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黒鞭



七枝刀

雷月らいげつ

水月みずつき

オイドブーメ

エメラルドハルバード



神器は5つ、父親が最初に指示したよりも2つ多く集まった。
蒼月家と可黒家の修行の夜から四日後、十分に英気も養われ。迎えた当日の昼。

美玲たちオカルト探偵部は当初の予定ではひっそりと自分達だけの集まりでミジュクセカイの塔へと向かうつもりであったが。

ここ水玉夏館すいぎょくかかんの一般客には開放していない豪華な和の貴賓室きひんしつにぞろぞろとやって来た見送りと称した各々の親たちとの話し合いを済ませて。

出立の時は近い。



「忘れものはないですわね」

「なつかしの駄菓子特集も猫さん特集雑誌もあります大丈夫デス! ……高鳴って来ました! 待っててください王!!」

「私も例の硬いグミを200は用意した! 念のための米粉パンもあるぬかりはない! ……たのむぞ雷月!」

「フッ、早く試したいものだな。さて、ナニが出てくるのやら。ふふ」

「別所さん私は準備」

多空たから先生、私の先生ですのよ?」

「……先生は……うん。大丈夫! 1年B組、みんな忘れものはありませんね!!」

「遠足じゃないんだ多空先生、委員長、もちろんない!」

互いを今一度確認し合い気を高め合っていくオカルト探偵部の面々。もはや1人の問題ではなく父親の一枚の紙の元、可黒美玲の元に集まったオカルト集団。短い時ではあったが己のチカラを高めながら和となり高め合いながら、不思議と相手をよく知り以前よりも深くつながり合った。



「おーい待て」

金髪の女は大きな巾着袋を引っ提げて臙脂色の制服を纏った美玲に歩み寄った。

「なんだ、あ黒柳、さん?」

「さん呼びだったっけおまえ? まいいや美玲おまえ、しばらく暇なんだろ? 本ぐらいどうかなって思ってさ。お前訳の分からない本とか好きだったろ、あと訳の分からない石も昔私が集めたやつだ、お下がりだけどやるよ」

黒柳は手荷物を受け渡すとさいごに小さな黒紫色の巾着袋をじゃらっと音をたてながら美玲へと手渡した。

「あ、あぁ。暇とかそんなの全然考えてなかったな……ありがとう黒柳! さん!」

「サンはサン様だ、可黒美玲」

黒柳の裏からひょこっと現れたホワイトブロンドの少女。そして片手に持った三角錐を、ばちりと、美玲の両手の受け皿にのせた。

「これは?」

「サン様のてづくりオルゴナイト、可黒美玲おもってつくるチカラにナル」

「……大事にします!」

「うん、可黒美玲、オルゴナイト大事」

見つめ合った湖のように澄んだ目は満足気に口角を上げ微笑み頷いた。

「美玲くんミツミちゃんはああああ」

「……さて、サン様ありがとう、黒柳も、古井戸にはしばらく帰れないだろうけど……きっと帰る!」

「そうだな人生も占いも前向きが1番だ、よしッ美玲おかしな古井戸にまた帰って来い! ま、おまえに巻き込まれてからがイチバンおかしいんだけどな! ついてないぜったく」

「可黒美玲、オルゴナイトファイト」

「あぁ!」

受け取ったオルゴナイト。太陽のように浮かぶオレンジの石とかがやくエメラルドの地、透明な三角の空はつながりどこまでも広がり。

待っていてくれ父さん、いや俺なんかを待ってくれなくてもいいそこまで追いついてみせる。今度は俺が父さんのチカラになる、いつまでも鬱々なんてしないっ俺の番だ! 訳の分からなかったおかしな古井戸も、これからみんなで挑むミジュクセカイの塔も……見透かしたようなあの男も!

意志の強い黒い瞳、オカルト探偵部のリーダー可黒美玲に集まる視線の色を見返していく。

出立の時は近い。エメラルドに光りかがやく矛を握りしめて。



6人は、貴賓室から連なる大きな庭園に集まり。

各々は神器を手に持ち。大量の荷物は美玲とサム、透蘭の電子の荷へと仕舞われていった。

石の景、水の景、広がる緑の地。太陽が照らす手入れされた美しい広々とした日本庭園。未知なる戦いを挑む6人に対しこれ以上ない古井戸のさいごのおもてなし。

和の情景をもって和をなす。集まった6人は立ち止まり密となり。

あとは全員の気持ちをととのえ最後の合言葉を言うだけであった。

「行きますわよ!」

「あぁ、何が出てきてもこの刀で斬り伏せる!」

「準備最高の万端、王子サムはいつでもデス!!」

「みんな、はぐれないように念のため隣の人の服をしっかりつかんでいてください!」

「フッ、結束というのも懐かしい感じがして悪くはないが、問題は本当に幻想の世界があるのかどうかだ美玲」

「……あるさ。幻想でも夢でも、神器はここにある! いきなりあっちで襲われないようにだけ注意しよう! オカルト探偵部、イクゾォォ!!!!」



「「「「「「カミュラ」」」」」」



右手に神器を持ち左手で隣を掴む、そうして和になり円陣を組んだオカルト探偵部のメンバー達は息を合わせてミジュクセカイの塔への合言葉を叫んだ。

6人にふつふつと湧き上がる白は、天へと舞い上がっていき。太陽の光とも違うまばゆく辺りに幻想的に広がっていく白。

やがてそれは地から天へとどこまでも伸びていき、オカルト探偵部の6人は白い光の柱に呑み込まれていった。

6人がいたはずのその場にはもう何もなく、古井戸の地からミジュクセカイの塔へとセカイと記憶そのラグを通り抜けていった。



▼▼▼
▽▽▽



▼はじまりの1▼

白い光が明ける、視界に舞い落ちる銀の花吹雪に歓迎された6人。スタート地点である銀の木の下に予想通りに転送されていた。

「フ、ここが可黒零児の待っている塔か」

「王、王子、戻って来れました!!」

「これは現実なのか……」

「まさに夢の……オカルトの中ですわね」

「来れた! ……みたいね。あっ全員……はぐれてはいませんね?」

「フ、あまり心配しすぎるな先生、まだゲームは始まったばかりだ」

「……アートル」

そう唱えると美玲の右手は緑に染まるよう光り黄色い矢印が現在位置を示したマップになり、青く光る左手を握り開き指の腹に書かれた白い字は。

「これがマップと重要アイテム……父さんの言ったとおり本当にゲームみたいだ」

「アートル! ……そうみたいですわね……!」

互いの手のひらを見せ合う臙脂色の制服の2人。他のメンバーにはない特別なチカラを使えるもの同士、白い字で書かれたアイテムや重要物を確認していく。



ホワイトソード
ブラックソード
レモンレモンスカッシュ天然水
ナビ
ラストピース:アオ



「ホワイトソード、ブラックソードあった父さんの情報通り」

「情報通りに情報にないものもありますわ。可黒美玲、とりあえずここから移動すべきではなくて?」

花の散った銀の木の下にいる6人。各々は周辺を見渡し状況を確認していく。天は薄暗く、地の石畳はところどころ崩れ剥がれ荒廃した有様であった。瓦礫の山や家の残骸、まるで滅びた西洋風の街中にいるようであった。

「フ、廃墟か?」

「……進もう! もうはじまっている」

「あぁ!」

「ハイです! 5000階ですから1階なんかでじっとしていられません!」

「そうだなサム! よぉし先ずは1000だ!」

「焦りは禁物でしてよ」

「フ、人間だ。焦るぐらいがちょうど良い今のうちにあせっておけ別所」

「なんでしてそれは……」

「みんな足元には気をつけて!」

「足元より、オカルト探偵部なら怪異に気をつけるべきっ多空先生!」

「まかせろ可黒、なんであれ出てきたら斬る!」

武器を手に取り廃墟の中を進んでいく。高揚感を握りしめエメラルドハルバードを握りしめ、不思議と笑みがこぼれていた。



エメラルドハルバードを握った臙脂色の背は突貫した。

どこかで見たことのあった怪異たち、カエルの群れはイチゲキ一死、炎の技に斬り裂かれ、宙を舞った巨大フクロウにはロックオンしたハルバードが緑の軌跡を描き追尾し突き刺さり標的を黒炎の爆発にて燃やし尽くす、光の粒は次々と泡立ち。

フクロウを光へと還し地面に突き刺さったエメラルドハルバードはぶわりと消えて、遠く離れた美玲の手の元へと再び握られた。

爆炎翠ばくえんすい
ターゲットを追尾したエメラルドハルバードが刺さり黒炎の爆発を産む。その技は父親も知らない、美玲の生み出したオリジナルの技であった。

アートルを駆使しいちはやく敵を見つけ出し暴れ回った可黒美玲。仲間たちが彼に駆け寄ったときにはもう終わっていた。

「何をやっている美玲」

「お見事です王子!」

「可黒! 見つけたなら私に!」

「ふぅ……父さんの情報通り大した敵じゃないみたいだ、別れてアイテムを回収していこう」

「戦力分散は危険でしてよ可黒美玲?」

「ゲームみたいにステータスがあるなら今のうちに別れてレベル上げした方が効率が良いはずだ委員長」

「フフ、私も同意見だな。美玲、数は数えられるな?」

「遊びじゃないんで、数えるのに夢中で死んだら0ですよ……」

「お前は自分には甘いな、自分だけ愉しんで終わるつもりか、フフ」

ガヤガヤと騒ぎ出したケイコと蒼月、アレなら自分でもヤレると言わんばかりに美玲の戦い様を見てうずうずと湧き上がってきた闘志。はやくこのチカラをこの場で試してみたいと既に武器を握りしめていた。









可黒美玲
サム
蒼月霞



別所透蘭
ケイコ
宝光




美玲の単独行動から落ち着きを取り戻した一行は多数の同意を得た意見にしたがい二手に分かれることにした。美玲と透蘭にしか使えないパーティー機能を使い出来上がった2組。

「……では、当初の予定通りこの2組のパーティーでとりあえずよろしくて?」

「あぁ、それでいい委員長。じゃあ早速行動に移ろう」

「ハイ王子! パパッとやっつけちゃいましょう!」

「サムは手を出さないでくれよ!」

「ええ!?」

「出会ったときから私や可黒より強いのは分かっている……正直冷や汗をかいたものだ」

「フフ、ピンク髪貴様が可黒零児の強さの目安ということだな。トロそうなのも演技か?」

「サムさん、私にも分かりました。届かない程の実力、自力の差を」

「え!? 待ってください私は王に鍛えられただけです!」

「ほぉ、ココで鍛えれば鈍臭そうなお前でもそこまで化け物じみ強くなれるということだ。行くぞ別所、光! 美玲、蒼月、勝負だ分かったな!」

「いいだろうケイコ受けて立つ! 可黒行くぞ!」

「はぁ……まぁ、両手ぐらいの数は付き合ってあげますよ!」

「待ちなさいアイテムはしっかり回収するのでして! その上で可黒美玲勝負ごとなら負けませんわ!」

「オカルト探偵部、顧問として…………生徒には負けられない!」

「ま待ってください王子!」

2組のパーティーは廃墟のなかおおまかな左右別方向に分かれてアートルの地図と目視をたよりに敵を探索していくことにした。

自信に満ち溢れているオカルト探偵部の面々は今か今かとばかりにギュッと各々の武器を握りしめている。この場にモンスター相手に怯え怖気付くようなメンバーはいない。

オカルト探偵部オカルト集団は戦士となるため。
1枚の紙に書かれたこのセカイの己の知識、まだまだ秘めていると分かっているそのチカラを磨くため。

ミジュクセカイの塔、先ずは1階の攻略を迅速に開始した。



もっとだ、もっと上がある! 父さん俺だってこの程度なら飛ばしていくぜ? 思っていた以上にヤレるんだ! 思っているよりももっと速く、俺はなんにでも成長してみせる! エメラルドハルバードは最強だ父さん!!!!

「可黒、獲物だ今度は私にヤラせろ!!」

「速いモノ勝ちだ! 遅いよ先輩!」
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