食べて欲しいの

夏芽玉

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その後のおはなし

5.山の神様のお話

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 山のてっぺんには神様がいる。本当だ。

『昔むかし、あるところに醜い小鳥がいました。
 醜い小鳥は兄弟たちから巣を追われ、町へとやってきました。
 町には仲の良い人間の家族が沢山居ました。
 僕も人間になったら愛されるのかな?
 小鳥は人間になりたいと強く願いました。
 だけど、小鳥は人間にはなれません。

 町の中に、小鳥の居場所はありませんでした。
 居場所を求めて彷徨った小鳥は、町のはずれに住んでいる老夫婦に拾われました。
 老夫婦はボロボロになった小鳥の手当をし、大事に大事に育てました。
 優しい二人と一緒に暮らすことができて、小鳥は幸せでした。
 でも、その幸せは長くは続きませんでした。

 ある年の流行り病で、老夫婦は同時にこの世を去ってしまったのです。
 大切な人を亡くした悲しみと、自分の無力さに、小鳥は泣きました。
 なんで僕は人間にはなれないんだろう。

 どのくらい泣き続けたでしょうか。
 気が付けば、小鳥は人間の姿をしていました。
 白い肌に金色の目と髪の、美しい少年です。
 でも、二人を失った後に人の姿になっても、全て手遅れです。
 大粒の涙が、あとからあとから流れてきます。

「キミは……こんなところで何をしているんだ?」

 ある日、家に男がやってきました。
 その男は、老夫婦の息子だと言います。
 老夫婦には、家を出て行った息子が居ると聞いたことがありました。

 小鳥は、今までのことを息子に話しました。

「そうか。それなら、オレがキミをもっといいところに連れて行ってあげるよ」

 足元に散らばっている大粒の金を全部袋に詰めると、息子は小鳥を連れて老夫婦の家を出ていきました。

 床に散らばっていた大粒の金は、小鳥の涙からできたものでした。
 小鳥は金を産む鳥の獣人だったのです。
 小さい頃に親元を離れた小鳥は、そのことを知りませんでした。


 小鳥は、見世物小屋に売られました。
 毎日のように苛められ、涙を流すように言われます。
 だけど、金の涙はなかなか出てきません。
 何度も殴られ、食事を抜かれました。小鳥の身体はボロボロになり、どんどんやせ細っていきます。

「このままここで死ぬのかなぁ……」

 逃げ出す気力もなく、ぼんやりと床に転がるだけの日々。
 しかし、ある日の夜、小鳥は見世物小屋から連れ去られてしまいました。

 小鳥を誘拐したのは、悪い奴隷商でした。
 小さな檻に閉じ込められた小鳥は、馬車で運ばれます。檻の中は狭いので、膝を抱えて身体を丸めなければならないし、馬車がガタガタ揺れるたびに鉄格子が頭や身体の骨に当たって痛いです。

「何を運んでいる?」

 突然、凛々しい声が聞こえました。

「フェンリルだ……!!」

 叫び声がして、馬車が止まりました。
 檻には黒い布が掛けられているので、小鳥にはあたりの様子がわかりません。
 小さくなって震えていると、バサリと布が取り除かれました。
 目の前に現れたのは、銀色の毛をした大狼でした。

「おまえ、獣人か」

 その大狼はとても大きく、牙も立派でした。
 ああ、僕はこのまま食べられちゃうんだ。
 小鳥はそう思いましたが、大狼は小鳥を食べませんでした。
 大狼は山の守り神だったのです。

 その後、大狼と小鳥は番になりました。そして、山の神として末永く幸せに過ごしましたとさ。
 めでたしめでたし』
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