極道アルファは極上オメガに転生して、愛に啼く

夏芽玉

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番外編

いいふうふのひ 前編

「あー……サイコー!!」

 ゆったりと湯船に浸かって夜空を見上げた。
 日が落ちているので頬に当たる風はひんやりとしているが、身体を包む湯は熱くて気持ちがいい。

 一日一組しか客を取らない温泉旅館の離れには、専用の露天風呂。小ぢんまりとした庭園の中にある檜風呂は、日常の慌ただしさを忘れさせてくれる贅沢な空間だ。

 湯船の中でぐっと身体を伸ばしたら、相神に後ろから抱きしめられた。

「本当、最高だな。ありがとう」

 身体を抱きしめる腕には刺青が彫られている。相神は、八剱組を継ぐ時に肩から腕にかけてスミを入れた。オレも背中全体に彫るつもりだったのだけど、相神に却下された。「トワの身体に他人が長時間触れて作り変えるだなんて考えただけでも気が狂いそう」だそうだ。おかげでオレの肌はまだまっさらなままだ。

「べ……別に。オレが来たかっただけだし。たまたま予約も取れたから、誘ってやっただけだっ」

 実は半年前から予約していたんだけど、それは言わないでおく。
 今日、11月22日は語呂合わせで「いいふうふのひ」なんて呼ばれることもあるらしい。だけど、オレにとってそんなことはどうでもいい。だって、今日は……

「オレの誕生日プレゼントじゃねーの?」
「ばっ……んなわけねーだろっ」

 思いっきり図星を指されて、オレは咄嗟に否定してしまった。

「なんだ、違うのか」
「今日はいいふうふの日だろ! だからだ!!」
「トワはオレたちのことを”いいふうふ”だと……思ってくれてるのか」
「うぐっ……」

 背後で相神が笑った気配がした。
 くそ。顔が熱いのは、きっと温泉のせいだ。

「今日温泉に来たのは、たまたまだ。たまたま!」
「へぇー……」

 あー、この声は。絶対、ニヤニヤしてんだろ。
 番になってからずっと一緒にいる所為で、声を聞いただけで相神の表情が思い浮かぶようになってしまった。

「でも、くれるんだろ?」
「な……何をだよ?」
「誕生日プレゼント」

「はっ! 何も用意なんてしてねーぞ」

 これも嘘だ。この温泉旅行を思いついたのは、今日が相神の誕生日だって知ったからだ。
 旅行先でちょっとイイ雰囲気になれば、素直に相神に「好きだ」って気持ちを伝えられるかもしれないとか……そんなことを考えたんじゃないからなっ!!

「今日の夕食、旨かったな。オレの好きなものばかりだったよな」
「へー、そーなんだ。それは良かったなー」

 勿論、そんなことは知っている。
 だって予約の時に、相神の好きなものばかりを頼んだのはオレだからだ。オレのチョイスは間違っていなかったようで、食事の時の相神の嬉しそうな表情を思い出すと顔がにやけてしまう。

「それで、美味しいデザートはここか?」
「オヤジ臭いこと言ってんじゃねーよ」

 オレは不埒な動きをする手をペシッと叩いた。
 それでも相神は諦めることなく、オレの乳首や性器に触れてこようとするので、その手を摑まえると思いっきり抓ってやった。

「いててて……なぁ、ちょっと酷くね?」
「こんなところでヤろーとするからだ」

 このまま雰囲気に流されてしまったら、せっかく準備したアレが台無しだ。

「……ちなみに。相神は何が欲しいんだよ?」

 だけど、この際だから聞いておこう。もしかしたら、来年用意するものの参考になるかもしれねぇし……

「トワが食べたい」
「それじゃあ、いつもと変わらないじゃねーか」

 相神からフェロモンが漏れ始めてるので、ムラムラしているというのは嘘じゃないだろう。
 だけど、そんなのは日常いつものことだ。

「それじゃあ……名前を呼んで」
「はぁ? 何を今更……」
「オレはもう相神じゃないぜ?」

 そうなのだ。八剱家に婿養子に入ったので、実は名字は八剱になっている。それでもオレは、いまだに相神のことを相神と呼んでいた。
 何かこだわりがあるわけではないんだけど、今更呼び方を変えるなんて照れくさくてタイミングを逃してしまったのだ。

「ふん、そんなこと……」

 相神が望むのであれば、誕生日じゃなくても呼んでやってもいい。
 だけど、それじゃあ誕生日としての特別感に欠ける気がする。となれば、やはりプレゼントは用意したアレしかない。

「呼んでくれないなら、ここで挿入れていいか?」

 言われたからって素直に名前を呼んでやるのも癪だからと、口をまごつかせていると、ケツにゴリュッと硬いものが触れた。

「い……いつもそんなこと聞かねぇだろ!?」
「誕生日なのに、トワは名前を呼んでくんねーし。それなら、少しくらいオレの好きにさせてくれてもいーんじゃねーの?」

 ぎゅっと力を込めて抱きなおされると、「今ここでトワを抱きたい」と言いながら、項をかぷって噛まれた。
 あああ、いきなりそんなところを刺激するんじゃねぇ。
 この身体になってから、そこは感じすぎてダメなんだ。

「ひぁっ……!! あ、相神ぃ……」
「名前で呼べよ」
「やっ、やだぁ……」
「……まさかとは思うが。オレの名前を知らない、なんてことはねぇよな?」

 ドスの利いた低い声で言われて、オレはぶんぶんと首を横に振る。

「知ってる!! 知ってるってば!!」

 流石に、名前を知らないなんて、そんなことはない。ちゃんと知ってる。
 ただ、呼ぶのが恥ずかしいだけで……

「おっ……オレにだって都合というか、段取りが……」
「ふぅん……段取りねぇ。いったい何をしてくれるんだか」

 うっかり口を滑らせかけてしまったけれど、おかげでそれ以上のことはされずに、あっさり解放された。危ないところだった。
 ゼエゼエと息を吐いてなんとか態勢を整える。

「……ちゃんとイイコで待てができたら、たぁっぷりサービスしてやるから、期待して待っとけっ!」

 オレは相神にそう言い放つと、ザバッと音を立てて湯から出た。
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