3 / 27
PART 1:逃走編
1st PIECE:The encounter
しおりを挟む
1st PIECE:「何か、高校生だ。」
ジリリリリリリリ。
耳障りなベルの音で那倉陽太は目を覚ました。全く、目覚ましという物はどうしてこう気持ちよく朝を連れて来てくれないのか。まだしっかりと瞼を開く事が出来ないまま彼は手探りで時計に触れ、スイッチを切り音を止めた。
いつもと同じ、一日が始まる。
「おーっはよ」
学校へ行くために外へ出ると、家の前でいつも通りに幼馴染の古川珠希が待っていた。十五歳という年齢の割りには他の女子よりも幼い見た目の彼女は陽太と同じ高校一年生なのだが、制服を着ていても未だに中学生と間違われる事がよくある。
「おう……」
ふたりは幼稚園からの縁で、家が近所にある事もあり小さい頃から家族ぐるみで交流をしている。高校生になっても毎日一緒に登校をしており、陽太にとっても珠希にとってもそれは当たり前の事であり、日課となっていた。同級生はそんなふたりをからかうが、陽太はそんな事など少しも気にしていなかった。珠希はどう思っているのかわからない。
「よっ、今日も仲いいね、おふたりさん」
教室に入った彼らに声をかけてきたのは陽太と小学生からの付き合いである親友、東城剣だった。彼は眼鏡をかけたその知性的な見た目通り、成績も小中と常に学年トップクラスであった。
「おーっす剣」
ふたりは各々の席に着き、カバンから朝補習のための教材を取り出す。今日の科目は英語だ。
やがてチャイムが鳴ると教師が入室し、補習が始まった。補習といっても履修漏れがあったり授業時間が不足したりしたために実施している物ではなく、進学校ならばどこでも毎朝行っている、言わば0時限目の授業である。
「……」
ふあ、と陽太は小さく欠伸をひとつした。頬杖を突き外の景色を眺める。窓際の席に座っている彼は授業中、度々こうして過ごす。ったく、朝っぱらからそんなに頭働くかよ。
のどかだ。春の日差しは燦々と教室に降り注ぎ、睡眠という実に心地よい快楽に彼を誘う。
彼は背伸びをする様にゆっくりと机に伏した。そして、彼にとってはほんの一瞬の後に「那倉」とその名を呼ぶ初老の男性教師の声が聞こえた。
「那倉」
もう一度呼ばれた。陽太は焦ってびくりと顔を上げる。
「は、はい!?」
「……」
「……!」
陽太が反応した事を認めた教師は黙って彼の顔を見てくる。何を答えていいのかわからず陽太も無言で返していた。
「……答えられないんだったらちゃんと話を聞いておくんだな」
「……は、はい、すいません……」
どうやらいつの間にか数十分間眠っていた様だ。どんな事を質問されたのかちょうど寝ていてわからなかった。ちくしょう、嫌らしく注意しやがって。ちらりと珠希の方に目をやると彼女は「何やってんの」と呆れた表情をしていた。一方剣もやれやれといった様子だった。
あー、何か、高校生だなあ、俺。
すっかり眠気が取れた瞳に再び外の景色を映す。
友達と登校して、授業中に眠くて寝て、先生に名前を呼ばれて注意されて……。
何ていうか、高校生だなあ、俺。
高校に入学して一ヶ月が経つが、もうすっかり彼は日常を手に入れていた。これからこうして三年間勉強して、受験して、それから大学に入って……。
あーあ、なーんか高校生だなあ、俺。
だが、この感覚がどこか心地よかった。居心地がよかった。漫画やアニメの様なはらはらした出来事なんてそうそう起こらないけれど、それでよかった。そして、これからもそんな時間がずっと続いていくのだ。
いつもと同じ一日は今日も過ぎていった。
だが、次の日、少しだけ、少しだけ一日が違う始まりを告げた。
「寝坊したあっ!」
いつもよりも四十五分遅く起床。がばっと布団をめくると陽太は急いで着替えを始めた。
「何で母ちゃん起こして……」
彼ははっとする。そう言えば昨日、明日は早出になるとか言ってたっけ。母子家庭の那倉家には母が出て行った今、陽太ひとりしかいないのであった。彼の父はまだ彼が幼い頃に病死した。
携帯を見ると、珠希からの着信通知が五件、それにメールも三通来ていた。目を通すとどれも彼の事を心配している文面だった。いつも通りの時刻に外へ出て来ない上に、何の連絡も来なかったからだろう。
「わっ……悪い珠希!」
と一言目の前にいない彼女に謝りカバンを取ると、陽太は慌てて家を出た。
腕時計は七時十五分を指していた。補習まであと十五分。全力で走って間に合うか間に合わないか微妙だ。
これが今日という日のいつも通りではない点のひとつ目。そして、間も無くふたつ目の違いが訪れる。
以前下校時に一度だけ何気なく通ったルート。それは普段の通学路から少し外れた経路。だがいずれ再び通学路にぶつかる。右に左にと適当に進んでいたら結果的にショートカットになったのだった。
補習まであと七分。いや、これは間に合わない事が確実だ。なら、いっその事賭けてみるのもいいかもしれない。一度しか通った事が無いショートカットの裏路地のルートに。どうせ普段通りに学校へ向かっても間に合わないのだから。
これがふたつ目。いつも通らない道を通る事。これで間に合ったら「ギリギリだったな」なんて会話を剣と出来るし(珠希には怒られるだろうが)、間に合わなければ間に合わないで初めての遅刻を経験する。授業が始まった後にひとりだけ教室に入る時の気まずさ……こちらもまた教師に怒られる事は目に見えているが、それとはまた違った興奮を覚えているのも事実だった。何て新鮮な朝なんだろう、この時陽太は少しではあるが確かにそう思っていた。
そして、この小さなふたつの非日常的出来事が、少年を決定的な非日常へと誘い込むのだった。
人気の無い裏路地を汗をかきながら走っていた時、突然目の前にばちりと火花が走った。
「うわっ!」
驚いてつい陽太は足を止める。次の瞬間彼の目には信じられないものが飛び込んだ。
「……!? ……お、女の子……!?」
彼の前に突如現れたもの、それは、一糸纏わぬ姿の少女であった。
ジリリリリリリリ。
耳障りなベルの音で那倉陽太は目を覚ました。全く、目覚ましという物はどうしてこう気持ちよく朝を連れて来てくれないのか。まだしっかりと瞼を開く事が出来ないまま彼は手探りで時計に触れ、スイッチを切り音を止めた。
いつもと同じ、一日が始まる。
「おーっはよ」
学校へ行くために外へ出ると、家の前でいつも通りに幼馴染の古川珠希が待っていた。十五歳という年齢の割りには他の女子よりも幼い見た目の彼女は陽太と同じ高校一年生なのだが、制服を着ていても未だに中学生と間違われる事がよくある。
「おう……」
ふたりは幼稚園からの縁で、家が近所にある事もあり小さい頃から家族ぐるみで交流をしている。高校生になっても毎日一緒に登校をしており、陽太にとっても珠希にとってもそれは当たり前の事であり、日課となっていた。同級生はそんなふたりをからかうが、陽太はそんな事など少しも気にしていなかった。珠希はどう思っているのかわからない。
「よっ、今日も仲いいね、おふたりさん」
教室に入った彼らに声をかけてきたのは陽太と小学生からの付き合いである親友、東城剣だった。彼は眼鏡をかけたその知性的な見た目通り、成績も小中と常に学年トップクラスであった。
「おーっす剣」
ふたりは各々の席に着き、カバンから朝補習のための教材を取り出す。今日の科目は英語だ。
やがてチャイムが鳴ると教師が入室し、補習が始まった。補習といっても履修漏れがあったり授業時間が不足したりしたために実施している物ではなく、進学校ならばどこでも毎朝行っている、言わば0時限目の授業である。
「……」
ふあ、と陽太は小さく欠伸をひとつした。頬杖を突き外の景色を眺める。窓際の席に座っている彼は授業中、度々こうして過ごす。ったく、朝っぱらからそんなに頭働くかよ。
のどかだ。春の日差しは燦々と教室に降り注ぎ、睡眠という実に心地よい快楽に彼を誘う。
彼は背伸びをする様にゆっくりと机に伏した。そして、彼にとってはほんの一瞬の後に「那倉」とその名を呼ぶ初老の男性教師の声が聞こえた。
「那倉」
もう一度呼ばれた。陽太は焦ってびくりと顔を上げる。
「は、はい!?」
「……」
「……!」
陽太が反応した事を認めた教師は黙って彼の顔を見てくる。何を答えていいのかわからず陽太も無言で返していた。
「……答えられないんだったらちゃんと話を聞いておくんだな」
「……は、はい、すいません……」
どうやらいつの間にか数十分間眠っていた様だ。どんな事を質問されたのかちょうど寝ていてわからなかった。ちくしょう、嫌らしく注意しやがって。ちらりと珠希の方に目をやると彼女は「何やってんの」と呆れた表情をしていた。一方剣もやれやれといった様子だった。
あー、何か、高校生だなあ、俺。
すっかり眠気が取れた瞳に再び外の景色を映す。
友達と登校して、授業中に眠くて寝て、先生に名前を呼ばれて注意されて……。
何ていうか、高校生だなあ、俺。
高校に入学して一ヶ月が経つが、もうすっかり彼は日常を手に入れていた。これからこうして三年間勉強して、受験して、それから大学に入って……。
あーあ、なーんか高校生だなあ、俺。
だが、この感覚がどこか心地よかった。居心地がよかった。漫画やアニメの様なはらはらした出来事なんてそうそう起こらないけれど、それでよかった。そして、これからもそんな時間がずっと続いていくのだ。
いつもと同じ一日は今日も過ぎていった。
だが、次の日、少しだけ、少しだけ一日が違う始まりを告げた。
「寝坊したあっ!」
いつもよりも四十五分遅く起床。がばっと布団をめくると陽太は急いで着替えを始めた。
「何で母ちゃん起こして……」
彼ははっとする。そう言えば昨日、明日は早出になるとか言ってたっけ。母子家庭の那倉家には母が出て行った今、陽太ひとりしかいないのであった。彼の父はまだ彼が幼い頃に病死した。
携帯を見ると、珠希からの着信通知が五件、それにメールも三通来ていた。目を通すとどれも彼の事を心配している文面だった。いつも通りの時刻に外へ出て来ない上に、何の連絡も来なかったからだろう。
「わっ……悪い珠希!」
と一言目の前にいない彼女に謝りカバンを取ると、陽太は慌てて家を出た。
腕時計は七時十五分を指していた。補習まであと十五分。全力で走って間に合うか間に合わないか微妙だ。
これが今日という日のいつも通りではない点のひとつ目。そして、間も無くふたつ目の違いが訪れる。
以前下校時に一度だけ何気なく通ったルート。それは普段の通学路から少し外れた経路。だがいずれ再び通学路にぶつかる。右に左にと適当に進んでいたら結果的にショートカットになったのだった。
補習まであと七分。いや、これは間に合わない事が確実だ。なら、いっその事賭けてみるのもいいかもしれない。一度しか通った事が無いショートカットの裏路地のルートに。どうせ普段通りに学校へ向かっても間に合わないのだから。
これがふたつ目。いつも通らない道を通る事。これで間に合ったら「ギリギリだったな」なんて会話を剣と出来るし(珠希には怒られるだろうが)、間に合わなければ間に合わないで初めての遅刻を経験する。授業が始まった後にひとりだけ教室に入る時の気まずさ……こちらもまた教師に怒られる事は目に見えているが、それとはまた違った興奮を覚えているのも事実だった。何て新鮮な朝なんだろう、この時陽太は少しではあるが確かにそう思っていた。
そして、この小さなふたつの非日常的出来事が、少年を決定的な非日常へと誘い込むのだった。
人気の無い裏路地を汗をかきながら走っていた時、突然目の前にばちりと火花が走った。
「うわっ!」
驚いてつい陽太は足を止める。次の瞬間彼の目には信じられないものが飛び込んだ。
「……!? ……お、女の子……!?」
彼の前に突如現れたもの、それは、一糸纏わぬ姿の少女であった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる