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シルバー勃起シチュー

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ピカピカとうるさい魔法を連発しすぎてMPが切れたのか、防御をガチガチに固め耐え抜いた激闘の末にあっさりと十亀亀太郎は勝利を手にしていた。

見事ざっくん親衛隊のひとりをまた返り討ちにし生殺与奪の権を握ってしまったはいいものの、

美少女を痛めつける趣味はない。客観的視点から見た絵面的にも、ロリ気味ならなおさら。なのでこうした、俺はガチガチの最適解を選んでいるだけである。ガチガチにリセマラした結果であり、ガチガチに女体を縛ったのは趣味ではない。
コイツつよいシバル──としないと、この世界はやってくる女がどれも火力と殺意が高く危険なのである。


「まさか全属性が効かない。そんな示現獣いるの」

「いるんじゃないかー? じげんじゅう──じげんじゅうってなに」

「示現する獣のことよ」

「はーーん。おそらくすね毛ほどもせつめいできてないぞ、はは、まなんでもいいが」

美少女とちちくり合った者は数多くいれど、クール系ちっさ美少女と全属性魔法じゃんけんをゼリーに包まれながらキメたのはこの俺十亀亀太郎ぐらいだろう。

とりあえず無力化。(ガチガチに)両手両足を縛った銀髪ロリエンジェルは俺を澄まし顔の上目遣いで見つめている。

時限だか時間だかしらねぇが、こんなもんおそらく召喚獣くらいのテンプレ認識と変わらないだろう。

細かいことはどうでもいい。偉そうなじじいの杖を奪った俺はこのゼリーウィップに縛られた銀髪オッドアイエンジェルをどう料理するか考えている。

実はというと俺はここからの展開を用意していない。

ただただ、暇な時間を共有して見つめ合っている。


「へんたい」


ぼそり耳に入ったその瞬間俺の中の何かが爆発した。
だがここで面を食らっているようでは、十亀亀太郎ではない。クールな塩顔イケメン十亀亀太郎はきっと目の前の澄まし顔を真似してこう言うだろう。

「へんたいじゃない」

「へんたい」

小爆発。再度、へんたいと呼ばれることに成功した。
──ほらね?
正直心臓はトブようによろこんでいるが、十亀亀太郎はへんたいじゃないのでここでボロを見せない。

「じゃなっシルバーパイン。ざっくんによろしく、もう追いかけてくんじゃねぇぞってな」

俺はへんたいじゃなく、ぜんたーーいまわれっ右っ! で背を見せそのまま何かを喋りその場を去った。


オッドアイの見つめる背が遠くなっていく、チラリノッポは振り返る──また遠くなっていく。


縛り体育座りで放置された銀髪の少女は、


「────へんたい? ……」



放置プレイという概念を知らず、牧歌的な風景にひとり置き去りにされ盛大に味わわされている。








砂の国トルメキの円形劇場コロシアムにて、第100回目になる炎神杯のトーナメント戦が依然なにごともなく開催中である。

英雄の子孫であるザク・ザブレイドは、現在イケメンがしてはいけない腫れたツラになったため、旅仲間のエママ・マーズに看病されながらベッドに横になりぼーっと夢のような敗戦を噛み締めていた。

そんな英雄の子孫の敗北も、エンターテイメントの一部でスパイスに過ぎない。
賓客席で眺めていたお偉い貴族や王族、それに彼に小金、大金を賭けていた民たち。
失望、失態、失恋、失意。失ったものさえまた次の熱狂の中に呑まれていく。

しかし、流れる涙はまだかわかず────


⬜︎炎神杯二回戦第六試合
万年3位の剣客 ミヤモト・ムササビ vs 不気味ノッポ トガメ・カメタロウ


「英雄の子孫を破ったという不気味ノッポのトガメ・カメタロウ。くっくっく……さてどんな不気味な戦いを魅せてくれる……」




「っていつまでこなあああああいトガメカメタロおおおおおお!!!」



コロシアムの中心で鎮座し、いつまで待って叫んでもソイツは来ない。


ミヤモト・ムササビは虚空に剣をやらためったら振り、待たされたストレスをすこし発散した。








「へくちっ…」

「すまねぇ、性格のいい図書委員のメガネちゃんみたいなくしゃみが出ちまった」


さてこいつらさっきから。

順調に生い茂り緑化しつつある広大な地に、物騒な刺されたらヤバそうな注射針の尾を持つイヌっぽいモンスターがいっぴき…にひき…数えきれねぇ。

「ハイエナースの群れね、他の獣が去るのをおいしそうに待っていたのね」

ちらっとノッポをいつもの上目遣いで睨む──
三角座りでちょこんと、ゼリーの触手に縛られたままいる銀髪のアレがいる。
人間のもつ偉大な良心から…銀髪ロリが大事そうにもっていた俺が勢いで借りパクしちまったじじいの杖を返すために、来た道を引き返してきてしまった俺は、何故かハイエナースとかいうしゃれた名前のワンちゃんに絶賛囲まれて絡まれている。
この世界初の野良モンスターとエンカウントしちまった、そこそこのピンチなんだろう。

「まじかーナースっていう割には優しそうにはみえねぇな、こいつら噛む? 刺す治す?」

「噛むし刺すし治す。生身より示現獣を示現した方がいい」

「はぁー課金装備で一方的に殴るっつーのは好みのファイトスタイルじゃないんだが、──〝トロピカルパープルスラっあじゃなくてゼリー〟やっちまうか──お前なんでも出てくんな、はは──んじゃ【トロピカルぱぷるパーティー】」

不気味ノッポのナカから示現した防御型示現獣〝トロピカルパープルゼリー〟は操る男のチカラでその触手を本来の実力より増やし、連携し襲いかかってきたハイエナースの群れに伸びて向かっていった────。




▼▼▼
▽▽▽




やはりリセマラは偉大、十亀亀太郎&トロピカルパープルゼリーは普通にハイエナースの群れを各違いの通常触手こうげきで撃破した。
その後俺は何事もなかったかのように西へと向かった。とにかく一度この世界における俺十亀亀太郎の存在のリセットをはかりたい。中学卒業後に今までの交友関係をぷつりぷつりと何故か吟味して全部切っちまうアレだ。俺という強烈でうっすいイケメンの呪縛から友を解放してやるのだ。

──要は我が永遠のチュートリアルライバルであるざっくんの呪いをとっとと振り払って気ままに旅をしたい、十亀亀太郎は。もうあいつとは終わったんだ、うん、ざっくんとは、うん。


西へと向かい大したエンカウントもなく進み、曇り空模様はふつうに一層と暗くなってきた。

足がマッチ棒になりつつある俺はここらで今日はもうこの見知らぬ世界をセーブして休むために、野宿と飯の準備を始めていた。


今夜はシチューだ。俺の好きな料理はどうもシチューであるらしい。男でカレーが好きとプロフィールに書くものは多いだろう、だが俺はシチュー。なぜか猛烈にシチューなのだ、俺の舌は。

何故こんなにシチューなのかはわからない。
そしてできた、十亀印のクリームシチュー。

さぁ、いただき──




なんかついてきてるんだよな。お勝手に、

あの白のワンピース一枚じゃすーすー寒いだろうに俺もタンクトップだ──まぁ半生呪いの黒タンクトップを装備している俺だ、常にタンクトップギア状態といえる俺はどうやら発動しているパッシブスキルで両肩がそこまで寒くなることはないようだ。
わかった──シチューだ。
タンクトップに熱々シチュー、ほっしていた謎は解けた。

「やっぱ旨いなこのシチュー、前の世界で7万課金して×999ストックしていてよかったな」

「ほんとうね、すこし濃いわ」

「待てミステリー、なぜこのシチューは妙に減りが早いのだ」

「パンには合うわ、海老はいらないわ」

「直パンはやめなさいと死んだ両親によく咎められていた」

「海老、いらないわ」

「おいシチュー泥棒の直パンマン」






自慢のシチュー鍋をベタベタと銀髪ロリエンジェルが持参した6枚切り食パンにディップされてしまった俺は、腹をそこそこ満たしたあと野宿の準備でテントを立てはじめた。

といっても引き継ぎ特典のテントカードなるものがあるのでせっかくなのでこれを使うことにした。

ぼふっ──

クールに投げ捨て地に刺さったカードはコミカルな音と煙る演出で、ただの紙ペラから立派な緑亀の甲羅を模した良いテントへと化けた。

「さて、セーブるか」

俺はちらりとあちらの野営設備へと目をやった。

あの若干借りパクしていたじじいの杖を景気良く大地にブッ刺し、そこらで拾ったであろうじじいの杖と同じぐらいの長さの木の棒を間隔を開けてブッ刺しーの、そこに謎布をくくりつけ船のマストのように張り吹く風の方向を見極め、風除けにし銀髪ロリエンジェルが寒そうに体育座りをしている。


この世界はシチューもなけりゃ、慈悲もねぇ他人の鍋に直パンが当たり前の世界なのかもしれない。

俺はなにも見なかったことにし自分の廃課金寝床で眠りについた。



▼▼
▽▽



⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
俺の名前は十亀亀太郎。塩顔イケメンのがいね
なんだプロデューサー?
え、今月うまく課金できなくてごめんね?
──格好つけても金が減るだけだぞ。
なんだプロデューサー?
石、増やしといたぞプロデューサー
シチューはやっぱり…あ、なんだ? あんたも海老をぬけって? ──三万課金したらかんがえてやる

⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎

⬜︎⬜︎

⬜︎


寒さをあたたかくしのぐ高級亀テント内で夢見ごごち────十亀亀太郎はすーすーと軽くなったかんかくに目が覚めた。


何かとてつもな…うっさぶ──

なんだよ、俺の毛布が幽体離脱しちまったか。たまにあるんだよな、布団おさえる器具を百均で売ってくれ。──こうやって発明家はうまれ──


「なんでいんだ」

俺の出たひとことはそれ。
懐に潜り込んでいた小動物に毛布を7割ほどもってかれている。

腹っかわだけやけに生暖かいのだ。
懐におさまる銀色のさらさらがもじもじとうごき、横寝しながらも若干丸まり見下ろす俺の顔を上目遣いで見つめている。
その黄と緑のオッドアイをムーディーな豆電の照明にかがやかせ、桜色のくちびるをぼそりとうごかした。

「へんたい」

ヤツの出たひとことはこれ。
ドクンと跳ねたのはその辺の蛙なので気にしない。
この状況証拠で俺がへんたいだと言うのならば、それでも俺はヤってないなかんじの長編映画を俺監督で一本つくれちまうがお覚悟はよろしいか。

「へんたいじゃない。状況その①十亀亀太郎はへんたいしておらず、十亀亀太郎はシルバーパインにへんたいされている」

「わたしはシルバーパインじゃないわカメタロウ、一文字も合ってないわカメタロウ」

「俺も9割カメタロウではない、ほぼキタロウだ」

「つまらないわ」

「無課金だとこの会話パターンしかパイタッチしてもでないんだ、すまぬ」

「あなた訳がわからないわ」

「気にすんな、俺もだ」

「なんで勃起しているの」

「気にすんな、俺もだ」


勃起しているとは限らない。リセマラで鍛えられた頑強な精神をもつ十亀亀太郎は主人公十亀亀太郎であるが故に、ぼっと出のじゃっかんのぬくもりを放つ銀髪ロリエンジェルには屈しないからだ。


俺をまもっていた毛布はずるりとのこり3割のゲージを奪い取られ、この世界を攻略するために先ずは全裸で寝てステータスに変化がないか実験していた俺は──勃起していた。
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