38 / 39
番外編
いいふうふのひ 前編
「あー……サイコー!!」
ゆったりと湯船に浸かって夜空を見上げた。
日が落ちているので頬に当たる風はひんやりとしているが、身体を包む湯は熱くて気持ちがいい。
一日一組しか客を取らない温泉旅館の離れには、専用の露天風呂。小ぢんまりとした庭園の中にある檜風呂は、日常の慌ただしさを忘れさせてくれる贅沢な空間だ。
湯船の中でぐっと身体を伸ばしたら、相神に後ろから抱きしめられた。
「本当、最高だな。ありがとう」
身体を抱きしめる腕には刺青が彫られている。相神は、八剱組を継ぐ時に肩から腕にかけてスミを入れた。オレも背中全体に彫るつもりだったのだけど、相神に却下された。「トワの身体に他人が長時間触れて作り変えるだなんて考えただけでも気が狂いそう」だそうだ。おかげでオレの肌はまだまっさらなままだ。
「べ……別に。オレが来たかっただけだし。たまたま予約も取れたから、誘ってやっただけだっ」
実は半年前から予約していたんだけど、それは言わないでおく。
今日、11月22日は語呂合わせで「いいふうふのひ」なんて呼ばれることもあるらしい。だけど、オレにとってそんなことはどうでもいい。だって、今日は……
「オレの誕生日プレゼントじゃねーの?」
「ばっ……んなわけねーだろっ」
思いっきり図星を指されて、オレは咄嗟に否定してしまった。
「なんだ、違うのか」
「今日はいいふうふの日だろ! だからだ!!」
「トワはオレたちのことを”いいふうふ”だと……思ってくれてるのか」
「うぐっ……」
背後で相神が笑った気配がした。
くそ。顔が熱いのは、きっと温泉のせいだ。
「今日温泉に来たのは、たまたまだ。たまたま!」
「へぇー……」
あー、この声は。絶対、ニヤニヤしてんだろ。
番になってからずっと一緒にいる所為で、声を聞いただけで相神の表情が思い浮かぶようになってしまった。
「でも、くれるんだろ?」
「な……何をだよ?」
「誕生日プレゼント」
「はっ! 何も用意なんてしてねーぞ」
これも嘘だ。この温泉旅行を思いついたのは、今日が相神の誕生日だって知ったからだ。
旅行先でちょっとイイ雰囲気になれば、素直に相神に「好きだ」って気持ちを伝えられるかもしれないとか……そんなことを考えたんじゃないからなっ!!
「今日の夕食、旨かったな。オレの好きなものばかりだったよな」
「へー、そーなんだ。それは良かったなー」
勿論、そんなことは知っている。
だって予約の時に、相神の好きなものばかりを頼んだのはオレだからだ。オレのチョイスは間違っていなかったようで、食事の時の相神の嬉しそうな表情を思い出すと顔がにやけてしまう。
「それで、美味しいデザートはここか?」
「オヤジ臭いこと言ってんじゃねーよ」
オレは不埒な動きをする手をペシッと叩いた。
それでも相神は諦めることなく、オレの乳首や性器に触れてこようとするので、その手を摑まえると思いっきり抓ってやった。
「いててて……なぁ、ちょっと酷くね?」
「こんなところでヤろーとするからだ」
このまま雰囲気に流されてしまったら、せっかく準備したアレが台無しだ。
「……ちなみに。相神は何が欲しいんだよ?」
だけど、この際だから聞いておこう。もしかしたら、来年用意するものの参考になるかもしれねぇし……
「トワが食べたい」
「それじゃあ、いつもと変わらないじゃねーか」
相神からフェロモンが漏れ始めてるので、ムラムラしているというのは嘘じゃないだろう。
だけど、そんなのは日常だ。
「それじゃあ……名前を呼んで」
「はぁ? 何を今更……」
「オレはもう相神じゃないぜ?」
そうなのだ。八剱家に婿養子に入ったので、実は名字は八剱になっている。それでもオレは、いまだに相神のことを相神と呼んでいた。
何かこだわりがあるわけではないんだけど、今更呼び方を変えるなんて照れくさくてタイミングを逃してしまったのだ。
「ふん、そんなこと……」
相神が望むのであれば、誕生日じゃなくても呼んでやってもいい。
だけど、それじゃあ誕生日としての特別感に欠ける気がする。となれば、やはりプレゼントは用意したアレしかない。
「呼んでくれないなら、ここで挿入れていいか?」
言われたからって素直に名前を呼んでやるのも癪だからと、口をまごつかせていると、ケツにゴリュッと硬いものが触れた。
「い……いつもそんなこと聞かねぇだろ!?」
「誕生日なのに、トワは名前を呼んでくんねーし。それなら、少しくらいオレの好きにさせてくれてもいーんじゃねーの?」
ぎゅっと力を込めて抱きなおされると、「今ここでトワを抱きたい」と言いながら、項をかぷって噛まれた。
あああ、いきなりそんなところを刺激するんじゃねぇ。
この身体になってから、そこは感じすぎてダメなんだ。
「ひぁっ……!! あ、相神ぃ……」
「名前で呼べよ」
「やっ、やだぁ……」
「……まさかとは思うが。オレの名前を知らない、なんてことはねぇよな?」
ドスの利いた低い声で言われて、オレはぶんぶんと首を横に振る。
「知ってる!! 知ってるってば!!」
流石に、名前を知らないなんて、そんなことはない。ちゃんと知ってる。
ただ、呼ぶのが恥ずかしいだけで……
「おっ……オレにだって都合というか、段取りが……」
「ふぅん……段取りねぇ。いったい何をしてくれるんだか」
うっかり口を滑らせかけてしまったけれど、おかげでそれ以上のことはされずに、あっさり解放された。危ないところだった。
ゼエゼエと息を吐いてなんとか態勢を整える。
「……ちゃんとイイコで待てができたら、たぁっぷりサービスしてやるから、期待して待っとけっ!」
オレは相神にそう言い放つと、ザバッと音を立てて湯から出た。
ゆったりと湯船に浸かって夜空を見上げた。
日が落ちているので頬に当たる風はひんやりとしているが、身体を包む湯は熱くて気持ちがいい。
一日一組しか客を取らない温泉旅館の離れには、専用の露天風呂。小ぢんまりとした庭園の中にある檜風呂は、日常の慌ただしさを忘れさせてくれる贅沢な空間だ。
湯船の中でぐっと身体を伸ばしたら、相神に後ろから抱きしめられた。
「本当、最高だな。ありがとう」
身体を抱きしめる腕には刺青が彫られている。相神は、八剱組を継ぐ時に肩から腕にかけてスミを入れた。オレも背中全体に彫るつもりだったのだけど、相神に却下された。「トワの身体に他人が長時間触れて作り変えるだなんて考えただけでも気が狂いそう」だそうだ。おかげでオレの肌はまだまっさらなままだ。
「べ……別に。オレが来たかっただけだし。たまたま予約も取れたから、誘ってやっただけだっ」
実は半年前から予約していたんだけど、それは言わないでおく。
今日、11月22日は語呂合わせで「いいふうふのひ」なんて呼ばれることもあるらしい。だけど、オレにとってそんなことはどうでもいい。だって、今日は……
「オレの誕生日プレゼントじゃねーの?」
「ばっ……んなわけねーだろっ」
思いっきり図星を指されて、オレは咄嗟に否定してしまった。
「なんだ、違うのか」
「今日はいいふうふの日だろ! だからだ!!」
「トワはオレたちのことを”いいふうふ”だと……思ってくれてるのか」
「うぐっ……」
背後で相神が笑った気配がした。
くそ。顔が熱いのは、きっと温泉のせいだ。
「今日温泉に来たのは、たまたまだ。たまたま!」
「へぇー……」
あー、この声は。絶対、ニヤニヤしてんだろ。
番になってからずっと一緒にいる所為で、声を聞いただけで相神の表情が思い浮かぶようになってしまった。
「でも、くれるんだろ?」
「な……何をだよ?」
「誕生日プレゼント」
「はっ! 何も用意なんてしてねーぞ」
これも嘘だ。この温泉旅行を思いついたのは、今日が相神の誕生日だって知ったからだ。
旅行先でちょっとイイ雰囲気になれば、素直に相神に「好きだ」って気持ちを伝えられるかもしれないとか……そんなことを考えたんじゃないからなっ!!
「今日の夕食、旨かったな。オレの好きなものばかりだったよな」
「へー、そーなんだ。それは良かったなー」
勿論、そんなことは知っている。
だって予約の時に、相神の好きなものばかりを頼んだのはオレだからだ。オレのチョイスは間違っていなかったようで、食事の時の相神の嬉しそうな表情を思い出すと顔がにやけてしまう。
「それで、美味しいデザートはここか?」
「オヤジ臭いこと言ってんじゃねーよ」
オレは不埒な動きをする手をペシッと叩いた。
それでも相神は諦めることなく、オレの乳首や性器に触れてこようとするので、その手を摑まえると思いっきり抓ってやった。
「いててて……なぁ、ちょっと酷くね?」
「こんなところでヤろーとするからだ」
このまま雰囲気に流されてしまったら、せっかく準備したアレが台無しだ。
「……ちなみに。相神は何が欲しいんだよ?」
だけど、この際だから聞いておこう。もしかしたら、来年用意するものの参考になるかもしれねぇし……
「トワが食べたい」
「それじゃあ、いつもと変わらないじゃねーか」
相神からフェロモンが漏れ始めてるので、ムラムラしているというのは嘘じゃないだろう。
だけど、そんなのは日常だ。
「それじゃあ……名前を呼んで」
「はぁ? 何を今更……」
「オレはもう相神じゃないぜ?」
そうなのだ。八剱家に婿養子に入ったので、実は名字は八剱になっている。それでもオレは、いまだに相神のことを相神と呼んでいた。
何かこだわりがあるわけではないんだけど、今更呼び方を変えるなんて照れくさくてタイミングを逃してしまったのだ。
「ふん、そんなこと……」
相神が望むのであれば、誕生日じゃなくても呼んでやってもいい。
だけど、それじゃあ誕生日としての特別感に欠ける気がする。となれば、やはりプレゼントは用意したアレしかない。
「呼んでくれないなら、ここで挿入れていいか?」
言われたからって素直に名前を呼んでやるのも癪だからと、口をまごつかせていると、ケツにゴリュッと硬いものが触れた。
「い……いつもそんなこと聞かねぇだろ!?」
「誕生日なのに、トワは名前を呼んでくんねーし。それなら、少しくらいオレの好きにさせてくれてもいーんじゃねーの?」
ぎゅっと力を込めて抱きなおされると、「今ここでトワを抱きたい」と言いながら、項をかぷって噛まれた。
あああ、いきなりそんなところを刺激するんじゃねぇ。
この身体になってから、そこは感じすぎてダメなんだ。
「ひぁっ……!! あ、相神ぃ……」
「名前で呼べよ」
「やっ、やだぁ……」
「……まさかとは思うが。オレの名前を知らない、なんてことはねぇよな?」
ドスの利いた低い声で言われて、オレはぶんぶんと首を横に振る。
「知ってる!! 知ってるってば!!」
流石に、名前を知らないなんて、そんなことはない。ちゃんと知ってる。
ただ、呼ぶのが恥ずかしいだけで……
「おっ……オレにだって都合というか、段取りが……」
「ふぅん……段取りねぇ。いったい何をしてくれるんだか」
うっかり口を滑らせかけてしまったけれど、おかげでそれ以上のことはされずに、あっさり解放された。危ないところだった。
ゼエゼエと息を吐いてなんとか態勢を整える。
「……ちゃんとイイコで待てができたら、たぁっぷりサービスしてやるから、期待して待っとけっ!」
オレは相神にそう言い放つと、ザバッと音を立てて湯から出た。
あなたにおすすめの小説
忘れられない君の香
秋月真鳥
BL
バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。
両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。
母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。
アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。
最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。
政略結婚から始まるオメガバース。
受けがでかくてごついです!
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。
「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜
鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。
そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。
あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。
そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。
「お前がずっと、好きだ」
甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。
※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています
試情のΩは番えない
metta
BL
発情時の匂いが強すぎる体質のフィアルカは、オメガであるにもかかわらず、アルファに拒絶され続け「政略婚に使えないオメガはいらない」と家から放逐されることになった。寄る辺のなかったフィアルカは、幼い頃から主治医だった医師に誘われ、その強い匂いを利用して他のアルファとオメガが番になる手助けをしながら暮らしていた。
しかし医師が金を貰って、オメガ達を望まない番にしていたいう罪で捕まり、フィアルカは自分の匂いで望まない番となってしまった者がいるということを知る。
その事実に打ちひしがれるフィアルカに命じられた罰は、病にかかったアルファの青年の世話、そして青年との間に子を設けることだった。
フィアルカは青年に「罪びとのオメガ」だと罵られ拒絶されてしまうが、青年の拒絶は病をフィアルカに移さないためのものだと気づいたフィアルカは献身的に青年に仕え、やがて心を通わせていくがー一
病の青年α×発情の強すぎるΩ
紆余曲折ありますがハピエンです。
imooo(@imodayosagyo )さんの「再会年下攻め創作BL」の1次創作タグ企画に参加させていただいたツイノベをお話にしたものになります。素敵な表紙絵もimoooさんに描いていただいております。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
鳴成准教授は新しいアシスタントを採用しました。実は甘やかし尽くし攻めの御曹司でした。
卯藤ローレン
BL
逢宮大学准教授の鳴成秋史は、自分の授業サポートをしてくれるTA(ティーチングアシスタント)を募集していた。
そこに現れたのは、月落渉と名乗る男。
志望動機を問うと、男はこう答えた。
「端的に言うと迷子です。迷える子羊のような気持ちで」
「……はい?」
独特なペース、冗談か真実か分からない。
けれど、鳴成は採用を決めた。
理由は、『自分に興味のなさそうな雰囲気に惹かれたから』。
それが、男の完璧なる包囲網の一端に既に引っかかっているとも知らずに――。
仕事の枠を超え持てる全てで全力サポートするハイスペック年下御曹司×穏やかで大人な年上准教授。
ベタベタしてないのにものすっごくイチャイチャしてる、日常系ラブコメです。
そうだ課長、俺と結婚してください
藤吉めぐみ
BL
運命の番を信じるアルファ×運命なんか信じないアルファスペックのオメガ
社内、社外問わずモテるアルファの匡史は、一見遊んでいるように見えるが、運命の番を信じ、その相手に自分を見つけて欲しいという理由から、目立つように心がけ、色々な出会いの場にも顔を出している。
そんな匡史の働く職場に課長として赴任してきた池上。彼もアルファで、匡史よりもスペックが高いとすぐに噂になり、自分の存在が霞むことに不安を覚える匡史。
気に入らないという理由で池上に近づくが、なぜか池上から香りを感じて惹かれてしまい――
運命の番を信じるアルファと運命なんか信じないアルファ嫌いのオメガのオフィスラブです。