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▼888階 盃の中の大海特盛パイレーツ▼

わちゃわちゃと種類豊富なモンスターを搭載した海賊船は少し曇り空の玩具の港に乗り上げようとやってきている。そこに素早い影が一人飛び込み────



「おいあれはなんだとおもう蒼月」

「パパも言っていたその器可黒の父親以上であると……信じられないくらいの速さで成長しているように見えるあの炎は」

「フフ、あの可黒美玲が自らの炎をあやつるか……。病弱だったのが嘘のようにまるで物語の主人公だな」

「いやそもそも炎だけじゃない、私はアイツがとても……そう主人公のように見える!」

「なんだ私の発言を引用して? ふふ私にはまだまだつい先日までおしめをこの手で替えていたガキだがな」

「おしめ!?」



海賊船から湧き出てくるモンスターたちに食らいつく黒髪の宴陣学園の制服を纏った男子生徒がいる。

「爆炎斬! 爆炎斬! 爆連斬! 爆連斬! サン弾! 爆炎雷斬! サン弾! 爆連斬! 爆連斬! ──構築ロックフレア! 爆炎翠!」

いきなり斬り込み止まらない炎の連撃が武器を手持つ青海老船員を豪快に袈裟斬りホタテ船員を殻ごと叩き斬り鮮やかな紅い炎で焼いていく。
隙をサン弾で繋ぎ勢いそのまま跳躍、炎と雷を纏った試作斬はのっそりとしていたデッカch@n人形(海賊巨人ver.)の眉間を貫きイチゲキで粉砕。
更にテンションは加速していく荒ぶる炎を甲板を踊りまわりながら構築を短縮した中級魔法ロックフレアの赤熱石は甲板に容赦なく落とされ、
投げ捨てられたメインウェポンから特別な黒い炎が爆発した。



港に跳び戻り一息休憩、全力を試し失ったまりょくを補充。


「ぷはぁっまだだ、良くなってきたけどまだ先がありそうだ! 可黒美玲はあの日を超える! 俺のこのチカラは! まだまだ熱くなれる!」


海賊船一隻ごとを屠ったその炎のコンボ。
父親の教え通りだけではない自らの感覚と照らし合わせてアレンジしてきたその強さ。

ビュッと戻ってきた鍛錬用の白い剣を掲げた右手に受け止めた。



遠くからぽつぽつとその炎の始終を手を出さずに見学していたもう一方の女性たち。
金髪ドリルをあそばせながらじっくりと観ていたものの、両手を横に広げてやれやれといった態度で一息。

「可黒美玲毎回無茶をしすぎですわ」

「チカラを振るう程成長する時期がある……。可黒くんも別所さんもみんな伸び盛り。先生もここに来てから……可黒くんがあんな顔をしているのも分かります」

眼鏡を外した姿の多空先生にはまだ慣れていない、綺麗になった先生の光り輝く眼に透蘭はまたひとつやれやれと。

「はぁ、それは私もそうですわ先生。日々オカルト探偵部としてオカルトのチカラがついてきたのを実感します。ですが可黒美玲、やっと彼の世界が合致したかのような……あのはしゃぎようですとそんな気がしますわ。でもこのメチャクチャも不思議と私の片隅にあったイメージにも合致してきましたわ、はぁ」

多空先生はその生徒別所透蘭の発言にくすりと微笑った。そしてまた遠目に映る彼の方を向いている。

「彼は若いそれでいいと思う、先生はこの神座で後ろから彼を支えてあげること。それが正解な気がする、成長する喜びを止めたくない」

多空先生はどこを向いているのか、真っすぐに彼の方を向いている。

不思議なものですわね私のこの頃の人生も彼に振り回されてばかりのようですわ、
巻き込まれたこれがデスティニーで白馬の王子とは思いませんわ、可黒美玲はずっとどこか情けないその方が可黒美玲ですもん。
ワタシ別所透蘭の完璧には程遠いですわね、ふっ。

「まったく先生が夢を重ね見る少女のようですわ」

「え! せせんせいは」

生徒に急に置かれたひとことに、先生は急造した謎のかわいいファイティングポーズで身を縮めたじろいでしまった。
その様もまた、先生っぽくなく生徒にかるく笑われてしまい。

「ふっ来ましたわよ! 可黒美玲勝手なお試しはそこまでよ約束通りに今度は私たちにやらせなさい! あなた一人だけ強くなってもこの先どうにもなりませんわ! アレぐらいこの全属性持ちの別所透蘭が出来ないとでも! ──魔法陣構築フレアボルトブーメ!」



負けじと炎雷を纏った別所透蘭オリジナルの魔法ブーメが海上に投げ放たれた。
次にやってきた何隻ものモンスター船団に各々神器を手に取りヤル気は十分。
伸び盛りなのは彼だけではない、

「サムスペシャ!」
「あなたはそこで待機でしてよ!」

「え!? うぅ王子……」

「サム、パーティープレイをよろしくたのむよ」

「はハイ……って王子が!?」


オカルト探偵部オカルト集団はまだまだその底知れない器で成長していく。



▼▼▼
▽▽▽



初めての海戦も終わり、先生の提案で今日は焚火を囲んだ。
美玲のチカラで薪に灯り燃え盛った炎はパーティー皆のカラダを芯から温めていく。
ぼーっとソレを見つめて囲んだり、手をかざしたり、
焼き上がった魚をいただく。

彼らの話し合うことといえば、もっぱらこのミジュクセカイの塔の事、そして自身の他者のチカラの成長具合の事、火の傍から少し離れたポニーテールスタイルにした別所透蘭は赤い表紙のタコイカ学習帳にコピー書きした攻略情報の一部を再確認していった。


「ホワイトソードとブラックソード。可黒美玲のお父様によるとこれで戦うと本来とは別に加算される成長値というものがあるのですわね」

「現在+578この鍛錬の成果がそのまま反映されるというのだから、無視は出来ないな! 可黒パパめいいものを!」

黒い剣を持ちうんうんと日々の鍛錬成果を青髪の女剣士はうれしそうに噛みしめながら、またシャツ一枚で素振りを再開した。

「次そっち貸してくれ」

「何を言っている可黒?」

白い剣を手に、うん、とその柄を鍛錬中の霞に手渡すように近寄ってきた美玲。

「これぐらい怪異を斬ってたらあっという間だよ先輩、ケイコさん。宿題は今のうちにやってかないと子春みたいって言われるからさ!」

「宿題だと可黒! こ、コハル……」

「フフ、やはりただの可黒美玲か。よし美玲なら私と勝負してからにしろ」

ケイコは左で指差しいきなり美玲に勝負を指名した。
いきなりのことでもいつもの事であり、イヤそうな顔を浮かべて……含み笑うケイコに対して襟足をかき苦笑った。

「またかよ泣いても知りませんよ? ケイコ警部」

「ふふ悪魔やチンピラにびびり倒していたお前が偉そうだな」

「あの時は炎も武器もありませんでしたし、ナシでしょ! で、どうしますいつもの?」

「あぁ、いつも通り三発当てた方が勝ちだ女性に石は投げるなよ」

「ケイコさんの場合アンフェアを強いる脅しにしか聴こえないんですけど……」


港の広場へと移り、訓練用の木刀と鞭それぞれを手にした。
大人と子供のアソビにパーティーメンバーたちの注目が集まる。

こうして一日一日着実にお互いを高め合い以前よりも深くつながる関係性がある。
そしてまた父親たちと彼らの行く末が結びつく日もそう遠くはない。


「ちょっとなんでフツウに技使ってんだ!」

「オマエも使ったな、よし!」

「良くないぞおお! 爆連斬!」
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