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PART 2:闘争編
16th PIECE:The other one
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「ただいま」
ルナがアルバイトから帰って来ると陽太はすぐに彼女を迎えた。
「お帰り……」
「……? 何だか、顔暗いね」
「え? ああ……その……変な人に声かけられなかった?」
「私が?」
「うん」
「別に、何にも無かったけど」
「そっか……ならいいんだ」
「?」
誰かがまた君をこの家から連れ出そうとしている。そんな事を言ったら彼女を不安にさせるだけだ。今日会ったあの香具山とかいう男の事はルナには黙っておいた方がいい。陽太はそう判断した。お願いだから、これ以上何も起こらないでくれよ。
16th PIECE:もうひとつのピリオド
「異常は特に無さそうだよ、SOL君」
全てのチェックを終えて部屋に入ってきた褐色の少年に香具山は優しく声をかけた。
「だから言ったでしょ。銃創の10個や20個全然問題無いって」
けろりとした様子で幼い彼は答える。
「いちいち取り除かなくても時間が経てばその内勝手に消化されちゃうんだって」
「いや、まあ、それはそうなんだろうが、その、取り除かなかった時と取り除いた時とでまた経過が違ってくるかもしれないし、念のためにデータを取っておこうと思ってね」
「今回だけだよ。手術は嫌いだし」
「ああわかった。ありがとう」
「そういえば、LUNAはどうなったの?」
「いやね、一筋縄ではいかないみたいだね……」
「……ふ~ん」
「この件は私達に任せてくれればいいから。さ、君も帰国した直後のメンテナンスで疲れているだろう。今はゆっくりとお休み」
「はいは~い」
ソルと呼ばれた少年は軽い足取りで部屋を出ていった。
「主任」
ふたりの傍らに立っていた科学者のひとりが彼が退室したのを確認してからある物を香具山に手渡してくる。
「こちらでよろしかったですね」
白い布にくるまれたそれは、角砂糖ほどの大きさの黒い小さな立方体だった。
「ああ、ご苦労」
「こちらになります」
その後社長室に移動した香具山は、プレジデント・チェアに深々と腰掛ける男に黒い塊を差し出していた。
「うむ。奴は気付いておらんかったか?」
「恐らく」
「……ふふ……兵器といってもやはり所詮は子供……我々の科学も侮ってもらっては困るな」
実はこの黒い小箱は先ほどのメンテナンスの際、ソルの体を開いた時にひっそりと取り出した物なのだ。
およそ四ヶ月前、突如彼らに接触をしてきたあの褐色の肌の少年、ソル。彼は自分が他の惑星からやって来た兵器で、人間ではないと言い出した。そんな非現実的な話などもちろん初めは香具山もこの椅子に座っている男も全く信じなかったが、瞬時に現れた彼の兵装を見せ付けられたり、その内部構造を調べたりするにつれその話にも段々と信憑性が付いてきたのであった。兵器であるソルは戦いを求めているという。そんな彼に戦場を提供する代わりにさらに詳しく彼自身を研究させてもらうという条件で今香具山の目の前にいる男、千石谷が彼と取引を交わした。
実はこの千石谷が経営し、香具山も勤務しているこの「センゴクエレクトロニクス」は、表向きは電子部品や機器などの大手メーカーであるが、極秘裏に軍事産業に着手し、国外で武器や兵器の製造を行っていた。もっともそれを知るのはごく僅かな社員のみである。
ソルの体内には人間と同じ様な器官が存在しているが、人間には無い物もある。その中でこれまでの度々の実験や計測したデータから、通常はほとんど使われていない部位をいくつか発見した。その内のひとつがこの黒い箱である。取り出した科学者によると体内にある時は臓器の様な見た目、物質であったが、外気に触れると徐々に固まっていき、今の金属製の様な四角い形になったとの事だった。
これはソル自身から聞いた話であるし香具山達も確認した事であるが、彼は人間のそれとは比べ物にならない治癒能力を有している。いや、兵器であるならば修復能力と言うべきか。自己修復能力。
加えて自己進化能力。それは環境や状況に合わせて性能が自然と適応、アップグレードされる力。この黒い箱などのほとんど使われていないと思われる器官はその過程で役割を終え、依然として体内に残っていた物なのかもしれない。
「この黒い箱は君が保管していたまえ」
千石谷は机上に置かれた、箱が入れられた小さなアタッシュケースをごつごつとした手でずいと香具山の方へ押した。
「かしこまりました」
「我々地球人に革命を起こしてくれるかもしれないアウト・テクノロジーだぞ。くれぐれも気を付けたまえよ」
「はい」
「まあそれをどう研究、活用するかはまだ置いておくとして……もう一体の方は駄目だった様だね?」
「はい。申し訳ございません」
「やはり真正面から行っても駄目か……なら別の手を考えよう。必ず彼女……LUNAも手に入れる」
「はい」
「中東情勢はまた激化してきた……今はまだほんの片鱗しか見えないが、その内大きくふたつに分かれるだろう」
「そしていずれは……」
「ああ。私が思うに、あと5年も経たない内に大戦は起こる。オリンピックなどと浮かれている場合ではない」
「……」
「その時にあのふたりが我々の手中にあればどれだけ優位に立てるか」
小太りの男は不気味な笑みを浮かべた。
その頃ソルはひとり、千石谷に用意された研究所内の個室のベッドで横になっていた。
「……あ~あ……そろそろ迎えに行こうかなあ……LUNA」
ルナがアルバイトから帰って来ると陽太はすぐに彼女を迎えた。
「お帰り……」
「……? 何だか、顔暗いね」
「え? ああ……その……変な人に声かけられなかった?」
「私が?」
「うん」
「別に、何にも無かったけど」
「そっか……ならいいんだ」
「?」
誰かがまた君をこの家から連れ出そうとしている。そんな事を言ったら彼女を不安にさせるだけだ。今日会ったあの香具山とかいう男の事はルナには黙っておいた方がいい。陽太はそう判断した。お願いだから、これ以上何も起こらないでくれよ。
16th PIECE:もうひとつのピリオド
「異常は特に無さそうだよ、SOL君」
全てのチェックを終えて部屋に入ってきた褐色の少年に香具山は優しく声をかけた。
「だから言ったでしょ。銃創の10個や20個全然問題無いって」
けろりとした様子で幼い彼は答える。
「いちいち取り除かなくても時間が経てばその内勝手に消化されちゃうんだって」
「いや、まあ、それはそうなんだろうが、その、取り除かなかった時と取り除いた時とでまた経過が違ってくるかもしれないし、念のためにデータを取っておこうと思ってね」
「今回だけだよ。手術は嫌いだし」
「ああわかった。ありがとう」
「そういえば、LUNAはどうなったの?」
「いやね、一筋縄ではいかないみたいだね……」
「……ふ~ん」
「この件は私達に任せてくれればいいから。さ、君も帰国した直後のメンテナンスで疲れているだろう。今はゆっくりとお休み」
「はいは~い」
ソルと呼ばれた少年は軽い足取りで部屋を出ていった。
「主任」
ふたりの傍らに立っていた科学者のひとりが彼が退室したのを確認してからある物を香具山に手渡してくる。
「こちらでよろしかったですね」
白い布にくるまれたそれは、角砂糖ほどの大きさの黒い小さな立方体だった。
「ああ、ご苦労」
「こちらになります」
その後社長室に移動した香具山は、プレジデント・チェアに深々と腰掛ける男に黒い塊を差し出していた。
「うむ。奴は気付いておらんかったか?」
「恐らく」
「……ふふ……兵器といってもやはり所詮は子供……我々の科学も侮ってもらっては困るな」
実はこの黒い小箱は先ほどのメンテナンスの際、ソルの体を開いた時にひっそりと取り出した物なのだ。
およそ四ヶ月前、突如彼らに接触をしてきたあの褐色の肌の少年、ソル。彼は自分が他の惑星からやって来た兵器で、人間ではないと言い出した。そんな非現実的な話などもちろん初めは香具山もこの椅子に座っている男も全く信じなかったが、瞬時に現れた彼の兵装を見せ付けられたり、その内部構造を調べたりするにつれその話にも段々と信憑性が付いてきたのであった。兵器であるソルは戦いを求めているという。そんな彼に戦場を提供する代わりにさらに詳しく彼自身を研究させてもらうという条件で今香具山の目の前にいる男、千石谷が彼と取引を交わした。
実はこの千石谷が経営し、香具山も勤務しているこの「センゴクエレクトロニクス」は、表向きは電子部品や機器などの大手メーカーであるが、極秘裏に軍事産業に着手し、国外で武器や兵器の製造を行っていた。もっともそれを知るのはごく僅かな社員のみである。
ソルの体内には人間と同じ様な器官が存在しているが、人間には無い物もある。その中でこれまでの度々の実験や計測したデータから、通常はほとんど使われていない部位をいくつか発見した。その内のひとつがこの黒い箱である。取り出した科学者によると体内にある時は臓器の様な見た目、物質であったが、外気に触れると徐々に固まっていき、今の金属製の様な四角い形になったとの事だった。
これはソル自身から聞いた話であるし香具山達も確認した事であるが、彼は人間のそれとは比べ物にならない治癒能力を有している。いや、兵器であるならば修復能力と言うべきか。自己修復能力。
加えて自己進化能力。それは環境や状況に合わせて性能が自然と適応、アップグレードされる力。この黒い箱などのほとんど使われていないと思われる器官はその過程で役割を終え、依然として体内に残っていた物なのかもしれない。
「この黒い箱は君が保管していたまえ」
千石谷は机上に置かれた、箱が入れられた小さなアタッシュケースをごつごつとした手でずいと香具山の方へ押した。
「かしこまりました」
「我々地球人に革命を起こしてくれるかもしれないアウト・テクノロジーだぞ。くれぐれも気を付けたまえよ」
「はい」
「まあそれをどう研究、活用するかはまだ置いておくとして……もう一体の方は駄目だった様だね?」
「はい。申し訳ございません」
「やはり真正面から行っても駄目か……なら別の手を考えよう。必ず彼女……LUNAも手に入れる」
「はい」
「中東情勢はまた激化してきた……今はまだほんの片鱗しか見えないが、その内大きくふたつに分かれるだろう」
「そしていずれは……」
「ああ。私が思うに、あと5年も経たない内に大戦は起こる。オリンピックなどと浮かれている場合ではない」
「……」
「その時にあのふたりが我々の手中にあればどれだけ優位に立てるか」
小太りの男は不気味な笑みを浮かべた。
その頃ソルはひとり、千石谷に用意された研究所内の個室のベッドで横になっていた。
「……あ~あ……そろそろ迎えに行こうかなあ……LUNA」
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