僕の魔法は君の魔法

さち

文字の大きさ
7 / 16
第1章プロローグ

番外編 乙女の心

しおりを挟む
  幼い頃から、俺の家には誰かがいた。けれど、その誰かとは血の繋がりもない、言ってしまえば他人で、そんな他人とも言える「住人」と共に、俺はここ夕顔荘での生活を続けている。現在もばあちゃん、はる姉、俺ともう一人の四人で暮らしていたが、昨日から新しい住人、クラスメイトであり、ファーストキスの相手でもある山田ユナさんが増えた。



「ただいま」

  学校が終わりユナさんと二人で家に帰ると、玄関先には珍しい人物がお迎えに来てくれた。

「おっかえり~お二人さん!」

  Tシャツにショートパンツ、相変わらずの格好でにっこりと微笑む彼女は住人の一人、桜庭遥香さくらばはるかだ。

「なんだよ、珍しいこともあるんだな。はる姉が玄関先でお出迎えとか」

「たまにはするわよ?」

  大学二年、彼氏無しというはる姉だが、見た目だけなら悪く無いと思う。ただ、大学でどんなふうに振舞ってるか知らないけど、性格がガサツすぎる。それに長いこと、ここ夕顔荘で暮らしているせいか、俺に対して恥じらいというものを感じなくなってしまったらしく、年頃の男子には刺激の強い格好で家中をふらつくから正直困っている。
  それと、はる姉が今着ているTシャツにでかでかと印刷された「怠惰」の文字が気になって仕方がない。

「さあさあ!ユナちゃん!部屋に戻って昨日の続きしよう!」

  昨日の続き?確か昨日は、あれから二人で部屋にこもって何か話してたな。斜め向かいの部屋だから話の内容までは聞こえないにしろ、何か話していることくらいは分かるんだよな。

「昨日も言いましたけど、何もないんですよ......」

「別にそれでもいいの!ほら早く!」

  そう言ってはる姉はユナさんの手を掴むと、無邪気に階段を指差し満面の笑みを浮かべている。それに観念したのか、ユナさんもいそいそとローファーを脱ぐと、手を引かれたまま階段を駆け上がり、部屋に消えてしまった。

「仲良くなったのかな...?」

  ユナさんがここに馴染んでくれれば、俺はそれで満足だ。


*****


「単刀直入に聞くよ、トーマとは付き合ってるの?」

「それ昨日も聞きましたよ!」

「いやほら、昨日は夜中に話してたから寝ぼけてる場合とかあるじゃん?だから、正常な判断が出来る今、改めて聞きます!付き合ってるの??」

  またしても、はるさんの質問という名の尋問が始まってしまった。



  加木谷に連れられて私がやって来たのは、加木谷の実家であり、間貸しをしている夕顔荘という家だ。 “ こっち ” の世界でいう「日本風」の家で、少しボロくも感じるが、不思議と落ち着く様な、そんな家だ。ただ一つ困ったことが、相部屋のはるさんが色々としつこいのだ。

  悪い人じゃないのは分かるけど、昨日と同じことを聞かれても同じ事しか言えないんですよ。

「だってさ、あのトーマが久々に連れてきた女の子なのよ?そりゃ気になるわよ」

「そう言えば、はるさんっていつからここで暮らしてるんですか?何か、結構前からいるみたいな感じですけど?」

  私は咄嗟に話を逸らす。昨日から同じことを聞かれて正直うんざりしていたところだ。

「うーん...、私が中学生になる頃にはここにいたわね。だからもう、八年くらいになるのかな?そう考えるとずいぶんと長くここにいるんだねー。私がこの家に来た時なんか、トーマはまだ小学生でさ、今と違って可愛かったんだよ?」

  “ こっち ” の世界のことも色々と勉強したから分かるけど、中学生が親元を離れるのはかなり稀なケースなはず。

「何で中学生からここの家に来たんですか?親と一緒に住もうとか思わなかったんですか?」

  そう言うと、はるさんの表情が少し曇りながらも口を開いてくれた。

「親がさ、離婚しちゃってさ。その時二人が私の親権について争っててさ、それが耐えられなくなって自分から家を出ちゃったの。家を出て行く宛の無い私を見つけてくれたのが、大家の菊さんだったの。菊さんがここで暮らしていいよって、何も気にすることはないよって言ってくれたから今もこうしてこの家にいるんだ。当時中学にあがる前の私を引き取ってくれてさ、家賃もいらないって言ってくれたけどさ、流石に高校に入ってからはバイトしてお金入れてるけどね」

  この見た目からは想像出来ない過去があるんだな。だって「怠惰」って書かれたTシャツだよ?

「私の話はおしまい!じゃあ質問ね!ユナちゃんは何でこの家に来たの?」

「何でそんな目を輝かせてるんですか......」

「だってねぇ~」

  勘違いというか、思い違いが凄いな。このまま何も言わず隠していた方が面倒な方に進もんじゃないのか?だったら喋れる事は喋った方が今後の為にもいいのかも知れない。

  そう思い私はついに覚悟を決めた。

「加木谷が......あいつが守ってくれるって言ったから......」

  そういった直後、はるさんは奇妙な声を上げると、両手で口を覆うようにして暴れ出した。
  確かこれを「悶える」と言うんだっけな。

「ん~~~!!!ほーーー!!!あいつもやるね~!!なるほどそれでユナちゃんはトーマと一緒にここに住もうと思ったのね。なるほどね」

  納得納得、と言わんばかりに頭を上下に振る。気のせいか、よりいっそう勘違いされた気がする。

  私が言いたいのは、

「魔法使いに襲われるかもしれない私のことを、加木谷が守ってくれるって言ったから」

  で、だけどそれをそのまま言っても、魔法のことを知らないはるさんが魔法使いを信じてくれる訳もないし、だからそこを省いただけなのに、どうしてこうなってるの?

「トーマがそう言ったのも無理もないわね。ユナちゃん可愛いもん」

「へっ?!?!」

  あまりにも突然の言葉に、思わず声が出た。

「あれ?自覚無し?勿体ないな~、女の私が見ても可愛いと思うよ?それに、どことなく昔トーマが連れてきた女の子に似てる気がするし...あれかな、髪型かな?」

「誰ですかそれ?」

「あ、何?昔の女にヤキモチ?ユナちゃん可愛い~~!!」

「そういうんじゃないです!!!!!」

  違う、絶対そういうんじゃない。断言出来る。
  そもそも私は加木谷に好意を抱いている訳ではないし、何なら何とも思ってない。この家に来たのだって、守ってくれるって言ったからで、ただそれだけなの。
  
  なのに何でこんなにモヤモヤするの?

「トーマも隅に置けないね」

「はるさん、私の話聞いてます?!!」

「なになに?言いたいことあるなら聞くよ~?ん~?」

  この日の尋問も夜遅くまで続いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...