LUNA:2016-A PIECE(S) OF A JUVENILE-(COMPLETE EDITION)

神橋つむぎ

文字の大きさ
21 / 27
PART 2:闘争編

19th PIECE;The "COLON:SERIES"

しおりを挟む
 ルナはセンゴクエレクトロニクスの研究施設内にある個室でベッドに座っていた。静かな部屋の中では時計の秒針の音だけが響いていた。誰にも言わずに那倉家から出てきた。今頃はもう、陽太は学校から帰って来ているだろうか。アルバイトも急にやめる形になってしまった。おばさんとおじさんには悪い事をしてしまった。
「……陽太……」
 窓の外を見る。彼女が今いる物と同じ様な建物がいくつか並んでいた。この広大な敷地内にはセンゴクの本社ビルや工場、倉庫もある。
 陽太に会いたい。彼女はそう強く思っていた。過ぎていく時間に比例して、彼に会いたくなる気持ちもどんどん大きくなっていく。
「調子はどうだい? LUNAルナ
 ノックもせずにソルが部屋へと入ってきた。だがそんな事ルナはさほど気にはしない。
「……別に。普通だよ」
「そっか……ふあ~あ、疲れたな~」
 伸びをしながら彼は彼女の横に腰を下ろした。
「どうかしたの?」
「たくさん薬を飲まされてさー。その後体の中をチェックされたよ。あいつら、色々と僕の体で試したい事があるみたいだね」
「そう……大変だね」
「それに、勝手な行動は控えてくれとか言われちゃったよ。君をここに連れて来た事。自分達にも計画があるとか何とか……人間のくせに偉そうに説教なんかしやがってさ。奴ら、僕がしくじって自分達の事がバレるのが怖いんだよ」
「……」
「あ、ここに来ていきなりで悪いんだけどさ、夜中に早速、少しだけ君のデータを取りたいんだって」
「……わかった」
 彼女はこくりと頷く。
「だから今の間に睡眠を取っておいた方がいいよ」
「うん、ありがとう」
「……は~あ、僕も一眠りしようかな」
 ソルはあくびをひとつかくとそのまま後ろに倒れ込んだ。
「ここで寝るの?」
「……嫌なら出ていくよ」
「そこに寝られたら私が布団に入れないんだけど」
「あ~はいはい出ていくってば」
「……」
 幼い少年は拗ねた様な声を出してすぐに起き上がる。ルナは彼がどうしたいのか、何となく感じ取っていた。
「……一緒に寝る?」
「……」
 無言のまま彼は彼女を見つめてきた。ソルは見た目相応に、ルナよりも幼い精神を持たされ作られたのだ。
「……おいで」
 彼女は手招きをした。彼は恥ずかしそうにしながらそれに応じて彼女の元へと寄ってくる。
 そしてふたりは一緒に布団を被り横になった。
「寂しかったね」
 ルナはソルを抱き、赤ん坊をあやす様に喋る。
「……まあね」
「こうしてると、あったかい?」
「……うん」
「……ふふっ」
 小さな笑いを漏らして、彼の頭を優しく撫でてあげた。

 19th PIECE;「みんな、みんな忘れたくない。」

 もう夜になっているというのに、ルナは一向に帰って来ない。いつもなら遅くても七時までには帰宅をするのだが、とっくに過ぎている。
 まさか何かあったんじゃ……陽太は先日の香具山という男の事を思い出していた。たとえば、あの男が彼女をさらっていったとか……だが、いざとなったら彼女はそんな危険、自分で突破出来る気もするが……。
 ルナの身を案じていたらふとテーブルの上に乗っていたガルダと目が合った。もしかしたら彼女から何か聞いているかもしれないと思い彼に尋ねてみる事にした。
「なあガルダ。ルナ、今日遅くなるとか言ってた?」
「……イヤ、何モ」
 ほんの僅かな間の後にガルダは言葉を返した。
「……そっか。お前も聞いてないか」
「……アレハモウ……ココニハ戻ッテ来ナイ」
「……は?」
 陽太は耳を疑った。
「何言ってんだよ……どういう事だよ」
「……オ前ノ部屋ニ移ルカ……話シテヤルヨ」
「……!」
 そう静かに言ったガルダの顔は、珍しく沈痛な面持ちだった。

「アレハ今日……コノ家ヲ出テ行ッタ」
 促された通りに陽太の部屋へと場所を移すと、ガルダはルナについて語り始めた。
「出て行ったって……何で!?」
「……アレハ会ッタンダ……モウヒトツニ……」
「もうひとつ……? 何だよもうひとつって……!」
「アレニハ対ヲナス存在ガアルンダヨ」
「対をなす存在……?」
「アア。フタツデヒトツ。ダカラ『コロンシリーズ』ナンダ」
「コロンシリーズ……」
 話を聞いていた陽太ははっとした。「コロン」という言葉に聞き覚えがあったからだ。確か、ルナと出会って、彼女と口付けを交わした後……彼女が起き上がる時に、無機質な声で言っていた……COLONコロン SYSTEMシステムと。
「何なんだ! そのコロンシリーズって!」
「ソレゾレガ自律的ニ行動シ、戦イヲ行ッテイク中デ経験ヲ積ンデイキ……ヤガテ時ガ来タラフタツハヒトツニナル……ソウシテヨリ究極ノ兵器ヘト進化スル……ソレガコロンシステムダ」
「ふたつがひとつに……合体するって事か!?」
「ソンナモンダナ。フタツノ点デヒトマトマリノ『コロン』トイウ記号ニナゾラエテソウ名付ケラレタラシイ。ソノコロンシステムヲ搭載シタ2体ノ兵器ガコロンシリーズダ」
「……じゃあ、ルナとは別に、もうひとり同じ様な……その、人間に似せて作られた兵器がいるって事なのかよ……!」
「ソウダ。アレハ昨日ソレト出会ッタンダ。名前ハソル」
「ソル……」
「ソルガ出来上ガッタノハ戦争ガ終ワリカケノ時ダッタ。ダカラアイツハ血ニ飢エテイルンダ。戦イヲ求メテコノ星ニヤッテ来タ」
「な……! そんな危ない奴……まさかルナはそいつの所へ行ったっていうのか……!?」
「ソウラシイ」
「何でだよ! 何で……! もう人を殺すのは嫌だって言ってたじゃないか!」
 彼は床に拳を強く叩き付けた。やるせない気持ちが広がっていく。
「オ前ヲ守ルタメダヨ」
「! ……え……?」
「オ前ヲ人質ニ取ラレテアイツハ脅サレタンダ。ダカラ出テ行ッタ」
「……そんな……! 俺のせいで……!」
 肩を落とす。彼女は自分を守るために自ら望まぬ道へと足を踏み入れた……自分のせいで。
「……それ……今朝聞いたのか……?」
「イヤ。聞イタンジャナクテ、勝手ニ入ッテクルンダ」
「?」
「俺ハアレノバックアップモ兼ネテルンダヨ。ダカラ毎日定時ニナルトアレノデータガ勝手ニ俺ノ中ニ送ラレテクルンダ。記憶トカ状態トカ、ソウイウデータガナ」
「そ、そうだったのか!? じゃあ、お前が今俺に話した事は全部ルナの頭の中にあった昨日の出来事の記憶……って事になるのか?」
「ソウダ。ソノ時アレガドンナ精神状態ダッタノカ、何ヲ考エテイタノカモ、全部ワカル」
「……じゃあ、プライバシーなんて無いんだな……」
「兵器ニプライバシーナンテ必要無イダロ」
「……」
「……アレハ、オ前ト出会ッテ変ワッタ……ソレヲ喜ンデタ」
「!」
「正直俺モ驚イタゼ。ズット殺戮シカシテコナカッタアレガ、アンナ感情ヲ持ツナンテナ……」
 ガルダは急にしんみりとしながら話を続けていた。
「……俺ハ、正直見テイタカッタヨ……アレガドウナルノカ。ズットソバニイタカラナ」
「ガルダ、お前……」
「ルナハ、刺シ違エテデモソルヲ止メルツモリダ」
「さっ、刺し違えるって……死ぬって事かよ!」
「実際アレ以外ニ奴ヲ止メラレナイサ」
「……! ……なあ、ルナが今どこにいるのか、それもわからないのか!?」
「知ッテドウスル? 行クツモリカ?」
「当たり前だろ!」
「ドウセオ前ニハ何モ出来ナイゾ。ムシロ逆ニソルニ殺サレル可能性ノ方ガ大キイ」
「……っ! それでも……!」
「ソレニ、オ前ガイルト足手マトイニナッテアレガ思ウ様ニ動ケナイカモシレナイ」
「……それでも……それでも俺は……好きな女の子のために行きたいんだよ!」
「……俺モ連レテ行ケヨ?」
「! ガルダ!」
「俺ハ必ズ役ニ立ツ。必ズナ」
「ああ! ああ! それで、ルナの居場所は……!?」
「ソレハマダワカラナイ。次ノ同期マデ待テ。位置情報モ送ラレテクルハズダ。明日ノ朝ニハワカルト思ウ」
「……そっか……! わかった!」
 陽太はガルダの事を見直した。今までは、実を言うとただルナにくっついて来た口うるさい乱暴な機械の鳥だという印象しか持っていなかった。もちろん実際そうだし、それでも何だかんだで憎めない奴なのであるが、彼は彼なりにルナの事を見守っていたのだ。彼女がこの星の人間と接して変わっていくのを、そんな素振りは少しも見せずにいながらも保護者の様にそばで見ていた。鳥のくせに。
 ルナ……俺は君に会いたい。君はどう思っているんだろう……同じ様に思っててくれたらいいな……なんて。
 そんな少年を、ガルダはやはり、黙って見ているのであった。

 ルナは指示された通りに台の上に横になった。必要以上の照明が彼女の白い肌を照らす。話を聞いた限りでは、これから彼女は体をスキャンされる様だった。
「それじゃあ始めますよ」
 スピーカーから男の声が聞こえてきた。ルナは律儀にはいと返事をする。
 しかし装置が動き出す直前に突然ドアが開き、誰かがやって来た。何か薬でも打たれるのだろうかと彼女はそのままの姿勢で身構える。やがてその顔の上に現れたのは、ソルの鮮やかな赤い瞳であった。
「……どうしたの?」
「データを取る前に、ちょっとやっておく事があると思ってね」
 そう告げて彼はルナの額に手を当てた。
「? 何する気?」
「一部の記録の消去デリートだよ」
「……え……!?」
「君がこれから僕に刃向かってきても困るからね。この星に来てからの記録を消させてもらう」
「そっ、そんな事……!」
 駄目! そんな事されたら、この星で記憶したものみんな忘れちゃう! みんな私の中から無くなっちゃう!
 抵抗しようとしたが遅かった。すでにソルはコロンシステムによって無線通信で彼女と接続を果たし、難無くパスに成功すると彼女の脳へと侵入アクセスしてきた。体を思う様に動かせない。
「やめてっ!」
「君は僕と同じ、最強の兵器でなければならない」
「やめてってばっ! やめて! 私の中に入って来ないで!」
 駄目! みんな、みんな忘れたくないのに! みんな大切な思い出なのに!
「いやあああああああああああああああああああああっ!」
 陽太! 陽太! 陽太! 陽太! 陽太陽太陽太陽太陽太ようたよう……た……よ……う……t……!
 ……あ……ああ………………!
 ……………………。
 ………………。
 …………。
 ……。
 。












 消えちゃう……。












しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...