1 / 39
1話 極道アルファ
しおりを挟む
目が覚めたら、見知らぬ部屋のベッドの上に転がっていた。
────ここは、どこだ? それに、オレはいったい……
状況を確認するために、身体を起こしてあたりを見回す。
オレが寝ていたのは、ラグジュアリーな空間の中にある、無駄に広く大きなベッドだった。黒とピンクの煽情的な色合いの壁に埋め込まれた大きなテレビがすぐに視界に入る。ベッドの上で動画を楽しむためにこの位置にあるのだろう。
ベッドサイドにあった照明を操作するパネルで、日時を確認する。その隣にはこれ見よがしにコンドームが置いてあった。こんなところに自ら足を運んだ記憶はないが、ここがどういった場所であるかはそれで察することができた。
ベッドから降りて隣の部屋に移動すると、そこはリビングスペースだった。大きなソファの前にあるローテーブルの上にはメニュー表。そこに描かれているロゴには見覚えがある。都内にある高級ラブホテルのものだ。
そしてメニュー表の隣にはウェルカムドリンクなのか、ワインボトルが置いてあった。よく見ると中身が半分ほど減っている。さらにその近くには何かの薬の残骸が大量に転がっていた。
────これを飲んだのは、誰だ?
残骸のひとつを手に取ってみたものの、見たことのないものだった。パッケージには有名な国内製薬メーカーの名前が書いてある。その情報に偽りがなければ、違法な薬ではないようだが……
頭を押さえながら、直近の記憶を探る。
そうだ、オレは借金持ちのオメガをアイツに売ったんだ。
オレ────八剱斗環は、八剱組の跡取りアルファだ。親父がまだ現役なので組の仕事には直接関わらず、系列の金融機関でオメガ相手に金を貸す仕事をしている。
この国でオメガに生まれたら最悪だ。
10人に1人いると言われているオメガは、発情期がある所為で社会的身分は低く、進学や就職で不利になる。故に生活苦に陥りやすい。
そこでオレたちが金を貸してやるのだ。番の居ないオメガはまともな金融機関から金を借りることができない。何故なら、番が居ないというだけで返済能力がないとみなされるからだ。だから金に困ったオメガは闇金高利貸しみたいなところから借りるしかない。
うちは『オメガに優しい金融機関』をキャッチフレーズにしている。返済期間も他より長めだ。その分、ちょいとばかり利息は高めに設定されているが。
でも大丈夫。万が一、返済が滞っても、次の仕事の斡旋体制は整っている。オメガは見目が良い者が多いので、夜の街で重宝されるのだ。
返済が一定期間滞った客を、オレは相神崇春に売る。相神は同じ組の所属で、高級ソープを経営している。だけどその裏では、非合法な風俗店を営んでいるという噂がある。オレの客をいつも高値で買い取るので、そいつらを使って相当悪いコトでもして儲けているのだろう。
オレと相神は、同じ中学出身でクラスも一緒だった。
中学の頃の相神は地味な存在だった。だけど頭は良くて、高校は進学校に行ったと記憶している。つまり、少なくともその頃の相神はカタギだったはずだ。それが何を思ってこんな世界に飛び込んだのか。まぁ、そんなことはオレは知ったことではない。
歳が同じというだけでなく、オレも相神もアルファだということもあって、何かと比べられることが多い。組に収める上納金だってだいたい同じくらいで、抜かしたり抜かされたりを繰り返している。
正直、元カタギの同級生なんてあまり積極的に関わりを持ちたいとは思っていないが、相神のところがオメガを一番高く捌けるから、とくに見目の良いオメガは相神に売らざるを得ない。他のところに売るとオレのシノギが大幅に減ってしまうのだ。
しかも、鬱陶しいことに相神のほうからオレに色々絡んでくることも多い。それがまた、だいたいオレの利益になるようなことばかりだから無下にすることもできず、腹立たしい。
そんなこんながあって、オレにとって相神はライバルというか、とにかく気に食わない相手だ。
その相神にオメガを売ってからの記憶が飛んでいる。
先程日付を確認したが、どうやらオレには丸1日分の記憶がないようだ。
確か今日はこの後、組の幹部と会う約束をしていたはずだ。
何故オレが今こんなところに居るのかはよくわからないが、とにかく何があったとしても時間通り待ち合わせ場所に行かなければならない。その前に、一度事務所に寄って状況を確認する必要があるだろう。
まずは身支度をしようと洗面所に行って、顔を洗った。そして顔を上げて鏡を見た瞬間、オレは目を見開いた。
「────は?」
鏡に映る姿は、自分のものではなかった。
大きな瞳に、すっきりとした鼻立ち。色白の肌に色素の薄い髪。首にはチョーカーが巻かれている。
恐る恐る手を自分の頬に当てると、鏡の中の人物も頬に触れた。眉を顰めると、鏡の中の人物も自分と同じ動きをする。やはり鏡に映っているのは自分らしい。
その人物には心当たりがあった。
琴宮睦和。
オレが相神に売ったばかりのオメガだ。
琴宮は売れない絵描きだった。生活苦から借金をしたものの、借りた金が返せず、オレに売られた。琴宮は見た目が良いだけでなく処女だったので、なかなかいい値段がついた。
だけど────
「……なんでオレがオメガなんかに?」
────ここは、どこだ? それに、オレはいったい……
状況を確認するために、身体を起こしてあたりを見回す。
オレが寝ていたのは、ラグジュアリーな空間の中にある、無駄に広く大きなベッドだった。黒とピンクの煽情的な色合いの壁に埋め込まれた大きなテレビがすぐに視界に入る。ベッドの上で動画を楽しむためにこの位置にあるのだろう。
ベッドサイドにあった照明を操作するパネルで、日時を確認する。その隣にはこれ見よがしにコンドームが置いてあった。こんなところに自ら足を運んだ記憶はないが、ここがどういった場所であるかはそれで察することができた。
ベッドから降りて隣の部屋に移動すると、そこはリビングスペースだった。大きなソファの前にあるローテーブルの上にはメニュー表。そこに描かれているロゴには見覚えがある。都内にある高級ラブホテルのものだ。
そしてメニュー表の隣にはウェルカムドリンクなのか、ワインボトルが置いてあった。よく見ると中身が半分ほど減っている。さらにその近くには何かの薬の残骸が大量に転がっていた。
────これを飲んだのは、誰だ?
残骸のひとつを手に取ってみたものの、見たことのないものだった。パッケージには有名な国内製薬メーカーの名前が書いてある。その情報に偽りがなければ、違法な薬ではないようだが……
頭を押さえながら、直近の記憶を探る。
そうだ、オレは借金持ちのオメガをアイツに売ったんだ。
オレ────八剱斗環は、八剱組の跡取りアルファだ。親父がまだ現役なので組の仕事には直接関わらず、系列の金融機関でオメガ相手に金を貸す仕事をしている。
この国でオメガに生まれたら最悪だ。
10人に1人いると言われているオメガは、発情期がある所為で社会的身分は低く、進学や就職で不利になる。故に生活苦に陥りやすい。
そこでオレたちが金を貸してやるのだ。番の居ないオメガはまともな金融機関から金を借りることができない。何故なら、番が居ないというだけで返済能力がないとみなされるからだ。だから金に困ったオメガは闇金高利貸しみたいなところから借りるしかない。
うちは『オメガに優しい金融機関』をキャッチフレーズにしている。返済期間も他より長めだ。その分、ちょいとばかり利息は高めに設定されているが。
でも大丈夫。万が一、返済が滞っても、次の仕事の斡旋体制は整っている。オメガは見目が良い者が多いので、夜の街で重宝されるのだ。
返済が一定期間滞った客を、オレは相神崇春に売る。相神は同じ組の所属で、高級ソープを経営している。だけどその裏では、非合法な風俗店を営んでいるという噂がある。オレの客をいつも高値で買い取るので、そいつらを使って相当悪いコトでもして儲けているのだろう。
オレと相神は、同じ中学出身でクラスも一緒だった。
中学の頃の相神は地味な存在だった。だけど頭は良くて、高校は進学校に行ったと記憶している。つまり、少なくともその頃の相神はカタギだったはずだ。それが何を思ってこんな世界に飛び込んだのか。まぁ、そんなことはオレは知ったことではない。
歳が同じというだけでなく、オレも相神もアルファだということもあって、何かと比べられることが多い。組に収める上納金だってだいたい同じくらいで、抜かしたり抜かされたりを繰り返している。
正直、元カタギの同級生なんてあまり積極的に関わりを持ちたいとは思っていないが、相神のところがオメガを一番高く捌けるから、とくに見目の良いオメガは相神に売らざるを得ない。他のところに売るとオレのシノギが大幅に減ってしまうのだ。
しかも、鬱陶しいことに相神のほうからオレに色々絡んでくることも多い。それがまた、だいたいオレの利益になるようなことばかりだから無下にすることもできず、腹立たしい。
そんなこんながあって、オレにとって相神はライバルというか、とにかく気に食わない相手だ。
その相神にオメガを売ってからの記憶が飛んでいる。
先程日付を確認したが、どうやらオレには丸1日分の記憶がないようだ。
確か今日はこの後、組の幹部と会う約束をしていたはずだ。
何故オレが今こんなところに居るのかはよくわからないが、とにかく何があったとしても時間通り待ち合わせ場所に行かなければならない。その前に、一度事務所に寄って状況を確認する必要があるだろう。
まずは身支度をしようと洗面所に行って、顔を洗った。そして顔を上げて鏡を見た瞬間、オレは目を見開いた。
「────は?」
鏡に映る姿は、自分のものではなかった。
大きな瞳に、すっきりとした鼻立ち。色白の肌に色素の薄い髪。首にはチョーカーが巻かれている。
恐る恐る手を自分の頬に当てると、鏡の中の人物も頬に触れた。眉を顰めると、鏡の中の人物も自分と同じ動きをする。やはり鏡に映っているのは自分らしい。
その人物には心当たりがあった。
琴宮睦和。
オレが相神に売ったばかりのオメガだ。
琴宮は売れない絵描きだった。生活苦から借金をしたものの、借りた金が返せず、オレに売られた。琴宮は見た目が良いだけでなく処女だったので、なかなかいい値段がついた。
だけど────
「……なんでオレがオメガなんかに?」
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
186
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる