僕の魔法は君の魔法

さち

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第1章プロローグ

責任と覚悟

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  誰もいない廊下を駆け抜ける。いつもなら迷ってもおかしくないはずなのに、今日に限っては自分の教室まで立ち止まることなく戻れた。
  教室を直前にして朝のホームルームの開始のチャイムが聞こえる。やはり間に合わなかったか。

「おっ、加木谷。今日はギリギリと言ったところか。早く教室入れよ。」

  その声は担任の魚沼うおぬま先生だ。丁度教室に入ろうとしているところで俺を見つけて声を掛けたのだ。よく考えたらずっと前から学校にはいるぞ。

「どうした?ずいぶんと制服が汚れてるな、プロレスごっこでもしてきたのか?」

  よく見ると制服が埃と砂でまみれて白くなっている。それに汗と煙の匂いまで染み付いている。

  そうか、さっきのは夢じゃなかったのか。久し振りに全力で走ったからか心臓と肺が痛いし、熱風で火傷したところも赤く腫れている。

「どうした加木谷?ホームルームやるから、教室入れよ。」

  扉の向こうには普通の日常がある。じゃあさっきまでのは何だ。異常な非現実か。どっちにしても俺がこの目で見ているものに変わりはない。だったら俺のやることは何だ。

「先生!!ちょっと、いや、かなり腹が痛いのでトイレ行ってきます!!!」

  そう言うと俺は今走ってきた廊下を逆戻りする。

「おい!加木谷!!そっちにトイレは無いぞ!!」

「後、山田ユナさんも腹痛です!!!」

  肺が痛い。



  屋上に続く最後の階段を一段飛ばしで駆け上がる。この扉を開けばまた非現実に戻る。

「今ここでかっこよく再登場してボロボロになってるだろうユナさんを助ける!よしこれだ!おりゃああ!!」

  勢いよく扉を開ける。引くタイプのドアだという事を忘れて押してもびくともせず焦ったのは黙っておこう。

「あ、あれ?」

  そこにあったのは至るところボロボロになった屋上の床と、体を自身の腕で覆い隠すように縮こまっているユナさん。さっきより制服がボロボロになってないか。

「ユナさん大丈夫?!」

  俺はユナさんに駆け寄ろうとした。けれど

「来るな!!!」

  入口から大きく一歩踏み出した瞬間に罵声に近い声で止められた。あまりの声量に段差につまづく。

「痛っ!」

「何だ、エネンの餓鬼が戻ってきたのか。ずいぶんとカッコ悪い登場だな...。」

  やはりまだいたか。てか、うるせえ同情なんかすんなよ。たしかに、あまりにもカッコ悪いけどさ。俺のかっこよくユナさんを助ける予定が台無しじゃないか。どうやって助けるかなんて考えてないんだけどね。

「ユナさん大丈夫なの?!」

  ゆっくりと立ち上がってユナさんに駆け寄る。するとユナさんは俺が近付くに連れて遠ざかる。

「えっ?何で避けるの...?」

「あんた...、何で戻ってきたの...?」

「そんなのユナさんを助ける為だよ!」

「さっき普通に逃げたくせに?」

  そこを突かれると何も言えませんね。

「でも!今度は逃げないから!」

「だからこっちに来るな!!」

  いや何でそんなに俺を避けるのさ。俺がいなかった数分でずいぶんと嫌われたのか、それは辛い。
  よく見ると制服がさっきよりも小さくなっている。違う、制服が燃えたんだ。そこかしこに燃えた痕があるが、火傷の痕は見えない。本人は隠せているつもりらしいが若干肌が見えている。あまりジロジロ見るのはよくないな。

「だから、来るなって言ったのよ!!」

  ああ、なるほど。やっと分かった。

「おい、餓鬼。てめえが来たせいで遊べなくなっちまったじゃねえか。しかし、無抵抗だとこうも遊びがいがあるんだな!」

  赤髪の魔法使いが文句を言っている。こいつ趣味悪いな。

「本当...最低...」

  年頃の女の子にこういうのは良くないな。個人的には恥じらってる姿が何とも言えないが。

「加木谷、あんた何をしに来たのよ...」

  人を殺せる目で睨まれた。

「いいか、次の一撃で終わりにするからな。逃げるなよ!」

  赤髪が右手を前に突き出してにやりと笑う。
  人の服しか燃やさない様な奴がずいぶんと偉そうだな。そう思った矢先足元に陣が展開される。しかしそれは今までの陣とは明らかに違い、大きさが比にならない。赤髪が展開した陣はあろう事か屋上を飲み込む程の大きさにまで拡張された。

「おい?!あいつって下級魔法使いじゃなかったのかよ?!どう考えてもやばい雰囲気だぞ!!」

「知らないわよ!魔力が無いせいで、あいつの魔力がどれくらいなのか感知出来ないのよ!」

  さっきまでのは陣はせいぜいマンホールくらいの大きさだった。あの大きさであの威力があったんだ、これ程の大きさの陣が爆発したら俺達はおろか、屋上まで吹き飛ぶぞ。

「加木谷!やっぱあんた逃げて!!」

  服の面積が小さくなって何も出来なくなっているユナさんが叫ぶが、ここに来た時点で逃げるなんて選択肢は俺には無い。
  俺はユナさんの前に立ち赤髪の魔法使いと対峙する。こんな状況なのに不思議と頭が冴えている。

「あんた何してんの?!早く逃げてよ!」

「こうなったのも全部俺のせいだ。だから、俺が責任を取る。」

「あんたここで死ぬつもりなの?!」

「ごちゃごちゃうるせぇぞ!!一瞬で楽にしてやるからな」

  赤髪が呪文を唱えようとした瞬間俺は張り裂ける声で叫んだ。

「ユナさん!!魔力があれば、魔法は使える!?」

「えっ...?まさかあんた...」

「いいから使えんのかって聞いてんだよ!!」

「使えるけど...けど...」

「使えるならそれでいい」

「でも、あんた魔法の知識が無いじゃない!それに───」

  ユナさんが後ろで何かを言っている。けれど俺にはそれが聞こえない。いや正確には聞いていない。

  イメージしろ。この状況をどうにかするんだ。

  右手に杖をイメージする。それを赤髪に向けるようにしてポーズをとる。いつもみたいに、夢の時みたいに魔法をイメージすればいい、あいつみたいに何か呪文を唱えればいい。待てよ、俺呪文なんて知らないぞ。知るか、今はそんな事を考えている場合じゃない。

「これで終わりだ!!」

  叫べ、何かを。俺ならやれる。
  杖に意識を集中させる。そしてこう叫んだ。

「吹き飛べ!!!!!!」


すると赤髪の左側、丁度空中に奴と同じくらいの陣が展開された。それは奴の赤い陣とは違って、青緑色の陣だ。奴がそれの出現に気付き左を向いた瞬間、陣から凄まじい勢いの竜巻が一直線に発生した。少し離れた位置に立っていた俺が飛ばされそうになるくらいの勢いに、赤髪の魔法使いは何も出来ず竜巻に飲まれて遠く彼方まで飛ばされてしまった。

「えっ...、今のって...」

  ユナさんの掠れ声が後ろから聞こえる。

「.........うぉぉお!!何か出た!!!!」

  気付けば赤い陣も青緑の陣消えてる。

「ユナさん!あいつ倒したよ!グハッ!」

「こっち向くな!!」

  とりあえず、俺らは助かった。



  この時、トーマは重要な事に気付けていなかった。
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