらないのか?
トモル:なっ、名付けですか!? くぬぅ……ぬぬぅ……ぬぬぬぬんーんー
ピネス:ぬぬぬぬんーんー、変な名前だな?
トモル:ってちがうの!!! エッチアイ真面目にしなさいっ!!!
ピネス:わっわりぃ……(なぜかついつい)
登別海:朱文金
「「しゅぶん……きん?(三国志か?)(てっきん?もっきん?)」」
登別海:金魚の名前よ。白黒赤の色合い模様が特徴の、詳しくはないけどたぶんそうだと思うわ?
ピネス:へぇー、たしかに言われてみれば和風っぽいか? 燃えてるけど
トモル:くぬぬ異能風紀のはずが、金魚ですか?
ピネス:たしかに風紀というより風流か? あぁー、なんか心当たりないのか?
登別海:金魚は金運や子宝など縁起が良いものだと聞いたことがあるわ
トモル:こっ子宝!? そんなエッ!? ……あぁっ!!! 思い出したです! お父さんがわたしが生まれて来る前に、金魚を飼ったの!
ピネス:へぇー、それはたしかに、あっ! ゲン担ぎか? それがこいつ? ゲン担ぎが金魚の炎になってあらわれた??」
トモル:くぬ?? でもでも私はその金魚の姿をまったく見てないのですよ!
登別海:金魚の寿命は10年以上と聞くけど? それはおかしいわ、なぜ?
トモル:なぜなぜと言われたらアレです! えー……そっそうっ! その金魚さんは水槽のフタをしめずに飼っていたの! お父さんがそれで逃げちゃったって! 思い出しましたァ!
登別海:なるほど、金魚は意外にジャンプ力があると聞くわ。フタを閉めずにいたのは、金魚を飼う初心者にそれなりにトラブルとしてあることらしいわ
「「……飼ってた?」」
登別海:飼ってないわ。近所のホームセンターの水棲ペット売り場の一角で、いつかの夏休み、暇そうにしていた店員に色々とおしゃべりしたことがあったわ。話すだけで、そのときは買わなかったけど。
「「へぇー」」
登別海:あ、それと思い出したわ。金魚は降ってきた厄の身代わりになることがあるって。
「「ヤク?」」
登別海:災難、わざわい。つまり、元気な金魚がなにか部屋にただよう厄を見つけて、飛び跳ねてそのまま咥えていったのかもしれないわね?
トモル:金魚さんにそんなすごい効果が? ……くぬぬぅ(厄除けとは、ちょっと偉い風紀みたいです)
ピネス:そのときの金魚かもしれないってことか、うぉっ!? たしかにッ、勝手に次に進むぐらいにはおっと!? はは、──コイツ、元気だしな。
《32F》
雑談中の部屋に……ぷかぷかと忍ぶ影の群れ。
通路から漂い侵入しようとしたオタマフロッグの行進は、それにいち早く気づいたおさかなが、口から火を吹き縦一列に焼き尽くされた。
褒められるべき戦果を上げ、イニシエランタンの棲家に魔力と炎を補給しに戻ってきたおさかなは、トモルにとりあえず〝朱文金〟と命名された。
すると気を良くしたのか、ランタンに灯る火が、いっそう激しく光り燃え上がった。
雑談は打ち切られ、浦木幸、小角灯、朱文金、登別海はまたダンジョン32Fの探索を再開した。
⬜︎
▼
▽
⬜︎タコイカ学習帳
《37F》
【幸運の像】
トモル:くぬぬぬぬぅ~……なんでそんなに簡単に倒せちゃうんですかぁエッチアイ! この硬いゴレ山は30回ぐらい叩かないと倒せませんよぉー!
ピネス:そうは言われてもなぁ、クリティカルだし? ただの運じゃね? 俺も1回じゃいかないときはけっこうあるし、そう、まさに運?
トモル:そのクリティカルがちっとも出ませんよぉー! おみくじに当たりはないのですか! エッチアイだけずるいです!
ピネス:校長が言うには俺はツいてるらしいし、まぁそのうち……でるんじゃね? おみくじだしなっ、はは
トモル:くぬぅー明らかに興味なさげな言い方です! ぬぬぬぬぬぅ~!
ピネス:いや、んなことはないが……完全に運なものは教えようもないっつぅかな(またコボルトみたいな顔を)ってなにしてんだ?
トモル:不本意ですがっっ、とりあえず拝んでおきます!
登別海:それはいいかも、普段より幸運が舞い込みそう
ピネス:くすぐったい冗談だな……(睨みながら拝まれてる)
ダンジョンに現れた新敵にも慣れてきた。
ピネスが前衛の前衛を担当、おもに硬い装甲を持つゴーレムナイトを受け持つ。
登別海は二人を様々な異能術、ときには剣で斬り込み、ナイフを投擲し臨機応変の器用にサポート。
トモルはランタンに魔力を供給しながら、火を焚べる。リンクする魔力の炎属性エネルギーで活動し自由に泳ぐ朱文金が、オタマフロッグを元気に焼いていく。イニシエランタンの灯りはダンジョンに潜む罠の発見にも貢献し、道中を安全にみちびいた。
⬜︎
そして三人が長旅を終え迎えた……《40F ゴールデンゴーレムコンディショナーの大部屋》。
『ゴガゴガゴガ────』
不穏な音が三人の背後に鳴り響く。進入口はいつの間にやら石の壁に溶け込み、完全に閉じられた。内側のこちらからはもう後戻りできない。
闘いは既に始まっている。
⬜︎敵情報
ゴールデンゴーレムコンディショナー×1:
ゴーレムナイトの豪華大型バージョンと考えられるが、詳細は不明。胸に砲門が二つついている、注意。
ゴーレムナイト×5:
ゴーレムオタマフロッグ×8:
石色のオタマフロッグ。スピードは落ちたが硬さは上がっている。魔力を用いた攻撃かクリティカルで迎撃を。
⬜︎
わらわらと向かい来る敵の隊列へと、登別海は先制攻撃を仕掛ける。投げたカードは床に突き刺さり起動──。するとダンジョンで集めたキノコの数々が、平面ステージの上に不思議と現れた。
⬜︎登別海情報
【ホワイトカード】:
①まっさらゆえに詰め込める。
このカードを引いて使用すればカードの中に物を仕舞うことができる。
しかしそれほど多くの物、多くの重量は詰め込めない。
また1枚のホワイトカードにつき一種類のものしか詰め込むことはできない。
緒方結美の異能冷蔵庫を参考に、登別海が考案したものであるが、それよりは大きく収納力は劣る。
物を収納した場合、そのホワイトカードはもう一度使用しないかぎり失せずに手札に残る。
手札の1枚にカウントされるため、別枠でキープすることはできない。邪魔な場合はカードを異能の基礎ルールでチェンジし、また使いたくなった場合は魔力を消費して、また運よく手札に引きあてるしかない。
②仕舞う前の状況を任意で記憶する。
例えばホワイトカードに物を仕舞う前、平面床にW字に並べられたキノコがあったとする。
その状態のキノコを全て仕舞った【ホワイトカード】ならぬ性質が変化し化けた【キノコカード】を使用すると、そのさっき仕舞ったW字に並べられたキノコの整然とした状態が、カードで指定した場所に復元される。
⬜︎
「部長よてい通りに」
「わかったの、朱文金やるです!」
名を呼ばれ主人の命令にしたがった雅な金魚は、並べられたキノコのひとつへと火を吹いた。
すぐさま点火され連鎖爆発を引き起こす。W字に配列し仕掛け、効果的に爆破された【起爆キノコ】。
これまでの冒険でストックしていた秘蔵のアイテムは、その効果を如何なく発揮。ゴーレムナイトとゴーレムオタマフロッグの集団を効率良くその火力で一気に殲滅した。
「さすがに、警告一回では増援は止まらないわね」
登別海はボス戦に挑む前に事前に調整していた手札から、【イエローカード】をボス級のモンスターに対してかかげた。敵の召喚魔法による増援の出現を遅らせるためだが、一回の警告では聞き入れてくれないようだ。
巨大黄金ゴーレムは一歩、二歩、動き出し、固まっていた土汚れをひび割れ落としながら──。その元あった輝きを鈍く光らせ取り戻していく。
巨足が前へと踏み出した。大部屋を伝う地鳴りとともに、眠りから覚ますようにゴーレムの兵隊たちは召喚されていく。
高鳴り地響く戦いの緊張感に、ピネスは翠の剣を抜き、いざ巨大なシルエットへと向けて駆け出した。
▼
▽
巨大ゴーレム、その胸部砲門から炎のバルカンが魔力を圧縮され放たれる。大部屋にばら撒かれる厚い熱い飛び道具の弾幕に──
「わっ、わっ、わっ!?」
「こっちよ部長、【パー】のBSビームマント」
背部に対称に留められたバッテン印の骨飾りは、今、急速充填した魔力とともに、たおやかに広がる青白いマントを作り出した。
登別海は、はちゃめちゃと足を上げ踊る部長の前に立ち、前方に翻した魔法のビームマントで、飛んできた炎属性のバルカンを鮮やかに防いだ。
荒れる戦場の大部屋も、現在はピネスと巨敵ゴールデンゴーレムコンディショナーの2人の喧嘩状態。
股をくぐり緋色の剣でクルブシを引っ掻き、かと思えば今度は大きな腕の走路を走り、肩からひょこっと出てきた石のお玉杓子を雷撃のマジックで撃墜する。
黄金の装甲に纏わりつき、様々な攻撃をくぐりながらその黄金の牙城を砕くことに熱中するピネスは、狂人と蛮勇と勇猛の狭間で二種の剣を必死にあそばせつづけている。
あの動き出したデカブツを受け持つと彼が最初に決めた以上、持ち前のなんとなくのセンスで、攻撃を凌ぎ黄金を削り、やりくりするしかない。巨体の体内から出動し現れる小物のモンスターも雷撃に処し、必死に汗水を飛ばし頑張るしかないのだ。
そんな彼の動きを注意深く見つめる登別海とトモル部長。2人にできることは、ただ足を引っ張らず見守ること──ではなく。
彼が闘っている間にも部屋の天には既に、とても重々しい魔力が練り上げられていた。きつく、かたく、握りしめた石拳のエネルギーチャージ量は十分。
天に備えたそれを魔法というにはあまりにも────登別海は狙いをつけた特大の【グー】を、予め切れ込みを入れていたチョキの魔力線で天井から切り離した。
「エッチアイ!!! 天井注意、離れるのです!!!」
登別の代わりに大声を張り上げて、トモル部長は闘いにのめり込む前衛の彼に注意を促す。
「うおっ!? んじゃこりゃ!? んじゃ──!」
彼女の声はよく聞こえている。ピネスは翳る天からの贈り物から逃げる際に、右膝の黄金のひび割れに向けて翠のショートソードを投擲した。
練り上げた雷撃魔法の残りストックが、刺さった翠の刃から即発動。膝の一点に集中ダメージを与えて、黄金の膝装甲を削り穿った。
たまらず右膝突くゴーレムは、天から滴った逃れられない巨大グー拳を、対抗して黄金の両手を巨大なパーにひろげて受け止めた。
魔力、質量、衝突──衝撃、凄まじく。
要らない重りを持ち上げながら耐える膝突きのゴーレムは、器用にも胸部の砲門をうごかし狙いをつける。
狙うは、足と足を真横に綺麗に合わせ祈る女。足をグーのポーズに固定し、魔力をたらふく練り上げつつ佇むミントグリーン髪の小人。
この奇妙な魔法の術者、その端正なツラに向けて砲門の角度を微調整。精密操作しながらロックオンし────
朱文金は火を吹いた。
宙を燃え泳いだ胸部の前、静かに忍び寄った1匹の金魚がアシストする。口から吐き出した細い火は、砲門の口径を通り熱く注入されていく。やがて熱量を上げた内部から誘爆し、砲門ごと焼き壊した。その危険なバルカンを、グーの足で待機する術者に撃つことを許さない。
胸は焼け、不幸が連鎖するように両腕は砕ける。黄金の装甲は自己再生の能力を持てど、焼石に水、すぐにはその手で立ち上がれない。
巨大黄金はついに尻餅をつき後ろに倒れた。
そしてとどめのイチゲキが仰向けの頭に向けて、飛び上がり、舞い降りていく。
待っていたとばかりに緋色のショートソードを突き立てるニンゲン。待っていたとばかりに口から不吉な冷風を吹かせるゴーレム。
「もう風邪はひかねぇよ、免疫ってご存知かァ!!!」
危険なデバフを吹かせど、超陽気になった魔力を持つ今の彼にはさほど意味を成さない。吹く不吉な冷風の流れすら、熱し切り裂いていく緋色の刃は、今光りかがやく黄金のいただきへと届いた──
弱点部へと炸裂したクリティカル陽術【バーンファイア】。砕け散っていった黄金のほとんどが、その魔力を失い、ただの土塊へと還ってゆく。
寄り道した40F節目の一戦。登別海、小角灯、朱文金、各々の異能チカラをタイミングよく合わせ、最後は引率リーダー浦木幸の手で、階層ボスGGCを完全撃破した。
資料にあった宝という宝はそこにある。前回の冒険で持ち帰った装備を手に取りながら厳選、吟味、妄想していたプラチナ髪の校長は、今やってきたゲストに微笑んだ。
グラスに注がれていくのは友好を認めた儀式やパフォーマンスなのだろうか、短剣の切先から滴っていく魔力で生み出した特別な水はそのゲストへと提供された。
「ほぉこんな夜分にダンジョンへ志願とは? よかろう。ならば次の彼との冒険はキミに、いやキミたち二人に行ってもらおうかな?」
いつものように眼帯をした校長は、生徒の個人情報の載っているマル秘の紙ぺらに目を通す。同時に宙をさまよっていた赤い学習帳を捕まえ、机上に置いた資料とを交互に見る。次の冒険へと向かうであろう彼女らに見合う妄想の装備を、さっそく探しビルドしていく。
便利な魔法の学習帳、その白紙のページに条件に見合うop効果のついた装備をソートしリストアップ。
その厳選行為が鼻歌を口ずさむほどに楽しいのか、校長はるんるんと明るく唄い一人、つぶやいている。
椅子に座らされたゲストの登別海は、水のグラスを手持ち。机上で考え作業する不黒文校長へと、さっき受け取った承諾の言葉に対しておくれて頷いた。
「そう、わかったわ。ふたり? 小角部長のこと」
「ふっふ候補者の中からパーティー間の人選バランスを毎回考えるのも楽じゃないものでな。私もよく知るキミたち風紀委員……部のっ、二人とピネスくんならば、かなりいいバランスが取れそうだと思わないか? 私はそう思うのだが?」
「バランス、そうね。彼と部長で小一時間遊んだかぎりは、特に諍いはなく……そうかもしれないわ。うん、光角部長には私から話をつけておくわ。それより校長、他の生徒は? ダンジョンって、この人員をスカウトしにきた赤表紙の資料によると、油断できない攻撃能力を有するモンスターが迷宮構造内を徘徊し蔓延っているところよ。私はその人数で遊んでも別にいいのだけど、ルール上なにか少人数じゃないといけないの?」
「あぁさすがの成績ALL4の秀才、一歩ひいた素晴らしき着眼点だ。見逃せない痛いところをついてくれるな? ふふ、だが登別その点についてはな。ちょっと長話になるが用意はいいか? いくぞ……」
⬜︎タコイカ学習帳
❶緒方はこのところ何やら念仏を唱えながら、苦行のようにおにぎりを握りつづけている。おにぎりの味や食感、握り加減、塩加減にもばらつきが見られる。しばらく新作も出ていない、いつものアレンジチャレンジ精神はどこへやらだ。
ふふふ……異能【冷蔵庫】はめちゃベンリ!
❷榎田椎名は現在魔力が減り続ける謎の茸と、魔力が増え続ける謎の茸を同時に食してしまい──ダウン。満ちたり引いたりを繰り返し、ひどくうなされていて、昨日の夜やっと容体が落ち着いてきたところだ。だがダンジョンに自生するきのこに関しての彼女の研究、探究心はその素晴らしき成果をすぐに出したのは記憶に新しいところだろ。こちらとしても、少々腹を痛めようと命懸けの趣味であるソレをやめさせる訳にもいかないだろう。ふっふ。
異能【きのこレーダー】は、まだまだ謎だらけだな。
❸サンチュは意味もなくグラウンドを走り周回している。普段は光ある元気の塊みたいな生徒だが、少し背負い込むタイプでもある、休ませたい。闇のモンスターを祓った光の異能に関しても個人的に気になるところだ。
異能【手がちょっとどころではなく光る!】 聖なる光属性の僧侶が序盤の仲間にいるとは運がいい!
❹木浪は見せてもらった異能がまだ安定とまではいかない。魔力は自然回復するが、あの引き寄せの異能は頭の方を結構使うようだからな。使いすぎて熱され、鼻血でも出されたら心配事だ。焦らずとも今後もっと修練を積みやってくれるくれる事だろう。クールダウンさせながら大事に育てていきたい。
❺サーガの異能は薬草への理解度upというよりは、茶道の所作でお茶を点てる部分が能力か? 調合能力、私はそう見ているが……詳しくは分からん。回復薬は貴重だ、検証を進めたい。
▼黙秘会話ログ128
⬜︎
「ということで現在100の万全の状態で、次の冒険へと貸し出し可能な生徒は────いない。いるとするならば、緒方の異能冷蔵庫くんぐらいだな? いずれ緒方なしでも単独運用可能か試してみたいとは思うが、それもまた異能を知り異能に慣れてからだろう、同じく焦りは禁物だ」
「……そう? 校長先生の熟考、思案していることはそこそこ分かったわ。でも肝心の、この冒険記にも出ずっぱりの浦木くんは? いいの? それこそ貸し出してくれて?」
「ん? それはな、ふっふ、秀才はこれまでのタコイカの冒険ログを読み込んでもう既にご存知かもしれないが、彼の異能【幸運】のパッシブバフがないとな。やはり、私も彼に内緒で色々と試してはみたものだが、せっかく冒険にいってもドロップアイテムの品質が著しく落ちるものだからな、はっはっは。いや最初から贅沢を体験するとこれが無駄骨に思えてしまい、彼は今やブク高にダンジョンに欠かせない存在なのだよ、いや、もはや固定枠か? 唯一の男子生徒には頑張ってもらわないとな! ふっふっふ、あーそうそう、それが彼のためでもある。アレは休ませるほど良いという性格ではない。休めば休むだけ萎んでいくだろうな。だからクリティカル攻撃が出るように、たっぷり褒美して、応援して、色々してぇ♡やらないとな? ふっふふ」
(ダンジョン、校長、武器、異能、それに男子生徒の浦木幸くん。命懸け、こわいお話だと思っていたけど。ダンジョン、ビルド、トランス、トラップ、ダイブ。……身に纏わせたルール次第では────おもしろくなりそうね)
透明なワイングラスをゆるりと傾ける。登別海は渇いていた唇を、そっと浸し潤した。
「ところで校長、ダンジョンは最大何人制で挑むルールなのかしら? あそびの現存ルールが分からないと、追加ルールをしようにも少しためらうわ?」
「ふっふ登別海、キミはぁ──……上手いこと言うな?」
ダンジョンは未知。そのいたずらなルールを解き明かすには、場数経験は足りず。
不黒高校、不黒文率いる若き探索者たちの手探りする未知の迷宮の攻略は、まだまだ始まったばかりである。
▼▼▼
▽▽▽
「──ということよ」
「どういうことだ」
⬜︎タコイカ学習帳
今回はな……特別大開放サービス♡だ。我がブク高の誇る秘密兵器の二人を連れてきたぞ。
登別海:
彼女はとてもクレバーなだけではなくチャーミングだろう?(お目目のあたりとか)
異能【スーパーポーカーフェイス】! というのは冗談で、彼女は顔にはあまり出さないみたいだが……まぁそこはキミの話すコミュ力と披露するギャグ力しだいで変容するだろう? 今は大目に見てやってくれ。
そして、肝心の能力に関しては──心配するな。どうやら彼女は私と同じ、センスあふれるセンスの持ち主だ。きっとキミのことをサポートし、ダンジョンの環境やルールにも適応してみせ、万事に役に立つことだろう。
小角灯:
キミと登別の足りないモノを全てもっているスーパーマンだ。
例えるならば二つの月に対するサンサンな太陽、ということでバランスは取れているか?
キミと登別はなかなか腹から声の出ない種族だからな、ふっふ。
月がひとつ増えたところで太陽は動じぬさ。等しく正しく彼女の目は、キミたちのことを照らし見守ってくれることだろう。そう、いつぞや言っていたキミのだいすきな角灯のようにな。
さてさて今回の引率ダンジョンクエストは……装備アイテムも充実し、キミも強くなっていることだろう。30F辺りを目指してみてはいかがかな?
ふっふ、ではピネスくぅん♡素敵な仲間と共に、その異能そのチカラを合わせ、おおいに頑張りたまえ~~
《午前10時15分 女神ガイア石像前ひろば》
⬜︎
本校舎の高い窓枠から飛んできた、赤い蝶々をいつものようにつかみ、書き添えられたあのお方からのメッセージを読み込んでいく。
「ぅーーー……うーーー……なるほどな」
ピネスは校長からのありがたいメッセージ内容をささっと把握し、一人こくりと渋い顔で頷いた。
「エッチアイまた徘徊してぇ!!!」
「もはや俺は原っぱで息をしていても、教室であくびをしていても、指摘されそうだ。あぁ、安心してくれ、今度はダンジョンを徘徊するんだからさぁ。取り締まるのはこっちじゃないぜ? ゴブ山とかコボル田とか他にいっぱいいるぞぉ? 腕ろっぽんの黒ギャル骸骨とか」
「くぬぬぬぅ、なにをわからないことをしたり顔のスケベ顔でぇえ! こうなればっっ異能【風紀】でエッチアイを正しますっ!」
人に向けて指を指す。真剣か冗談なのか、少なくとも冗談の顔ではなさそうだ。
少し遅れてやってきた、いつものきちんとした制服の上に、さらにきちんと武装したピンク髪のその子は、ひどく元気だ。
『その防具と携えた剣は、果たして風紀を違反していないのか?』と、ピネスはかるく心の中で思ったが、今の見つめる彼女の面にそんな事を言っても仕方がない、これ以上他愛のないことはあまり口にはせず。
「あぁーそうかー。異能風紀か……それってぇ、結構ありえるかもな?」
「異能、たのしみね」
「んーまぁ、それは俺もだな。──あぁーそうだ。だからアッチで異能が発現しそうな感じがなんとなくしたら教えてくれよな。一応今回も、ダンジョンの引率リーダー、やらせてもらってるからさ?」
「エッチです!!!」
「なんでだよっ!」
「心配せずともエッチなエッチアイは、わたしが引率しますっ!」
「まじか?? じゃぁ、たのんだ」
とても良い申し出に食い下がらず、さらりと彼女にそう告げる。
ピネスは自分の背を睨み追って来ていたピンク髪の女子の小さい背後へと、隙を見て素速く回った。登別もしれっとその彼のとった冗談に合わせてつづいた。
小角、浦木、登別、綺麗に一列になった。まさに古いRPGのような整然とした引率のカタチとなってしまい。
小角が首を振って振り返ろうとするも、ぴったりと後についている。既に探偵帽のピンク髪を目印先頭にした、今回の冒険に挑むパーティーらしき列は出来上がっており──
「くっくぬぬぅーーーー、ぬぬぅーーーー! いきますよっ!!!」
「えっ、おっまじか? まさかこうして出発することになるとは」
何故かしたくなった、ちょっとした学生特有の悪ノリのつもりが……。意表をつかれたピネスは、右頬を掻きながらも前を見る。よく手を振り、よく足を上げ、引率進行しだしたピンク髪さんがいる。ピネスは己の腰元の二本の剣をおもむろに確認し──その前をゆく彼女の堂々たる仕草とお言葉に甘えて、ついていくことにした。
「頼りになるわ、小角部長」
登別もまた歩きだしたピンク髪と黒髪の流れにつづいた。
「トウゼンですっ! 登別さん、エッチアイ! ついてきてくださいっ、ダンジョンの風紀はわたしが隅から隅までぇぇ正しますっ!!!」
また新しい一日を迎え、また迎えた新しい仲間と、正門を越えた先、赤く渦巻き誘う──ダンジョンが始まろうとしている。
《午前10時21分 不黒高等学校正門前》思わぬ頼れる小さなリーダーが誕生した。
⬜︎タコイカ学習帳
〈何時代?〉
トモル:こらっエッチアイ、そんなにいきなり斬りかかってはいけないの!!
エッチアイ:いや、いきなりも何もな。……あぁーそれじゃどこをどうすりゃいいんだ?
トモル:『ちょっとそこのゴブ田っっ!!! あなたのようなダンジョンの風紀を徘徊し乱すグリーンなヤカラは、今からこの剣で、わたし不黒高校風紀委員部部長小角灯が、じきじきに斬りかかり成敗するのです!』 ──と……あらかじめ宣言するの!
ピネス:まてまて、ぅーー……長いな? 何時代だよ、それ、けっこう古いだろ
トモル:現代でダンジョンですっ!
ピネス:あぁー。おっしゃるにしてももう少しスピード感もった方が……良さそうだな。現代だし、ダンジョンだし? あぁー、あれだあれ、アップデート?
トモル:くっ!? くぅぅくぬぬぅ……ぬぬぅぅー
ピネス:噛みつきそうな顔だな……(コボルトみたい)
〈投擲のコツのあとひとつ〉
登別海:浦木くん、剣やナイフを投げる際のおおまかなコツを聞きたいわ。後ろで観察させてもらったけど、剣術だけではなく投擲術も上手いわ。
ピネス:上手いってほどでもねぇが……コツかぁ。なんつぅんだろうな。あぁー、そうだ。回転か、直進じゃね?
登別海:回転数を上げるか、余計な回転をさせず真っ直ぐ飛ばすかの2種類ということ?
ピネス:うーんまぁそうだな? おおまかにはそうなんだけど、もっと違ったチカラのアレがあるっつぅか……
「「魔力」」
登別海:──ね?
ピネス:そうそれ! だから投げ方は俺もうまく言えねぇんだけど。とにかる当たる、いや当たれっ! ってイメージの分配……が、のほうが?
登別海:イメージの分配、なるほど。勢い、軌道、回転数、魔力を含んでいる投げ剣は、分配したイメージで投げたあとからも修正微調整できるのね? ありがとう浦木くん、これを元にもっと良くなりそうだわ。
ピネス:おっおぅ? そりゃぁ、よかった?
《不黒ダンジョン1~10F》
玄人のピネスを戦力の中心にして。
トモルは剣をぐっと握りもち、登別は剣ナイフの扱いを道すがら彼に聞きながら、上質なノウハウを取り入れる。
小角灯、登別海、各々ダンジョンという特異環境に身を浸かり、魔力や様々な恩恵を帯びつつある。引率リーダーの浦木幸と共に、女子生徒の二人は足音を立てながら前へと進み、徐々にダンジョンのルールに慣れていくのであった。
⬜︎
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⬜︎タコイカ学習帳
〈彼女らしい異能?〉
登別海:私の異能はおそらく【カード】ね。こうして魔力を消費して、ランダムなカードを引いていき2枚まで手札にストックできるようだわ。とりあえず、今は【グー】【チョキ】【パー】のじゃんけんカードと、【イエローカード】、それに何も書かれていない白いカードを魔力を支払い引いていき確認したわ。
ピネス:へぇー、なんかそれ、登別さんらしいな?
登別海:そう? ありがと。といってもまだまだ
ピネス:成長に期待、だな?(校長っぽく)
登別海:そうね、この異能はおもしろくなりそう。成長に期待ね
〈そのいき?〉
トモル:くぬぬぅー異能【風紀】はかならずぅ!
ピネス:まぁあんまり焦らずいこーぜ、俺もじぶっ
トモル:なっ慰めはいりませんエッチアイ! 見ててくださいっっ必ず発現してみせますっ、観念して待っててください! くぬぬぅー!
ピネス:おっおぅ? そのいき、だな?
《不黒ダンジョン11~16F》
11Fにて、早くも登別海の異能【カード】(仮)が発現。できたてほやほやのこの異能をより深く知るため、もっと広く成長させるためにチカラを試しながらダンジョンを潜っていく。
⬜︎
▼▼▼
▽▽▽
そして現在、
▼不黒ダンジョン17F▼にて
⬜︎
【朱なゴールドなイニシエランタン】:
魔力量 大
物理威力 中減
省灯時 魔力量回復 小 魔法威力 中減
魔力充填時 属性変化
炎+5
DP獲得量+3
⬜︎
「はは、これはいい。ランタンさいこー。やっぱダンジョンにはあるんだな、冒険らしいヤツ?」
ピンク髪の部長を追い抜いたピネスは、石通路の先頭を手持つ赤と金のランタンで照らしながら、踊るように歩いていく。
道中手に入れたレアなランタンは、とても冒険の気分が高まる、ダンジョンの暗がりを煌々と盛り立ててくれるあたたかな光を灯しつづける。
「そうね。いや──待って浦木くん、今までの冒険でランタンはダンジョンでドロップしたの?」
「え、いや……おっしゃる通りないな。今回がはじめてだ?」
すっと横に並び、彼に声をかけた登別は、洒落たそのランタンの光を見つめながら、再度そのことを確認した。
タコイカ学習帳の冒険ログをインプット済みの登別は、さらにそのランタンに関連しそうな別の何かに引っかかり気づいたらしく。
「角灯は、ランタンの日本語表記のひとつよ。つまり、これは──」
「「かくとう……??」」
格闘技、角砂糖のことか、そんな訳はない。並びに割って入った部長の小角、そしてピネスも口をそろえクエスチョンマークを浮かべ、右隣の登別部員の方を見た。
「な、なんですそれぇ?」
「あなたの名前よ部長。コ・スミ・トモル、カクトウ、角灯」
登別はそれが自分の名前なのだというが、小角灯はまだ分からず、首をこてっと傾げた。
「くぬぬ? わたしはカクトウましてやランタンじゃありませんよっ登別さん! お母さんとお父さんに男の子女の子どっちでも使えるからと、生まれてくる前のあらかじめ〝灯〟と名付けられたの! コズミのトモっ」
「よし、じゃあこれで様子を見てみるか」
小角灯が自分の名前に関する由来を丁寧に正している途中──ピネスはすぐ左隣にいたうるさい彼女に、光るランタンを手渡した。
「くにゅっ!? ちょっといきなり燃えてるものを渡すのは危ないですよ、エッチアイ!?」
「ごめんごめん。でも俺の異能幸運もそうだけど、校長が言うには願われても、願いって判定されるらしいぜ」
「願われても……ねがい? ふぬぬぅ……」
「あぁー、だからこれ持って、しばらくしたら異能発現すんじゃね。コ・カクトウさん?」
「なるほどです。ま、まぁ、風紀委員部としてランタンを預かり持つことには悪い気はしませんがっって誰ですかそれぇぇコズミトモルですっエッチアイ!」
「あぁーごめって熱熱つぅぅ!?? ちょっランタン振り回すな風紀委員!? 熱熱ちち!??」
「わわっっ違いますっ勝手にあばれ!?? エッチアイ!? これどうすっっ────」
「願われる願い。──おもしろくなりそうね」
ガタガタと入れ物の枠を震え鳴らし暴れる火灯は、暗がりの先を騒がしく盛り上げて進んでゆく。
登別海はカードを所持上限の2枚、魔力を支払い追加で1枚願い──すこし無理をして宙に並べてみる。すると燃え尽きることなく3枚、カードが入れ替わることなく彼女の目の前に浮かんでいた。
交わり踊り火を散らしあばれる、ピンク髪と黒髪の背を見つめながら、その緩んだ口角をあげた────
⬜︎タコイカ学習帳
小角灯:
学ぶ正義のショートソード★★★★★
敵を倒すほどに威力 極微成長
シールド硬度 大
探偵帽★★★
歩くほどに魔力量 極微成長
5Fごとに魔法威力 小成長
突撃の淡火のホワイトグローブ★★★★★★★★
炎+4
物理威力 大
物理威力 小
お日様のチェック柄のコボルトソックス★★★★★★★★★
炎+3
スピード 小
シールド値 小
攻撃命中時 シールド値魔力量回復 小
忍ぶ枯葉色のエンジェルブーツ★★★★★★★★
魔力量40%以下のとき魔力消費量 中減
隠密+2
登別海:
霧中の巻き戻りのねじれナイフ★★★★★★★★★★
投擲威力 中
投擲威力 中
命中時 霧となり手元へと帰る
水+5
月影の水面のスリムロングソード★★★★★★★★★★★★
魔力を込めると伸びる
一撃目威力 大
チャージ 中
光+1
闇+4
水+3
探知+3
漆黒の天体スカート★★★★★★
丈の伸縮可能
おしゃれに光る
光+2
光闇耐性+4
ビームなボーンなBSゴーストマント★★★★★★★★
パージ可能
骨パーツに魔力を通すとマントになる
浮遊+2
魔法耐性 中
雷+5
そよ風の頑丈なイーグルブーツ★★★★★★★
シールド硬度 中
蹴り+7
空中威力 大
【剣と風紀と積み重ね】
トモル:やはり風紀委員といえば剣ですね!
ピネス:やはりといえばは分かんねぇけど、まぁ無難でスタンダードだしな。
トモル:エッチアイと同じは、くぬぬぅですが……エッチアイはなんでなんのために、剣を振るのです?
ピネス:なんのために? って、言われてもぶっこ……じゃなくて倒しやすいからかな?
登別海:他に使ったりはしないの浦木くん? なんでも使えそうに見えるけど? 私は校長にたのんで色々と試遊させてもらったわ。
ピネス:あぁー、それは俺も一通り校長に言われて試遊させてもらったけどさぁ。うーーん、べつに使わないわけでもしっくり来ないわけでもなく……やっぱさ、アレだ、ゲン担ぎってヤツ! あんまりコロコロ変えるとクリティカルの幸運が逃げちゃう気がしてさ?
登別海:なるほどたしかに験担ぎと幸運は密接な関係といえるわ。験は積み重ねた修練というし、せっかく担いだ積み重ねを崩すのは躊躇われるわね。
ピネス:へぇーゲンは積み重ねか……あ、愛着は積み重ね?
登別海:そうね。それも積み重ねた崩れにくいものね。
トモル:そうっ、日頃のおこないの積み重ねですよエッチアイ! 生活態度をあらためて精進っっ、みだりに校舎内を徘徊して風紀を乱してはいけないの!
ピネス:おっおぅ? まとまった……のか?
【ぅーーなるほどっ!】
ピネス:こりゃぁ、活きのいいランタンだな? あ、わかった異能ランタンだ
トモル:なんですかそのひねりのないのは! 真面目に考えてくださいエッチアイ!
ピネス:いやいや至って俺って真面目、そのガタガタなってるランタンがさ、緒方さんの異能冷蔵庫と同じタイプじゃね? 活きがいい、生きてる?
登別海:異能冷蔵庫、冷蔵庫が意志を持つように独立して動く異能のことね。その可能性もあると思う。古くから火は神の爆発する怒りや肌をあたためる慈愛のエネルギー、常勝無敗の武の炎神はそのチカラを気まぐれで才ある者に授けると聞いたことがあるわ。ダンジョンを照らす神秘に揺らぐ火の属性に、何かが宿るのはおかしくはないのかも。もう少し小角部長がそのランタンの扱いに慣れれば、その中の火がもっと成長を遂げて、神の使いかなにかが示現する可能性はあると思う?
ピネス:ぅーーーー……あぁー、なるほどな!
トモル:なっ!? なるほどです!
《不黒ダンジョン17F~30F》
ピネスと登別海は、トモルの異能の正体を分析していく。イニシエランタンに灯る火は柔和に……やがて豪豪と、敵を討ち焚べられていった彼らの行く先々の戦いの様相に、燃え盛っていった。
⬜︎
辿り着いた30Fビッグウリボーミコシの大部屋にて。
既に予想と予定どおりにはじまった、階層ボス含むモンスターたちとの小競り合い。
奇声、剣音、爆発音、落下音。ドタバタと大部屋のあちこちで、ブク高の生徒たちとモンスターたちは火花と魔力を散らし合っている。
突っ込んできたゴブリンナイトの剣を真正面から受け止め、探偵帽が揺れる。
「くぬぬぅぅ! 風紀委員部部長っっ、ぽっと出の内藤ゴブ田よりパワーは上なのですよ! ていっ!!!」
小角灯は威勢どおりの膂力で、歯を食いしばりながらゴブリンの剣を押し返し後方へと弾き飛ばした。
尻餅をついたゴブ田はめげずに起き上がった。黄色い鬼の眼で睨みつけたピンク髪を標的にまた向かっていくが──
されどそのアタックはかなわず。不意に横切った優雅な墨色の尾が、ナイトの鎧ごとをビンタする。
突如剣を構えるピンク髪、その見つめる先に現れた燃え泳ぐ魚は、ゴブ田を弾き飛ばし低質な鎧ごと燃やしながら滅した。
「おっおさかなが?? なっなんです!?? わわっ、おさかなモンスターがちかづいて!?」
ゆらゆらとこちらに泳ぎ向かって来たおさかなモンスターに、あわてて灯は剣を構え直した。
「待って、モンスターじゃないわ。部長後ろに置いているランタンを持って。それはおそらく神の使い。おもしろそうな戦いを見てきた火が成長して、ついに示現したのね。うんッ──【チョキ】の鋏」
慌てる部長へと燃える魚のことを教え伝えた登別海は、一直線に向かってきたゴブリンライダーへと3枚の手札にあった内の【チョキ】のカードを起動。
⬜︎
登別海考案【チョキ】
①チョキのポーズと行動を強化する(斬撃)
②チョキで囲うことに成功したモノを任意でチョキ属性にする(重複可能)
③それ自体に攻撃能力を有さない透明チョキの鋏で引かれた切れ目は、様々な能力のカット効果を生む
⬜︎
チョキの透明鋏はちょきちょきと、ダンジョンのステージ床に50cm程の魔力を帯びた線を一本引いた。その魔力線を今走り超えたゴブリンライダー、対象を乗るウリボーに絞り加速したスピードをカットした。
そして、突然勢いを失い前脚を踏ん張り戸惑う、そんな珍妙な姿勢で固まったウリボーの額へと、ナイフを投擲。
さらに、騎乗していたウリボーから放り出され、地にずっこけ伏していたゴブリンナイトに、帯剣していたロングソードを突き立て計算通りに刺した。
ゴブリンライダー計二体のモンスターを登別海は迷いなく効率よく滅することに成功した。
だがなおも、横から槍を構えて突撃してきた新手の敵ゴブリンナイト。油断しているように見えた登別の脇腹を、ぷすりと一気に突き刺さんと駆ける。
⬜︎
登別海考案【パー】
①パーのポーズと行動を強化する(包む広げる守る)
②パーで触れることに成功したモノを任意でパー属性にする(重複可能)
③パーで包むことに成功したモノを任意のパー属性へと転移させる
⬜︎
起動【パー】カード。
鮮やかに翻した漆黒の天体スカートは、あられもなくひらり……しかしミエナイ。突然、ゴブリンナイトの視界を覆い広がる、夜空、星の瞬くスカートのなかの世界は────天へと。
気付けば痛々しい衝撃音が、遠くに響き渡る。
「ビルドと異能、今はこれが限りなくマイルール。──たのしめたかしら?」
黒布に覆われたそのマジックの種は、天に突き刺さったまま事前に準備されていたパーのカード。
広げ翻したスカートから、天井のカードの突き刺さる地点へと槍持ちの敵を転移させ、そのまま痛々しく垂直落下させたのであった。
鮮やかに披露されたチョキ、パーのカード術。登別の異能は、ボス戦、実戦でも上手く機能している。
しかしいくら100点の遊びを披露しても、敵はモンスター、拍手感心して待ってはくれない。
眠る巨大な猪の上、神輿の上で、乗り合わせたゴブリンたちが、上からでたらめに矢を放ちつづけている。そんな厄介な敵のお祭り要塞には──
⬜︎
登別海考案【グー】
①グーのポーズと行動を強化する(握る殴打)
②グーで触れることに成功したモノを任意でグー属性にする(重複可能)
③石や土などの地や壁を、グー拳を模して隆起させる
⬜︎
──グーパンチ。ここはダンジョンでたらめな城にはデタラメを。
「出さなきゃ、負け。──言わないけど」
側面壁の上部から真横へと隆起した石拳は、神輿で矢を番えて踊るゴブリンアーチャーたちをバックアタック。勢い鋭いゲンコツが、担がれた神輿を射抜くように貫いた。
奇想天外、突飛なゲンコツ魔法を背後から浴びた緑の兵隊たちが、騒ぐ舞台を失くし、あれあれと巨大猪の上から飛び散っていく。
依然鼻息を『ぶーすか……ぶーすか……』とたてて眠る巨大猪は、猪語の寝言を唱えながらに失った兵隊の補充を開始。
しかし、なにもおこらず────
巨敵ビッグウリボーミコシは増援のゴブリン、ウリボーたちの召喚行動に失敗した。
「最初の【イエローカード】の忠告が効いたようだわ。浦木くん、しばらくは召喚魔法を使えないはず。今からチョキの魔力線であの猪を囲うから、描いたトライアングルの中で思いっきり決めてみて」
赤き爆炎を巻き起こす一太刀は、ゴブリン衆を紙クズのように払いのけた。相変わらずクリティカルをコツコツと昂る熱に積み上げた男は、既に準備が出来ている。登別の声を片耳に聞きながら、うなずいた。
「あぁ登別さん、じゃぁ、っておぉ!? なっ、なんだこいつ? おさかな?(燃えてる?)」
「こらっっおさかな!! 勝手に風紀を乱してはダメなの!! 燃えながらダンジョン内を徘徊するのは、ゆるしませんっっ!!!」
部長がランタンを片手に、逃げた燃えるおさかなを追いかけようとしている。
身の近くにいきなり現れたのはモンスターではなくおさかな。ピネスの周りをぐるりと何周か元気に泳ぎ、右肩の上で燃えながらその火は優雅に佇んだ。
「ぅーー……まぁいいか……。あぁー、そこの赤、白、黒なちょっと暑苦しいおさかなさん? これから俺がやる事に巻き込まれてもしらねぇぞ? ──え? はは────【バーンファイア】!!!」
ピネスは近くにすり寄って来た肌を温める火に離れるように忠告をしたが──離れず。縦にくるりと尾をゆらし一回転。ピネスにはその仕草が、元気に一度、頷いたように見えた。
燃えるおさかなさんの同意は得た。
眠る大きな猪のまわりの地には、既に魔力をはらんだ三角の切れ目が巨体を囲うように描かれた。登別海の策が着々と施されていく。
これ以上の下準備はいらない。赤く灯るショートソードを一度矢を番えるように、じわり、引き構えた。そして、ツギハギブレザーの背は前へと走り出した。
墨色の尾ひれは、ひらひらとその背を追い、共に突き進む。
幾重にも施された実戦ながらの実験は最終章へ──。ブク高の引率リーダーの手から突き出された、赤熱する刃が、巨大ターゲットへと今突き刺さる。
起爆した────赤く爆ぜるイチゲキ。
飛びかかった勇猛な緋色の剣により、引き起こされた耳をつんざく爆音は、30F大部屋での戦闘の終了を告げた。
炸裂した赤きイチゲキに、ものの見事に弾け飛んだ巨大猪モンスター。コスモスエネルギーを秩序とともに物質化し散りばめ、そこに褒美の宝が煌めく。討ち取られた魔物の残滓はケイオスエネルギーとなり、また大いなるダンジョンへと還った。
「えっエッチアイ怪我はないのです!?」
「え? あぁー、特に──ないな?」
慌ただしく寄ってきた小角。手持つ緋色のショートソードから白煙をながす背は、今きた彼女に振り返り無事だとかるく答えた。
「いきなり花火セットであそぶのは、いけないのですよ!」
小角は彼の顔に指をさして注意した。
「はっ花火セット……?(その発想はなかった、自分で言うのもだが花火どころじゃなさそうだが?) ……はは、って言われてもなー。手加減したらあのおっきな猪、起きて突っ込んでくるからさ。それにコイツもなんかやる気満々だったぞ?」
ピネスはクールダウンしてきた出しっぱなしの剣を、小角のにらむ視線に誘導され、鞘へときちんと仕舞った。
そして彼の背から元気に跳ね上がり現れた白黒赤の燃えたおさかな。現れてはぐるぐるぐるぐるピネスの周りを踊り、かと思えば今度はトモルの周りを同じように泳ぎつづけた。
「おっ、おさかなまでっ、くぬぬぅーーあっこらっっだから燃えながらあちこち徘徊はいけないのですっっまてええええ!!!」
小角は猫じゃらしであそばれた仔猫のように、不思議色に燃えるおさかなの尾を追いかけた。
「はは、それは無茶じゃね……そういういきもんだし」
「浦木くんさっきの一撃、どうだった?」
ピネスがおさかなと小角が鬼ごっこしているのを和やかに眺めていたところ、後ろから寄ってきた登別海が彼に声をかけた。
問われたピネスは、さっき放ったイチゲキの手応えを、顔の下輪郭をさすりながら考えた。
「あぁー、なんか言ってたトライアングルのチョキ属性だっけ? たしかに剣の切れ味と威力がいつもよりきゅっ!てシャープな感じで上がったと思うな?? これって、たくさんバフられたってことだよな校長風に言うと」
「そうね、バフというのかしら、さっき起こった事を纏めると。今回は浦木くんの剣にチョキ属性カウンターを付与して剣の切れ味UP、そして同じくチョキの魔力線を用い描いたトライアングル陣内にいたビッグウリボーミコシの防御をカット。それに小角部長が示現させたあの金魚型の──」
浦木幸のイチゲキにかかったバフ効果を詳らかに説明している最中、登別の耳は異変を感じた。
燃えるおさかなを追いかけて、大部屋の床を走り回っていた元気な鬼ごっこの音が、段々と、遠くに駆け降りてゆく音に変わっていく。
「あ、──小角部長と示現したこが下に」
「え、──ってまじか? あぁー……。ほんとみたいだな……」
ピネスが振り返るともう、小角灯らしき姿はそこに既に一欠片しか残されていなかった。
「神の使いがまだ闘争を求めているのかも」
「さっきので闘争は十分したかんじだが、ってそんな場合でもないな。まぁ、冷蔵庫もおさかなも何故か階段を降りたがるってことで、追うか!」
「うん、そうねっ」
ピネスは落ちていた見慣れた探偵帽を拾いあげた。他のドロップアイテムはのこして、登別海と共に地下階段の方へと急ぎ駆けて行く。
30Fの階層ボス、ビッグウリボーミコシを倒した感想戦をしていたところ。気ままに泳ぎ徘徊する燃えるおさかなを追いかけていた小角灯は、そのまま地下へとつづく階段を、鮮やかに燃え誘う尾っぽに釣られて降りていった。
訪れた思わぬダンジョントラブルも、過去に一度似たような事態を経験していた若者は慌てず、即決断。
ピンク髪の上にあるべき忘れ物の帽子を手にして、先に降りた仲間を追ってゆく。30Fから31Fへと、校長から言いつかったダンジョンクエストよりも先へと────
▼▼▼
▽▽▽
⬜︎タコイカ学習帳
《31F》
トモルはランタンの中へとおさかなを捕獲し戻すことに成功。
ピネスは大事な探偵帽をトモルの頭へと装備した。
ブク高の3人は無事合流を果たす。
ウリボー、ゴブリンナイト、newオタマフロッグを撃破しながら無難に道のりを進んでゆく。
なにごともなく31F→32Fへ。
オタマフロッグ:
宙を浮遊するお玉杓子に似たモンスター。ぷっくりとしたフォルムが可愛いからといって油断はできない。宙を泳ぎ捨て身の体当たりを仕掛けてくるので、タイミングよく攻撃を当てる必要がある。
《32F》
newゴーレムナイト、オタマフロッグの集団と中部屋にて交戦。
ピネスは硬いゴーレムナイトの自慢の石装甲ごと、クリティカルの剣で構わず砕いた。
登別海は【パー】のカードにあらたなルールを追加した。
登別海は同一カードを重ねることができるルールを追加した。
オタマフロッグは3匹で力を合わせて魔力を練り上げるも、燃えるおさかなの墨色の尾っぽに纏めてはたかれて燃やされた。
制圧した中部屋にてドロップアイテムの回収を終え──雑談【しゅぶん…きん?】を開始。
ゴーレムナイト:
ゴブリンやコボルトよりは大きい。前衛タイプで硬い防御力を誇るのが特徴だが、クリティカル攻撃にはめっぽう弱い。
オタマフロッグ:
★束になり合体魔法を使うことがある、注意。
【しゅぶん…きん?】
ピネス:なぁ、そのランタンのおさかなに名前とかつけてやらないのか?
トモル:なっ、名付けですか!? くぬぅ……ぬぬぅ……ぬぬぬぬんーんー
ピネス:ぬぬぬぬんーんー、変な名前だな?
トモル:ってちがうの!!! エッチアイ真面目にしなさいっ!!!
ピネス:わっわりぃ……(なぜかついつい)
登別海:朱文金
「「しゅぶん……きん?(三国志か?)(てっきん?もっきん?)」」
登別海:金魚の名前よ。白黒赤の色合い模様が特徴の、詳しくはないけどたぶんそうだと思うわ?
ピネス:へぇー、たしかに言われてみれば和風っぽいか? 燃えてるけど
トモル:くぬぬ異能風紀のはずが、金魚ですか?
ピネス:たしかに風紀というより風流か? あぁー、なんか心当たりないのか?
登別海:金魚は金運や子宝など縁起が良いものだと聞いたことがあるわ
トモル:こっ子宝!? そんなエッ!? ……あぁっ!!! 思い出したです! お父さんがわたしが生まれて来る前に、金魚を飼ったの!
ピネス:へぇー、それはたしかに、あっ! ゲン担ぎか? それがこいつ? ゲン担ぎが金魚の炎になってあらわれた??」
トモル:くぬ?? でもでも私はその金魚の姿をまったく見てないのですよ!
登別海:金魚の寿命は10年以上と聞くけど? それはおかしいわ、なぜ?
トモル:なぜなぜと言われたらアレです! えー……そっそうっ! その金魚さんは水槽のフタをしめずに飼っていたの! お父さんがそれで逃げちゃったって! 思い出しましたァ!
登別海:なるほど、金魚は意外にジャンプ力があると聞くわ。フタを閉めずにいたのは、金魚を飼う初心者にそれなりにトラブルとしてあることらしいわ
「「……飼ってた?」」
登別海:飼ってないわ。近所のホームセンターの水棲ペット売り場の一角で、いつかの夏休み、暇そうにしていた店員に色々とおしゃべりしたことがあったわ。話すだけで、そのときは買わなかったけど。
「「へぇー」」
登別海:あ、それと思い出したわ。金魚は降ってきた厄の身代わりになることがあるって。
「「ヤク?」」
登別海:災難、わざわい。つまり、元気な金魚がなにか部屋にただよう厄を見つけて、飛び跳ねてそのまま咥えていったのかもしれないわね?
トモル:金魚さんにそんなすごい効果が? ……くぬぬぅ(厄除けとは、ちょっと偉い風紀みたいです)
ピネス:そのときの金魚かもしれないってことか、うぉっ!? たしかにッ、勝手に次に進むぐらいにはおっと!? はは、──コイツ、元気だしな。
《32F》
雑談中の部屋に……ぷかぷかと忍ぶ影の群れ。
通路から漂い侵入しようとしたオタマフロッグの行進は、それにいち早く気づいたおさかなが、口から火を吹き縦一列に焼き尽くされた。
褒められるべき戦果を上げ、イニシエランタンの棲家に魔力と炎を補給しに戻ってきたおさかなは、トモルにとりあえず〝朱文金〟と命名された。
すると気を良くしたのか、ランタンに灯る火が、いっそう激しく光り燃え上がった。
雑談は打ち切られ、浦木幸、小角灯、朱文金、登別海はまたダンジョン32Fの探索を再開した。
⬜︎
▼
▽
⬜︎タコイカ学習帳
《37F》
【幸運の像】
トモル:くぬぬぬぬぅ~……なんでそんなに簡単に倒せちゃうんですかぁエッチアイ! この硬いゴレ山は30回ぐらい叩かないと倒せませんよぉー!
ピネス:そうは言われてもなぁ、クリティカルだし? ただの運じゃね? 俺も1回じゃいかないときはけっこうあるし、そう、まさに運?
トモル:そのクリティカルがちっとも出ませんよぉー! おみくじに当たりはないのですか! エッチアイだけずるいです!
ピネス:校長が言うには俺はツいてるらしいし、まぁそのうち……でるんじゃね? おみくじだしなっ、はは
トモル:くぬぅー明らかに興味なさげな言い方です! ぬぬぬぬぬぅ~!
ピネス:いや、んなことはないが……完全に運なものは教えようもないっつぅかな(またコボルトみたいな顔を)ってなにしてんだ?
トモル:不本意ですがっっ、とりあえず拝んでおきます!
登別海:それはいいかも、普段より幸運が舞い込みそう
ピネス:くすぐったい冗談だな……(睨みながら拝まれてる)
ダンジョンに現れた新敵にも慣れてきた。
ピネスが前衛の前衛を担当、おもに硬い装甲を持つゴーレムナイトを受け持つ。
登別海は二人を様々な異能術、ときには剣で斬り込み、ナイフを投擲し臨機応変の器用にサポート。
トモルはランタンに魔力を供給しながら、火を焚べる。リンクする魔力の炎属性エネルギーで活動し自由に泳ぐ朱文金が、オタマフロッグを元気に焼いていく。イニシエランタンの灯りはダンジョンに潜む罠の発見にも貢献し、道中を安全にみちびいた。
⬜︎
そして三人が長旅を終え迎えた……《40F ゴールデンゴーレムコンディショナーの大部屋》。
『ゴガゴガゴガ────』
不穏な音が三人の背後に鳴り響く。進入口はいつの間にやら石の壁に溶け込み、完全に閉じられた。内側のこちらからはもう後戻りできない。
闘いは既に始まっている。
⬜︎敵情報
ゴールデンゴーレムコンディショナー×1:
ゴーレムナイトの豪華大型バージョンと考えられるが、詳細は不明。胸に砲門が二つついている、注意。
ゴーレムナイト×5:
ゴーレムオタマフロッグ×8:
石色のオタマフロッグ。スピードは落ちたが硬さは上がっている。魔力を用いた攻撃かクリティカルで迎撃を。
⬜︎
わらわらと向かい来る敵の隊列へと、登別海は先制攻撃を仕掛ける。投げたカードは床に突き刺さり起動──。するとダンジョンで集めたキノコの数々が、平面ステージの上に不思議と現れた。
⬜︎登別海情報
【ホワイトカード】:
①まっさらゆえに詰め込める。
このカードを引いて使用すればカードの中に物を仕舞うことができる。
しかしそれほど多くの物、多くの重量は詰め込めない。
また1枚のホワイトカードにつき一種類のものしか詰め込むことはできない。
緒方結美の異能冷蔵庫を参考に、登別海が考案したものであるが、それよりは大きく収納力は劣る。
物を収納した場合、そのホワイトカードはもう一度使用しないかぎり失せずに手札に残る。
手札の1枚にカウントされるため、別枠でキープすることはできない。邪魔な場合はカードを異能の基礎ルールでチェンジし、また使いたくなった場合は魔力を消費して、また運よく手札に引きあてるしかない。
②仕舞う前の状況を任意で記憶する。
例えばホワイトカードに物を仕舞う前、平面床にW字に並べられたキノコがあったとする。
その状態のキノコを全て仕舞った【ホワイトカード】ならぬ性質が変化し化けた【キノコカード】を使用すると、そのさっき仕舞ったW字に並べられたキノコの整然とした状態が、カードで指定した場所に復元される。
⬜︎
「部長よてい通りに」
「わかったの、朱文金やるです!」
名を呼ばれ主人の命令にしたがった雅な金魚は、並べられたキノコのひとつへと火を吹いた。
すぐさま点火され連鎖爆発を引き起こす。W字に配列し仕掛け、効果的に爆破された【起爆キノコ】。
これまでの冒険でストックしていた秘蔵のアイテムは、その効果を如何なく発揮。ゴーレムナイトとゴーレムオタマフロッグの集団を効率良くその火力で一気に殲滅した。
「さすがに、警告一回では増援は止まらないわね」
登別海はボス戦に挑む前に事前に調整していた手札から、【イエローカード】をボス級のモンスターに対してかかげた。敵の召喚魔法による増援の出現を遅らせるためだが、一回の警告では聞き入れてくれないようだ。
巨大黄金ゴーレムは一歩、二歩、動き出し、固まっていた土汚れをひび割れ落としながら──。その元あった輝きを鈍く光らせ取り戻していく。
巨足が前へと踏み出した。大部屋を伝う地鳴りとともに、眠りから覚ますようにゴーレムの兵隊たちは召喚されていく。
高鳴り地響く戦いの緊張感に、ピネスは翠の剣を抜き、いざ巨大なシルエットへと向けて駆け出した。
▼
▽
巨大ゴーレム、その胸部砲門から炎のバルカンが魔力を圧縮され放たれる。大部屋にばら撒かれる厚い熱い飛び道具の弾幕に──
「わっ、わっ、わっ!?」
「こっちよ部長、【パー】のBSビームマント」
背部に対称に留められたバッテン印の骨飾りは、今、急速充填した魔力とともに、たおやかに広がる青白いマントを作り出した。
登別海は、はちゃめちゃと足を上げ踊る部長の前に立ち、前方に翻した魔法のビームマントで、飛んできた炎属性のバルカンを鮮やかに防いだ。
荒れる戦場の大部屋も、現在はピネスと巨敵ゴールデンゴーレムコンディショナーの2人の喧嘩状態。
股をくぐり緋色の剣でクルブシを引っ掻き、かと思えば今度は大きな腕の走路を走り、肩からひょこっと出てきた石のお玉杓子を雷撃のマジックで撃墜する。
黄金の装甲に纏わりつき、様々な攻撃をくぐりながらその黄金の牙城を砕くことに熱中するピネスは、狂人と蛮勇と勇猛の狭間で二種の剣を必死にあそばせつづけている。
あの動き出したデカブツを受け持つと彼が最初に決めた以上、持ち前のなんとなくのセンスで、攻撃を凌ぎ黄金を削り、やりくりするしかない。巨体の体内から出動し現れる小物のモンスターも雷撃に処し、必死に汗水を飛ばし頑張るしかないのだ。
そんな彼の動きを注意深く見つめる登別海とトモル部長。2人にできることは、ただ足を引っ張らず見守ること──ではなく。
彼が闘っている間にも部屋の天には既に、とても重々しい魔力が練り上げられていた。きつく、かたく、握りしめた石拳のエネルギーチャージ量は十分。
天に備えたそれを魔法というにはあまりにも────登別海は狙いをつけた特大の【グー】を、予め切れ込みを入れていたチョキの魔力線で天井から切り離した。
「エッチアイ!!! 天井注意、離れるのです!!!」
登別の代わりに大声を張り上げて、トモル部長は闘いにのめり込む前衛の彼に注意を促す。
「うおっ!? んじゃこりゃ!? んじゃ──!」
彼女の声はよく聞こえている。ピネスは翳る天からの贈り物から逃げる際に、右膝の黄金のひび割れに向けて翠のショートソードを投擲した。
練り上げた雷撃魔法の残りストックが、刺さった翠の刃から即発動。膝の一点に集中ダメージを与えて、黄金の膝装甲を削り穿った。
たまらず右膝突くゴーレムは、天から滴った逃れられない巨大グー拳を、対抗して黄金の両手を巨大なパーにひろげて受け止めた。
魔力、質量、衝突──衝撃、凄まじく。
要らない重りを持ち上げながら耐える膝突きのゴーレムは、器用にも胸部の砲門をうごかし狙いをつける。
狙うは、足と足を真横に綺麗に合わせ祈る女。足をグーのポーズに固定し、魔力をたらふく練り上げつつ佇むミントグリーン髪の小人。
この奇妙な魔法の術者、その端正なツラに向けて砲門の角度を微調整。精密操作しながらロックオンし────
朱文金は火を吹いた。
宙を燃え泳いだ胸部の前、静かに忍び寄った1匹の金魚がアシストする。口から吐き出した細い火は、砲門の口径を通り熱く注入されていく。やがて熱量を上げた内部から誘爆し、砲門ごと焼き壊した。その危険なバルカンを、グーの足で待機する術者に撃つことを許さない。
胸は焼け、不幸が連鎖するように両腕は砕ける。黄金の装甲は自己再生の能力を持てど、焼石に水、すぐにはその手で立ち上がれない。
巨大黄金はついに尻餅をつき後ろに倒れた。
そしてとどめのイチゲキが仰向けの頭に向けて、飛び上がり、舞い降りていく。
待っていたとばかりに緋色のショートソードを突き立てるニンゲン。待っていたとばかりに口から不吉な冷風を吹かせるゴーレム。
「もう風邪はひかねぇよ、免疫ってご存知かァ!!!」
危険なデバフを吹かせど、超陽気になった魔力を持つ今の彼にはさほど意味を成さない。吹く不吉な冷風の流れすら、熱し切り裂いていく緋色の刃は、今光りかがやく黄金のいただきへと届いた──
弱点部へと炸裂したクリティカル陽術【バーンファイア】。砕け散っていった黄金のほとんどが、その魔力を失い、ただの土塊へと還ってゆく。
寄り道した40F節目の一戦。登別海、小角灯、朱文金、各々の異能チカラをタイミングよく合わせ、最後は引率リーダー浦木幸の手で、階層ボスGGCを完全撃破した。
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