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白い月の光がおさまり、俺は予想通りあの部屋にいた。空気の澱んだカビくさい臭いに古そうな木の床、本棚にぎっしりと整頓された本たち。その部屋の俺の足元に開き落ちていた一冊の青い表紙の本を手に取る。

「やっぱここかーラヴあス謎の地下書庫……」

「なんで父親が本に閉じ込められてんのか意味がわかんねえよな」

「女神の涙、なんだよそのタイトル。海外出張と関係ねぇだろエロいゲーム」

「泣いてんのは塔の外にいる俺の女房と息子だとおもうよー、俺のじゃないけどさ!」

軽く愚痴ってみたもののとりあえずオジャマ島からの脱出には成功。これからどうするかだが……。俺の憶えている攻略情報通りならまたまた即バトルになりそうだ。
本来ここは主人公が来るべき裏のオマケであって、父親の俺から出て行くもんじゃないからなぁ。
何回かここには挑んだがそんなのは初めてだ、ちょっと興奮してきたな。ハハ。

「そんでぇ──おそらくのおそらく主人公が来てないってことは……」

父親は腰に差してある【白蜜】をゆっくりと鞘からすべらせ、抜刀した。
特に用の無くなったこの部屋の戸まで歩き近付き開き、薄暗い階段を息をひそめ上がっていく。
すると見えてきた光景。

教会の中、色鮮やかなステンドグラスから光が差し込んで来ている。
厳かな礼拝堂のような部屋に白い石像が3体。


(いた、いたなぁ……ひひひ)

(まずはヤツからだ)

祭壇の横の穴から盗み見るように敵の背を確認した俺は、気合いと覚悟をキメる。

(バックアタックの基本はァ)

(声を上げずに)

(速攻で)

(GO!)

ドタドタと赤い絨毯の床を踏み走り仲良く横に並んでいた白い石像たちの右の1体の方へと迫る。
足音存在感はハッキリと、白い石像たちはその存在に遅れて振り返り気付くが。

「うおおおおおお」

「【爆炎斬】【爆炎斬】【爆破斬】【爆王斬】!!!!」

石のメイスを持った白い石像天使に王のコンボをお見舞いした。
荒ぶる炎の連撃がスピードのある奇襲を受けた天使を焼き砕き巨大な爆発でシメられた。

【爆炎斬】硬直の少ない炎を纏った斬撃、初級技。
【爆破斬】中規模の炎の爆発を起こす中級技。

このエロいガバいゲーム、コンボシステムがある。
初級技、中級技、上級技の順に出すことで流れるようなコンボが可能だ。
ところがガバいので出の速い初級技を2回出せたり色々アレンジが効いて、うんガバい。
それがエロいゲームだ!

「ぐぴぴ、もってけ爆王斬!!」

王のコンボで石像天使が仰け反ったところに更にぐぴキャンによるダメ押しの巨大な炎球が盛大に振る舞われた。
石のメイスを持った白い石像の天使はその身を焼かれ光の粒へと還っていった。

「ぐぴぴフゥ、ハハハ礼拝堂燃えなくてよかったーーさすがエロいゲームガバくて偉いぞお!」

あれだけの火遊びをしたのに教会のステージは全くと言っていいほど燃えていなかった。
さすがに炎技でイチイチ燃えてちゃ主人公も俺もやってられねぇからな!
ゲーム万歳。

他の2体の石像も2度の爆王斬の巨大炎球に巻き込まれ、反撃に移る行動を阻害されていた。
そしてようやく始まった正面バトル。ここからは正攻法、白い石像の天使が大きな石の盾を持ち構え父親に接近して来た。

後ろで魔法陣を宙に築き、手を合わせ祈りのポーズをし魔法を発動する準備に入った白い女神石像。
当然この女神を守るためにナイトは連携をし飛び出して来たんだな。

「ふ、やぁナイト悪いが盾なんてナァ!! 王相手には意味がねんだよ!! 爆王斬!!」

巨大な炎球爆発が教会のステージを三度包み魔法陣を崩壊させ女神石像の詠唱を中断させる。更にナイトはその余りの威力を盾もろとも関係なく受け仰け反り父親に隙を晒してしまった。

すかさず父親はナイトの盾の及ばない無防備な側面に足を使い周り込んだ。

「ぐぴっと、ガードを開いたらァ【爆炎斬】【爆炎斬】【爆炎斬】【爆炎斬】【爆炎斬】【爆王斬】!!」

盾を持った白い天使石像は父親の電光石火のコンボで燃え尽きた。
そして光の粒へと還っていった。

「ぐぴっと、あばよナイト」

「さてあとは……」

白い女神石像。背に翼の生えた長髪、石のドレスを纏った一際美しい顔立ちの女神。
本来父親の居る隠しステージに行くためのここの門番であり白い石像3人組のボス格だ。
いきなり逆走してきた父親にはさぞ驚いただろう。

あとはこいつを倒すだけだ。ナイトを失ったこの女神はそれほど脅威じゃない。
魔法を中心に攻めてくるタイプだ、エロいゲームの魔法は邪魔されるとひどく脆い純粋な前衛である俺の方がタイマンは圧倒的に分がある。

ハリキリ白蜜で斬り込もうと思った……。

が、何やら女神石像の様子がおかしい。

魔法行使の祈りのポーズを解き、こちらにかなしげな石の表情で左手を光でも掴むかのように伸ばしている。
そんな動き見たことが……ないぞ?

「ん、こいつ……なんでか動かねぇな……」

抜刀したまま、だがその女神を何故か斬る気にはなれない。
まるで無抵抗で何かを欲している。

「この雰囲気……いやまさか」

よほどのことがない限り大丈夫だと白蜜を仕舞い────父親は女神石像の元へと訝しみながらコツコツと、歩いて行き。

「ここまで近付いてもかそんな感じか……これは」

女神石像はまだこちらを見、石の口を開いた表情で何かをいっているのか──左手を誘うように伸ばしている。
こんな女神は見たことがない、ならばゲーマーとして当然ソレを試さなきゃいけない。
俺は、その何かを欲している左手に対し、右手のひらをそっと合わせる。
ワクワクとこの先の結末をおもい笑いながら。

「ドークス」

その言葉とともにふたりの手の間に一瞬エメラルド色の光が発し、そして消えた。
ただそれだけ、一瞬。
一瞬でわかった。

「まっじっか……」

合わせた父親のおおきい手のひらと美しい敵との細いつめたい指先の手のひらは、
合わさったまま。
精巧な石の瞳がまじまじと俺を見ている。


【白い女神石像】がパーティーに加入した。








「ミーヌ」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

父親
ランク 紅炎こうえん


(初級)
【爆炎斬】
【爆回斬】
(中級)
【爆破斬】
(上級)
【爆牙斬】
【爆柱斬】
【爆王斬】

リミットメルト技
【斬波爆王斬】

ラヴメルト技
【父子爆連斬】
【桜花爆光斬】

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

白い女神石像
ランク 紅炎こうえん

ラヴ ふつう


(初級)
【アクアスナイプ】
【アクアちょーちょ】
(中級)
【アクアドルフ】
【アクアばーど】
【アクアシルド】
【アクアとーねーど】
【水鞭】
(天級)
【アクアバイバイ】
【アクアシャーチ】

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ハハハ落ち着け……。まず色々と理解したいが。
【白い女神石像】が仲間になった。
それは確かでそういうことらしいな。

ついさっきまさに進み始めたこの裏のオマケ、モンスターを仲間に出来るオマケ機能がある。
敵意の無くなったモンスターに対し【ドークス】と唱えるとパーティーに加入させることが出来る。
もっともエロいゲームだ、モンスターはエロいヒロインたちには劣る本当にオマケ要素なのだが……。

こいつは仲間にできそうで本来何故か仲間にできなかったモンスターのひとつのはず。
その美貌から一部のファンたちは色々な方法を試したが誰もその女神を仲間にすることは叶わなかった。
石像相手にそこまで必死になるのはエロいゲームの魔法なのだろうか。
父親より石像の女神を寄越せというなんとも無礼なチンポ脳の輩もいたとか……このゲームでの父親の評判って……いや言わない。

ほんとうにっイレギュラーではあるがモンスターが仲間になった!
そして【ドークス】この機能を俺もなんでか使えることが分かった。
これはかなり大きな収穫だ。
はっきり言ってこの先の先ソロで上って行くのはキツすぎるからな。
一人でなんとかなるのは主人公俺の息子ぐらいで。
王は強いが……技を見ればわかるがこいつは超脳筋タイプだからな。

色々と嬉しいこともあるが、一番の謎は、この女神石像の【ラヴ ふつう】という状態だな……。

本来仲間に出来るはずのない白い女神石像。
やはり特別なのか?
ゲーム内のドークス出来るモンスターたちにそのような項目は存在しなかったはず。
モンスターたちにエロいことはできない仕様のはずだ、エロいヒロインたちを差し置いてモンスターとヤるなんてもうオマケの枠を超えちまってるからな。
VRヘッドセットつけてシコって試すのは自由だが……別ゲーヤッて来いって話だ。
まぁ、こいつにはそれがあるんだが……。

ちなみにステータスは【ミーヌ】と唱えれば見れる。
本来ゲーム内では敵のステータスを確認するためのものだが、ガバいからか自分のステータスも見れたみたいだ感謝だぜ。
ただこのステータス自体がガバい……ランク紅炎という意味不明なステータスは……。
敵を倒すと初めは無色そして青そして赤とどんどん強さの目安ランクが上がって行くシステムなのだが、紅炎、これがこのゲームのランクMAX表記でありそれ以外のチカラやぼうぎょなどの詳細能力値を知る方法は存在しない。
ランク紅炎になっても敵を倒すと内部能力値はガンガン上がっていくようだが……。
実にプレイヤーに対し不親切過ぎるエロいガバいゲームだなぁ。
そのこだわりに意味があるのか小一時間問いたいぜ!


父親が顎に手をやり考え込んでいると、女神石像が不思議そうな顔でその顔を覗き込んでいる。
背の翼を軽くふわりと動かしたりなんとも言えない仕草をしている。

石像が不思議そうに細かく動くのはなんでかちょっとかわいいな。
父親の代わりに求めるヤツがいたのも分かるかな、ハハ。

「はぁ、お前が仲間になっちゃって俺の知らないサァ、どうなってっかわかんねぇけど……。行くか?」

フッ、と微笑む黒スーツの彼に、
彼のことをまじまじと見つめ待っていた女神石像はゆっくりと頷き、そしてこの礼拝堂を去ろうと歩き始めた父親の後について行った。
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