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「カッコ良過ぎます王……!!」

サムと女神石像はいつの間に覚えたハイタッチをし、石の板もぐるりと宙返りをし観客席は大盛り上がりだ。

第2ラウンドもまたプレイヤー山田燕慈の勝利。悪魔プカと悪魔カエデは光の粒へと還り残すは……。

「フフフ……しまった気持ち良くて勢い余ってぶっ殺しちまった、ナ……ハハ!!」

「最後まで搾り取るつもりだったんだがマァ、思ったより収穫があったなあの600年悪魔野郎。えーっと、一族は殺され鬼狂いがえとシンカイなんだっ」

突如の豪炎がプレイヤーを襲う。
大きな手の平から垂れ流されたその赤いチカラが焦げ色の地を彩った。

「うおっ!?」

悪魔カエデを倒し一瞬気を抜いていたところに眠気覚ましのような燃え盛るイチゲキ。
父親はギリギリで後方に跳躍しそれを避けた。

その大きな切長の青い眼が地に立つ小さな黒スーツを見下げ睨み。大きな口を開け、年季の入った重く響き渡る低い声を発した。

「我はアグニ」

「炎神よ我といざ尋常に勝負しろ」

「っと……。仲間われとはな!」

アグニ……RPGの炎の神様でよく出てくるやつか? 炎神と何が違う……。
炎神ではないというのに神が炎を使ってるのも気になるな。

「奴等不浄の者供など仲間ではない。力を蓄えいづれ我が炎で浄化するつもりであった」

「あいつら悪魔だぞ? じゃあ俺の味方か?」

「フははははは、笑わせてくれる貴様こそ我が全てをもって憎むべき宿敵だ炎神よ」

「だから違うっての!」

「いや間違いないその荒ぶる美しき炎。一度きり見た、夢で幾度も繰り返されたヤツと同じモノだ」

「……きっと子孫だからな! それに同じ炎使いだろそれでもヤるのか! 俺にはアンタとヤる理由が本当に見当たらないんだがな」

「フフフハ同じではない。ヤツの子孫は根絶やしにし、ヤツの妻は我が妻にしてくれよう。そして我が炎こそが全てを浄化出来ることを」

「我が炎で燃え尽きるまでは逃がしはしない、貴様のサダメ我のサダメのウツワに乗せその炎喰ろうてやろう炎神の子孫よ」

炎神の宿敵ライバル? にしちゃなんかトンデモ過激だが……敵さんはヤル気満々、ヤルしかなさそうだよな。

「神様ってフツウにえっぐいナ!」

赤肌の巨人アグニはメラメラと燃えるように笑いその威圧感のある巨躯と炎神の子孫可黒零児は向かい合った。

操作するプレイヤーの手には相棒の白蜜。今にも始まってしまいそうな第3ラウンドはそれまでの悪魔とのバトルが参考にならないことを山田燕慈は分かっていた。

目線を送る炎に仕切られた観客席に黒スーツは首を縦に振り、何かを意図する合図は送られた。



飛び交う豪炎が黒スーツを襲い続ける。

「こっちの炎は飛び道具じゃないんだぜ」

「これが我の炎だ」

コントロールされた炎の球が弾丸のように発射され、避け続けるプレイヤーを捉えた。
避けれなければ斬るそれはいつもの戦い方と変わりない、爆炎斬により相殺されたアグニの炎の弾丸。

「羨ましいね、信仰を乗り換えさせてくれないか!」

「羨ましいなど、炎神の子孫」

手の平からただ垂れ流すように放射された豪炎。
炎の質を変え相殺しづらいその炎に巨躯に近付いたプレイヤーは焼かれてしまった。

「チッ、回復してる暇がないな」

ターゲットに対し放射される豪炎を素早く横移動しながら振り切り。
跳躍。焦げ色の地を蹴り黒スーツは宙に逃れた。
そしてすぐさま、爆回斬+爆炎斬+爆王斬+ぐぴキャン+爆王斬。
不意を突き、父親が電子世界に来てから編み出した巨体相手に有効であろうコンボが決まった。
2つの巨大な爆発花火は赤肌の巨躯を呑み込み爆回斬で得た推進力でそのまま宙を滑るように着地。
巨人アグニを貫くように鮮やかな攻撃でダメージを与える事に成功した。

「これは中々だが、炎神の子孫」

「炎神の炎はこの程度ではなかったゾ」

「そりゃ所詮子孫だからってことで許してくれないか!」

「我が炎による浄化をもって許してやろう。その受け継いだ炎をもっと我に見せてみろ」

再び始まったアグニの豪炎による炎の飛び道具のフルコース。
爆王斬の硬直が解けた父親はまたアグニの繰り出すその飛び道具に対して回避行動を余儀なくされていく。

「ご先祖さんマジで何やってんの……!」

「王ーー!! 大丈夫なんですか!?」

激しい炎の攻防に心配そうな様子の言いつけ通りに待機しているパーティーメンバー。
黒スーツはチラリと一瞬観客席の方に振り返り、すぐまた前を向き直った。

まだまだはじまったばかりだ、ここで地道にダメージを稼いでおきたいぜ。思ったよりヌルいしな。

豪炎を耐え凌ぎ掻い潜り刺していくバカキャン+爆王斬によるヒットアンドアウェイ戦法により着実堅実にアグニにダメージを与えていくプレイヤー山田燕慈。

「ヌゥもうそれは飽きたぞ!!」

妙なモーションで宙を舞う黒スーツを炎を纏った右の巨拳が捉え押しつぶすように殴り飛ばした。

「ぐはァァァツ」

思わず叫んでしまった三流アニメのようなやられ声。猛スピードで焦げ色の地に突き刺さった黒スーツは砂塵にまみれながらも重い拳のイチゲキのダメージを受けた身体で起き上がった。

「イッテぇ……近距離もいけたのかよ」

「火を焚べ鍛えたのは我が炎のチカラだけではない。ヤツを燃やすには我が手でその剣をへし折り溶かし全てを喰らう、【身炎浄化乃武しんえんじょうかのぶ】ヤツの為に編み出した我が炎の一つダ」

右の拳に纏わりついていた豪炎はアグニの全身に燃え広がり、悟りを得たかのような静かな赤い炎のオーラが全身を覆った。

「……炎神さん何やってくれてんだよ……おい」

身炎浄化乃武、飛び道具だけと思われていたアグニの炎は近距離にも対応できる炎のオーラを纏った。ゲーム的な思考では単純なパワーアップだと思われる巨体に張り付いたそのエフェクト。

逃れられないであろう始まってしまった一対一の決闘で、この強大な隠しボスを討ち倒す算段はプレイヤー山田燕慈にあるのだろうか。灼熱の異界は2人の炎使いのサダメを乗せ赤々と燃え上がり続けている。



バリエーション豊かな豪炎による遠距離攻撃と身炎浄化乃武による格闘術はアグニに隙のない立ち回りを可能にしていた。一筋縄ではいかない敵に対し苦戦を強いられている父親は戦い方を変える必要があると感じていた。

「炎使いなら親戚じゃないのか!」

「我が両親は我の生まれた時に我が炎に呑まれた。フはははヤツ炎神のような狂った新参無礼者の親戚などいるものか!」

「同じ炎だろうが!」

「浄化ではないヤツの炎は我が炎とは違う。ヤツのような欲望に狂う身勝手な炎はいづれ世を破滅に導く、貴様の炎もだ炎神の子孫」

「違いがワカラネェよ! 燃えたら一緒だろうが、あと飛び道具ばっかりズルいぞ」

「フハハはは同じ事を言う。やはり我の眼に狂いはない、その炎をもっと良く見せてみろ」

父親の挑発に乗ったアグニは静かな炎、身炎浄化乃武を纏った巨躯でドスリと地を響かせながら走り迫って来た。

その時。

電子の荷から取り出されたそれは、投げ捨てられた。
炎の壁を飛び越えカツンと地を叩いたそれに、王の戦闘を見守っていたピンク髪は気付いた。

「の、ノールック合図!!」

迷いはない。戦況を見極め彼女はすぐに動いた。
無駄遣いをせずにいざという時のために取っておいたデバフにより七枝刀に溜まったカラフルな光は今、父親に受け渡された。

鮮やかに光り輝く白蜜の切っ先が再度挑発するようにアグニに向けられた。
その沸き上がるチカラにニッと男は笑みテンションを上げた。

「俺の炎、魅せてやるから逃げるなよおい!!」

荒ぶり揺らめく長い黒髭、大きく開けられた口から覗く鋭い牙。狂気を増した笑う強面は全力で走り迫りながら腕を後ろに溜めた。

「フハハはは、可炎浄化拳かえんじょうかけん!」
「フル爆王斬!!」

全身を纏っていたオーラは右の拳に一点集中されごうごうと燃え盛る巨拳右ストレートは振り下ろされ、ぶつかり合った両者の大技、拳のオーラの爆発による太い豪炎の柱といつもより気合の入った巨大な炎球が生じ絶大な威力の跡を残した。

ただでは済まない炎の渦の中この男は────。


「ぐぴっと炎神タイム!!!!」


「【爆炎斬】【爆炎斬】いくぜええアグニ!!」

カラフルに光輝く白蜜は紅い剣線を描きエフェクトがゴチャゴチャと混ざり合い全能感を得てハイになった黒スーツに振り回されていく。
身炎浄化乃武により繰り出された技を相殺し打ち勝った黒スーツの勢いは止まらない。
サムに強大なバフを譲り受けバフの恩恵を受けている間に一気に削り斬るつもりだ。

「ヌゥううううゥゥゥ」

斬り刻まれた丸太のように太い脚から放たれた蹴りに対し、それを誘っていたのか光り輝く白蜜は迎え撃つ。


「フル爆王斬!!」

巨大な炎球はアグニの脚を呑み込んだ。父親の得意技であり最大威力を誇る通常技。それは身炎浄化乃武を纏った豪炎の脚をも打ち消し吹き飛ばし。
態勢を崩したアグニに対し荒ぶる炎の追撃は止まらない。大きく上昇したステータスを乗せた爆炎斬爆破斬爆王斬のコンボはアグニの赤肌の胸を紅く焼き斬り刻み。
その怒涛の猛攻に耐えきれず不用意に足技を放ってしまったアグニはついに、ドスリ。

大きく尻餅をついてしまった。

すぐさま、炎の神様にマウントポジションを取った黒スーツに成り代わったプレイヤー山田燕慈のハイになった斬撃はもう止まらない、止まりようがない。


「俺が山田炎神だ!! 堕ちろぉォォォ」
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